シュレディンガーの竜

みらい

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2.蒼のために

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 黒い髪を揺蕩わせる。
 ここはおそらく竜の尾の先ーー竜の背骨と呼ばれる山脈地帯。

 イグニス王国にある竜の尾ほど活発ではない。
 モノクロの花園に降り立つ。
 平時なら赤に灯るルミナリアも、今は俺の色に染まっている。

 青なら歓迎の証だったろうが……。



 ーー一輪、持って帰ればよかったか。



「はあ……」



 レイの髪の毛一本を想うだけで、ため息が漏れる。あの匂いを嗅げたら。あの肌に触れられたら。
 もっと、強くなれる気がするのにーー叶わない。

 随分、遠くまで来たらしい。

 竜の尾の狼煙は、遠く、細く、滲んで見えた。
 出現する魔物も、イグニス王国周辺ほどの強さはない。
 狼型の獣を従え、静かに山を降る。



 ーー次第に、緑が増えてきた。



「ーー!」

「……」

「ん?」



 山を降りた先、騒がしい声が響いてくる。
 あれは……。



「危ない! 躱せ!」



 どうやら、魔物を相手に戦っているらしい。
 他国の連中は魔法ーー竜の加護を持たない。
 その代わり、剣と魔導銃を頼りに戦う。

 銃もまた、魔物の力を取り込み作られたものだと、誰かが言っていた。
 ……魔物は飽きた。

 今度は人間を、試してみようか。
 戦闘の最中、横からふっと炎を吹きかける。
 狙ったのは後方の弓使い。



「……ぁ……がぁ……ッーー」



 急に頭を掻きむしり、言葉にならない音を口走る。

 ーー発狂。

 泡を吹いて、崩れ落ちた。

 ーーうむ。

 やはり、魔物ほど強くはない。
 青を纏うあの子なら、こんなものーー易々と受け止めただろうに。



「な、どうした?!」



 魔物を放置して、前衛の二人が駆け寄る。
 二人など、俺の足元にも及ばない。

 彼らが対峙していた魔物も、気配で簡単に止めた。



「……な、アンタどっから? そもそも魔物連れて……」



 問いかけられても、応じない。
 ただ手を翳す。



 ーー今度は、なるべく弱めに。
 炎を出す。

 この程度のものに調整するのも、馬鹿らしいが致し方ない。



「俺に侍らせて貰えるのだ。感謝せよ」



 黒い炎が、彼らを包んだ。
 咄嗟に躱したところで、無駄。



「ーー……う、うー」

「……まま、どこ?」



 ーーやはり、駄目だ。



 脆すぎる。
 調整などする気も失せる。
 唸る者を一瞥して、歩き出す。

 死体のように、俺の後ろをついてくる。



「はあ……」



 この後ろのものが本当にあの子であったなら歓喜に溢れるというのに。
 そう思うだけで、胸が焼けた。



「……ーーっ」



 ーー痛い。


 封竜の環を描いた胸が。
 慰めるように黒い蝶が周りを飛んだ。




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