妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん

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オランジェ家

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 オランジェ子爵家はすぐに破産に陥ることはなかったが、ピタッと止まってしまった事業収入。
 だが妻のサルメと娘のキーラがつけで購入していたドレスや宝飾品の請求がどんどん届く。こんな生活を続けていればすぐに財産は枯渇してしまう。
 子爵は、手持ちの宝石やドレスを売り払えと言ったがサルメとキーラは泣いて渋った。
「うちにはもう、金はない。新しいドレスも宝石も二度と買うな。わかったな。」
「そんな!どうして急に!全部ノエルが悪いのですわ!あの底意地の悪い!」
「そうよ!お兄さまは自分だけお金を持って逃げたのだわ!信じられない!家族の事何も考えないなんて最低だわ!」
「最低なのはお前たちだ。いや……わしもか」
「何をいうのですか、あなた!」
「豊かな生活、ドレス、宝石が自由に買うことが出来たのは全部ノエルのおかげだった。それに感謝したことはあるか?」
「でもそれは!あなただって……」
「そうだ。私が悪い。仲間外れにし、酷い言葉を投げかけるお前たちを注意しなかった。逆の立場だったらお前はそんな相手の為に尽くすか?私は……自分の息子だというのになんて事を」
「今更自分だけいい子ぶらないでください!あなたがあの子に冷たいから私たちもそれでいいと思ってきたのですわ。とにかく、あの子を捜索するよう騎士団に訴えてください。あの子が持ち逃げした財産だって私の物なんだから!」
「お前のような品のないがめつい女にひっかからなければこんな事には……」
 オランジェ子爵はここのところのサルメのヒステリーに辟易しており、うっかりと本音が口について出てしまった。サルメがノエルを我が子のようにかわいがっていればこんなことにはならなかったのだと、責任転嫁していた。
 恥辱に顔を真っ赤にしたサルメはゴーチェの頬を思い切り叩いた。

 ゴーチェは反射的に叩き返した。
「……ひどいですわ。」
 怒りに震えたサルメは手近にあった花瓶を手に取るとゴーチェの頭を殴りつけた。
「きゃああ!」
 キーラは悲鳴を上げ、ゴーチェは床に崩れ落ち動かなくなってしまった。
 悲鳴を聞きつけた執事が部屋に飛びこんできた。
 そして床に倒れたゴーチェと粉々に割れた花瓶、呆然と立ち尽くしているサルメを見て呆然と立ち尽くした。
 執事は我に返ると、使用人に騎士と医者を呼んでくるように指示するとゴーチェの衣服を弛め始めた。
 キーラは恐ろしさに床に崩れ落ちた。
「お…とう様……」
 そして涙を流しながら、自分のしたことにショックを受けている母のサルメを見上げた。
「この人が……。私のせいじゃない……」
 サルメは違う違うというように首を振る。
「……お母様……」
 サルメは泣いているキーラに視線を向けたが、声をかけることなく身をひるがえして駆けだした。
 しかし逃げ切れず廊下で使用人たちに押さえつけられる。
「使用人ごときが触らないで!わたしは女主人なのよ!放しなさい!」
 そう叫ぶ声が届き、キーラは耳をふさいで泣いた。


 その知らせを内々に聞いたアレオン侯爵はオランジェ家との婚約を即刻破棄をした。
 トマスがノエルに未練があろうとも、アレオン家の家長としては醜聞にまみれ事業もすべて手放したオランジェ家との縁は必要ないどころか、迷惑でしかなかった。
 しかも当人であるノエル自身は行方不明、なんら気にかける必要がなくなったのだ。
「そんな……」
 トマスはなんでこんなことになったのだとやり切れない思いを抱えていた。
 事の発端は?
 ノエルの家族が彼を冷遇していたことだ。そして実業家として彼の才を惜しんだ子爵が婚約者の交換を思いついたこと。
 だがその引き金となったのは……自分の不誠実な言動だったのだ。
 ノエルは姿を消し、その生家であるオランジェ家自体も今後どうなるかわからない中、婚約破棄となってしまった。
 トマスは父親から次の婚約者を早く決めろとせっつかれながら、ノエルのことが忘れられず毎日苦悩と後悔に苛まれていた。

 そんな時、噂を聞いた。
 ある貴族がラクロワ国でノエルに似た人を見たと。
 トマスは、ノエルを探しに行きたいと父を説得した。
 父は渋ってはいたが、ノエルの才能自体は買っていた。
 あの才があればアレオン家はますます繁栄する。彼がオランジェ家と縁を切り、他の貴族の養子になれば婚姻を認めてもいいと許可を出した。

 トマスはラクロワ国に旅だった。 
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