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抱き枕になります1

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難しい話をしていたらだんだん眠くなってきた。子供の身体って本当にすぐ眠くなる。散歩したから疲れちゃったのかな。ほんの少ししか歩いてないけど、引きずられたりしたし。
私が眠そうにしているのをミーアは見逃さなかった。魔王の寝室に入る許可は得ていないということで、ミーアの提案によりこのフカフカのソファでしばらくお昼寝をすることにした。ミーアが持ってきてくれた良い感じのクッションを枕に、目を閉じる。フワリと暖かい毛布が身体に掛けられるのを感じながら、私はあっという間に眠りについた。



「んん…」

目が覚めると、部屋の中は窓から覗く夕日に染まっていた。もう夕方か。一体どれくらい寝たんだろう?ミーアの姿を探すと、向かいのソファでチクチクと刺繍をしていた。ミーアは私が起きたことに気がつくと、手を止めてにこりと笑った。

「お目覚めですか。」
「うん…私どれくらい寝てたのかな…」
「そうですね、お昼頃から寝ていらしたので、4時間程でしょうか。」
「結構寝ちゃった…」
「昼の食事を取る前に寝てしまいましたけど、お腹は空いていませんか?」
「ちょっと空いてるかも。」
「では軽食を用意してまいります。何か食べたいものはありますか?」
「うーん…お菓子!」
「ふふ、かしこまりました。少しお待ちくださいね。」

マカロン、タルト、ショートケーキ。様々なスイーツがテーブルに並んだ。どうやらお菓子のレベルも高いらしい。よかった、お菓子革命もしなくていいみたいだ。といっても私はクッキーくらいしか作れないけど。

お菓子を食べながら、またミーアにこの世界について教えてもらう。
大魔王国は何万年も続く国家で、現魔王は十代目。先代が百年前に全ての人間国家を従属させた後に就任した、新人魔王らしい。

「一方的ではありましたが、戦争の末、魔族は全ての人間を従わせました。当時は人間達も喜んでいましたよ。なんせ高い税収で苦しめられることも、貴族の横暴で処刑されることも、拐われ奴隷として売られることもなくなったのですから。もちろん始めは圧倒的力を持った我々を恐れてはいましたが、我々が彼らに害をなさないことを知ると、感謝すらされました。」
「そうだろうね。偉い人は嫌がりそうだけど。」
「その通りです。国の上層部は反逆を企てる者達で溢れていましたので、我々の邪魔をするものは全て排除し、従順な者を上に配置しました。それにより統治はうまく行っていたのです。しかし…」
「しかし?」
「人間というのは寿命が短い。百年も経てば、当時の事を知る者もいなくなります。現在彼らは我々が与えた環境でのうのうと暮らしながらも、魔族のせいで自由が奪われたなどとのたまっています。魔族の支配から逃れ、再び人間だけで生きていくのだそうですよ。実に愚かな事です。」
「魔族の元にいた方が絶対にいいのに。」
「そうなのです。流石は魔王のペット様。このように物分かりの良い人間などこの大陸には殆ど存在しません。」
「えへへ…」

自立するより飼われた方が楽に決まっている。それでも脱走を企てる猫のように、外の自由に憧れる者もいるのだろう。私は絶対にそんなことしないけど。

「そういえば魔族は何を食べるの?ミーアもお菓子食べる?」
「我々魔族は食事を必要としません。空気中の魔素を取り込むことで生命を維持しています。」
「えっご飯いらないの?」
「嗜好品として楽しむ者は多いですよ。私も甘いものは好きです。」
「じゃあ一緒に食べよう?たくさん残すのはもったいないし。」
「ふふ、ありがとうございます。」

なるほど、魔族にとって食事は嗜好品。だからみんな美味しいんだ。生きるために食べるだけなら多少不味くても我慢するかもしれないけど、食べなくても生きていけるんなら、美味しいものだけを食べたいと思うはずだ。

ミーアと共にお菓子を食べ、その後は抱っこしてもらっておっぱいに顔を埋める。変態じゃないよ。私は愛情に飢えてるんだ。孤独に疲弊していた私の心には、癒しが必要なのだ。


「何をしている。」

外が暗くなった頃、魔王が戻ってきた。魔王はミーアに甘える私を見ると不機嫌そうな顔になった。私はミーアから離れて魔王の元に駆け寄った。

「おかえりなさい。」
「うむ。」

魔王は私を抱き上げ、満足そうに頷いた。

「魔王様がいらっしゃらなかったので寂しそうに
しておられました。」
「そうか。」

ナイスフォロー、ミーア。私は魔王の首に抱きついた。

「夜の餌は食べたのか。」
「まだです。でも夕方ごろにおやつを食べたのでお腹は空いていません。」
「そうか。」

一通り甘えた私に満足したのか、魔王は私をソファに下ろした。

「俺は風呂に入る。」
「はい。」

魔王が指をパチンと鳴らすと、扉からゾロゾロとメイドがやってきた。メイドを引き連れ洗面所に消えていく魔王。そういえば私もお風呂に入ってなかった。

「ミーア。」
「なんでしょう。」
「私もお風呂に入りたいな。」
「まあ、リナ様はお風呂がお好きですか?」
「うん。」
「それは素晴らしいですね。ペットというのはお風呂が嫌いだとよく聞きます。たまのお風呂も嫌がって逃げ出すのだとか。」

それって猫のことだよね。猫と同じ扱いなら私は年に数回しかお風呂に入れてもらえないってことだ。日本人の私は毎日だって入りたい。

「私お風呂大好き。毎日入りたいよ。」
「まあ!では少々お待ちください。魔王様に
聞いてまいります。」

そう言って洗面所に消えたミーアは、しばらくして戻ってきた。

「魔王様から許可をいただきました。隣の王妃様用の部屋を使って良いとのことでしたので、移動しましょう。」
「うん。」

私はソファから飛び降りた。

「自分で歩いていい?」
「もちろんでございます。」

少しは歩かないとね。ずっと甘えていたらそのうち歩けなくなりそう。
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