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1.Farewell to the Beginning
13:黒猫と獅子
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「な、何の用?」
俺達に気づくとフロスは、ドカドカとガニ股で詰め寄ってきた。
はしたないお嬢様だ。姉さんと会話していた時の振る舞いはどこへ行ったのやら。
「ほ、ほらここ男子寮だから。女の子がいるなんて珍しいな~って。
ね、ムルト」
別に悪いことをしてたわけじゃないんだから、堂々としていなさいジェナス君。
っと言うか管理人さん、爺さんと言い合いしてたのか?
権力者の娘であるフロスだ、一声で寮の一つを消すことも可能かもしれない。
もしそうとなれば、こちらも姉さんに声をかけるまでだ。
権力には権力で立ち向かおうじゃないか。
「なんかすごい剣幕だったけど、管理人さんとなんかあった?」
そう言って奥に居る爺さんの様子を窺うと、静かに俯いていた。
俯く爺さんの視線の先には、真っ黒な小動物が一匹、
気持ちよさそうに撫でられていた。
「実は洗濯物を取り込んでたら、風で飛ばされてしまって」
男子寮のすぐ隣が女子寮だ。
大体の場所は分るから、室内を探させて欲しいとのことだった。
しかし部屋の主がまだ帰ってきてないので了承できない。
爺さんに、連絡はしておくから今日は諦めなさいと諭されたそうだ。
そういえば今日は風が一段と強かったな。
にゃ~んと鳴いた小動物は、
撫でている爺さんの人差し指を捕まえると、美味しそうに舐めている。
確か寮内はペット禁止だったはずだが。それにしても愛くるしいな。
「飛ばされた先ってベランダだろ?
今晩中にどこに落ちたか把握して、朝一に取りにくればいいじゃないか」
そうじゃそうじゃと言わんがばかりに爺さんも頷く。
猫は相変わらず、爺さんの人差し指に夢中だ。
しかし俺に言われて何故かフロスは、下を向いてモジモジし始める。
?なんだこの反応は。
この時の俺は一つ重大なことを見落としていた。
だがそれに気付くのは、自室のベランダに出てからだった。
よくわからなかったが、とりあえず夜も更けてきたので、
と言うとフロスは渋々女子寮に帰っていった。
最後までフロスのよくわからない反応に、
俺とジェナスは少し困った顔をしていた。
ただ困り顔の意味合いが違った。
ジェナスはそれとなくだが、わかっていたらしい。
が、確信は無かったので、と後日弁解された。
ジェナスといつも通り食事を終え、自室に戻る。
風呂に入りながら考える。先程のフロスの態度が妙に引っかかった。
そんなに高価な衣服が、飛ばされてしまったのだろうか。
せめてどの辺りに飛んでいったかくらいは、
聞いておけばよかったかもしれない。
風呂から出た俺は、火照った体を夜風に当てようと、ベランダの戸を開ける。
一匹の猫がいた。愛くるしい黒猫である。
俺の城は10F建ての最上階だ。
こんなところまで登ってくる猫なんて、聞いたことが無かった。
いや、もうわかっていた。上ってきたのではない。
この猫は風に乗ってきたのだと。
女子寮も10Fだ。この超軽量化された猫ならば、
同じ階層に着地しても、何ら不思議はないだろう。
俺は優しく猫を抱き抱えると、丁寧にその猫を紙袋に入れる。
1Fにいる爺さんに、フロスへ連絡を入れてもらい5分後。
猫は飼い主のもとへ帰っていった。
「い、一応俺を言っておきますわ。あ・・あ・・ありがとう」
若干涙目の彼女に、なんとフォローを入れればよいかわからない。
そして俺は、その沈黙に耐えきれなかった。
「き、気にすんなって!姉さんのも見慣れてるし猫のプリントだってかわi」
言い終える前に俺の左頬に、強烈な一撃が入る。80デシベルは出てたと思う。
姉さん以外の女性に後れを取ることが無かった俺には、
肉体的ダメージよりも精神的ダメージが、深々と残った。
翌日、フロスの突き刺さる視線を、一身に浴びつつ授業に参加した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
やっと今日の授業が終わった。
今日もいつも通り、ジェナスと模擬戦も兼ねた訓練を。
というわけにはいかない。
コンソールルームに入ると、そいつは鋭い眼光を飛ばしてきた。
一緒に入ったジェナスには、一瞥もしなかった。
「わりぃな。待たせたか?」
「いや、それよりムルト、お前顔・・・腫れてないか?」
昨晩のフロスの強烈なビンタが、俺の記憶を通して襲い掛かる。
まさかレオに心配されるとは思わなかった。
「なんでもねーよ、ところで今日はどうするんだ?
こないだと同じルールでいいか?」
レオは一つ頷くと、メダーラケーブルをセットし 接続した。
7戦7勝0敗。何の絡め手も無いワンパターン戦法に、勝因も敗因もない。
ルーチンワークのような作業でしかない。油断するつもりは無いが、
今回もあまり期待しないほうがいいな。
俺とジェナスも 接続する。
ジェナスには審判役兼立会人として、一緒に 仮想に入ってもらっている。
これもいつもの事だ。しかし毎回同じじゃ俺も進歩がないな。
この模擬戦に少しでも意味を持たせるか。
仮想での訓練と言えば姉さん。
姉さんとレオ、と言えば。アレを試してみるか。
出発地点に下り立つと、レオは既に 擬人装甲を纏っていた。
『 feroces leo』
それが奴の 擬人装甲の名だった。
前身が逆立つ毛をイメージさせる、スタイリッシュな 擬人装甲だ。
オレンジを基調として燃えるような赤い紋様がいかにもレオらしい。
猪突猛進な彼の性格、スタイルをよく体現している。
レオもジェナスほどではないが 肉体強化を 解除している。
数値にして25%~30%と言ったところか。
解除されていない俺が採点するのも変な話だが、ギリギリ最低ライン。
赤点手前である。
他の機能に関しては使用しているところを見たことはない。
多分 解除していないんだと思う。
さて、どうなるかな。
――― 擬人化―――
光に包まれた俺の構成は 擬人装甲に再構成される。
再構成された全身を、確かめるように動かしていく。
問題なさそうだ。
「よっしゃ!いくぜ!」
早々に息巻くレオに待ったをかける。
姉さんが入学式に、レオに向けた殺気と怒気。
仮想でもアレを再現できるか。
親父と姉さんに日々訓練してもらったおかげで、
なんとなくだがその威圧感の出し方は理解していた。
チップの 記憶領域から俺にとって負の感情を起こさせる、
ありったけの記憶を呼び起こす。
姉さん程の殺気や怒気が出せるかわからないが、
あれに遜色のないものを出すために俺は、
レオを親の仇、そして反AI主義ヒューマジェストの構成員に見立てた。
スキを見せれば、
容赦なく四肢を切断し、
断面に五指をねじ込み、
骨を引きずり出す。
一度ダウンを取れば、
レオの腹から臓物を、
根こそぎひねり出す。
残った部位を、
皮の一枚一枚、
丁寧に剥いでいく。
胴と首は
敢えて繋げておく。
痛みと恐怖を
十分に感じられるように。
憤怒、怨恨、殺意。そうした負の感情とその想像を
言葉を以て、レオにぶつけた。
「レオ、今回お前が負けたら、今やってること、
その意味を全部ぶちまけてもらう。
いい加減付き合ってやるのも飽きてきたところだ。
約束できないなら模擬戦じゃ終わらない。二度と手出し出来ないように」
「・・・殺してやるよ」
殺気と怒気を織り交ぜた俺の言葉に、
レオから生唾を飲み込む音が、聞こえた気がした。
ちょっとハッタリが過ぎたかな。
学園内の 出発地点は上位権限で、一定以上のダメージは出ない仕様だ。
本気でやってもちょっとした打撲で終わってしまう。
因みに実家ではよく骨折していた。
レオは微動だにしていないが、少しは姉さんのような殺気を出せただろうか。
ん?レオが動かないな。
何か様子がおかしい。
駆け寄ろうと踏み出した所で、レオは仰向けに倒れた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
レオ視点
「ふぅ」
コンソールルームに着いた俺は、手際よくメダーラケーブルを装着する。
そして奴が来るのを待った。
ムルトとの戦績 7戦0勝7敗 全敗だ。
正直勝てる気は全くしない。
肉体強化すら 解除できてないあいつに。
別に『不敗のロッカー』に負けることは、何とも思っちゃいない。
いや、悔しくないわけじゃない。ただ勝たなきゃならなかった。
男として負けるとわかっていても、
それでも挑まなきゃいけない理由が、俺にはあった。
1回でいいんだ、ラッキーパンチでもいい、1回だけ勝たせてくれ。
奴がコンソールルームに入ってくる。
いつものようにジェナスも一緒のようだ。
そう言えばジェナスにもまだ勝ったことが無かったな。
あの装甲への対抗手段なんか、頭の悪い俺には微塵も考えつかなかった。
斯く言うムルトはそんなジェナスを、
少し時間を掛けながらも、あっさり勝ってしまっている。
俺に対して 肉体強化する必要もないってことだ。
もっともムルト自身は 解除出来ないことを、
良く教室で嘆いていたけど。
ともあれ得体の知れない奴だが、コロメさんのお兄さんの弟子。
つまりはイシダ流暗殺術を体に叩き込まれてる。
俺の親父だってまともにやりあったら、殺されるかもと言ってたイシダ流だ。
そりゃ強いわけだよ。
ルールを確認して先に 接続する。
せめて一発くらいは殴ってから、諦めてえな。
最悪また挑めば・・・。
出発地点に着いた俺は、 擬人装甲を纏い奴を待つ。
ムルトも着くなりすぐ 擬人装甲を纏う。
奴の青黒い 擬人装甲は一見、
諜報や隠密と言った裏方向きの 擬人装甲に思えるが、
各部が白く縁どられており、方向性のよくわからない 擬人装甲だった。
構えを取り、せめて一撃でも。
その甘えた考えは、奴の言葉を聞いた俺に、
奴の言い放った一言に、全てを飲まれた。
―――――恐怖―――――
―――――絶望―――――
―――――苦悶―――――
「殺してやるよ」
気づくと床に伏せていた。
ムルトに顔を覗き込まれている。
何が起きたか、思い出そうとして吐き気を催し、我慢した。
そして思い出すことをやめた。
奴はそんな俺を見下ろしながら口を開く。
「話してもらうぞ」
さっきのアレを言い放った人物とは思えないほどに、感情が入ってない。
睨まれてはいるけど。
本当にムルトがアレをやったのか、どうやったのか聞きたかったが。
そうだ、俺は負けたんだ。触れることもできずに。
その気になればムルトは、いつでも俺を殺せるのだろう。
「おい、大丈夫か?ちょっと殺気乗せただけなんだけどな」
嘘言うなよ。
入学式の時に当てられたコロメさんの殺気や怒気を、
はるかに凌駕していた。いや、違うな。
何かそう言った感情とは、違うベクトルから俺の感情に働きかけた。
俺の負の感情を伴った記憶を、凝縮させて思い起こさせる。
そんな感じだ。自分でもなんと言っていいかわからない。
そんな異質なものに感じられた。そしてそれは俺を握り潰した。
絶対に勝てない。絶対に殺される。思い出してまた吐き気を催す。
「ちょっと、待てよ。今話すから」
観念して話すことにした。
気を失う前のアレを味わうくらいなら、話したほうがマシだと思った。
あまり気の進まない事に違いなかったが。
おっと、話す前に一つ確認しないとな。
「ムルトはさ、フロスの事、どう思ってんの?」
その一言に一瞬ビクッとしたムルトは、怪訝そうな顔で俺を見る。
予想外の反応に俺は困惑することしかできなった。
俺達に気づくとフロスは、ドカドカとガニ股で詰め寄ってきた。
はしたないお嬢様だ。姉さんと会話していた時の振る舞いはどこへ行ったのやら。
「ほ、ほらここ男子寮だから。女の子がいるなんて珍しいな~って。
ね、ムルト」
別に悪いことをしてたわけじゃないんだから、堂々としていなさいジェナス君。
っと言うか管理人さん、爺さんと言い合いしてたのか?
権力者の娘であるフロスだ、一声で寮の一つを消すことも可能かもしれない。
もしそうとなれば、こちらも姉さんに声をかけるまでだ。
権力には権力で立ち向かおうじゃないか。
「なんかすごい剣幕だったけど、管理人さんとなんかあった?」
そう言って奥に居る爺さんの様子を窺うと、静かに俯いていた。
俯く爺さんの視線の先には、真っ黒な小動物が一匹、
気持ちよさそうに撫でられていた。
「実は洗濯物を取り込んでたら、風で飛ばされてしまって」
男子寮のすぐ隣が女子寮だ。
大体の場所は分るから、室内を探させて欲しいとのことだった。
しかし部屋の主がまだ帰ってきてないので了承できない。
爺さんに、連絡はしておくから今日は諦めなさいと諭されたそうだ。
そういえば今日は風が一段と強かったな。
にゃ~んと鳴いた小動物は、
撫でている爺さんの人差し指を捕まえると、美味しそうに舐めている。
確か寮内はペット禁止だったはずだが。それにしても愛くるしいな。
「飛ばされた先ってベランダだろ?
今晩中にどこに落ちたか把握して、朝一に取りにくればいいじゃないか」
そうじゃそうじゃと言わんがばかりに爺さんも頷く。
猫は相変わらず、爺さんの人差し指に夢中だ。
しかし俺に言われて何故かフロスは、下を向いてモジモジし始める。
?なんだこの反応は。
この時の俺は一つ重大なことを見落としていた。
だがそれに気付くのは、自室のベランダに出てからだった。
よくわからなかったが、とりあえず夜も更けてきたので、
と言うとフロスは渋々女子寮に帰っていった。
最後までフロスのよくわからない反応に、
俺とジェナスは少し困った顔をしていた。
ただ困り顔の意味合いが違った。
ジェナスはそれとなくだが、わかっていたらしい。
が、確信は無かったので、と後日弁解された。
ジェナスといつも通り食事を終え、自室に戻る。
風呂に入りながら考える。先程のフロスの態度が妙に引っかかった。
そんなに高価な衣服が、飛ばされてしまったのだろうか。
せめてどの辺りに飛んでいったかくらいは、
聞いておけばよかったかもしれない。
風呂から出た俺は、火照った体を夜風に当てようと、ベランダの戸を開ける。
一匹の猫がいた。愛くるしい黒猫である。
俺の城は10F建ての最上階だ。
こんなところまで登ってくる猫なんて、聞いたことが無かった。
いや、もうわかっていた。上ってきたのではない。
この猫は風に乗ってきたのだと。
女子寮も10Fだ。この超軽量化された猫ならば、
同じ階層に着地しても、何ら不思議はないだろう。
俺は優しく猫を抱き抱えると、丁寧にその猫を紙袋に入れる。
1Fにいる爺さんに、フロスへ連絡を入れてもらい5分後。
猫は飼い主のもとへ帰っていった。
「い、一応俺を言っておきますわ。あ・・あ・・ありがとう」
若干涙目の彼女に、なんとフォローを入れればよいかわからない。
そして俺は、その沈黙に耐えきれなかった。
「き、気にすんなって!姉さんのも見慣れてるし猫のプリントだってかわi」
言い終える前に俺の左頬に、強烈な一撃が入る。80デシベルは出てたと思う。
姉さん以外の女性に後れを取ることが無かった俺には、
肉体的ダメージよりも精神的ダメージが、深々と残った。
翌日、フロスの突き刺さる視線を、一身に浴びつつ授業に参加した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
やっと今日の授業が終わった。
今日もいつも通り、ジェナスと模擬戦も兼ねた訓練を。
というわけにはいかない。
コンソールルームに入ると、そいつは鋭い眼光を飛ばしてきた。
一緒に入ったジェナスには、一瞥もしなかった。
「わりぃな。待たせたか?」
「いや、それよりムルト、お前顔・・・腫れてないか?」
昨晩のフロスの強烈なビンタが、俺の記憶を通して襲い掛かる。
まさかレオに心配されるとは思わなかった。
「なんでもねーよ、ところで今日はどうするんだ?
こないだと同じルールでいいか?」
レオは一つ頷くと、メダーラケーブルをセットし 接続した。
7戦7勝0敗。何の絡め手も無いワンパターン戦法に、勝因も敗因もない。
ルーチンワークのような作業でしかない。油断するつもりは無いが、
今回もあまり期待しないほうがいいな。
俺とジェナスも 接続する。
ジェナスには審判役兼立会人として、一緒に 仮想に入ってもらっている。
これもいつもの事だ。しかし毎回同じじゃ俺も進歩がないな。
この模擬戦に少しでも意味を持たせるか。
仮想での訓練と言えば姉さん。
姉さんとレオ、と言えば。アレを試してみるか。
出発地点に下り立つと、レオは既に 擬人装甲を纏っていた。
『 feroces leo』
それが奴の 擬人装甲の名だった。
前身が逆立つ毛をイメージさせる、スタイリッシュな 擬人装甲だ。
オレンジを基調として燃えるような赤い紋様がいかにもレオらしい。
猪突猛進な彼の性格、スタイルをよく体現している。
レオもジェナスほどではないが 肉体強化を 解除している。
数値にして25%~30%と言ったところか。
解除されていない俺が採点するのも変な話だが、ギリギリ最低ライン。
赤点手前である。
他の機能に関しては使用しているところを見たことはない。
多分 解除していないんだと思う。
さて、どうなるかな。
――― 擬人化―――
光に包まれた俺の構成は 擬人装甲に再構成される。
再構成された全身を、確かめるように動かしていく。
問題なさそうだ。
「よっしゃ!いくぜ!」
早々に息巻くレオに待ったをかける。
姉さんが入学式に、レオに向けた殺気と怒気。
仮想でもアレを再現できるか。
親父と姉さんに日々訓練してもらったおかげで、
なんとなくだがその威圧感の出し方は理解していた。
チップの 記憶領域から俺にとって負の感情を起こさせる、
ありったけの記憶を呼び起こす。
姉さん程の殺気や怒気が出せるかわからないが、
あれに遜色のないものを出すために俺は、
レオを親の仇、そして反AI主義ヒューマジェストの構成員に見立てた。
スキを見せれば、
容赦なく四肢を切断し、
断面に五指をねじ込み、
骨を引きずり出す。
一度ダウンを取れば、
レオの腹から臓物を、
根こそぎひねり出す。
残った部位を、
皮の一枚一枚、
丁寧に剥いでいく。
胴と首は
敢えて繋げておく。
痛みと恐怖を
十分に感じられるように。
憤怒、怨恨、殺意。そうした負の感情とその想像を
言葉を以て、レオにぶつけた。
「レオ、今回お前が負けたら、今やってること、
その意味を全部ぶちまけてもらう。
いい加減付き合ってやるのも飽きてきたところだ。
約束できないなら模擬戦じゃ終わらない。二度と手出し出来ないように」
「・・・殺してやるよ」
殺気と怒気を織り交ぜた俺の言葉に、
レオから生唾を飲み込む音が、聞こえた気がした。
ちょっとハッタリが過ぎたかな。
学園内の 出発地点は上位権限で、一定以上のダメージは出ない仕様だ。
本気でやってもちょっとした打撲で終わってしまう。
因みに実家ではよく骨折していた。
レオは微動だにしていないが、少しは姉さんのような殺気を出せただろうか。
ん?レオが動かないな。
何か様子がおかしい。
駆け寄ろうと踏み出した所で、レオは仰向けに倒れた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
レオ視点
「ふぅ」
コンソールルームに着いた俺は、手際よくメダーラケーブルを装着する。
そして奴が来るのを待った。
ムルトとの戦績 7戦0勝7敗 全敗だ。
正直勝てる気は全くしない。
肉体強化すら 解除できてないあいつに。
別に『不敗のロッカー』に負けることは、何とも思っちゃいない。
いや、悔しくないわけじゃない。ただ勝たなきゃならなかった。
男として負けるとわかっていても、
それでも挑まなきゃいけない理由が、俺にはあった。
1回でいいんだ、ラッキーパンチでもいい、1回だけ勝たせてくれ。
奴がコンソールルームに入ってくる。
いつものようにジェナスも一緒のようだ。
そう言えばジェナスにもまだ勝ったことが無かったな。
あの装甲への対抗手段なんか、頭の悪い俺には微塵も考えつかなかった。
斯く言うムルトはそんなジェナスを、
少し時間を掛けながらも、あっさり勝ってしまっている。
俺に対して 肉体強化する必要もないってことだ。
もっともムルト自身は 解除出来ないことを、
良く教室で嘆いていたけど。
ともあれ得体の知れない奴だが、コロメさんのお兄さんの弟子。
つまりはイシダ流暗殺術を体に叩き込まれてる。
俺の親父だってまともにやりあったら、殺されるかもと言ってたイシダ流だ。
そりゃ強いわけだよ。
ルールを確認して先に 接続する。
せめて一発くらいは殴ってから、諦めてえな。
最悪また挑めば・・・。
出発地点に着いた俺は、 擬人装甲を纏い奴を待つ。
ムルトも着くなりすぐ 擬人装甲を纏う。
奴の青黒い 擬人装甲は一見、
諜報や隠密と言った裏方向きの 擬人装甲に思えるが、
各部が白く縁どられており、方向性のよくわからない 擬人装甲だった。
構えを取り、せめて一撃でも。
その甘えた考えは、奴の言葉を聞いた俺に、
奴の言い放った一言に、全てを飲まれた。
―――――恐怖―――――
―――――絶望―――――
―――――苦悶―――――
「殺してやるよ」
気づくと床に伏せていた。
ムルトに顔を覗き込まれている。
何が起きたか、思い出そうとして吐き気を催し、我慢した。
そして思い出すことをやめた。
奴はそんな俺を見下ろしながら口を開く。
「話してもらうぞ」
さっきのアレを言い放った人物とは思えないほどに、感情が入ってない。
睨まれてはいるけど。
本当にムルトがアレをやったのか、どうやったのか聞きたかったが。
そうだ、俺は負けたんだ。触れることもできずに。
その気になればムルトは、いつでも俺を殺せるのだろう。
「おい、大丈夫か?ちょっと殺気乗せただけなんだけどな」
嘘言うなよ。
入学式の時に当てられたコロメさんの殺気や怒気を、
はるかに凌駕していた。いや、違うな。
何かそう言った感情とは、違うベクトルから俺の感情に働きかけた。
俺の負の感情を伴った記憶を、凝縮させて思い起こさせる。
そんな感じだ。自分でもなんと言っていいかわからない。
そんな異質なものに感じられた。そしてそれは俺を握り潰した。
絶対に勝てない。絶対に殺される。思い出してまた吐き気を催す。
「ちょっと、待てよ。今話すから」
観念して話すことにした。
気を失う前のアレを味わうくらいなら、話したほうがマシだと思った。
あまり気の進まない事に違いなかったが。
おっと、話す前に一つ確認しないとな。
「ムルトはさ、フロスの事、どう思ってんの?」
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