世界一の治癒師目指して頑張ります!

睦月

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護衛アル2

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「そういえば、武器を見に行く約束だったな。」

朝食後、依頼を受けに行くというエドワードとジェイスを見送り、残った者達はリビングに移動した。ソファでお互いの予定を確認し合っていると、カイルがふと思い出したように呟いた。

「そうでしたね。カイルさんの時間のある時で良いですよ。」
「今日は休息日だから暇なんだ。この後はどうだ?」
「問題ありません。あ、でもナナちゃんが…」

香織は天井を見上げて言った。起きる気配すらないナナだったが、もう20時間近く眠っている。いつ起きてもおかしくはない。起きた時に、誰かが付き添っていたほうがいいのではないかと香織は思った。

「それなら俺がここに残ろう。フローラはこっちにきてからずっと気を張っていただろう。少し気分転換にいけば良い。」
「あ、ありがとうございます、でも…」

香織はアレクシスの顔を改めて眺めた。元の世界でこの顔と出会ったら、アッチの筋の人だ、と近寄りもしなかっただろう。それ程に強面。無表情が怒って見えるタイプの顔だった。伯爵に虐待されていたナナが見たらますます怯えてしまうのではないかと香織は心配になった。アレクシスはその視線だけで、香織が何を言わんとしているのかを悟り、ガクッと肩を落とした。

「ああ…俺がいたら逆に怖がらせるか…」
「い、いえ、そんな…はい…」
「…じゃあこれはどうだ。俺は隣室で待機。フローラの部屋で物音がしたら、連絡石で知らせる。」
「それなら顔を合わせないし良いんじゃないか?連絡石が割れたらすぐに戻ってくれば良い。」
「アレクシスさんがそれで良いのなら是非お願いします。」
「任せておけ。俺は耳は良いんだ。」
「顔は極悪だけどな。」
「うるさいぞ。」

(アルが訪ねるのは夕方だし…それまで少し遊びに行っても良いよね。)
『私の方でもナナを監視しておきますので安心してください。』
(ありがとう!)

「じゃあ行くか。」
「はい!」

香織とカイルは並んで寮を後にした。大通りには食料品店や雑貨屋が多く立ち並んでいたが、冒険者ギルドに近づくにつれ武器屋や防具屋、薬屋が増えていった。店の外に並べられた武器を軽く物色しながら、カイルが口を開いた。

「ボウガンと一言で言っても、両手で抱えるようなデカいやつから、片手に装着するような小さいやつまで、大きさは色々あるんだ。フローラはどんなものが良いとか、何か希望はあるか?」
「そうですね…サブ武器ですし、あまり邪魔になってもいけないので小さいほうが良いですかね。あと持ち運ぶのなら軽い方が良いです。」
「そうだな。小さくて軽いのだと、男の冒険者にはあまり需要がないからな…普通の武器屋には置いてないかもしれない。」
「そうなんですか…」
「アーチャーショップに行こう。あそこは弓の専門店だから何かしらあるだろう。」
「そんなお店もあるんですね。」
「そんなマニアックな店、普通はないぞ。何年か前に偶々この街で見つけたんだ。俺の弓も何回か手入れを頼んだんだが、腕も良い。」
「そうなんですか、楽しみです。」

カイルは大通りから路地裏に入った。大通りから一本ずれるだけで、街の様子は様変わりする。店が立ち並び華やかだった大通りと違い、その路地は人通りがほぼなく、民家の裏口があるだけだった。道の端に置かれたゴミ箱のすぐ側に、貧しそうな男がしゃがみ込んでいる。

「今回は俺がいるからいいが、一人では通らないようにな。」
「は、はい。」
「店に行きたくなったらまた俺に言ってくれ。連れてきてやるから。」
「ありがとうございます。」

薄暗い路地をしばらく進み、カイルは一軒の民家の裏口の前で足を止めた。

「ついたぞ。」
「え!?こ、ここですか?」
「見ろ。ここに小さく「アーチャーショップ」と書いてある。」

カイルが指を差した方を見れば、確かにドアの片隅に小さな文字でそう書かれている。

「こ、こんなお店よく見つけられましたね…」
「俺は弓使いだからな。恐らく、弓使いにしか見つけられないよう敢えてこうしてるんじゃないか。」
「そうなんですか…なんか凄いです。」

「その通りだ。些細な異常も見逃さない。それが斥候を兼ねる弓使いの役割だ。これくらい見つけられなければ、仲間を死から遠ざける事もできない。」

香織達の会話に突然割り込んできたのは、一人の小柄な男だった。その男は、内側からドアを開け香織達を招き入れた。

「おや、お前さんは…久しぶりだな。」
「俺の顔を覚えてるのか。」
「ああ勿論だとも。噂も知らないのに自力でこの店を見つけた数少ない客だ。そのお嬢さんは失格だが、お前さんの紹介なら仕方がない。」
「感謝する。」
「うう、すみません…ありがとうございます。」

香織達は男の招きに応じて店に入った。壁には色々な種類の弓がかけられている。人間用の和弓、獣人用のアーチェリー。どれも装飾は最小限で、実用性を重視しているのが分かる。キョロキョロと物珍しそうに店内を見回している香織に代わり、カイルが口を開いた。

「俺の弓の整備と、この子に小型のボウガンを。」
「弓はここに置いてくれ。ふむ、ボウガンか…お嬢さん、ちょっとこっちに。」
「は、はい。」

男に呼ばれ、香織はカウンターの前に移動した。齢は60位だろうか。白髪混じりの灰色の髪に、顎には同色の無精髭を生やしている。小柄と言っても、身長は香織より随分と高い。しかし細身のその体型が、男から威圧感を削いでいた。

「手を。」
「はい。」

男は差し出された香織の手をじっくりと観察する。マメひとつない、綺麗な手だ。武器による戦闘経験以前に、労働経験も殆どないことが分かる。どこかの令嬢か、余程過保護に育てられたか。いずれにしろ、目の前の少女に戦闘の必要性は感じられなかった。

「ボウガンが欲しいらしいが、何故武器を欲しがる。」
「えっと…」
「遊びで始めるつもりなら、売れるものは何もない。」
「あ、遊びじゃありません。旅をするのに、武器が必要なんです。」
「そこの男に守ってもらえばいい。弱い者が下手に武器を持ってもろくな事にならん。」
「別行動をとるんです。身を守るために使うつもりです。遊びとか、余計な殺生に使うつもりはありません。なんなら使う機会なんて一回もなければいいとさえ思っています。」

香織は自身に対して好感を抱いていなさそうな目の前の男に物怖じすることなく、真っ直ぐに見つめ返した。
元々コミュニケーションが苦手な香織だったが、この世界に来て、相手の目を見る重要性を実感していた。アイコンタクトは相手に信用してもらう一番簡単な方法だった。
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