妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん

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再会 2

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 ラクロワ国に向かう道中の馬車の中でも宿でもノエルはほとんど口を開かず、食事もほとんどとれなかった。
 アラン達が心配しているのはわかったがショックと混乱、そして彼らに対する拒否感と今後の不安で自分でもこの気分をどうすることもできなかった。
 そんな重苦しいままの旅が終わり、望まないままアランと二人で暮らしていたという家に到着する。
 
「ここがノエルの部屋だ。今日は色々疲れただろうからゆっくりと休めばいい。俺は下にいるから何かあったら声をかけて」
 ノエルは頭を下げてパタンとドアを閉めた。
 アランに対して申し訳ないことをしていると自覚していた。
 彼や義理の兄だというバルトサールがいう事が本当だとすれば——いや、本当に違いないのだろうけどここは自分の家で、アランとはお互いに愛し合っていてここで幸せに暮らしていたのだ。
 それをまるでアラン達に無理やり連れてこられたような態度をとっているのだから。
 しかし今の自分にはトマスとの大切な思い出しかなく、急に心を切り替えるのは無理だった。
 

 ノエルはソファーに座って見知らぬ自分の部屋を見渡した。
 アイボリーの壁に、青いバラが描かれた少しくすんだ青色のトリムボーダー。白いレースカーテンに、紫褐色のウォールナットの小ぶりの机と椅子。その机の上には濃い藍色のペン、そして小さな花瓶——どれを見ても好みのものだった。
 はっとして衣装入れの扉を開くとここにも好みの服がたくさん並んでいた。色、デザインどれを見ても好ましい。そして動きやすいシャツやパンツが丁寧に洗濯されてつられていた。他にも靴下や下着まできちんと洗濯されていたのだ。
 ——そう、洗濯されていたのである。

 ここがノエルの部屋だと案内されたトマスの屋敷はどこか落ち着かず違和感があった。ここにかえってきてその違和感に初めて気が付いた。
 あの部屋の調度品やカーテンなどはノエルの好みとは異なっていたし、服は下着に至るまですべて新品がそろえられていたのだ。何か落ち着かないと思っていたのはすべてが急ごしらえで作られた余所行きの部屋だったからだろう。
 比べてこの部屋に一歩入ったとたんに、確かにほっとしたのだ。
 すべてが自分の好みで、心地良さを感じる。
 トマスはとてもやさしかったがいつもどこか不安そうで必死な様子だった。それは婚約者が記憶を失った悲しみと心配からだと思っていたが、そうではなかった。
 トマスが言っていたことは真実ではなかったのだと理解してしまった。

 ノエルは流れ落ちる涙をグイっと拭うと部屋を出て下に降りた。
 アランはすぐさま、立ちあがって傍に来てくれた。
「どうした? 眠れないのなら何か入れようか?」
「いえ。アラン様、とっても失礼な態度をとってしまって申しわけありませんでした。あなたにもオハナ様にも謝罪をしないと……僕を助けに来てくれたのに僕は何もわかっていなかった。本当に申し訳ありませんでした」
「ノエル。謝る必要はどこにもない。記憶がない以上、そう説明されたら信じるしかないだろう」
「……。僕が何もわからなくてパニックになった時に、トマス様が自分は婚約者だから何も心配しなくていいと言ってくれたんです。それで本当に大切にしてくれて……」
 ノエルの目から再び涙がこぼれる。
「ああ」
 アランはノエルの話を相槌を打ちながら聞いてくれた。
「トマス様に誘拐されたと聞いても信じられなかった。こっちに連れてこられた時も何かの陰謀でトマス様がはめられたのかもしれないって……でも、違った。この家の部屋は僕を迎えてくれたんです。帰りを待っててくれたみたいに優しく包んでくれた。あちらの屋敷の部屋はどこか落ち着かなくて……今思えば他人の部屋を間借りしているような感じだった。本当に僕はこちらで暮らしていたんだと……理解出来ました。本当にごめんなさい」
 頭を深く下げるノエルをアランはギュッと抱きしめた。
「……お帰り、ノエル。やっと君を抱きしめることができた」
「ちょっ……お、おさわりは記憶が戻るまで駄目です!」
 ノエルは腕で押し返すと、アランは不承不承ノエルを開放した。
「だからと言ってまだ急に心を切り替えることはできそうにありません。僕とアランさんとの出会いや、ここでどんな暮らしをしていたのか、オハナ様のことなど全部教えてください。時間はかかると思いますけど、少しづつ……慣れていきたいと思います」
 トマスは、無理をして思い出さなくてもいいと全然教えてくれなかった。それも事情を知ると納得だった。
「ああ、もちろん」
 アランの顔にもようやく笑顔が浮かび、長い話になるからとお茶の用意をしてくれた。


 そしてアランはノエルとギルドで顔合わせした日のことから話し始めたのだった。
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