夢に繋がる架け橋(短編集)

木立 花音

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新しいパパ(文芸・コメディ)

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 正月。それは、暦の年始めのことであり、旧年が無事に終わったことと、新年を祝う行事である。正月飾りをし、初詣に行ったりお節料理を食べたりして盛大に祝うのだが、『一年の計は元旦にあり』の言葉が示すように、正月をゆっくり迎えられるよう、計画は早めにしっかり立てるべきである。
 などと、言葉にするのは簡単だが、主婦にとっては年末から年明けまでずっと戦争なのだ。悠長に休んでいる暇などない。
 大袈裟? 大袈裟なもんか。年賀状の作成に年末の大掃除に年越しそばの準備やらと忙しい年末を乗り切ったあとにやってくる正月は、遠方から親戚や親兄弟が訪れてそれこそ戦時中さながらの忙しさなのだ。
 戦時中、知らんけど。
 特に大変なのは正月中に食べる料理の献立だ。三日も何を食わせたらいいんだよ! 献立を考えて準備する方の身にもなって欲しい。ずっと餅とお雑煮ってわけにもいかないし、色々考えて買い出ししておかなくちゃ。
 神様ヘルプミー!
 ここはひとつ、三人寄れば文殊の知恵、でもないけれど、うちのバカ息子三人に尋ねてみるとしようか。
 そう判断した私は、玉ねぎを剥いていた手をいったん休めると、リビングで遊んでいる年子三人に声をかけた。

「正月なんだけどさ、なんか食べたいものとかある?」
「ラーメン」と答えたのは十歳の長男。
「却下」

 それはオメーの食べたいもんでしょうが。
 ……いや、答えとしては合ってるのか。聞き方がまずかったのかしら?

「カレー」
「の王子様。じゃなくて却下。それはいつでも食べられるでしょ」

 空気読めよ次男。正月だっつってんでしょうが。
 ここは三人の中で一番聡明 (当社比)な三男に期待しますか。

「冷やし中華」
「始めました」

 だから正月だっつてんだろーーーー! ダメだ。やっぱり三人揃ってバカだった。
 しょうがない。不本意だけど藁にも縋る思いで旦那に聞いてみるか。頼むからかつ丼とか言わないでくれよ。

「ねえ、あなた?」

 ところが、キャッキャッとはしゃぎまわるバカ兄弟の声以外、聞こえてくる声はない。というか、旦那リビングにいないじゃん。そういえば、今日はまだ姿見ていないかも。

「ねえ、タカシ。パパどこ行ったか知らない? 正月……というか、今日の昼ご飯なにがいいか聞きたいんだけど」

 異論がなければパスタにするつもりだったけど、あの人難しいから一応確認取った方がいいと思うんだよね。

「パパ? パパならもう食べちゃったよ?」
「へ? パパが」
「うん。パパを」

 珍しいこともあるもんだ。面倒くさがりのあの人がもうお昼を済ませちゃってたなんて。そもそも何を作って食べたのかしら?

「でもさあ。ご飯食べたあとパパどこ行ったの? タカシあんた知らないの?」

 十畳のリビングをぐるっと見渡すが、三人の兄弟以外誰もいない。ほんと、どこ行っちゃったのよ。

「だから食べちゃったってば」

 だめだ。この子らはひとつのことで頭がいっぱいになると、それしか言わなくなるんだよなあ。
 って、あれ? ゴミ箱の中にケンタッキー・フライド・チキンの食べかすが入ってる。こんなとこに捨てないでよね。ちゃんとビニール袋で包んで捨てないと、カラスや猫に食い荒らされるんだから。
 ゴミ捨てのルールはなかなか厳しい。ミスをしたらまたお隣の佐藤さんに怒られちゃうんだから。
 それにしても。

「ねえ、ケンタッキーなんて誰が食べたの?」
「え、誰も食べてないよ?」と首を傾げたのは次男。
「じゃあ、パパが食べたのかしら?」
「うん。パパなら食べちゃったよ」

 ん? 何かいま言葉尻に違和感があった。もしかして。

「あんたたち、パパのこと食べちゃったの?」
『うん。ちょっと脂肪が多くて食べづらかったけど、なかなか美味しかったよ』

 三人の声が綺麗にハモった。

「そっかー。でもちゃんと言っておいたでしょ。骨まで全部食べなさいって。じゃないと、私たちが人外だってバレちゃうでしょ?」
「てへ♪ ごめんなさい」
「まあいいわ。じゃあ、また新しいパパを仕入れてこなくちゃね」
「うん。待ってるー。今度のパパは、もうちょっとやせ型で柔らかいお肉だといいな」

 あーあ。正月の仕事また一個増えちゃった。ほんと主婦って大変だわ。


※なにを書いているんだろう……
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