Tantum Quintus

Meaningless Name

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1.Farewell to the Beginning

12:楽器の弾けないミュージシャンと進歩の無い駄犬

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新延暦 518年 7月 某日

 入学してから早いもので、3ケ月が経とうとしていた。
学園での生活も慣れてきて1学期のイベントも、
残すところ終業式を残すのみとなっていた。

俺達は今、学園内の 出発地点デパーチャーに来ていた。
 出発地点デパーチャーと言っても実家の 出発地点デパーチャーとは、
似て非なるものだった。

そもそも 出発地点デパーチャーは複数あり、 接続コネクトするコンソールの場所によって、
どこの 出発地点デパーチャーに下り立つか決まっている。
つまり今使用している学園内のコンソールから、
実家の 出発地点デパーチャーに直接は行けない仕様だ。
直接はいけない。 出発地点デパーチャー同士は直接は繋がっていないが、
ネットワーク内の 箱庭クラスを経由して他の 出発地点デパーチャーに行くことは可能だ。
とは言うものの、実家と学園の 出発地点デパーチャーには上位権限でプロテクトがかかっているようで、
デパーチャーから移動すること自体が出来なかった。
機密保持や 接続コネクト中の生徒、教員を守る為、そう言った意味合いなのだろう。



「いくよ!ムルト!」

威勢のいい掛け声とともに、巨体が足音を立ててタックルしてくる。
流石に2mオーバーになる巨漢となると、威圧感がとんでもない。

とは言え、姉さんほどのスピードがあるわけではない。
避ける事は造作もなかった。
俺が身を躱すと、片足でブレーキを掛けた巨漢は振り向きざま、
すかさずタックルのモーションに入る。
だが俺の静止のゼスチャーに、相手の肩から力が抜けていった。

「ジェナスー、やっぱり自分から仕掛けるのは合ってないんじゃない?」

あっさりタックルを交わされたジェナスは、
表情こそ見えないものの、しょんぼりしているようだった。
彼の 擬人装甲マプス

『 clypeusクレイペイオス・ de・ ferroフェーロ

はパワー型の中のパワー型、と言った感じで、歩く城と例えるのがしっくりくる。
グレーをメインに白が配色された、シックなカラーリングだ。

最近の俺たちは学園内のコンソールを借りて、 仮想バーチャルでの模擬戦をしていた。
俺もジェナスも部活に入ってないので、
コンソールが暇を持て余している時間を、有意義に使っている。
学園に配備されているコンソールは15機。
国立で後進の育成に力を入れている学園ですら、だ。
10機あった我が家はやはり異常だと、改めて実感した。
まあ請け負ってる仕事が仕事だし。そんなものかもしれない。

そんな希少なコンソールが、授業以外に使われてないと言う。
 仮想バーチャル内で活動する部活動がないかと、
 入学当初探していたが、意外なことに一つも無かった。
結局のところ 現実肉体リアルボディがメインであって、
その下地があっての 仮想バーチャル、という考えのようだ。
確かにその通りではあるのだが、
普段体験できないものが 仮想バーチャルにはある。
その経験を増やすことにも意義があると思っていた。
実際昨今の戦闘と呼べるものは、7割程が 仮想バーチャルだった。

そこで担任に、無理を承知でお願いしてみる。
以外にも放課後3時間であれば、と条件付きで使用許可が下りたのだ。
正直下りるとは思ってなかったので、肩透かしを食らった気分だった。
そんなわけで現在、ジェナスを誘っての模擬戦をしていた。
ここ2ヶ月、放課後はだいたいここで、訓練やら模擬戦に勤しむ日々だ。

「やっぱりそう思うよね。
  肉体強化ビルドアップしてもあっさり避けられちゃうもんなあ」

ジェナスは 擬人装甲マプスを解除すると、想像通りしょんぼりとしていた。
彼の言う 肉体強化ビルドアップは 仮想バーチャル内のみのチップ機能で、
一般人にはまず使えない。というか一般人には必要のない機能だ。
その名の通り力、敏捷、反応速度そして、 擬人装甲マプスの強度も上昇させる。
使い手によりけりだが最低でも20%、70%近くの能力を上げる猛者もいる。
ジェナスは約35%~40%と、年齢や能力を考慮しても、
上位の 肉体強化ビルドアップではなかろうか。

ただ 肉体強化ビルドアップにも欠点がある。
 肉体強化ビルドアップしている最中は、チップの処理能力を割いているので、
必要な処理能力を満たしていないと、別の機能は使えなかったりする。
逆に言えば必要な処理能力さえ残していれば、他の機能を使用することも可能だ。
これは 肉体強化ビルドアップに限らず他の機能にも同様の事が言える。
まあ 解除アンロックしないと使えない機能なんですけど。
俺?ええ、使えませんよ。

 第5世代フィフスは、いまだに一般ピープルと同レベルだった。
姉さんの手回しで健康診断を顔パスしたりと、手間を掛けさせる俺のチップは、
いまだにうんともすんとも言わなかった。
これだけの訓練をしても何も 解除アンロックされないとなると、
何か別の要因が条件なのだろうと、入学して一カ月で諦めた。
諦めたのはもう一つの要因もあってだが。
それでも授業での模擬戦や、武闘派連中からの果たし状に負け知らずでいる。
それもこれも親父と姉さんに、小さいころから扱かれたおかげだ。

「クレイペイオスは攻めより守りってかんじだしな。見た目からして。
 ジェナスの性格的にもそっちのほうが向いてるんじゃないか?」

そうなんだよねと苦笑いのジェナスは、
シャワーを浴びたいと言って先に 接続解除ディスコネクトしていった。
彼も護身術に関しては少しかじった、なんて当初言ってたが、
少しなんてもんじゃなかった。

入学間もない授業中の模擬訓練で、彼に土を付けたのは俺だけだった。
 現実リアルでの身体能力の高さはもちろんの事、 肉体強化ビルドアップした後の彼は、
まさに動かざること山のごとしである。
多少の攻撃ではびくともしない鋼の装甲。
 結界アミナについては知らないようだったが、
使えていれば俺も太刀打ちできないと思う。
火力も申し分なく、そこいらの生徒ではジェナスのタックルでワンパンKOだった。
そりゃ高機動のガチムチ戦車に突っ込まれれば誰だってこうなる。
そんな彼に敗北を口にさせるまで、俺もかなり苦労した。

しかし彼から勝利をもぎ取った俺は、
何一つ 解除アンロック出来てない落ちこぼれである。
何かの間違いだろうと、俺と訓練したがるヤツは後を絶たなかった。
もちろんジェナスほどの手練れはいなかったので、負けることはなかった。
授業を終えた後も、
どこから嗅ぎつけたかわからない武闘派連中とも模擬戦をした。
途中面倒になって、適当なところで負けようかなとも思った。
ただジェナスの株を下げるのは嫌だったので、結局勝ち続ける。
そしてついた二つ名は「不敗の 鍵付きロッカー」。
ギターもベースも引いたことのない、まして収納スペースでもない、
ロッカーだった。
強いのか弱いのかよくわからない、自分でも不気味に感じる二つ名だ。

俺だって出来るものなら 解除アンロックして知らない機能を使ってみたい。
1か月ずっとそんなこと思いながら、色々と試していたが駄目だった。
 解除アンロックを諦めるまでは、ジェナスによく慰められていた。
そして 解除アンロックが成績に反映されないとわかると、すぐさま諦めた。
これ以上 第5世代フィフスに時間を割くことにアホ臭くなったし、
今出来る事を確実にやろうと方針転換することにしたのだ。


 接続解除ディスコネクトして 現実リアルに戻ると、目の前によく知った顔が居た。
正直顔も見たくない。だがジェナスはまだシャワーから帰ってきていないようだ。
先に寮に戻っても良かったが、目の前の人間に付きまとわれるのは面倒だった。

「なんか用か?こないだもう俺の前に立たないって。約束したよな?」

俺の言葉が癇に障ったようだ。こめかみに青筋が浮いてきた。

「んなこと知ったこっちゃねえよ!俺ともう一回勝負しろ!」

体内の酸素を全て吐き出しそうだ。人生でこれ以上ないため息が漏れる。
果たし状を顔に叩きつけてきたのは、『失礼なヤツ』でお馴染みの、レオだった。
これで8回目。正直うんざりしている。
プライドなのか学園での地位なのか。理由を聞いてもだんまりを決め込んでいる。
何が気に食わないのか知らないが、レオは事あるごとに俺に吹っ掛けてきた。

別に模擬戦自体は嫌いじゃない。
最初のころはレオとの模擬戦を楽しんでいた。
レオの並外れたスピードに驚かされたこともあった。
ワンパターンなのだ。ヤツは。まるで成長が感じられなかった。
それに比べてジェナスとの模擬戦は趣向を凝らしたもので、
模擬戦の度に新たな発見が得られる。比べるまでもない。
俺自身も、模擬戦での駆け引きを楽しむ傾向があるようで、
レオとの模擬戦は時間の無駄にしか思えなかった。

「今日はもう帰るから。明日の放課後でいいか?」

言い終わるとまた溜息が出てしまう。
幸せが逃げて、不幸を呼び寄せている気がする。
レオは俺の言葉に反応せず、スタスタと行ってしまった。
入れ替わるようにジェナスが部屋に入ってきて、また?という顔を俺に向ける。
そう、またである。返事代わりに苦笑いをすると、

「ムルトも大変だねぇ~」

と、ご近所付き合いしている淑女のような反応をした。
ジェナスからしてみれば他人事なのは重々承知しているが、
正直替わって欲しいくらいだ。
因みにレオとジェナスは3度模擬戦を行っているが、
ジェナスに土はつかなかった。

なぜ嫌々受けているか、断る事は簡単だ。
ただ面子を保つというか泥を塗らないよう、渋々果たし状を受けている。
それもこれも姉さんの知り合い、というその一言に尽きた。
じゃなければ、最初の2、3回で断ってる。
レオの親父殿が軍の中佐とか。そんなことはどうでもよかったが、
姉さんに恥をかかせるようなことはしたくなかった。
相手をするのが億劫になってきたころ。
一度姉さんに話して、何とかしてもらう、という手も考えた。
が、七光りのレオを同じことをするのは、虫唾が走った。


ジェナスが着替え終わったのを見て、コンソールルームを後にする。
今日の模擬戦について色々と議論しながら寮に向かう。
何とも有意義な時間だ。
寮の玄関先でチェックインの認証をしていると、
管理室奥で一人の女性が見える。誰かと口論しているようだ。
そもそも男子寮に女性がいることが、規則的にアウトなのだが。
俺とジェナスは顔を見合わせると、興味本位で窓から管理室を覗き込む。

中でヒステリック気味に騒いでいるのは、銀髪の美少女。
フロスだった。
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