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ベルモン公爵夫人
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「許せない、許せないわ!」
軟禁された部屋の中で花瓶を割り、手当たり次第にものを投げつけているのはアランの義母の公爵夫人だった。
「あんなあばずれの子供をどうしてあの人は!」
公爵がアランに見せる態度も許せなければ、アランからの侮辱も許せない。さらにたかが平民である(と思っている)エルが公爵夫人である自分に意見し辱めたことなど許せるはずもなかった。
しかも数週間ほどで迎えが来ると思っていたのに何の音さたもない。まさか本気で一生ここに幽閉する気なのかと思うと怒りで自分を抑えられなかった。
「下賤の分際で……二人ともこのままでは済まさないわ」
軟禁と言っても公爵自身の不貞が招いたことの負い目から、比較的自由であり、生活資金も十分与えられていた。
侍女や護衛など慣れ親しんだ者たちを連れて、少し田舎の屋敷で過ごすだけ。王都での贅沢で華やかな生活から少し離れただけの快適な生活を与えられていた。
しかし憎しみにとらわれていた公爵夫人は、この仕打ちを恨み、アラン達にどん底の気分を味わせたいと復讐の念に駆られていた。
アランを痛めつけるよりノエルを傷つけた方がアランは苦しむはず。公爵夫人は、闇業者にアランの可愛がっているノエルを売り飛ばすよう依頼したのだった。
<闇業者>
公爵夫人からの破格の価格での依頼を受け、男は対象者であるノエルを監視していた。
外出時は常にアランが一緒におり、家の前にはオハナ侯爵家が設置した警備室があるため全く隙がなかった。
「過保護なこった」
毎日、様子を窺い、警備にあたる騎士の巡回時間や頻度を把握していた男は夜にノエルの家に近づいた。今日はまだアランが帰宅していないのは確認済みだ。
死角になる裏の壁を乗り越えて侵入する。
明かりがついている部屋を確認し、別の明かりのない暗い部屋の窓を割る。
そろそろと窓を開けて忍び込みに成功した男は廊下の様子を窺うためにドアを少し開いた。
「?!」
すきま程度しか開けないつもりだったドアは外から引っ張られて全開になり、男は勢いにつられて廊下に飛び出してしまった。
そこには二人の騎士とアランが立っていた。
「な!」
男はアランに胸ぐらをつかまれるとドンっと壁に押し付けられた。
「ノエルに何をするつもりだった?」
「……」
男はふいっと視線を逸らす。
「特別室へ招待してやる」
アランがそう言うと、騎士二人が男を連れ出そうとする。
「放せ! 触るな!」
騎士に腕を掴まれて男は逃げようと暴れるが、強い力で拘束されており全く隙が無かった。
「心配するな。お前が話しやすい環境を整えてやるだけだ」
拷問されると察した男は青ざめた。
「ま、待て!待ってくれ!」
男はすぐに観念した。
元より金で雇われただけだ。口止め料込とはいえ公爵夫人に義理立てすることはない。
「こ、公爵夫人だ! ベルモン公爵夫人に頼まれたんだ!」
「……そうか」
アランの顔は怒りのあまり表情が消えた。
素直に白状した男だったが、結局オハナ侯爵家の地下室に連れてこられた。
そこで当主のジスランに尋問され、洗いざらい話した。座らされた場所から牢が見え、その中は鎖や鞭が見え、その床は黒ずんでいる。
男は冷や汗をかきながら依頼内容をすべてを話した。
男はノエルを異国に連れていき、娼館へと売り飛ばすように言われていた。依頼料とは別にその人身売買で得た金ももらえる約束となっていた。そしてノエルが何人もの客を取ったあとでアランにノエルの居場所を伝える手紙を出すところまでが依頼だったという。
アランはもちろんそれを聞いたジスランとバルトサールは怒り心頭であったが、自白したこともあり男を司法の手にゆだねることにした。
ただ、我慢できなかったアランは男の腹へと一発撃ちこんだ。男はその衝撃に意識を失ったが、それで済んだことを感謝すべきであった。
もしここにパスカルがいれば、この男の命はなかっただろうから。
軟禁された部屋の中で花瓶を割り、手当たり次第にものを投げつけているのはアランの義母の公爵夫人だった。
「あんなあばずれの子供をどうしてあの人は!」
公爵がアランに見せる態度も許せなければ、アランからの侮辱も許せない。さらにたかが平民である(と思っている)エルが公爵夫人である自分に意見し辱めたことなど許せるはずもなかった。
しかも数週間ほどで迎えが来ると思っていたのに何の音さたもない。まさか本気で一生ここに幽閉する気なのかと思うと怒りで自分を抑えられなかった。
「下賤の分際で……二人ともこのままでは済まさないわ」
軟禁と言っても公爵自身の不貞が招いたことの負い目から、比較的自由であり、生活資金も十分与えられていた。
侍女や護衛など慣れ親しんだ者たちを連れて、少し田舎の屋敷で過ごすだけ。王都での贅沢で華やかな生活から少し離れただけの快適な生活を与えられていた。
しかし憎しみにとらわれていた公爵夫人は、この仕打ちを恨み、アラン達にどん底の気分を味わせたいと復讐の念に駆られていた。
アランを痛めつけるよりノエルを傷つけた方がアランは苦しむはず。公爵夫人は、闇業者にアランの可愛がっているノエルを売り飛ばすよう依頼したのだった。
<闇業者>
公爵夫人からの破格の価格での依頼を受け、男は対象者であるノエルを監視していた。
外出時は常にアランが一緒におり、家の前にはオハナ侯爵家が設置した警備室があるため全く隙がなかった。
「過保護なこった」
毎日、様子を窺い、警備にあたる騎士の巡回時間や頻度を把握していた男は夜にノエルの家に近づいた。今日はまだアランが帰宅していないのは確認済みだ。
死角になる裏の壁を乗り越えて侵入する。
明かりがついている部屋を確認し、別の明かりのない暗い部屋の窓を割る。
そろそろと窓を開けて忍び込みに成功した男は廊下の様子を窺うためにドアを少し開いた。
「?!」
すきま程度しか開けないつもりだったドアは外から引っ張られて全開になり、男は勢いにつられて廊下に飛び出してしまった。
そこには二人の騎士とアランが立っていた。
「な!」
男はアランに胸ぐらをつかまれるとドンっと壁に押し付けられた。
「ノエルに何をするつもりだった?」
「……」
男はふいっと視線を逸らす。
「特別室へ招待してやる」
アランがそう言うと、騎士二人が男を連れ出そうとする。
「放せ! 触るな!」
騎士に腕を掴まれて男は逃げようと暴れるが、強い力で拘束されており全く隙が無かった。
「心配するな。お前が話しやすい環境を整えてやるだけだ」
拷問されると察した男は青ざめた。
「ま、待て!待ってくれ!」
男はすぐに観念した。
元より金で雇われただけだ。口止め料込とはいえ公爵夫人に義理立てすることはない。
「こ、公爵夫人だ! ベルモン公爵夫人に頼まれたんだ!」
「……そうか」
アランの顔は怒りのあまり表情が消えた。
素直に白状した男だったが、結局オハナ侯爵家の地下室に連れてこられた。
そこで当主のジスランに尋問され、洗いざらい話した。座らされた場所から牢が見え、その中は鎖や鞭が見え、その床は黒ずんでいる。
男は冷や汗をかきながら依頼内容をすべてを話した。
男はノエルを異国に連れていき、娼館へと売り飛ばすように言われていた。依頼料とは別にその人身売買で得た金ももらえる約束となっていた。そしてノエルが何人もの客を取ったあとでアランにノエルの居場所を伝える手紙を出すところまでが依頼だったという。
アランはもちろんそれを聞いたジスランとバルトサールは怒り心頭であったが、自白したこともあり男を司法の手にゆだねることにした。
ただ、我慢できなかったアランは男の腹へと一発撃ちこんだ。男はその衝撃に意識を失ったが、それで済んだことを感謝すべきであった。
もしここにパスカルがいれば、この男の命はなかっただろうから。
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