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9話
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猫は大量に水面に浮かんで、そのあばた鏡を形成していた。
吐き気がした。これは猫の死体——動かないのだからそうだろう——を見て、吐き気を催したという訳ではなく、不安、恐怖を催した為である。
頭がカッと熱くなります、耳がキーンと鳴り、腹からは胃液が迫り上がってくる。
そうだ、今日は朝から何も摂っていなかっただった。迫り上がるものが胃液しか無いのだ。
瞬間、食道、喉が焼けるように痛み、地面に液体が飛び散った。
汚かった。穢らわしかった。
そうして、液体を吐き切り、また視線を猫池に戻す。本当に、不気味で、気持ちが悪い光景だった。というか、光景という、光の字が入っている言葉を使う事が憚られる程に、気分を害するものだった。
まあ、そんな感情は次の瞬間にすぐに無くなったのだが。
僕は、池の後ろが盛り上がっている事に気づいた。それは土を盛った小さい山があるとか、そういう自然を基とするような物じゃなくて、もっと人工的な物だった。
祭壇のように見えた。
薄暗くてよく分からない。だが、四方の松明で若干照らされていて、ほんのりと、分かる。
それは木製のようだった。何か、木材が組み合わさった奇妙な祭壇が池の後ろに築かれている。
月光の逆光で、大きな怪物のように見えた。
その怪物は、一人の人間の己の背中に乗せた——いや、人が祭壇に乗った。
それは誰かと考えるまでも無かった。
だが、それを思わせる間もなく、次の事象が起こった。
目の前に複数人いた白装束の男女。それらが、一斉に池に向かって走り出したのだ。
こちらに向けていた目線——もっとも、こちら側というだけで僕を見ていた訳では無いが——をくるっと猫池の方に向け、取り憑かれたように、皆、一斉にそちら側に走り出した。
池に走る者たちの足は裸だった。足の指が、地面の砂利、土、針葉樹の枯れ葉を掴み、それを僕の方へ飛ばしながら、空気の中を突き進むようにしながら、そいつらは池に向かって走った。
そして——音がした。
ずぽっ、ずぽっ、と、幾らか籠もった、くぐもった音。
その音は、水に白装束が飛び込んだ音だった。入水音がくぐもって聞こえるのは猫の死体が水面に浮かんでいて、飛び込んでもそれのせいで水が巻き散らないから、だろう。
ずぽずぽと、人々、いや、それらは飛び込んだ。水面は揺れ動き、暴れ、猫の死体が二三匹、三四匹、四五匹だばだばと、周囲の地面に叩きつけられ、うちあげられる。
見るに堪えない状況なのは、言うまでもない。
また吐いた。
それらは僕が腹の内蔵物を吐き終える頃にはとっくのとうに終わり、水面はただ、ゆらゆらと、揺蕩っていた。
飛び込んだ人は見えない。沈んでしまったのだろうか。それとも一緒になって浮かんでいるのだろうか。
水上にいるのは、僕と、祭壇の左右に三人ずついる白装束、僕の後ろに居る三人の白装束、そして、祭壇の上の人物だけとなった。
祭壇上の人物は、祭壇の上に乗っている道具箱のようなものの中から、何か、棒のようなものを取り出した。
そして、鞘を抜いた。
中身がきらと、松明の微かな明かりを集めた。
それは、
短刀だった。
祭壇上の人物は——「猫守柳は、短刀を持った」。
彼女はその時初めて僕を見た、気がした。
顔がこちらを初めて向いたのだ。
さっきまで、先ほど飛び込んだ白装束たちの様に、ただまっすぐ、前を見ていただけの柳だったのがさっと、こちらに顔を向けたのだ。
そして、笑った、ような気がした。精々照明は僕の周り、四角にある松明だけである。顔という小さいパーツを詳細に照らせるほどの光量はない。
でも、それでも、彼女は笑ったように見えた。
僕の目を見て、口元を軽く吊り上げて、笑った、微笑んだ。
それは優しい笑みでは——無かった。
邪悪な、笑みだった。
でもそんな微笑みは、すぐに終了した。
次の瞬間、柳は素早い動作で腹に刀を、短刀を突き立てた。
突き立てただけである。まだ臓物に接触はしていない。だが、少し力を腹部への方向にかけたらその刃は皮膚を貫き、内臓を撫で、破るだろう。
僕は、僕は自然、地面を見た。
見ていられない。人が腹を割る所がおぞましいとか、気持ち悪いとか、そういう理由ではない。
ただ、見ていられなかった。
ここ最近、いや、しかし、もしかしたら生まれてから一度も感じた事が無いような、厭な感情が脳に、脳漿に、心臓に、体に、僕に満たされた。
口から脳味噌が出てきてしまいそうだった。
僕は嘔吐反射をする。口の中に何も入れられていないのに。いや、口の中には厭な感情が詰まっていたか。
涙は出なかった。
ただ、地面に手をついて僕がまるで地獄の餓鬼の様な姿勢になっている中、瞬間、祭壇の方で良からぬ音がした。
刃が肉に突き刺さる音。
そして、前にどっと、声が上がった。その声はすぐに悲鳴へと変わった。
僕は前を見る。
彼女——猫守柳は、「祭壇上にはいなかった」。
僕は探す。真逆、池に落ちたか?
でもそんな考えはすぐに発散した。
彼女は祭壇から降りて、祭壇の横にいた白装束に掴みかかっていた。
いや、掴みかかっていたのではない。白装束の腹から短刀を抜いていた。
白装束の腹に突き刺さった短刀は白い布を赤い布に染め上げ、生気を抜き取っていた。
そんな中、周りの白装束は彼女を止めるでもなく、逃げようとしている。だが皆腰を抜かしているのか地面を這いつくばって逃げようとしていた。
まるで餓鬼だった。
僕はそいつらと同じ様な体勢で、彼女を見ていた。
彼女は叫んだ。
何と叫んだのかは、分からなかった。認識できないような声だった。
正に金切り声、という表現が一番合っていた。
でも意味は通じた。いや、勝手な解釈なのかもしれないが、考察なのかもしれないが。
僕はその解釈を、自分の解釈を信じて走り出した。いや、走り出そうとした。だがその行動は叶わなかった。
足は縛られている。
僕は必死でその縄を解こうと、引きちぎろうともがくが一向に取れる気配はなく、むしろ縄が足首に食い込む。むしろ力めばもっともっと縄が締まっていくようだった。
僕は、完全に終わったと思ったし、自分に言い聞かせて決めつけた。僕はもうどうすることも出来ない、と。
その時だった。
僕が芋虫の様に足を動かしている所、僕に近づく気配を感じた。
それは、柳だった。
猫守柳は下半身と上半身を疎らに血で汚し、髪も乱れ、酷い有様だった。
彼女は僕に近づくや否や、無言で、顔を見せることもせずに縄を切った。
僕何だか、逃げなくて良いのじゃないかと、そう思った。
彼女は無事だ。僕も無事だ。ならばもう、僕たちはどこへも行かなくて良いのじゃないかと、思った。
でも、そんな甘ったるいことでも無かったようだ。
彼女は静かに言った。
「出ていって」
僕は何も言わなかった。
「出て行け!」
彼女続けていきなりそう言った。言った彼女の目は震えていて、でも僕を見ていた。
僕はそれでも、動こうとしなかった。このままでいいと思ったのだ。
「これは、君のせいだ、猫をしっかり、してくれなかったからだ!!」
彼女の声は断末魔に近かった。
僕はその断末魔に、気圧された。
彼女がそう叫んだ途端、僕の体はいきなり、憑き物が落ちたように軽くなり、足は今にも走り出そうとした。
実際、僕は走った。
彼女に一言もくれず、別れの言葉も何も、言わずに。
僕は今自分がいる場所、僕が向いている方向とは真逆の方向へと走った。
後ろではまだ断末魔が響いている。彼女の声ではない、下卑た白装束達のものである。
僕は、走った。
後ろで響く音から逃げる様に。
走って、走った。
途中、転んだかもしれない。でも、止まることだけはなかった。
その間、音はどんどん遠ざかっていった。遠ざかって、遠ざかって、でも、さっきの事が幻想と思えることはなかった。
吐き気がした。これは猫の死体——動かないのだからそうだろう——を見て、吐き気を催したという訳ではなく、不安、恐怖を催した為である。
頭がカッと熱くなります、耳がキーンと鳴り、腹からは胃液が迫り上がってくる。
そうだ、今日は朝から何も摂っていなかっただった。迫り上がるものが胃液しか無いのだ。
瞬間、食道、喉が焼けるように痛み、地面に液体が飛び散った。
汚かった。穢らわしかった。
そうして、液体を吐き切り、また視線を猫池に戻す。本当に、不気味で、気持ちが悪い光景だった。というか、光景という、光の字が入っている言葉を使う事が憚られる程に、気分を害するものだった。
まあ、そんな感情は次の瞬間にすぐに無くなったのだが。
僕は、池の後ろが盛り上がっている事に気づいた。それは土を盛った小さい山があるとか、そういう自然を基とするような物じゃなくて、もっと人工的な物だった。
祭壇のように見えた。
薄暗くてよく分からない。だが、四方の松明で若干照らされていて、ほんのりと、分かる。
それは木製のようだった。何か、木材が組み合わさった奇妙な祭壇が池の後ろに築かれている。
月光の逆光で、大きな怪物のように見えた。
その怪物は、一人の人間の己の背中に乗せた——いや、人が祭壇に乗った。
それは誰かと考えるまでも無かった。
だが、それを思わせる間もなく、次の事象が起こった。
目の前に複数人いた白装束の男女。それらが、一斉に池に向かって走り出したのだ。
こちらに向けていた目線——もっとも、こちら側というだけで僕を見ていた訳では無いが——をくるっと猫池の方に向け、取り憑かれたように、皆、一斉にそちら側に走り出した。
池に走る者たちの足は裸だった。足の指が、地面の砂利、土、針葉樹の枯れ葉を掴み、それを僕の方へ飛ばしながら、空気の中を突き進むようにしながら、そいつらは池に向かって走った。
そして——音がした。
ずぽっ、ずぽっ、と、幾らか籠もった、くぐもった音。
その音は、水に白装束が飛び込んだ音だった。入水音がくぐもって聞こえるのは猫の死体が水面に浮かんでいて、飛び込んでもそれのせいで水が巻き散らないから、だろう。
ずぽずぽと、人々、いや、それらは飛び込んだ。水面は揺れ動き、暴れ、猫の死体が二三匹、三四匹、四五匹だばだばと、周囲の地面に叩きつけられ、うちあげられる。
見るに堪えない状況なのは、言うまでもない。
また吐いた。
それらは僕が腹の内蔵物を吐き終える頃にはとっくのとうに終わり、水面はただ、ゆらゆらと、揺蕩っていた。
飛び込んだ人は見えない。沈んでしまったのだろうか。それとも一緒になって浮かんでいるのだろうか。
水上にいるのは、僕と、祭壇の左右に三人ずついる白装束、僕の後ろに居る三人の白装束、そして、祭壇の上の人物だけとなった。
祭壇上の人物は、祭壇の上に乗っている道具箱のようなものの中から、何か、棒のようなものを取り出した。
そして、鞘を抜いた。
中身がきらと、松明の微かな明かりを集めた。
それは、
短刀だった。
祭壇上の人物は——「猫守柳は、短刀を持った」。
彼女はその時初めて僕を見た、気がした。
顔がこちらを初めて向いたのだ。
さっきまで、先ほど飛び込んだ白装束たちの様に、ただまっすぐ、前を見ていただけの柳だったのがさっと、こちらに顔を向けたのだ。
そして、笑った、ような気がした。精々照明は僕の周り、四角にある松明だけである。顔という小さいパーツを詳細に照らせるほどの光量はない。
でも、それでも、彼女は笑ったように見えた。
僕の目を見て、口元を軽く吊り上げて、笑った、微笑んだ。
それは優しい笑みでは——無かった。
邪悪な、笑みだった。
でもそんな微笑みは、すぐに終了した。
次の瞬間、柳は素早い動作で腹に刀を、短刀を突き立てた。
突き立てただけである。まだ臓物に接触はしていない。だが、少し力を腹部への方向にかけたらその刃は皮膚を貫き、内臓を撫で、破るだろう。
僕は、僕は自然、地面を見た。
見ていられない。人が腹を割る所がおぞましいとか、気持ち悪いとか、そういう理由ではない。
ただ、見ていられなかった。
ここ最近、いや、しかし、もしかしたら生まれてから一度も感じた事が無いような、厭な感情が脳に、脳漿に、心臓に、体に、僕に満たされた。
口から脳味噌が出てきてしまいそうだった。
僕は嘔吐反射をする。口の中に何も入れられていないのに。いや、口の中には厭な感情が詰まっていたか。
涙は出なかった。
ただ、地面に手をついて僕がまるで地獄の餓鬼の様な姿勢になっている中、瞬間、祭壇の方で良からぬ音がした。
刃が肉に突き刺さる音。
そして、前にどっと、声が上がった。その声はすぐに悲鳴へと変わった。
僕は前を見る。
彼女——猫守柳は、「祭壇上にはいなかった」。
僕は探す。真逆、池に落ちたか?
でもそんな考えはすぐに発散した。
彼女は祭壇から降りて、祭壇の横にいた白装束に掴みかかっていた。
いや、掴みかかっていたのではない。白装束の腹から短刀を抜いていた。
白装束の腹に突き刺さった短刀は白い布を赤い布に染め上げ、生気を抜き取っていた。
そんな中、周りの白装束は彼女を止めるでもなく、逃げようとしている。だが皆腰を抜かしているのか地面を這いつくばって逃げようとしていた。
まるで餓鬼だった。
僕はそいつらと同じ様な体勢で、彼女を見ていた。
彼女は叫んだ。
何と叫んだのかは、分からなかった。認識できないような声だった。
正に金切り声、という表現が一番合っていた。
でも意味は通じた。いや、勝手な解釈なのかもしれないが、考察なのかもしれないが。
僕はその解釈を、自分の解釈を信じて走り出した。いや、走り出そうとした。だがその行動は叶わなかった。
足は縛られている。
僕は必死でその縄を解こうと、引きちぎろうともがくが一向に取れる気配はなく、むしろ縄が足首に食い込む。むしろ力めばもっともっと縄が締まっていくようだった。
僕は、完全に終わったと思ったし、自分に言い聞かせて決めつけた。僕はもうどうすることも出来ない、と。
その時だった。
僕が芋虫の様に足を動かしている所、僕に近づく気配を感じた。
それは、柳だった。
猫守柳は下半身と上半身を疎らに血で汚し、髪も乱れ、酷い有様だった。
彼女は僕に近づくや否や、無言で、顔を見せることもせずに縄を切った。
僕何だか、逃げなくて良いのじゃないかと、そう思った。
彼女は無事だ。僕も無事だ。ならばもう、僕たちはどこへも行かなくて良いのじゃないかと、思った。
でも、そんな甘ったるいことでも無かったようだ。
彼女は静かに言った。
「出ていって」
僕は何も言わなかった。
「出て行け!」
彼女続けていきなりそう言った。言った彼女の目は震えていて、でも僕を見ていた。
僕はそれでも、動こうとしなかった。このままでいいと思ったのだ。
「これは、君のせいだ、猫をしっかり、してくれなかったからだ!!」
彼女の声は断末魔に近かった。
僕はその断末魔に、気圧された。
彼女がそう叫んだ途端、僕の体はいきなり、憑き物が落ちたように軽くなり、足は今にも走り出そうとした。
実際、僕は走った。
彼女に一言もくれず、別れの言葉も何も、言わずに。
僕は今自分がいる場所、僕が向いている方向とは真逆の方向へと走った。
後ろではまだ断末魔が響いている。彼女の声ではない、下卑た白装束達のものである。
僕は、走った。
後ろで響く音から逃げる様に。
走って、走った。
途中、転んだかもしれない。でも、止まることだけはなかった。
その間、音はどんどん遠ざかっていった。遠ざかって、遠ざかって、でも、さっきの事が幻想と思えることはなかった。
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