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護衛アル1
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どの世界にも神を信じない者は存在する。この世界も例外ではなかったが、信者の数が多すぎるために彼らは表に出る事を望まなかった。そしてそういった者達によって、古来より魔法創造の研究はされてきたのだ。
そしてそんな彼等の中では、魔法で人間を作り出す事は禁忌とされていた。それは倫理に反するというのが主な理由であったが、もうひとつの理由として、「不可能だから」が挙げられた。
ヒトは何から造られているのか、各臓器はどの様に働くのか。それらの知識なくしては、人間を作り出すことなど不可能だった。治癒師頼みのこの世界には医学というものは存在しない。ヒトの身体を一から再現できる者は、この世界にはいなかった。
そもそも人体を作り上げるのに必要な魔力が膨大だった。存在しない者に生命を植え付ける行為は、最早神の領域。起こす現象が非現実的な程、必要とされる魔力は大きくなる。
これらの理由から、人体錬成は不可能であると結論付けられた。しかし魔導師のプライドというものは存外高く、彼等はで「できない」のではなく「やってはいけない」のだと主張したのだ。
この世界の人間では到底実行不可能なその魔法だったが、人体の構造を嫌というほど学び、更には神により無尽蔵の魔力を授けられた香織には、造作もない事だった。
ーーーーーーーー
金色に輝いていた魔力の光が徐々に弱くなっていく。それが完全に治った頃には、香織の目の前には一人の男の姿があった。
「わーい完成…って男!?」
『はい。上出来ですね。』
「え、うん、上手くは出来てるけど…え?アイって男の人だったの?」
『私はAIなので明確な性別というものは存在しません。目的が護衛ですから、男性体の方が適していると判断しました。』
「あー成る程…でもアイはそれで良いの?ずっと私の身体使ってきて、今更男性体なんて違和感あるんじゃない?」
『問題ありません。女性体になることも可能ですし。』
「あ、そう…」
アイの説明にひとまずは納得し、香織は目の前で目を瞑ったまま立っている男をしげしげと観察した。黒い髪に、日に焼けた肌、均衡の取れた身体。目鼻立ちはかなり整っている。
(そう言えば平均的な顔って結局は粗が一つもなくなって整って見えるんだっけ…)
「イケメン過ぎて目立たないかなあ。」
『マスターの隣に立つのですからこれくらいの顔でないと相応しくありませんよ。』
「あはは…で、アイはどうやってこの中に入るの?」
『中に入ると言うより、外から操ると言うのが正しいかと。『マリオネット』の魔法で、その身体を動かします。』
「マリオネット?」
『私が作った魔法ですね。魔力衛星から魔力の糸を垂らし、マリオネットの人形劇のように人を操ることが出来ます。』
「なんかえげつない…というかアイも魔法作れるの?」
『私は貴方が生み出したAIサポーターであり、また貴方自身でもありますから。』
「そういうものなのか…」
『そういうものなのです。それでは動かします。』
アイが『マリオネット』を発動させると、目の前の男がゆっくりと目を開けた。
「ア、アイ?」
「はい。動作も問題ありませんね。心臓も動いていますし、各臓器も正常に作動しているようです。」
「わあ~すごい。声も男の人だ。」
「流石にこの姿で女性の声は気味が悪いですよ。」
そう言うと、男は片側の口角だけを上げて見せた。エドワードが良くやる、悪戯っぽい笑みだった。
「すごい!表情も人間味があるね。」
「人間ですから。」
「わあ~すごいな…でも男の人の姿だと、アイって呼びにくいかも…」
「でしたらこの身体に新しい名前を付けては如何ですか?」
「うーん…じゃあね…アル!貴方の名前はアルだよ、よろしくね。」
「よろしくお願いします、マスター。」
「あ、マスターはなしだよ。敬語もなし!皆にどんな関係か怪しまれちゃう。香織って呼んで!」
「分かった。カオリ、これからよろしく。」
「うん、よろしく、アル。」
ーーーーーーーー
翌朝になっても、ナナが目覚める事はなかった。
「大丈夫なのかなあ…ご飯も食べてないし。オリバー君の時みたいな熱はないみたいだけど…」
『ただ眠っているだけのようですね。もう少し様子をみましょうか。』
「そうだね。それよりアルの準備は大丈夫?」
『問題ありません。護衛らしく見せるために防具と武器を購入しましたがよろしかったでしょうか。』
「勿論!えっと、確認だけど、私とアルは同じ村の出身で幼馴染、一人旅に出た私を心配して後を追ってきたって事で良いんだよね?」
『はい。その通りです。』
「昨日の夜は大丈夫だった?」
『問題ありませんでした。一人で夜の街にいても、腕の立ちそうな男であれば特に絡まれる事もありませんから。』
「じゃあやっぱり男の人にして正解だったね。」
『はい。アルがここを訪ねるのは午後でよろしいですか?』
「うん。サイモンさんと、あとアレクシスさん達にも会わせたいから、夕方くらいの方がいいかも。」
『分かりました。それではそれまで時間を潰して参ります。』
「ごめんね、よろしく!」
アイとの作戦会議を終え、ナナを残して一階に降りる。共同リビングにはアレクシス達『夜明けの星』がいた。
「おはようございます。」
「おはよう。」
「はよ。」
「皆さんもう朝食は食べました?」
「いや、まだだ。」
「なら今から作りますね。」
「悪いな。」
キッチンで簡単な朝食を作り、ダイニングに並べていく。食事を終えた後は、自然とナナの話題になった。
「ナナの調子はどうだ?」
「昨日からずっと眠っています。」
「余程ショックだったのか…」
「そうでしょうね…まだ子供ですし…」
「ナナってフローラが屋敷から連れ出した奴だろ?お前の村まで送り届けるって本気なのか?」
「はい、一応そのつもりです。昨日の時点でナナちゃんに意見を聞こうかと思ってたんですけど、予想以上にショックが大きかったみたいなので、まだ聞けてないんです。だからまだ予定の段階ですけど。」
「二人で旅って…危ないんじゃないか?」
「でも元々は一人旅でしたし…なんとかなると思います。サイモンさんが馬車を手配してくれると言うので、それに甘えようかと。」
「護衛を雇った方が良いんじゃないか?」
「だな。アレクは商会の護衛があるからついていけねえし。ギルドで探してみたらどうだ?」
「そうですね…」
「まあ、知らない奴と旅をするのが不安なのもわかるけどよ、きちんと信頼のおける奴かどうかは俺達が見極めてやるからさ。悪い事は言わねえから子供の二人旅はやめとけって。すぐ拐われるぞ。」
「はい…それも考えてみます。」
そしてそんな彼等の中では、魔法で人間を作り出す事は禁忌とされていた。それは倫理に反するというのが主な理由であったが、もうひとつの理由として、「不可能だから」が挙げられた。
ヒトは何から造られているのか、各臓器はどの様に働くのか。それらの知識なくしては、人間を作り出すことなど不可能だった。治癒師頼みのこの世界には医学というものは存在しない。ヒトの身体を一から再現できる者は、この世界にはいなかった。
そもそも人体を作り上げるのに必要な魔力が膨大だった。存在しない者に生命を植え付ける行為は、最早神の領域。起こす現象が非現実的な程、必要とされる魔力は大きくなる。
これらの理由から、人体錬成は不可能であると結論付けられた。しかし魔導師のプライドというものは存外高く、彼等はで「できない」のではなく「やってはいけない」のだと主張したのだ。
この世界の人間では到底実行不可能なその魔法だったが、人体の構造を嫌というほど学び、更には神により無尽蔵の魔力を授けられた香織には、造作もない事だった。
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金色に輝いていた魔力の光が徐々に弱くなっていく。それが完全に治った頃には、香織の目の前には一人の男の姿があった。
「わーい完成…って男!?」
『はい。上出来ですね。』
「え、うん、上手くは出来てるけど…え?アイって男の人だったの?」
『私はAIなので明確な性別というものは存在しません。目的が護衛ですから、男性体の方が適していると判断しました。』
「あー成る程…でもアイはそれで良いの?ずっと私の身体使ってきて、今更男性体なんて違和感あるんじゃない?」
『問題ありません。女性体になることも可能ですし。』
「あ、そう…」
アイの説明にひとまずは納得し、香織は目の前で目を瞑ったまま立っている男をしげしげと観察した。黒い髪に、日に焼けた肌、均衡の取れた身体。目鼻立ちはかなり整っている。
(そう言えば平均的な顔って結局は粗が一つもなくなって整って見えるんだっけ…)
「イケメン過ぎて目立たないかなあ。」
『マスターの隣に立つのですからこれくらいの顔でないと相応しくありませんよ。』
「あはは…で、アイはどうやってこの中に入るの?」
『中に入ると言うより、外から操ると言うのが正しいかと。『マリオネット』の魔法で、その身体を動かします。』
「マリオネット?」
『私が作った魔法ですね。魔力衛星から魔力の糸を垂らし、マリオネットの人形劇のように人を操ることが出来ます。』
「なんかえげつない…というかアイも魔法作れるの?」
『私は貴方が生み出したAIサポーターであり、また貴方自身でもありますから。』
「そういうものなのか…」
『そういうものなのです。それでは動かします。』
アイが『マリオネット』を発動させると、目の前の男がゆっくりと目を開けた。
「ア、アイ?」
「はい。動作も問題ありませんね。心臓も動いていますし、各臓器も正常に作動しているようです。」
「わあ~すごい。声も男の人だ。」
「流石にこの姿で女性の声は気味が悪いですよ。」
そう言うと、男は片側の口角だけを上げて見せた。エドワードが良くやる、悪戯っぽい笑みだった。
「すごい!表情も人間味があるね。」
「人間ですから。」
「わあ~すごいな…でも男の人の姿だと、アイって呼びにくいかも…」
「でしたらこの身体に新しい名前を付けては如何ですか?」
「うーん…じゃあね…アル!貴方の名前はアルだよ、よろしくね。」
「よろしくお願いします、マスター。」
「あ、マスターはなしだよ。敬語もなし!皆にどんな関係か怪しまれちゃう。香織って呼んで!」
「分かった。カオリ、これからよろしく。」
「うん、よろしく、アル。」
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翌朝になっても、ナナが目覚める事はなかった。
「大丈夫なのかなあ…ご飯も食べてないし。オリバー君の時みたいな熱はないみたいだけど…」
『ただ眠っているだけのようですね。もう少し様子をみましょうか。』
「そうだね。それよりアルの準備は大丈夫?」
『問題ありません。護衛らしく見せるために防具と武器を購入しましたがよろしかったでしょうか。』
「勿論!えっと、確認だけど、私とアルは同じ村の出身で幼馴染、一人旅に出た私を心配して後を追ってきたって事で良いんだよね?」
『はい。その通りです。』
「昨日の夜は大丈夫だった?」
『問題ありませんでした。一人で夜の街にいても、腕の立ちそうな男であれば特に絡まれる事もありませんから。』
「じゃあやっぱり男の人にして正解だったね。」
『はい。アルがここを訪ねるのは午後でよろしいですか?』
「うん。サイモンさんと、あとアレクシスさん達にも会わせたいから、夕方くらいの方がいいかも。」
『分かりました。それではそれまで時間を潰して参ります。』
「ごめんね、よろしく!」
アイとの作戦会議を終え、ナナを残して一階に降りる。共同リビングにはアレクシス達『夜明けの星』がいた。
「おはようございます。」
「おはよう。」
「はよ。」
「皆さんもう朝食は食べました?」
「いや、まだだ。」
「なら今から作りますね。」
「悪いな。」
キッチンで簡単な朝食を作り、ダイニングに並べていく。食事を終えた後は、自然とナナの話題になった。
「ナナの調子はどうだ?」
「昨日からずっと眠っています。」
「余程ショックだったのか…」
「そうでしょうね…まだ子供ですし…」
「ナナってフローラが屋敷から連れ出した奴だろ?お前の村まで送り届けるって本気なのか?」
「はい、一応そのつもりです。昨日の時点でナナちゃんに意見を聞こうかと思ってたんですけど、予想以上にショックが大きかったみたいなので、まだ聞けてないんです。だからまだ予定の段階ですけど。」
「二人で旅って…危ないんじゃないか?」
「でも元々は一人旅でしたし…なんとかなると思います。サイモンさんが馬車を手配してくれると言うので、それに甘えようかと。」
「護衛を雇った方が良いんじゃないか?」
「だな。アレクは商会の護衛があるからついていけねえし。ギルドで探してみたらどうだ?」
「そうですね…」
「まあ、知らない奴と旅をするのが不安なのもわかるけどよ、きちんと信頼のおける奴かどうかは俺達が見極めてやるからさ。悪い事は言わねえから子供の二人旅はやめとけって。すぐ拐われるぞ。」
「はい…それも考えてみます。」
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