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◇◇◇
「ぶはあっ!?」
そして私は目が覚める。窓際の白いカーテンの隙間から、朝日が射しこんでいるのが見えた。
鳥のさえずりが遠く聞こえる。そんな穏やかな朝だった。
「なによ、全部夢か。そうよね、そりゃそうよね」
皆さまごきげんよう。改めまして、作美瑠奈と申します。
今年で二十九歳になるオーエル。ブラック企業に勤務している、彼氏いない歴イコール年齢という残念女子です。
先ほどまで見ていた悪役令嬢ライフが夢だったのは少し残念だけど、死ぬのはもっと嫌だからきっとこれでいいわ。
だいたいねえ。そう簡単に異世界転生とか異世界転移とかそういうのがあってたまるかっていうのよ。もしそんなのが頻繁にあったとしたら、
『それでは最初のニュースです。本日未明、〇〇丁目、〇〇番地で白く輝く魔法陣の目撃情報が寄せられました。近くを通りかかった会社員、鈴木さんと連絡が取れなくなっていることから、警察は、鈴木さんが異世界転移に巻き込まれたものと見て、捜査を開始しています』
こんなニュースが度々報じられるっつーの! まったく、有り得ないこと。
さあて、朝食でも作って会社行きますか。
そんなことを考えベッドに手をついたその時、私の脳が異常を検知した。
──あれ? どういうこと? どうして私上半身裸なのかしら。なにこれ、どうなってんの?
驚きのあまり身を捩った瞬間、隣で誰かが寝ている気配を感じた。……嘘でしょ!? と思いながら恐る恐る視線を向けて、私の思考がそのまま凍りつく。
私の隣で眠っていたのは、高校時代同級生だった初恋の相手、トモキだった。しかもどういう訳か、彼も上半身裸の状態で。
なんで? なんで、どうして?
思わずサーーっと血の気が引いていく音が聞こえた。
嫌な予感がして毛布を捲ってみたが、辛うじてショーツは履いていた。
ああ……良かった。ギリギリセーフ。
……なわけがない! だって、ショーツしか履いてないし、この状況、どう考えても事後!
シちゃった後にしか見えない!
ああ、神様。
軽く眩暈がした。私ってば何しちゃってるの? 昨日の記憶が全然ない! 本当に何がどうして、こうなってるの?
──どーしよー!?
困惑する思考のなか、トモキの瞳がゆっくりと開く。
「ああ、お早うハニー。今日はまた随分と早起きなんだね」
なんて、カッコいい。十年ぶりに見たけどやっぱりカッコいいよトモキ。好き。
「あ、あの。それはそうと、どうしてトモキがここに居るの? もしかして私」
「ああ、昨日の君は激しかったね。あんなに求めてくるなんて想定外だった」
「激しかったネ」
なんなのソレ。瞬間的に頭に血が上って卒倒しそう。
「それに、なんだか、ここに俺が居るとオカシイ、みたいな言い方だね? 当たり前だろう? 俺達は夫婦なんだから」
「夫婦」
ぷしゅう。
この瞬間、私の脳が完全にショートした。
◇◇◇
「こんな感じに、主人公の意識が飛ぶたび、どんどん異なる世界線に転移していくっていうパラレルワールドラブストーリーなんだけど、どうかな」
「まどろっこしい。却下」
「一刀両断!?」
私がテーブルを挟んで向かい側に座っている山本智樹(やまもとともき)に声を掛けると、彼は紙の束を私の方に向かってバサっと投げて返した。
「ちょっと待ってよ!? 大事に扱え! これは文化祭に向けて書き下ろした、私の大切な原稿なんだから!」
ここは、私、作美瑠奈と山本智樹の一年生二人。あとは二~三年生の部員合わせて五名で活動している高校の文芸部の部室。今私は、文化祭ように書き下ろした長編小説の冒頭部分を、智樹に読んで貰っているところだった。
「そもそもさあ、何処がダメなの? ちゃんと流行とらえてんじゃん」
「確かにな。その点は評価できる。だが如何せん冒頭部分が長すぎだろ。冗長して見えるわ」
「う。やっぱりそうかなあ」
「そうだ。それに」
「それに?」
短く刈り揃えた後頭部をかきむしり、智樹が窓の外に視線を移した。
「なんで主人公の名前、お前の本名なんだよ」
「ぐっ……。その方が感情移入して書き易いかなあって」
「それともう一個。なんで二つ目のシーンででてくる男の名前トモキなんだよ」
「ダメ、かな?」
「当たり前だ! キモいわ! なんで人の名前勝手に使うんだよ」
「ん~……そっかあ。じゃあ、トモキの名前のとこだけ直しとくね」
「おう」
淡白に同意の呟きだけを落とすと、彼は仏頂面で腕を組んだ。
「それはそうと、さっさと部長に見てもらってこい。小説の構想まとまってないの、俺とお前だけだってボヤいてたぞ」
「ん、わかった。気が重いなあ。私、加護先輩苦手なんだよね」
そう言って私は部室を出ると、部長がいるであろう図書室を目指した。図書委員会に所属している部長は、今日、三年生の他の部員と一緒にそこにいるはずだった。
それにしても、今回も失敗かあ。わりといいアイディアだと思ったんだけどな、おかしいな。
だってさ、あんな小説読まされたら、
『もしかしてお前、俺のことが好きだったのか?』
『ん……そうよ。もう、鈍感なんだから。何時気が付いてくれるのかと、ヤキモキしてたんだから』
『瑠奈! 好きだ!』
『私も! ずっと前から好きだった!』
こうなるのが普通だろうがよぉぉぉぉぉ! もう、鈍感なんだから。知らない!
しゃーない。また別の方法でも考えますか。図書室、図書室っと。
◇◇◇
一方、文芸部の部室。
一人残された山本智樹は、テーブルの上に突っ伏して頭から湯気をあげていた。
あっぶねぇぇぇぇぇぇぇ! マジであっぶねぇぇぇぇぇぇぇ! 第一なんだよ夫婦になってる設定とか可愛すぎだろ危うく真顔で『……好き』って言っちまうところだったじゃねえかぁぁぁぁぁぁぁ!?
もしかして瑠奈の奴、俺のことを……。
そこで智樹はぶんぶんと首を左右に振った。
ありえねえ、変な妄想を膨らませるのはやめろ。だがあれだ。先ずは初志貫徹。なんとかしてアイツを俺に惚れさせて、何時かは好きって言わせてやる。それまで俺は何度でも策を講じるぞ。
それにしても驚いた、と彼は鞄の中に隠していた原稿に目を向ける。
まさかアイツが、俺とまったく同じ構成の小説を書いていたとはな……! もし、『俺の書いた小説、ちょっと読んでみないか?』なんてさり気無く言ってたら大惨事になったんじゃねーのか? あ、いや、むしろ俺に惚れさせるチャンスだったかも?
ああ、ダメだ。頭の中がぐちゃぐちゃだ。なんにせよ、まったく同じような作品を後出しじゃんけんで披露するのは無理だこっ恥ずかしすぎる!!?
こうして彼は、折角書いた小説のお蔵入りを決めた。
この物語は、そんな二人があの手この手を使いながら、なんとか自分の気持ちを相手に気づかせようと日々奮闘する、すれ違いラブコメディ。
この先三年間、不毛なすれ違いバトルを散々繰り広げたのち、卒業の直前でようやく交際。
二十五歳で結婚したのち十人の子供をもうけて大家族バラエティ番組の主役として度々テレビに登場する程の有名人になっていくのだが、それはまあ、ついでのお話。
目下瑠奈の心配事は、智樹にダメだしされた原稿が、部長のお眼鏡にかなうのか。その一点なのであった。
廊下を歩きながら、はあ、と彼女は溜め息を落とした。
~続きません~
「ぶはあっ!?」
そして私は目が覚める。窓際の白いカーテンの隙間から、朝日が射しこんでいるのが見えた。
鳥のさえずりが遠く聞こえる。そんな穏やかな朝だった。
「なによ、全部夢か。そうよね、そりゃそうよね」
皆さまごきげんよう。改めまして、作美瑠奈と申します。
今年で二十九歳になるオーエル。ブラック企業に勤務している、彼氏いない歴イコール年齢という残念女子です。
先ほどまで見ていた悪役令嬢ライフが夢だったのは少し残念だけど、死ぬのはもっと嫌だからきっとこれでいいわ。
だいたいねえ。そう簡単に異世界転生とか異世界転移とかそういうのがあってたまるかっていうのよ。もしそんなのが頻繁にあったとしたら、
『それでは最初のニュースです。本日未明、〇〇丁目、〇〇番地で白く輝く魔法陣の目撃情報が寄せられました。近くを通りかかった会社員、鈴木さんと連絡が取れなくなっていることから、警察は、鈴木さんが異世界転移に巻き込まれたものと見て、捜査を開始しています』
こんなニュースが度々報じられるっつーの! まったく、有り得ないこと。
さあて、朝食でも作って会社行きますか。
そんなことを考えベッドに手をついたその時、私の脳が異常を検知した。
──あれ? どういうこと? どうして私上半身裸なのかしら。なにこれ、どうなってんの?
驚きのあまり身を捩った瞬間、隣で誰かが寝ている気配を感じた。……嘘でしょ!? と思いながら恐る恐る視線を向けて、私の思考がそのまま凍りつく。
私の隣で眠っていたのは、高校時代同級生だった初恋の相手、トモキだった。しかもどういう訳か、彼も上半身裸の状態で。
なんで? なんで、どうして?
思わずサーーっと血の気が引いていく音が聞こえた。
嫌な予感がして毛布を捲ってみたが、辛うじてショーツは履いていた。
ああ……良かった。ギリギリセーフ。
……なわけがない! だって、ショーツしか履いてないし、この状況、どう考えても事後!
シちゃった後にしか見えない!
ああ、神様。
軽く眩暈がした。私ってば何しちゃってるの? 昨日の記憶が全然ない! 本当に何がどうして、こうなってるの?
──どーしよー!?
困惑する思考のなか、トモキの瞳がゆっくりと開く。
「ああ、お早うハニー。今日はまた随分と早起きなんだね」
なんて、カッコいい。十年ぶりに見たけどやっぱりカッコいいよトモキ。好き。
「あ、あの。それはそうと、どうしてトモキがここに居るの? もしかして私」
「ああ、昨日の君は激しかったね。あんなに求めてくるなんて想定外だった」
「激しかったネ」
なんなのソレ。瞬間的に頭に血が上って卒倒しそう。
「それに、なんだか、ここに俺が居るとオカシイ、みたいな言い方だね? 当たり前だろう? 俺達は夫婦なんだから」
「夫婦」
ぷしゅう。
この瞬間、私の脳が完全にショートした。
◇◇◇
「こんな感じに、主人公の意識が飛ぶたび、どんどん異なる世界線に転移していくっていうパラレルワールドラブストーリーなんだけど、どうかな」
「まどろっこしい。却下」
「一刀両断!?」
私がテーブルを挟んで向かい側に座っている山本智樹(やまもとともき)に声を掛けると、彼は紙の束を私の方に向かってバサっと投げて返した。
「ちょっと待ってよ!? 大事に扱え! これは文化祭に向けて書き下ろした、私の大切な原稿なんだから!」
ここは、私、作美瑠奈と山本智樹の一年生二人。あとは二~三年生の部員合わせて五名で活動している高校の文芸部の部室。今私は、文化祭ように書き下ろした長編小説の冒頭部分を、智樹に読んで貰っているところだった。
「そもそもさあ、何処がダメなの? ちゃんと流行とらえてんじゃん」
「確かにな。その点は評価できる。だが如何せん冒頭部分が長すぎだろ。冗長して見えるわ」
「う。やっぱりそうかなあ」
「そうだ。それに」
「それに?」
短く刈り揃えた後頭部をかきむしり、智樹が窓の外に視線を移した。
「なんで主人公の名前、お前の本名なんだよ」
「ぐっ……。その方が感情移入して書き易いかなあって」
「それともう一個。なんで二つ目のシーンででてくる男の名前トモキなんだよ」
「ダメ、かな?」
「当たり前だ! キモいわ! なんで人の名前勝手に使うんだよ」
「ん~……そっかあ。じゃあ、トモキの名前のとこだけ直しとくね」
「おう」
淡白に同意の呟きだけを落とすと、彼は仏頂面で腕を組んだ。
「それはそうと、さっさと部長に見てもらってこい。小説の構想まとまってないの、俺とお前だけだってボヤいてたぞ」
「ん、わかった。気が重いなあ。私、加護先輩苦手なんだよね」
そう言って私は部室を出ると、部長がいるであろう図書室を目指した。図書委員会に所属している部長は、今日、三年生の他の部員と一緒にそこにいるはずだった。
それにしても、今回も失敗かあ。わりといいアイディアだと思ったんだけどな、おかしいな。
だってさ、あんな小説読まされたら、
『もしかしてお前、俺のことが好きだったのか?』
『ん……そうよ。もう、鈍感なんだから。何時気が付いてくれるのかと、ヤキモキしてたんだから』
『瑠奈! 好きだ!』
『私も! ずっと前から好きだった!』
こうなるのが普通だろうがよぉぉぉぉぉ! もう、鈍感なんだから。知らない!
しゃーない。また別の方法でも考えますか。図書室、図書室っと。
◇◇◇
一方、文芸部の部室。
一人残された山本智樹は、テーブルの上に突っ伏して頭から湯気をあげていた。
あっぶねぇぇぇぇぇぇぇ! マジであっぶねぇぇぇぇぇぇぇ! 第一なんだよ夫婦になってる設定とか可愛すぎだろ危うく真顔で『……好き』って言っちまうところだったじゃねえかぁぁぁぁぁぁぁ!?
もしかして瑠奈の奴、俺のことを……。
そこで智樹はぶんぶんと首を左右に振った。
ありえねえ、変な妄想を膨らませるのはやめろ。だがあれだ。先ずは初志貫徹。なんとかしてアイツを俺に惚れさせて、何時かは好きって言わせてやる。それまで俺は何度でも策を講じるぞ。
それにしても驚いた、と彼は鞄の中に隠していた原稿に目を向ける。
まさかアイツが、俺とまったく同じ構成の小説を書いていたとはな……! もし、『俺の書いた小説、ちょっと読んでみないか?』なんてさり気無く言ってたら大惨事になったんじゃねーのか? あ、いや、むしろ俺に惚れさせるチャンスだったかも?
ああ、ダメだ。頭の中がぐちゃぐちゃだ。なんにせよ、まったく同じような作品を後出しじゃんけんで披露するのは無理だこっ恥ずかしすぎる!!?
こうして彼は、折角書いた小説のお蔵入りを決めた。
この物語は、そんな二人があの手この手を使いながら、なんとか自分の気持ちを相手に気づかせようと日々奮闘する、すれ違いラブコメディ。
この先三年間、不毛なすれ違いバトルを散々繰り広げたのち、卒業の直前でようやく交際。
二十五歳で結婚したのち十人の子供をもうけて大家族バラエティ番組の主役として度々テレビに登場する程の有名人になっていくのだが、それはまあ、ついでのお話。
目下瑠奈の心配事は、智樹にダメだしされた原稿が、部長のお眼鏡にかなうのか。その一点なのであった。
廊下を歩きながら、はあ、と彼女は溜め息を落とした。
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