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人間の国に行きます6
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レオの言い分は分かった。でも睡眠が無駄な時間っていうのは賛同できないな。夢の中ほど幸せな時間ってないでしょ。幸せになる努力をしなくても、人生の三分の一は幸せに浸っていられるんだよ?私だったらいつまででも寝ていたい。
まあ今は起きてても充分幸せだから、いつまでだって起きていたい。でも子供の体じゃ無理、残念ながら昼寝もしないと体力持たない。
まあレオが自主的な社畜であるということは分かったよ。ペットである私の役目は、レオに休息を与えることだったんだね。そのために私は全力を出してゴロゴロする!周りがどんなにバタバタと忙しなくしていても、私は私の仕事を全うして見せましょう。私はミーアが旅支度で忙しくしている横で、クッキーを齧りながらソファに横になった。気分はナマケモノだ。
「リナ様、そのように横になりながら食べてはお行儀が悪うございますよ。」
「はーい…ブッフォオ!」
「大丈夫ですか!?」
横になって食べてたから、クッキーのカスが気管に入った。ゲホゲホ言ってる私の背中を優しく撫でてくれるミーア。忙しいのに邪魔してごめん。レオなんて執務机の前で呆れ顔だ。
「…何をやっている。」
「ゲホッ…む、むせてます…」
「ちゃんと座って食べろ。」
「はーい。」
至極まともな事を言われてしまった。これは従うしかない。私はソファにお行儀良く座り直した。
でも正直、毎日毎日暇なんだよね。なんの仕事もないし、正に食っちゃ寝生活。初めは喜んだよ、でもそれがずっととなると流石に飽きてくる。贅沢な悩みだよね。
スリチア王国に行けば、この暇も解消されるかな。なんかトラブルの予感だし。誘拐でもされるのかな…極端なんだよなあ、暇か誘拐かって。もっと中間はないものか。趣味でも持ったらマシになるかな…
「ねえミーア。」
「はい、なんでしょう?」
「私にぴったりの趣味ってなんかない?」
「趣味、ですか…?」
いきなり無茶振りだったかな。忙しく動いていた手を止めて、ミーアはうーんと考え出してしまった。
「ペットに趣味などいらないだろう。」
「でも犬だってお気に入りの遊びとかあるでしょう?あれも言い換えれば趣味だと思うんだよね。私には今それがなくて何もすることがないの。」
「ふむ。いつもクッキーを食べているではないか。」
「趣味クッキーなんて嫌だよ。太っちゃうじゃん。」
「確かに肥満は健康を害しますね。」
「お前は今日からクッキー禁止だ。」
「ちょっとだけなら大丈夫だよ!一日に食べていい枚数を決めてさ、ね?こんな美味しいクッキーがもう食べられないなんて拷問だよ。」
私は慌ててクッキーを持ったままレオの元に駆け寄った。膝にしがみつく私をレオが抱き上げた隙に彼の口にクッキーを押し込む。レオは抵抗する事なくそれを咀嚼した。
「ね、美味しいでしょ?」
「うむ。」
「食べると幸せになれるの。食べていいでしょ?」
「許す。」
「やった!ありがとう!」
私はレオの首元にギュっと抱きついた。レオは外に干したお布団みたいな良い匂いがするんだ。嗅いでるとだんだん眠くなる。レオの体温と落ち着く匂いで、私はあっという間にうとうとしはじめてしまう。
ああ、そういえば干した後のお布団の匂いってダニの死骸の匂いなんだっけ…てことはレオも…私はそんなくだらない思考の中、眠りに落ちた。
ーーーーーーーーーーー
翌朝。いつもの様に可愛いゴスロリ服を着て、私は今レオと共に馬車に乗っている。馬車の中は小さな部屋みたいになっていて、壁の両側に大きなソファと、その真ん中にはテーブル。テーブルの上には普通にお菓子とお茶が乗っている。どんなに揺れても、こぼれないようになってるらしい。魔法って万能。私はソファに座るレオの膝に抱かれながら窓の外を眺めていた。
後続の馬車も今私が乗っている馬車よりは少し小さいけど、充分立派な作りをしている。レオの臣下数名が乗っているらしい。そのさらに後ろには使用人用の馬車。ミーアや臣下の従者なんかが乗ってるんだって。グレードはやや落ちるけど、やっぱり魔族の体格に合わせてか大きな馬車だ。
その馬車を引っ張るのはただの馬ではなく、魔馬と呼ばれる魔物。普通の馬より二回りくらい大きく、漆黒の毛並みがめっちゃかっこいい。本来はすごく凶暴で、人間の国ではかなり危険視されている魔物の一種だ。でも魔族の手にかかればほらこの通り、良く訓練された優秀な馬車馬に大変身。なんでもレオを一目見ただけで自分から膝を折り忠誠を誓ったとか。そんな馬鹿な。
「魔族もそうですが、魔物も強い者に従うという本能を持っていますから。魔王様を見て膝を折らない者はこの国にはおりませんよ。」
というのは魔馬の説明をしてくれたミーアの言葉。私には分からない感覚だわ。そもそも会っただけで「こいつ…強い…!」みたいな感覚がないし。レオに初めて会った時も巨人かと思って驚いたけど、特に大きな力とかも感じなかったし。魔族独自のセンサーなのかな。
まあそういうセンサーで生きている魔族にとっては、それがない人間が力量差も分からず魔族に対して反感を持っているっていうことが理解不能なんだろうな。
だから今回レオを見せびらかしに行って、はたしてそれが本当に抑止力になるのかどうか、私には分からない。サムエルはレオの力を見せれば人間も反逆なんて馬鹿な考えは捨てるだろうとか言っていたけど。
余興で城ひとつ消し去るくらいしないと力の差がわからないんじゃないかなというのが私の本音。まあ政治に口出しなんてしないけどね、私ただのペットだし。
「それでは参ります。」
馬に乗って馬車を取り囲む近衛騎士の先頭で、これまた騎乗したサムエルが声を上げる。転移魔法みたいな高位の魔法は流石に指パッチンだけで発動できるものではないらしく、サムエルは何やらブツブツと呪文を唱えている。しばらくすると巨大な魔法陣が地面に出現し、禍々しい黒い手がいくつも地面から生えてくる。それが馬車と騎士達を取り囲み、辺りは闇に包まれた。でもそれは一瞬の事で、すぐに闇は晴れ、それだけで窓から覗く景色は様変わりしていた。
「もう転移したの?」
「そうだ。」
すごいな、魔法って本当に便利だな。なんでもありだなあ。普通に馬車で行くとスリチア王国の王都まで一ヶ月はかかるらしいよ。
まあ今は起きてても充分幸せだから、いつまでだって起きていたい。でも子供の体じゃ無理、残念ながら昼寝もしないと体力持たない。
まあレオが自主的な社畜であるということは分かったよ。ペットである私の役目は、レオに休息を与えることだったんだね。そのために私は全力を出してゴロゴロする!周りがどんなにバタバタと忙しなくしていても、私は私の仕事を全うして見せましょう。私はミーアが旅支度で忙しくしている横で、クッキーを齧りながらソファに横になった。気分はナマケモノだ。
「リナ様、そのように横になりながら食べてはお行儀が悪うございますよ。」
「はーい…ブッフォオ!」
「大丈夫ですか!?」
横になって食べてたから、クッキーのカスが気管に入った。ゲホゲホ言ってる私の背中を優しく撫でてくれるミーア。忙しいのに邪魔してごめん。レオなんて執務机の前で呆れ顔だ。
「…何をやっている。」
「ゲホッ…む、むせてます…」
「ちゃんと座って食べろ。」
「はーい。」
至極まともな事を言われてしまった。これは従うしかない。私はソファにお行儀良く座り直した。
でも正直、毎日毎日暇なんだよね。なんの仕事もないし、正に食っちゃ寝生活。初めは喜んだよ、でもそれがずっととなると流石に飽きてくる。贅沢な悩みだよね。
スリチア王国に行けば、この暇も解消されるかな。なんかトラブルの予感だし。誘拐でもされるのかな…極端なんだよなあ、暇か誘拐かって。もっと中間はないものか。趣味でも持ったらマシになるかな…
「ねえミーア。」
「はい、なんでしょう?」
「私にぴったりの趣味ってなんかない?」
「趣味、ですか…?」
いきなり無茶振りだったかな。忙しく動いていた手を止めて、ミーアはうーんと考え出してしまった。
「ペットに趣味などいらないだろう。」
「でも犬だってお気に入りの遊びとかあるでしょう?あれも言い換えれば趣味だと思うんだよね。私には今それがなくて何もすることがないの。」
「ふむ。いつもクッキーを食べているではないか。」
「趣味クッキーなんて嫌だよ。太っちゃうじゃん。」
「確かに肥満は健康を害しますね。」
「お前は今日からクッキー禁止だ。」
「ちょっとだけなら大丈夫だよ!一日に食べていい枚数を決めてさ、ね?こんな美味しいクッキーがもう食べられないなんて拷問だよ。」
私は慌ててクッキーを持ったままレオの元に駆け寄った。膝にしがみつく私をレオが抱き上げた隙に彼の口にクッキーを押し込む。レオは抵抗する事なくそれを咀嚼した。
「ね、美味しいでしょ?」
「うむ。」
「食べると幸せになれるの。食べていいでしょ?」
「許す。」
「やった!ありがとう!」
私はレオの首元にギュっと抱きついた。レオは外に干したお布団みたいな良い匂いがするんだ。嗅いでるとだんだん眠くなる。レオの体温と落ち着く匂いで、私はあっという間にうとうとしはじめてしまう。
ああ、そういえば干した後のお布団の匂いってダニの死骸の匂いなんだっけ…てことはレオも…私はそんなくだらない思考の中、眠りに落ちた。
ーーーーーーーーーーー
翌朝。いつもの様に可愛いゴスロリ服を着て、私は今レオと共に馬車に乗っている。馬車の中は小さな部屋みたいになっていて、壁の両側に大きなソファと、その真ん中にはテーブル。テーブルの上には普通にお菓子とお茶が乗っている。どんなに揺れても、こぼれないようになってるらしい。魔法って万能。私はソファに座るレオの膝に抱かれながら窓の外を眺めていた。
後続の馬車も今私が乗っている馬車よりは少し小さいけど、充分立派な作りをしている。レオの臣下数名が乗っているらしい。そのさらに後ろには使用人用の馬車。ミーアや臣下の従者なんかが乗ってるんだって。グレードはやや落ちるけど、やっぱり魔族の体格に合わせてか大きな馬車だ。
その馬車を引っ張るのはただの馬ではなく、魔馬と呼ばれる魔物。普通の馬より二回りくらい大きく、漆黒の毛並みがめっちゃかっこいい。本来はすごく凶暴で、人間の国ではかなり危険視されている魔物の一種だ。でも魔族の手にかかればほらこの通り、良く訓練された優秀な馬車馬に大変身。なんでもレオを一目見ただけで自分から膝を折り忠誠を誓ったとか。そんな馬鹿な。
「魔族もそうですが、魔物も強い者に従うという本能を持っていますから。魔王様を見て膝を折らない者はこの国にはおりませんよ。」
というのは魔馬の説明をしてくれたミーアの言葉。私には分からない感覚だわ。そもそも会っただけで「こいつ…強い…!」みたいな感覚がないし。レオに初めて会った時も巨人かと思って驚いたけど、特に大きな力とかも感じなかったし。魔族独自のセンサーなのかな。
まあそういうセンサーで生きている魔族にとっては、それがない人間が力量差も分からず魔族に対して反感を持っているっていうことが理解不能なんだろうな。
だから今回レオを見せびらかしに行って、はたしてそれが本当に抑止力になるのかどうか、私には分からない。サムエルはレオの力を見せれば人間も反逆なんて馬鹿な考えは捨てるだろうとか言っていたけど。
余興で城ひとつ消し去るくらいしないと力の差がわからないんじゃないかなというのが私の本音。まあ政治に口出しなんてしないけどね、私ただのペットだし。
「それでは参ります。」
馬に乗って馬車を取り囲む近衛騎士の先頭で、これまた騎乗したサムエルが声を上げる。転移魔法みたいな高位の魔法は流石に指パッチンだけで発動できるものではないらしく、サムエルは何やらブツブツと呪文を唱えている。しばらくすると巨大な魔法陣が地面に出現し、禍々しい黒い手がいくつも地面から生えてくる。それが馬車と騎士達を取り囲み、辺りは闇に包まれた。でもそれは一瞬の事で、すぐに闇は晴れ、それだけで窓から覗く景色は様変わりしていた。
「もう転移したの?」
「そうだ。」
すごいな、魔法って本当に便利だな。なんでもありだなあ。普通に馬車で行くとスリチア王国の王都まで一ヶ月はかかるらしいよ。
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