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六十一話、また月は登ると信じて
しおりを挟む「アッシュ様!!」
ヴァルディス様の声が聞こえてきた。
既視感。
確か帝国での騒動の後もこうして帰ってきた。
違うのは、街中がボロボロなこと。
といっても、もう騎士団たちの力も戻っているはずだから復興は速いだろう。
それに、どうやら港の方が騒がしい。
そちらを見ると、支援してきている船が多く停泊していた。
……これも、叔父様が頑張ってくれたおかげだ。
私から降りて、陛下がヴァルディス様の元に駆け寄る。
「ただいま。大丈夫そうだな。とにかく、心配をかけたな」
「……いえ、無事でなによりです。こちらにお任せください。今はお休みください」
「わかった……、セレスタ」
私を呼ぶ。
でも、なんだか恥ずかしくて、変身を解いてから――逃げた。
「あ、アッシュ様ひどいっ」
そう言って駆けて行った。
不敬だけど、先ほどの仕打ちを思うと、不問にしてくれるはずだ。
綺麗な白と青のルミナリアが私を逃がしてくれるように照らす。
バリストン邸まで一直線。
ゼロを肩に担いでここまで来た。
「た、ただいま帰りました」
そっと扉を開く。
毎回制御できなかったことを思い出す。
ここから始まったから。
耳を凝らしたら、また指を鳴らす音でも聞こえてくるんじゃないか……。
そう期待しながら。
ちっちゃい子五人をあしらいながら、侍女に聞く。
「叔父様……ノル様戻ってますか?」
「……? ノル様……?」
「えっと……じゃあ、書斎に行きます」
子どもたちをお願いして、階段をあがる。
――やっぱり。
いや、まだわからない。
彼が使っていた書斎や寝室を探す。
――が、書斎の場所は物置に。
寝室は客室となっていた。
私物もない。
温室の葡萄はそのままだった。
そのまま庭に出た。
白と青。
まだほんの少し黒の混じる花々。
その隅っこの母の墓。
そこに、大きな石を置いた。
しばらくすると、執事さんが来た。
私のその様子をおかしいと思ったらしい。
「お疲れ様でございました」
……執事さんならわかるのだろうか?
そう思いながら、叔父様のことを聞いてみた。
しかし、侍女と同じ回答と反応。
消えちゃった。
私一人だけ。
それなら、と数年前の叔父様が起こした騒動を聞いてみた。
事件は全てラザリさんと父がしたことになっていた。
それと、全人類が魔法を使える。
そんなことも教えてくれた。
加護に憧れ、夢を追いかけた人物。
なんだか、ラザリさんも可哀想だなと思ってしまう。
「――ありがとう、ございます」
一通り今までのことを教えてもらった。
それと、変わる前のことも。
アッシュ様を救った。
けれど、なんだか空っぽになった気分。
もう、竜は。
――私だけ。
「いえ。お嬢様がそこまで落ち込むのであれば……。もしかしたら、本当にいたのかもしれません。私も多少の記憶操作などは可能なので。
しかし、お嬢様のお話を聞きますと、世界中いや、過去さえ変えたようですな。それほどまでの相当な力」
項垂れたまま、彼の話を聞く。
「――それほどお嬢様のことを心配し愛していたのでしょう。
木の葉を隠すなら森の中といいます。
あなたを隠したかったのでしょう。
皆が加護をーー魔法を使えるのならあなたは狙われない。
案外、力を使いすぎて休んでいる。そう考えておいたら良いのでは? 例えば不可視できなくとも、覚えているあなたなら観測できるはずです」
「観測かぁ……」
あの人が私の前に姿表すかなあ。
それでも、希望があるなら、待っていよう。
待つのは慣れている。
何度陽が落ちたとしても。
月が来る。
きっと、いつか――。
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