名を呼ぶ異世界地主 〜地霊と灰の契約譚〜

せんみつ

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リーヴ村再生編

第4話 地呼の儀

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「……ここです。“契約の間”と呼ばれていた場所です」

リアナの声に導かれ、カインは屋敷の奥深くへと足を踏み入れた。
重たい扉の先には、埃の積もった机と棚、そして壁際に並ぶ古びた地図や記録が静かに眠っていた。

リアナは一枚の羊皮紙を机に広げる。
かつて領主たちが使っていた地図――その中央には、確かにこう記されていた。

《ユースト領》

「……広いな」

「はい。領地そのものは、今の数倍の広さがあります。ですが……」

リアナの指が、地図のほとんどを塗りつぶす“青墨”をなぞった。

「この青い部分は、《地霊との契約未締結地帯》です。
 かつて契りを交わしていた地も、地主不在のまま時が流れ……今ではほとんどが“無契約地”になってしまいました」

「……契約が切れると、土地は死ぬのか?」

「風が止まり、水が淀み、草木も実らなくなります。
 土地が、名を呼ばれなくなったことで、“応えること”をやめてしまうんです」

“名を呼ばれなくなった土地”――その言葉が、妙に胸に刺さる。

**

「……どうすれば、取り戻せる?」

カインの問いに、リアナは一瞬ためらったのち、棚の奥から一冊の書を取り出した。
羊皮紙の表紙に、かすれた金文字が刻まれている。

《地呼の儀式録》

リアナはそれを両手で捧げるようにして、机の上に置いた。

「これが、“地呼の儀(ちこのぎ)”です」

「地……呼ぶ……?」

「はい。“地”を“呼び戻す”儀式。地主が土地の“名”を思い出させ、もう一度契りを結ぶためのものです。
 かつての地主たちは、こうして一つずつ、地霊とのつながりを再び取り戻していきました」

カインはページをめくる。そこには、祠や石碑、地霊と交わす言葉の記録が記されていた。

「名前を呼ぶだけで、土地が目を覚ますのか?」

リアナは首を振る。

「ただ呼ぶだけでは、意味がありません。
 その土地の“本当の名”を、見つけ、認め、呼びかけなければ。
 ――そして、地主として、その地を抱く覚悟が必要です」

「……俺に、できるのか」

呟いた声には、ほんのわずかな迷いが混じっていた。

だが、リアナの返事は即座だった。

「できます。
 ――あなたは、“地主として選ばれた人”ですから」

**

再び地図の上へと目を戻す。

リアナは、村の東の一角を指さした。

「まずはここ。“契約の碑”と呼ばれている場所です。
 かつて地霊が祀られ、最初の契約が結ばれたと伝えられています」

「そこで、儀式を……?」

「はい。そこから始めましょう、“名を呼ぶ旅”を」

カインは静かに頷いた。
まだ何もわからない。だが、土地の声が、確かにどこかで彼を呼んでいる気がした。

始まりの地へ――

地主としての、最初の一歩が、ようやく動き出そうとしていた。
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