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ミシェルの中の人
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「お母様、先ほどどなたか来られていましたか? なんだか、騒がしかったようですが」
「聞こえてたの? 実はレオンがあなたに会わせろと言って来ていたのよ」
「婚約は解消されんでしょう?」
「ええ。でも今更あなたに執着しているようなの。だから、あまり外出してほしくないの。フレデリクがいないときは特に」
「わかりました」
「あなたはレオンの顔もわからないでしょ? もし知らない人に声をかけられても、何を言われても聞く耳を持ってはいけないわ」
「はい」
母とお茶を一緒にした後、部屋に戻ると一通の手紙が机の上に乗っていた。
「何だろう?」
手紙を広げると
『ミシェルへ
ご家族に会わせてもらえず手紙を使用人に託した。君に届いていることを願う。
父から、婚約解消したと連絡がきた。そして君が記憶を失ってしまっていることも。どうやって詫びればいいのか、自分のふがいなさに辟易している。しかし俺と会うことが記憶を取り戻す一助にならないだろうか。だからどうか一度会って話をしてほしい。
それとあの件は事情があるんだ。それを君に説明をしたい。もし記憶が戻らなくても責任を取って君の面倒をみさせてほしい。
レオン・モンテ』
「僕と話しても仕方がないのに。……ごめんね、ミシェルさん」
ミシェルは今後どうすればいいのかわからず、罪悪感と不安と恐怖にさいなまれていた。
自分はミシェルではない。気が付けばこの体に入っていた。
はじめ何が何だかわからず、全てが怖かった。
黙っていると、兄という人がひどく心配し、帰ろうと言って馬車に乗せられた。馬車の窓に映る自分の顔を触る。確かに触れられるのにそこにあるのは自分の顔ではない。
一体何が起こっているのか、混乱している最中、家についたと言われ、出迎えてくれたのは人の好さそうな夫婦だった。ミシェル——この体の持ち主の両親だった。ひどく心配する様子に自分はミシェルではないととても言えなかった。もちろん自身も混乱していたし、説明する術も持たなかったというのもある。
ここの優しい人たちを悲しませたくなくて、でもミシェルの振りもできずに記憶喪失というしかなかった。
このまま自分はミシェルとして生きていくしかないのだろうか。
婚約を解消するとか、復縁とか自分には何も決める権利はないから、こんな手紙をもらってもどうすることもできない。
それよりも自分はどうしても気になることがあるのだ。あの時宿でパニックになりながらも、彼のいる街へ少しでも近づこうと無理をして歩き続けて倒れてしまったけど、どうしても行きたい場所がある。
大切な彼は今どうしているのか。あの女と……幸せに暮らしているのだろうか。
自分はあの女に突き飛ばされた後、死んでしまったのだろう。
その時彼は何を思ったのだろう。ほっとした? それとも悲しんでくれた?
彼が彼女に心を移したなんて信じたくはなかったけれど、確かにあの女は彼と関係を持ったと言い、子供のことまで匂わせた。
あの時の事を思い出すと、胸が痛くて息がうまく吸えなくなってくる。
思い出すのは彼の優しいまなざしと、そして……彼女を優しく介抱する姿。涙がこぼれ、苦しくてもがくほど息が出来ず、ミシェルは手紙を握りしめたまま倒れてしまった。
ミシェルが床に倒れたときの衝撃音を聞いて部屋を覗いたメイドにミシェルは発見され、屋敷は大騒ぎとなった。
「父上、しばらくミシェルを別荘か別宅で療養させましょう。このままではミシェルがまいってしまう。レオンが追いかけてこられないところに連れていきたいのです」
フレデリクはミシェルが握っていた手紙を見て憤慨していた。
当然、この手紙を置いたメイドは即刻解雇となった。しかし、またいつどこでどういう手段でレオンがミシェルに近づいてくるかわからない。
「そうだな。少し考えるが、いつでも動けるように準備だけはしておいてくれ」
そういうジルベールにフレデリクは頷いた。
「ミシェル、大丈夫か?」
気が付いたミシェルのそばで見守っていたフレデリクはほっとしたように手を握った。
「……はい。心配をおかけしました」
「お前の体調が落ち着いたら叔父上のところへ行かないか?」
「叔父上?」
「ああ、ここから随分離れるが雑音が聞こえてこないし、あいつも追いかけてこれないところで療養させたい」
「あ、あの……療養に行くならシモン領へ行ってはいけませんか?」
ミシェルはおずおずといった。
「シモン領? どうして? うちとは何の縁もないが……何か思い出したのか?!」
「いえ、そういうわけでは……」
言葉を濁して黙ってしまったミシェルにフレデリクは優しく言った。
「わかった。シモン領へ行こうか。僕もついていくから」
「え? でもお兄さまはお仕事があるのに」
「お前より大事なことはないよ」
その言葉を聞くと、ミシェルは静かに泣き始めた。
「ごめんなさい、お兄さまごめんなさい」
「どうして謝る? 悪いのはあいつじゃないか。お前は何も心配しないでいいからな」
ミシェルはぶるぶると首を振ってしばらく泣き続けた。
ミシェルが少し落ち着いたのを見計らってフレデリクは街歩きに誘った。
「ミシェル。あれからずっと家にいるだろう? 少し外に出てみないか? お前が好きだった店にお茶に行こう。シモン領へ行くのに必要なものも買いたいしね」
それを聞いたミシェルは久しぶりに笑顔を見せた。
「聞こえてたの? 実はレオンがあなたに会わせろと言って来ていたのよ」
「婚約は解消されんでしょう?」
「ええ。でも今更あなたに執着しているようなの。だから、あまり外出してほしくないの。フレデリクがいないときは特に」
「わかりました」
「あなたはレオンの顔もわからないでしょ? もし知らない人に声をかけられても、何を言われても聞く耳を持ってはいけないわ」
「はい」
母とお茶を一緒にした後、部屋に戻ると一通の手紙が机の上に乗っていた。
「何だろう?」
手紙を広げると
『ミシェルへ
ご家族に会わせてもらえず手紙を使用人に託した。君に届いていることを願う。
父から、婚約解消したと連絡がきた。そして君が記憶を失ってしまっていることも。どうやって詫びればいいのか、自分のふがいなさに辟易している。しかし俺と会うことが記憶を取り戻す一助にならないだろうか。だからどうか一度会って話をしてほしい。
それとあの件は事情があるんだ。それを君に説明をしたい。もし記憶が戻らなくても責任を取って君の面倒をみさせてほしい。
レオン・モンテ』
「僕と話しても仕方がないのに。……ごめんね、ミシェルさん」
ミシェルは今後どうすればいいのかわからず、罪悪感と不安と恐怖にさいなまれていた。
自分はミシェルではない。気が付けばこの体に入っていた。
はじめ何が何だかわからず、全てが怖かった。
黙っていると、兄という人がひどく心配し、帰ろうと言って馬車に乗せられた。馬車の窓に映る自分の顔を触る。確かに触れられるのにそこにあるのは自分の顔ではない。
一体何が起こっているのか、混乱している最中、家についたと言われ、出迎えてくれたのは人の好さそうな夫婦だった。ミシェル——この体の持ち主の両親だった。ひどく心配する様子に自分はミシェルではないととても言えなかった。もちろん自身も混乱していたし、説明する術も持たなかったというのもある。
ここの優しい人たちを悲しませたくなくて、でもミシェルの振りもできずに記憶喪失というしかなかった。
このまま自分はミシェルとして生きていくしかないのだろうか。
婚約を解消するとか、復縁とか自分には何も決める権利はないから、こんな手紙をもらってもどうすることもできない。
それよりも自分はどうしても気になることがあるのだ。あの時宿でパニックになりながらも、彼のいる街へ少しでも近づこうと無理をして歩き続けて倒れてしまったけど、どうしても行きたい場所がある。
大切な彼は今どうしているのか。あの女と……幸せに暮らしているのだろうか。
自分はあの女に突き飛ばされた後、死んでしまったのだろう。
その時彼は何を思ったのだろう。ほっとした? それとも悲しんでくれた?
彼が彼女に心を移したなんて信じたくはなかったけれど、確かにあの女は彼と関係を持ったと言い、子供のことまで匂わせた。
あの時の事を思い出すと、胸が痛くて息がうまく吸えなくなってくる。
思い出すのは彼の優しいまなざしと、そして……彼女を優しく介抱する姿。涙がこぼれ、苦しくてもがくほど息が出来ず、ミシェルは手紙を握りしめたまま倒れてしまった。
ミシェルが床に倒れたときの衝撃音を聞いて部屋を覗いたメイドにミシェルは発見され、屋敷は大騒ぎとなった。
「父上、しばらくミシェルを別荘か別宅で療養させましょう。このままではミシェルがまいってしまう。レオンが追いかけてこられないところに連れていきたいのです」
フレデリクはミシェルが握っていた手紙を見て憤慨していた。
当然、この手紙を置いたメイドは即刻解雇となった。しかし、またいつどこでどういう手段でレオンがミシェルに近づいてくるかわからない。
「そうだな。少し考えるが、いつでも動けるように準備だけはしておいてくれ」
そういうジルベールにフレデリクは頷いた。
「ミシェル、大丈夫か?」
気が付いたミシェルのそばで見守っていたフレデリクはほっとしたように手を握った。
「……はい。心配をおかけしました」
「お前の体調が落ち着いたら叔父上のところへ行かないか?」
「叔父上?」
「ああ、ここから随分離れるが雑音が聞こえてこないし、あいつも追いかけてこれないところで療養させたい」
「あ、あの……療養に行くならシモン領へ行ってはいけませんか?」
ミシェルはおずおずといった。
「シモン領? どうして? うちとは何の縁もないが……何か思い出したのか?!」
「いえ、そういうわけでは……」
言葉を濁して黙ってしまったミシェルにフレデリクは優しく言った。
「わかった。シモン領へ行こうか。僕もついていくから」
「え? でもお兄さまはお仕事があるのに」
「お前より大事なことはないよ」
その言葉を聞くと、ミシェルは静かに泣き始めた。
「ごめんなさい、お兄さまごめんなさい」
「どうして謝る? 悪いのはあいつじゃないか。お前は何も心配しないでいいからな」
ミシェルはぶるぶると首を振ってしばらく泣き続けた。
ミシェルが少し落ち着いたのを見計らってフレデリクは街歩きに誘った。
「ミシェル。あれからずっと家にいるだろう? 少し外に出てみないか? お前が好きだった店にお茶に行こう。シモン領へ行くのに必要なものも買いたいしね」
それを聞いたミシェルは久しぶりに笑顔を見せた。
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