悪役令嬢なお姉様に王子様との婚約を押し付けられました

林優子

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3.ヒロイン登場?1

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 八歳になりました。エリザベートです。
「あー、そろそろね」
 朝食の席でジョゼフィーヌお姉様が唐突に言いました。

 今日は食卓には私とお姉様だけ。お父様とお母様は用事でお出かけなのです。

「何ですの?お姉様」
「あのヤローとアンナが出会うのよ。『幼少期、実は会ってたイベント』よ」
「アンナ様?」
 お知り合いにそんなお名前の令嬢はいたかしら?
「前に話したじゃない、前世、私からあのヤローを奪ったぶりっ子イモ女のことよ」
「あ……」
 フレドリック殿下とはその後も順調交際を続けていたので、お姉様の前世のことはちょっと忘れてました。

「お姉様、フレドリック様とそのアンナ様が会うのですか?どこで?」
「さあ、知らない。街で十歳の時会ったって聞いてもいないのに言ってたのよ。ムカついたから深くは聞いてないし、それだけ」

 どっ、どうしましょう。
 ……どうにも出来ません。

 フレドリック殿下にずっとついて回るのも出来ませんし……。
 でもでも。

「エリリン、気になるの?百面相してるわよ」
「えっ、それは……気になります」
 フレドリック殿下が恋に落ちたお相手はどんな子でしょう。

 お姉様は意外なことをおっしゃいました。
「じゃあ、ぶりっ子イモ女を見に行く?」
「ジョゼフィーヌお姉様はその子の居場所を知っているのですか?」
「もちろん知っているわ。記憶を取り戻してすぐにぶりっ子のいどころはお父様に調べてもらったもの」
 どうしよう。どんな子だろう。
 色々想像してしまいます。

「あの、ちょっと見るだけ見たいです……」
「よーし、決まり。今日はぶりっ子を見に行きましょう」

 お姉様の一声でぶりっ子……じゃなくてアンナさんを見に行くことに決まりました。

 馬車でアンナさんのところに行く間、ジョゼフィーヌお姉様はアンナさんのことを教えてくれました。
 アンナさんはお姉様やフレドリック殿下と同じ十歳。王都の街に暮らしているようです。
 街の食堂の店員さんの娘さんだそうです。
「ぶりっ子は男爵の隠し子なの。正妻が亡くなってからぶりっ子親子は男爵家に迎え入れられるわ」
「ふぇぇ……」
 複雑な関係です。

「止まって」
 目立たないところで馬車が止まり、馬車の小さな小窓からジョゼフィーヌお姉様は一人の女の子を指さします。
 食べ物屋さんの軒先でお掃除している女の子がいます。
 年齢は十歳くらいでしょうか、ピンク色の髪にピンク色の目の可愛い女の子です。

「あれが……」
「あれがぶりっ子イモ女のアンナよ」

 ゴクリ。
 私は息を呑みました。
 可愛いです。
 ピンク色の目も髪も珍しくて綺麗です。私はあんまり可愛くなくて珍しくもありません。
 あんな可愛い子と出会ってしまったら、きっと、フレドリック殿下は……。

「あら」
 とお姉様が声を上げます。
 馬車が動き出しました。
 どうしたのでしょうか?振り返ると後ろから馬車が近づいてきます。
 あ、そうですね。ここに居ると往来の邪魔ですね。
 進まないといけません。

 横を騎士らしい人が馬で駆け抜けて、その時、チラッと馬車の中を覗き込まれた気がしました。
 御者に話しかける声がします。
「おい、馬車を止めてくれ」
「なんだ、急に、あんた一体、ああ、ひぇ……ただいま、すぐに、お止めします」

 やりとりの後、馬車が止まります。
「エリリン」
 お姉様はぎゅっと私を抱きしめてくれます。
 ガシャガシャと馬車の扉を開ける音がしました。お姉様と私の体に緊張が走ります。
 扉が開いて入って来たのは、なんと、フレドリック殿下でした。
「フレドリック様?どうしてここに?」
 何故でしょう。





 ***

「やあリーザ、ジョゼフィーヌ嬢、奇遇だね」
「奇遇、ではありませんわ。どうしたのです?」
 お姉様が聞きます。

「何、君達の家に行こうと思ったら、屋敷から明らかにお忍び風の馬車が出てきた。御者席の隣にクルトがいたら、君達じゃないかと思って……」
「要するに付けてきたというわけですのね、呆れた」
 ジョゼフィーヌお姉様が軽蔑したように言います。
 フレドリック殿下は頭を掻きました。いつもの王子様然としたフレドリック殿下とちょっと違います。
 せっかく整えられた御髪も乱れています。
 何だかちょっと落ち着かないご様子です。
「そうなんだけど、せっかくだから用事が済めば、そのう、私と出かけられないかと思ったんだ。ところで用事は何かな?」
「用事?ええ、すみましたわ。可愛い妹に街の様子を見せてあげようとしただけですもの」
 お姉様はそう言って誤魔化しました。

 もしかしてバレちゃうかも?と思いました。フレドリック殿下はとても敏くて賢い方なのです。
 でも殿下は嘘には気付かず、パッと顔色を明るくしました。
「そうか、じゃあリーザ、街を少し歩いてみないか?」
「あ、歩いていいんですか?」
「ああ、リーザもお忍び用の服だし、私の護衛も影から付いている。安全な場所しか行かないから」
 殿下がそう言うので私もお姉様も驚きました。ソワソワします。
 お姉様も私もまだ小さいので街に行ったことはほとんどありません。
 街は馬車からちょっぴり眺めるだけ。
 馬車の小さな窓から眺める街は、賑やかでガヤガヤでおもちゃ箱みたいです。
 あの街の中を歩けるなんてワクワクします。

「ちっ、ちょっとだけ」とお姉様が言いました。
「ちっ、ちょっとだけ」と私も。
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