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過去に縋る

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  思い出したのは学園に入学する一ヶ月前。
無意識にした行動に違和感を覚え、その瞬間前世の記憶がフラッシュバックした。



ただ、その記憶の量や内容に耐えきれず、私は1週間の眠りについたらしい。
だけど思い出したからと言って何も変わらない。



いつも通りに過ごすだけ。
前世は成人してたから少し大人びたねと周りに言われる程度だった。



だけど、当たり前だった日常に前世を思い出すようになってからだんだん私の中の気持ちが変わってきた。



  前世ではこうだった、ああだった、もっと楽だった、したいことが出来た、楽しかった、幸せだった、そんな思いが溢れてやまない。



前世はとても幸せだったと思う。好きな時にご飯が食べれて、好きな時に寝れて、ゲームしてたくさん遊んで、貴族だからこの世界では幸せな生活を出来ている、それは分かっているのだ、けれども思い出してしまったら止まらない。前世は幸せすぎた。



  この世界も幸せだ。身の回り世話を全部してくれるし綺麗でかわいいドレスをたくさん着れる。
ご飯は美味しいしみんなが優しく接してくれる。


なぜなら貴族だから。それは、分かっている。






「起きてくださいお嬢様」

近くからメイドの声がする。
あぁ、もう朝か、なんて思いながらゆっくりと体を起こす。



「ええ、わかったわ。」

目覚めは良い方で、朝はスっと起きれる方だ。
窓を見るといつもと同じ中世の街並みがゆったりと見える。近くの木には鳥が留まっており、小さく囀っている。



もうすぐ学園に行かなければならない。
大丈夫、王子が婚約者と良い関係だと言う噂はこの領地まで届いている。



「此処にずっと居たいな……」

慣れ親しんだこの場所を離れるのは少し寂しい、だけど今から頑張らなくてはいけない。



貴族として、長女として。
学べるものはしっかり学ぼうと思う。
そして、ここにまた帰って来れるように。
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