名を呼ぶ異世界地主 〜地霊と灰の契約譚〜

せんみつ

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リーヴ村再生編

第2話 目覚めの村

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藁の匂いが鼻をかすめる。
古びた木の天井、軋む寝台、土の感触。
ここが“夢ではない”ことを、五感が告げていた。

カインはゆっくりと身を起こし、部屋を見渡す。
壁の隙間から差し込む光が、埃を照らして揺れている。

「……どこだ、ここ……」

声が喉から漏れる。
答える者はいない。

扉を開けて外へ出ると、眼前に広がるのは沈黙の村だった。

**

畑には、枯れた作物の影。
井戸の水は濁り、風も通らぬ。
立ち並ぶ家々は修繕もされず、朽ちるがままに放置されていた。

その中に、違和感のある背筋を見つけた。

腰まである栗色の髪を三つ編みに束ね、整った所作で水桶を下ろす少女――彼女はこの村に似合わぬ、凛とした気配を纏っていた。

「目を覚ましたんですね、カイン様」

「ああ……君は?」

「リアナと申します。……この村で、地主の血を守る一族です」

彼女は微かに頭を下げた。だがその敬意は、儀礼ではなく、信念に近いものだった。

「あなたを迎える準備が、十分にできていたとは言えません。ですが、来てくださって……ありがとうございます」

「歓迎されてる、ってわけじゃなさそうだが……?」

「ええ。村の者たちは皆、疲れ切っています。もう地主が来ても何も変わらないと思っている。けれど――」

リアナは村を見回すように目を伏せ、そして静かに言葉を継いだ。

「けれど、私は信じています。“名を呼ぶ者”が戻れば、この地はまだ……間に合うかもしれないと」

カインは息を呑んだ。
その言葉には、疑いではなく、確かな願いが宿っていた。

**

村を歩くと、確かに住民たちの視線は冷たい。
声をかけても、返事はない。
ただ、遠くで農具の音が鳴るばかり。

“終わっている”というより、“諦めている”――そういう空気だった。

「村の名を、まだ覚えている人は少ないんです」

リアナがぽつりと言った。

「この地は“リーヴ村”。……かつてはそう呼ばれていました。でもいま、その名を口にする者は、ほとんどいません」

「……名が、忘れられてるのか」

「はい。だから、風も水も、眠ってしまった。名を呼ばれなくなった地は、だんだんと静かになっていくんです」

それは、まるで誰かの命が消えていくような話だった。

**

地主の屋敷にたどり着く。
屋敷は荒れ、草に覆われている。だが、リアナは扉の前で立ち止まり、少しだけ笑みを浮かべた。

「ここから、始まるかもしれません。名を取り戻す旅が」

その横顔には、村の誰もが失ったものが、確かに残っていた。

希望――わずかでも、失われていないもの。

カインは静かに頷いた。

「……だったら、俺はその名を、もう一度呼ぶ。何度でも」

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