ヒロイン(=俺)、王子との初夜を全力で回避します!

青杜六九

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ヒロイン(俺)・フランチェスカの事情

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結論から言うと、俺は例のゲームの二巡目に入ったようだった。
王太子の妃になりかけたってことは、ヒロイン=俺……なのか?
ヒロインの名前は自由に設定できたから、俺は適当に『ヒロ子』にしたんだっけ。
俺は『ヒロ子』じゃない。てことは、これは俺のゲームじゃない……かもしれないわけで。
可哀想なティツィアーナは俺の知らないところで破滅して、ニューゲームが始まったに違いない。

男だと自覚したことを告げ、両親が喧嘩を始めたところで、俺はどうして女の子の格好をさせられているのか、男として育つことができないのか、二人を質問攻めにした。
「俺は何か、呪いにでもかかってるの?男になったら死ぬとか」
「違う。そんな呪いは存在しない」
「じゃあ、本当はお父様とお母様の子供じゃなくて、滅亡した国の王子で、暗殺者に見つかるとまずいから?」
「フラン……あなた、物語の読みすぎよ」
お母様は少し感心したようだ。俺だって少しは考えた。已むに已まれずこうなっているとしたら、うちだけの問題じゃない。
「うーん。だったら、なんで?俺、男の格好で過ごしたいよ」
「あなた」
「ううむ……」
父・ヴィオリル伯爵は渋い顔で固まった。こうなるとこの人は、考えているようで考えていないまま時間が過ぎるのを待つんだよな。
「私が代わりに説明します。いいかしら?」
「あ、ああ……」
母上の話では、俺は女の子として国王陛下に報告されていて、神殿でも女の子として神の祝福を受けているのだそうだ。この国の初代国王は、神の啓示によって選ばれたらしく(神話だけどな)、王家と神殿のつながりはとても深い。父上は、国王陛下だけではなく、神様にも嘘をついてしまったのだ。夫婦の七番目の子が女の子だと。
「ちょっと待ってよ。なんで女の子って報告したのさ」
「それはただ、この人が娘を望んだからよ!」
美しい中にも恐ろしさを潜ませ、母上は父上の足を踏みつけた。ハイヒールの踵で。
「ぐぅうう!」
「私の亡き父の遺言なのよ。娘が生まれたら、是非王家に嫁がせよって」
「おじい様の?」
うん。何となーく思い出してきたぞ。
先代伯爵の一人娘=母上は、分家筋の父上を婿養子にした。父上はおじい様の養子だけど、財産は母上からいずれ兄上が相続することになっている。父上はヴィオリル家の悲願である『王室と縁続きになること』にこだわって、おじい様の存命中に孫娘を誕生させようと頑張った。ま、頑張ったのは母上だけどね。それで、俺には六人の兄上達がいるわけで。
母上は六人も男の子がいれば、女の子はいなくてもいいって、ぶっちゃけもう産むのはごめんだって言ったのに、医者に余命一年って宣告されたおじい様のため、伯爵夫妻は最後にもう一人だけ……みたいな賭けに出た。
「生まれたばかりの可愛らしいあなたを見て、この人は……」
「先代を喜ばせてあげたかったんだよ」
父上はハンカチで額の汗を拭う。母上の剣幕が恐ろしすぎて、俺は黙って見守ることにした。
「だったら、お父様に顔を見せて、女の子だと報告するだけでいいでしょう?それを、国王陛下や神殿まで巻き込んで……」
「そのつもりだったんだよ。だがなあ……」
孫娘が生まれたことで、おじい様はそこから奇跡の回復を見せ、俺が二歳になったばかりの頃に亡くなった。貴族の子供が生まれたら、半年以内に陛下と神殿に届け出るのが普通なので、おじい様を騙し続けるために父上は俺を女だと報告したのだという。
「あれは間違いでしたって、やり直しはできないの?」
「それができたら苦労はしないよ。知っているだろう、神殿の力を」
力とは、神の力ということではなく、神殿はかなりの権力を持っている。神を崇めないものは罰を受けるのだ。王都の神殿の敷地で立小便をしていた酔っ払いが、孤島の牢獄に入れられたという噂があるくらいだ。国王へ偽りの報告をした罪も重い。
神殿では、俺は女の子として水鏡の神託を受けた。将来国王の妃になるかどうか、対象が女子であれば年齢を問わず反応する水鏡は、男の俺には反応を示さなかった。
「王宮ではお前を『妃になるかもしれないリスト』に入れているそうだよ」
「妃なんてなりたくないよ!父上の馬鹿!」
手近にあった枕を投げつけ、「いーだ」をすると、俺は裸足で廊下を走った。

思い出してみれば、あの王子、どこかで見た顔だと思ったんだよな。結衣が絶賛していたウルトラ美形のエヴェラルドじゃないか。あいつを悪役令嬢ティツィアーナとヒロイン(俺)が取り合う構図……のはず。
男と初夜なんて冗談じゃない。欲しけりゃくれてやる。まだ俺のもんじゃないけど。

向かった先は居間だ。いつもここに兄達がいるからだ。
「お兄様!」
女の子の癖で、ついそう呼んでしまった。
裸足で駆けてきてドアを開けた俺に、部屋の中にいた兄達はぎょっとした。
「フラン!」
一番下の兄・レオーネが駆け寄り、俺を抱き上げた。抱き上げると言っても、年齢差が一歳ではうまく持ち上がらないのだが。
「レオーネ兄様、お、下ろしてください」
「ごめんな。お前が裸足で来たものだから……足、冷たいだろう?」
どうにか抱き上げたままで長椅子まで運ぶ。そうだった。この人は過保護すぎるくらいの世話焼きだった。
「大丈夫、です」
「何があった?」
中指で眼鏡を上げながら落ち着いた口調で問いかけてきたのは、真面目が服を着て歩いているような長兄のグスターヴォだ。居間にいるのに、弟と話をするでもなく読書をしていたようだ。自分の部屋で読めよな。人の気配を求めてここにいるところを見ると、案外寂しがり屋なのだろう。
「お父様とお母様が喧嘩して……」
「何ッ?喧嘩だと?俺が止めてくる!」
大股開きで椅子に座っていた三男のイザイア兄様が立ち上がった。歩き出そうとしたところで、足をかけられて転ぶ。
「何を……!」
「あれ、ごめんごめん、脚が長いから」
「ふざけるなランベルト!父上と母上の夫婦の危機なんだぞ!」
「どうせ痴話喧嘩でしょ?それよりボク、新曲ができたんだよ。聞いてよ」
怒り狂うイザイア兄様に向かって、五番目の兄ランベルトが歌を歌いだす。自由人すぎる弟に兄は怒りの矛先を折られたようだ。九歳の弟に軽くあしらわれる十二歳の兄ってどうなんだろう。
「歌より剣だ。剣の腕を磨いてこそ……」
「やだなあ、イザイア兄様の説教、長いんだもん。それよりフランでしょ。ねえねえ、フラン」
「なあに?」
四番目の兄ヴィットーレがニヤニヤ笑いをしながら近寄ってくる。
嫌な予感しかしない。
「病気がよくなるように、いいもの探してきたんだー。見てると元気が出るぞ」
ほら、と渡されたのはバッタだった。狭いところに閉じ込められていたバッタは、勢いよく飛び出してグスターヴォの顔に留まった。
「う、うわああああ!」
「う、るさ……」
長兄が腰を抜かして椅子を倒した物音で、居眠りをしていた次兄・ガブリエーレが目を覚まし、絶叫して灰になっている長兄の顔からバッタを払い落とした。どうでもいい動作にも品がある。
「虫はダメだって言っただろ、ヴィー。……あれ、フラン?起きてもいいの?」
「お兄様……ううん、兄上!」
「兄上??」
六人が一様に俺を見つめた。
「おい、誰だ。俺の天使に変なこと吹き込んだ奴は。お前か、レオーネ!」
イザイア兄様がおろおろと歩き回る。天使とか言うな。痒いわ!
まるで動物園の熊みたいじゃないか。十二歳でこの貫禄っておかしいだろ、ゴリラかよ。
ん?
ゴリラ?
「イザイア兄上、俺に剣を教えてください!」
そうだ。この手があった。
兄と一緒に男らしく剣の練習をして、男として生きるんだ。可憐な令嬢になんてなってたまるか。
目指せ、ゴリマッチョ!
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