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抱き枕になります2

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ノロノロと移動する私の後ろを辛抱強く付いてきてくれるミーア。これが魔王だったらとっくに抱きかかえられてる。

「こちらですよ、リナ様。」

ミーアに道を教えてもらいながら王妃用の部屋に入り、洗面所に向かう。

「ふわあ…おっきい…」
「溺れないように、お湯は浅く入れましょうね。」

大理石のような床の上には猫足のバスタブ。その隣には豪華な椅子。多分ここで体を洗うのかな。壁にはシャワーが付いている。ホテルのスイートルームのお風呂場って感じだ。泊まった事はないけど。
ミーアが蛇口をひねり、バスタブにお湯を張る。

「さあ、お召し物を脱ぎましょう。」

そう言って手慣れた手つきで私のゴスロリ服を脱がしていく。スッポンポンのまま手を引かれ、椅子に座る。ミーアは袖とスカートを少しまくり、私の隣にしゃがみ込んだ。

「それでは洗っていきますね。」

良い香りの石鹸で全身優しく洗われる。シャワーで泡を落とした頃には、バスタブのお湯も丁度いい深さになっていた。

「さあ、お湯に入って体を温めましょう。」

ミーアに抱っこでバスタブの中に入れてもらう。

「はああ~、気持ち良い…」
「それはようございました。肩まで浸かってくださいね。」
「うん。」

ミーアが薔薇の花弁をお湯に浮かべてくれた。貴族の女性はこうやって身体にいい香りを染み込ませるんだとか。動物扱いの人間にこんなによくしてくれるなんてミーアは本当に良い魔族だ。

「ミーアありがとう。優しくて大好き。」
「まあ!ありがとうございます。光栄です。」

しばらくチャプチャプ遊んでいると、突然洗面所の扉がバンと開いた。私はびっくりしてちょっと溺れかけた。

「ゲホ、ゲホ!」
「リナ様、大丈夫ですか!?」
「溺れているではないか。もう出せ。」
「かしこまりました。」

バスタオルに包まれて、ミーアの腕の中でしばらく咳き込む。ミーアは優しく背中をさすってくれた。服ビシャビシャにしてごめん。

「やはり風呂には入らなくて良い。危険だ。」

お前のせいだろ!

「ゲホ…驚いて少し水を飲んでしまっただけです。大丈夫です、お風呂すごく気持ちよかったです。また入りたいです。毎日入りたいです。」
「ふむ…」

これでお風呂が年に一回とかになってしまったら悲しすぎる。私は一生懸命魔王を説得した。

「では次からは俺と入れ。目を離すとすぐ溺れるようだからな。」
「…はい。」

不安しかない。でもご主人様の言う事は絶対。それにこれで私の身体の清潔は守られた。

「申し訳ありませんでした。」
「ミーアのせいじゃないよ。」
「以後気をつけろ。もう下がって良い。」
「かしこまりました。」

私を魔王に手渡し、一礼して去っていくミーア。あれ、私まだちゃんと身体拭けてないし全裸だしどうすればいいんだ?

「部屋に戻るぞ。」
「はい。」

バスローブ姿の魔王に抱かれ、隣の部屋に戻る。メイド達もいなくなっていて、広い部屋に魔王と二人きりになった。

「寝るぞ。」
「はい。…あの、まだ濡れていますし、服も着ていません。」
「これで良いだろう。」

魔王が指を鳴らすと、暖かい風が私を包んで、あっという間に全身乾いた。これが魔法か。初体験だ。私は目をキラキラさせて言った。

「魔法すごいです!」
「そうか。」

魔王は私からバスタオルを剥ぎ取ると、そのまま寝室に入っていった。魔王は私に服を着せる気はないらしい。また全裸生活に逆戻りだ。でも一応聞いてみるか。

「あの、服は…」
「すぐにベッドに入るのだから問題ない。」
「そうですね。」

魔王にとって私の服は単なる防寒具なのだ。これ以上のことは言うまい。
魔王は私を布団の中に入れると、自分も横になった。

「リナ。」
「はい。」
「その口調を直せ。」
「と言いますと。」
「ミーアとは普通に話している。」
「でも魔王様だから…」
「魔王様もやめろ。名前で呼べ。」

名前なんだっけ…レオナール?

「レオナール、様。」
「様もいらない。」
「レオナール。」
「もっと短く。」
「…レオ。」
「それで良い。」

初めからレオって呼んでって言えばいいのに。魔王…いや、レオは、口下手だ。


ーーーーーーーーー


「んう…あつい…おもい…」

いつの間に寝ちゃったんだろう。本当子供ってすぐ寝るんだから。
そんな事より身体が重くて動かない。金縛りかな。なんか暑いし、早く解けないかな…
私が大人しく金縛りが解けるのを待っていると、右隣からそよ風が吹いていることに気がついた。窓でも開いてたかなと風上を見ると、私の視界一杯にレオの端正な顔が広がっていた。

「ひえっ」

思わず叫びそうになって、慌てて口を閉じる。近い、近すぎる。私がこっちに寝返り打ってたらチューしてたよ。よく見るとレオの腕が私の身体の上に乗っかっている。金縛りじゃない、普通に拘束されていたんだ。
そうだよね、愛されペットたるもの、ご主人様の抱き枕にならないと…ってなれるかい!体格差を考えろ、巨人一歩手前みたいな大きさしておいてこんな小さな幼女を抱き枕にすな。潰れる。こんなんで寝てられるか!
私はこの拘束から逃げ出すために身をよじった。

よじよじ。よじよじ。もう少しだ、あとちょっとで抜け出せる…

「あまり動くな。」
「ひょえ!」

動きすぎたようだ。レオを起こしてしまった。怒ったかな。

「ご、ごめんなさい。」
「どうした。」
「あの、腕が重くて…」
「ふむ…でも抱いてやらねば寒いだろう。」
「今は暑いよ。」
「そうか。」

そう言うと、レオはゴロンと仰向けになった。やっとあの重さと熱から解放される…

「くしゅん」
「やはり寒いのではないか。」

寒いのはさっき寝汗かいて冷えたからだよ。これでまた抱き枕されたらもう朝まで寝れないだろう。仕方がない。私はレオの左腕にギュッと抱きついた。私が抱き枕になるのではなく、レオを抱き枕にすれば良いのだ。

「こっちの方がいい。」
「そうか。もう寝ろ。」
「おやすみなさい。」
「ああ。」

汗で冷えてしまったお腹がレオの暖かい腕に当たって気持ちいい。私はまたすぐ眠りについた。
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