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乙女ゲーム以前
手紙
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「お嬢様にお手紙が届いております」
「私に?」
友達になりかけていた令嬢から、クラウディオと破局したかどうか探るような手紙が届き始めて一か月。彼が妹のビビアナを連れてパーティーに出ているためだ。まだ悪役令嬢アレハンドリナが、クラウディオにロックオンしたという噂は聞かない。お父様が言うには、どうやら彼女もひきこもりのようだ。
パートナーがいないならおとなしく家に引っ込んでなさいよ!
人前では誠実な婚約者のふりをするあの憎らしいツン男が、私がいないところで何と言っているかと考えただけで腸が煮えくり返るわ。
「ダフネ様やドラ様からなら、後で見るから机に置いておいて。クラウディオからなら暖炉にくべて」
「……お嬢様……」
執事のバスコが悲しそうに眉を下げる。白髪が目立つ老執事は、眉毛もボーボーで伸びている。サンタクロースのようだ。
「差出人はどなたなの?」
「それが……お名前が書かれておりませんので」
差し出された手紙を受け取る。淡白な白い封筒は、口に僅かに透かし模様が入っていて高級感がある。宛名の文字にも覚えがない。
「……見たことがない字ね」
「はあ……」
封蝋も判別できないほど曲がっている。ダメだわ。何の手がかりもない。
開けて見てクラウディオから罵詈雑言の手紙だったら、即暖炉行きね。
便箋を開いて、整った文字に溜息が漏れた。
すごい。超綺麗。
私も綺麗に書いているけど、この人、すごいわ。文字の高さも傾きも揃ってる。
◇◇◇
愛するエレナへ
初めて会った時から、僕は君の笑顔が好きだ。
君を笑顔にしたい。幸せにしたいんだ。
君の心に誰が住んでいても構わない。
愛している。
あなたの恋人 ●
◇◇◇
「……?」
「お嬢様、いかがでした?」
「うん。恋文だったわ。でも、差出人の名前がインクがにじんで読めないの」
「読めない!?」
バスコは飛び上がって驚いた。
そんなに驚かなくてもいいと思うんだけど。
「そ、それで、お嬢様はお返事をお書きになりますよね?」
「よく知らない人みたいだし……ちょっと……」
「実は、その恋文を書かれた紳士が使いを寄越しておりまして。差出人のお名前は、頑として言わないものですから、こうしてご判断をいただこうと思った次第です」
「そう……不思議なこともあるのね。私、殆どパーティーに出ていないのよ?」
クラウディオに誘われなくなってからは家に引きこもっていたのに。一体誰が見初めると言うのだろう。
私の心に住んでいる云々は、正直気持ち悪い。婚約者のクラウディオのことを言っているのだろうか。あんなに険悪なのに、傍から見れば違うのか。私自身を見ていないような、自分に酔っている感じがしている。一度釘を刺しておこう。
「お返事はいかがなされますか」
「書くわ。すぐにね」
机に向かって引き出しから便箋と封筒を出す。
◇◇◇
無名の恋人様
お手紙拝見しました。
私はあなたに熱烈な思いを向けていただける人間ではありません。
どなたかとお間違えではないですか。
誤解のないよう言っておきますが、私の心にはクラウディオは住んでいません。
彼は私を嫌っていて、私も諦めています。
あなたには現実の私が見えていますか?
幻想を追い求めているなら、すぐに考え直した方がよろしいですよ。
エレナ
◇◇◇
「できたわ。これを渡して頂戴」
「この便箋でよろしいのですか?味も素っ気もありませんが」
「いいのよ。真っ白で」
これが私と謎の紳士との文通の始まりだった。
◆◆◆
私は地道にアレハンドリナにクラウディオを売り込む作戦を考えていた。
赤の他人である彼女にどうやってコンタクトを取ればいいのか。アレハンドリナはクラウディオと同じ年齢で、私より三歳年上だ。ダフネ様よりも一つ上で、噂好きの彼女達もあまり関わらないことにしているらしい。アレハンドリナに何かあったら呪われると言っていたけど、何なのかしら?
とりあえず、アレハンドリナに知らせたいクラウディオのおすすめポイントを列挙してみよう。
あの性格最悪男も、いくつかは取り柄があったわよね。
○顔が綺麗
○公爵家(お金持ち)
○知識が豊富
……。
……えっと。
まずい、何も思い浮かばない。
まさかの三つでネタ切れ!?
愕然。
あいつにはいい印象を持っていなかったけど、こんなにいいところがないなんて。
これは、客観的な視点が必要なのよ。
他の令嬢にクラウディオのいいところを聞いてみよう。
机の上に放っておいた、ダフネ様とドラ様からの手紙を開ける。それぞれ相手を貶している。
噂話もばっちり。いったいこれで何をしたいのだろう。
「手始めに、聞いてみるかな……」
クラウディオ様の素晴らしいところはどこでしょうか、と。
容姿と家柄を除いて、何かありますか?……とこれでいいわ。
あの二人はクラウディオの情報を知りたがっていたから、きっといい答えが返ってくるわね。
増補版・クラウディオのいいところを挙げられれば、アレハンドリナも食指を伸ばすわ。
「私に?」
友達になりかけていた令嬢から、クラウディオと破局したかどうか探るような手紙が届き始めて一か月。彼が妹のビビアナを連れてパーティーに出ているためだ。まだ悪役令嬢アレハンドリナが、クラウディオにロックオンしたという噂は聞かない。お父様が言うには、どうやら彼女もひきこもりのようだ。
パートナーがいないならおとなしく家に引っ込んでなさいよ!
人前では誠実な婚約者のふりをするあの憎らしいツン男が、私がいないところで何と言っているかと考えただけで腸が煮えくり返るわ。
「ダフネ様やドラ様からなら、後で見るから机に置いておいて。クラウディオからなら暖炉にくべて」
「……お嬢様……」
執事のバスコが悲しそうに眉を下げる。白髪が目立つ老執事は、眉毛もボーボーで伸びている。サンタクロースのようだ。
「差出人はどなたなの?」
「それが……お名前が書かれておりませんので」
差し出された手紙を受け取る。淡白な白い封筒は、口に僅かに透かし模様が入っていて高級感がある。宛名の文字にも覚えがない。
「……見たことがない字ね」
「はあ……」
封蝋も判別できないほど曲がっている。ダメだわ。何の手がかりもない。
開けて見てクラウディオから罵詈雑言の手紙だったら、即暖炉行きね。
便箋を開いて、整った文字に溜息が漏れた。
すごい。超綺麗。
私も綺麗に書いているけど、この人、すごいわ。文字の高さも傾きも揃ってる。
◇◇◇
愛するエレナへ
初めて会った時から、僕は君の笑顔が好きだ。
君を笑顔にしたい。幸せにしたいんだ。
君の心に誰が住んでいても構わない。
愛している。
あなたの恋人 ●
◇◇◇
「……?」
「お嬢様、いかがでした?」
「うん。恋文だったわ。でも、差出人の名前がインクがにじんで読めないの」
「読めない!?」
バスコは飛び上がって驚いた。
そんなに驚かなくてもいいと思うんだけど。
「そ、それで、お嬢様はお返事をお書きになりますよね?」
「よく知らない人みたいだし……ちょっと……」
「実は、その恋文を書かれた紳士が使いを寄越しておりまして。差出人のお名前は、頑として言わないものですから、こうしてご判断をいただこうと思った次第です」
「そう……不思議なこともあるのね。私、殆どパーティーに出ていないのよ?」
クラウディオに誘われなくなってからは家に引きこもっていたのに。一体誰が見初めると言うのだろう。
私の心に住んでいる云々は、正直気持ち悪い。婚約者のクラウディオのことを言っているのだろうか。あんなに険悪なのに、傍から見れば違うのか。私自身を見ていないような、自分に酔っている感じがしている。一度釘を刺しておこう。
「お返事はいかがなされますか」
「書くわ。すぐにね」
机に向かって引き出しから便箋と封筒を出す。
◇◇◇
無名の恋人様
お手紙拝見しました。
私はあなたに熱烈な思いを向けていただける人間ではありません。
どなたかとお間違えではないですか。
誤解のないよう言っておきますが、私の心にはクラウディオは住んでいません。
彼は私を嫌っていて、私も諦めています。
あなたには現実の私が見えていますか?
幻想を追い求めているなら、すぐに考え直した方がよろしいですよ。
エレナ
◇◇◇
「できたわ。これを渡して頂戴」
「この便箋でよろしいのですか?味も素っ気もありませんが」
「いいのよ。真っ白で」
これが私と謎の紳士との文通の始まりだった。
◆◆◆
私は地道にアレハンドリナにクラウディオを売り込む作戦を考えていた。
赤の他人である彼女にどうやってコンタクトを取ればいいのか。アレハンドリナはクラウディオと同じ年齢で、私より三歳年上だ。ダフネ様よりも一つ上で、噂好きの彼女達もあまり関わらないことにしているらしい。アレハンドリナに何かあったら呪われると言っていたけど、何なのかしら?
とりあえず、アレハンドリナに知らせたいクラウディオのおすすめポイントを列挙してみよう。
あの性格最悪男も、いくつかは取り柄があったわよね。
○顔が綺麗
○公爵家(お金持ち)
○知識が豊富
……。
……えっと。
まずい、何も思い浮かばない。
まさかの三つでネタ切れ!?
愕然。
あいつにはいい印象を持っていなかったけど、こんなにいいところがないなんて。
これは、客観的な視点が必要なのよ。
他の令嬢にクラウディオのいいところを聞いてみよう。
机の上に放っておいた、ダフネ様とドラ様からの手紙を開ける。それぞれ相手を貶している。
噂話もばっちり。いったいこれで何をしたいのだろう。
「手始めに、聞いてみるかな……」
クラウディオ様の素晴らしいところはどこでしょうか、と。
容姿と家柄を除いて、何かありますか?……とこれでいいわ。
あの二人はクラウディオの情報を知りたがっていたから、きっといい答えが返ってくるわね。
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