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64.お妃のお戻り②
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こうしてまた私の離宮での生活が始まった。
クラリッサさんが竜涎香を使って竜を操ろうとしたという事件は私が離宮に戻ってすぐに公にされ、クラリッサさんは王宮から姿を消した。
「陛下がね、『エルシー姫を脅かそうとしたクラリッサ・ファーノンにグレンも私も激怒したが、当のエルシー姫が助命嘆願を申し出た。まさに天使だ』とおっしゃっているの」
「死刑と聞いて、つい、グレン様にお願いしてしまいました。やっぱり良くなかったですか?」
と私はこの話を教えに来てくれたママ様に聞いた。
「いいと思うわよ。当事者のエルシー様がお望みってことなら、角も立たないし、いい落とし所ね。ファーノン家も人づてに、うちと子爵家にお礼を言ってきたわ。王家とエルシー様のお慈悲に感謝致しますって」
「それは……良かったです」
ファーノン家の方々も今後大変だろうが、頑張って欲しい。
「もう、王太子妃の座を奪おうなんて馬鹿な真似する人もいないでしょう。王子も陛下も相当お怒りだったことだし、エルシー様のために宴まで開く歓迎ぶりだし」
王子と陛下の我が家に対する対応は破格のものだった。
私が戻って三日後に王宮で王家主催の晩餐会と舞踏会が開かれた。
会は、王太子妃様のお戻りをお祝いするもの、だそうだ。
王太子妃様って誰?
と思ったが、私である。
陛下と王子はそうそうたる列席者の中、父と母に対し、今回の件について説明し、皆の前で両親に「心労をかけた」とおっしゃった。
これは臣下に謝っていけない王家にとって「ごめんなさい」に相当する。
我が家は有力でも何でもない単なる子爵家だ。
父も母もこうまでされると許さないわけにはいかない。
急遽開かれた晩餐会と舞踏会だったが、多くの方が招待に応じて下さったそうだ。
ママ様曰く。
「エルシー様、意外と人気あるみたい。うちにも王子殿下と結婚しないなら、お嫁に貰いたいという話が来てたのよ」
そういえば、離宮に父を呼んだ時に、父が王子に「エルシーには他に縁談があります故、このままお捨ておき下さっても当家は構いませんが」と、イヤミっぽく言っていた。
あれは、はったりか見栄だと思ったが、ちょっとは本当か?
あの後は王子が涙ぐんで、ぎゅーして離さなくなり、お父様、エルシーは少し困りました。
続いて舞踏会が開かれたが、ドレスは新調する時間的余裕がなく、離宮に残されていた昔の王太子妃様のドレスを使わせて頂いた。
ウエストを思いっきり締められて「ぐー」となったが、何とか入った。
濃い青色のドレス。
そこに王太子妃秘蔵の豪華なアクセサリーの数々を合わせる。
ティアラにブレスレット、指輪、イヤリング、ネックレスとちょっとギラギラのフル装備だが、身を飾る数々の宝石が分かりやすく『王子殿下のご寵愛』を意味するらしい。
特にネックレスはダイアモンドが美しくきらめく、国宝物の逸品らしい。
王子は私を見て何だか懐かしそうにしていたが、二番目に今度は陛下と踊った時、その理由が分かった。
「母のドレスだね」
と陛下は言った。
また晩餐会にも舞踏会にも王妃様の姿はない。
今回も後から来られるそうだ。ちょっと申し訳ない。
「先の王妃様ですか」
「母が若い頃に着ていたドレスだ。懐かしいね。良く似合っているよ」
とおっしゃった。
「あの、陛下、この度は色々ありがとうございました」
クラリッサさんの件では、王子は陛下に協力してもらったらしい。
陛下は頭を振る。
「礼は必要ないよ。天使のためだ。ところでグレンと仲直りしたようだね、実に残念だ。せっかく今日は天使を口説こうと思ったのに」
と陛下は朗らかに笑った。
「はっ、はあ……」
なんて答えたら良いんだろ。
慣れてなくて良く分からなかった。
ちょっと顔が赤らむ。
陛下は急に真面目な顔をして私を見つめる。
「天使よ、私は君を諦めることはないが、グレンに任せようと思う。今後は私を兄と思って頼って欲しい」
「えっ、はい……ありがとうございます」
諦めないけど、兄って、どういう意味なんだろう?
「天使が幸福であるのが私の幸福なのだ。君がグレンの腕の中にいるのが幸福なら、私にとってもそれが幸福。そして君の幸福はまた弟の幸福でもあろう。私は君達に幸福でいて欲しい。兄だからね」
陛下が笑う。
王子がこっち見ている。
遠くからでも、怒りのオーラが立ちのぼっているのが分かった。
「だが、そうでなくなった時は、どうか天使よ、私のものになっておくれ。グレンが死んだ後でもいい。長生きするつもりだから」
そう言うと、陛下は私の手の甲にちゅっとキスする。
兄、王子より四つ年上なんだが……。
何という長期計画。
「あの、陛下せっかくなんですけど……」
言い掛けると、陛下はその前に首を横に振る。
「天使、答えはいらないよ。君が何と言おうと、私は君を想い続けるのだから。それより私のことはお兄様と呼んで欲しい。さあ、天使」
なんか勢いに負けて言ってしまった。
「お、お兄様……」
と、夜会の夜は更けた。
***
「ところで王妃様、陛下にクラリッサに近寄るなと言われていたそうよ。なのにこともあろうにクラリッサにご自分のこと『お姉様』と呼ばせて、妹のように可愛がっていたとかで、陛下がお怒りのようよ」
とママ様が言い、それを聞いて私は納得した。
「ああ、だからですか、ママ様、王妃様から手紙が来たんです。私に、陛下を取りなせとお妾さん迎えるの止めさせろって」
陛下の愛妾計画は進行中なのだ。
陛下、「王家の役目を果たさねばならない」とかで、頑張って子孫残す気らしい。
「あら、そうなの?で、どうするの?取りなすの?」
「いいえ。取りなそうにも何をしていいか分かりません。ですから王妃様にアドバイスをしようと思いまして、バムカレの温泉は子宝の湯で有名だそうです。って教えたんですが」
「あら、意外と的確なアドバイスね、エルシー様」
「はい。ですが、自分から誘うなんてはしたないこと出来ないわ、私。とお返事が来まして」
「聞いておいて、それなの?王妃様」
ママ様は呆れたご様子だ。
「はい、ですから『そうですか』とお返事しました」
「そうねぇ、そのお手紙はちょっとそれ以外お返事しようがないけど、他の方にはもうちょっと丁寧にお返事書くのよ、エルシー様。初夏の風が爽やかな季節となりましたとか、天の川がひときわ美しい季節となりましたとか、ね」
「はい」
「それで今日はエルシー様の再お披露目会を話しに来たの」
とママ様はおっしゃる。
「私のお披露目、またやるんですか?」
お帰りなさい会してもらったので十分な気がするが、ママ様は大きく首を横に振る。
「当然やるわよ。あんなことがあった後だもの。今度はもっと派手にやらないとね。ということで準備があるの」
私の再お披露目会は一ヶ月後だという。
クラリッサさんが竜涎香を使って竜を操ろうとしたという事件は私が離宮に戻ってすぐに公にされ、クラリッサさんは王宮から姿を消した。
「陛下がね、『エルシー姫を脅かそうとしたクラリッサ・ファーノンにグレンも私も激怒したが、当のエルシー姫が助命嘆願を申し出た。まさに天使だ』とおっしゃっているの」
「死刑と聞いて、つい、グレン様にお願いしてしまいました。やっぱり良くなかったですか?」
と私はこの話を教えに来てくれたママ様に聞いた。
「いいと思うわよ。当事者のエルシー様がお望みってことなら、角も立たないし、いい落とし所ね。ファーノン家も人づてに、うちと子爵家にお礼を言ってきたわ。王家とエルシー様のお慈悲に感謝致しますって」
「それは……良かったです」
ファーノン家の方々も今後大変だろうが、頑張って欲しい。
「もう、王太子妃の座を奪おうなんて馬鹿な真似する人もいないでしょう。王子も陛下も相当お怒りだったことだし、エルシー様のために宴まで開く歓迎ぶりだし」
王子と陛下の我が家に対する対応は破格のものだった。
私が戻って三日後に王宮で王家主催の晩餐会と舞踏会が開かれた。
会は、王太子妃様のお戻りをお祝いするもの、だそうだ。
王太子妃様って誰?
と思ったが、私である。
陛下と王子はそうそうたる列席者の中、父と母に対し、今回の件について説明し、皆の前で両親に「心労をかけた」とおっしゃった。
これは臣下に謝っていけない王家にとって「ごめんなさい」に相当する。
我が家は有力でも何でもない単なる子爵家だ。
父も母もこうまでされると許さないわけにはいかない。
急遽開かれた晩餐会と舞踏会だったが、多くの方が招待に応じて下さったそうだ。
ママ様曰く。
「エルシー様、意外と人気あるみたい。うちにも王子殿下と結婚しないなら、お嫁に貰いたいという話が来てたのよ」
そういえば、離宮に父を呼んだ時に、父が王子に「エルシーには他に縁談があります故、このままお捨ておき下さっても当家は構いませんが」と、イヤミっぽく言っていた。
あれは、はったりか見栄だと思ったが、ちょっとは本当か?
あの後は王子が涙ぐんで、ぎゅーして離さなくなり、お父様、エルシーは少し困りました。
続いて舞踏会が開かれたが、ドレスは新調する時間的余裕がなく、離宮に残されていた昔の王太子妃様のドレスを使わせて頂いた。
ウエストを思いっきり締められて「ぐー」となったが、何とか入った。
濃い青色のドレス。
そこに王太子妃秘蔵の豪華なアクセサリーの数々を合わせる。
ティアラにブレスレット、指輪、イヤリング、ネックレスとちょっとギラギラのフル装備だが、身を飾る数々の宝石が分かりやすく『王子殿下のご寵愛』を意味するらしい。
特にネックレスはダイアモンドが美しくきらめく、国宝物の逸品らしい。
王子は私を見て何だか懐かしそうにしていたが、二番目に今度は陛下と踊った時、その理由が分かった。
「母のドレスだね」
と陛下は言った。
また晩餐会にも舞踏会にも王妃様の姿はない。
今回も後から来られるそうだ。ちょっと申し訳ない。
「先の王妃様ですか」
「母が若い頃に着ていたドレスだ。懐かしいね。良く似合っているよ」
とおっしゃった。
「あの、陛下、この度は色々ありがとうございました」
クラリッサさんの件では、王子は陛下に協力してもらったらしい。
陛下は頭を振る。
「礼は必要ないよ。天使のためだ。ところでグレンと仲直りしたようだね、実に残念だ。せっかく今日は天使を口説こうと思ったのに」
と陛下は朗らかに笑った。
「はっ、はあ……」
なんて答えたら良いんだろ。
慣れてなくて良く分からなかった。
ちょっと顔が赤らむ。
陛下は急に真面目な顔をして私を見つめる。
「天使よ、私は君を諦めることはないが、グレンに任せようと思う。今後は私を兄と思って頼って欲しい」
「えっ、はい……ありがとうございます」
諦めないけど、兄って、どういう意味なんだろう?
「天使が幸福であるのが私の幸福なのだ。君がグレンの腕の中にいるのが幸福なら、私にとってもそれが幸福。そして君の幸福はまた弟の幸福でもあろう。私は君達に幸福でいて欲しい。兄だからね」
陛下が笑う。
王子がこっち見ている。
遠くからでも、怒りのオーラが立ちのぼっているのが分かった。
「だが、そうでなくなった時は、どうか天使よ、私のものになっておくれ。グレンが死んだ後でもいい。長生きするつもりだから」
そう言うと、陛下は私の手の甲にちゅっとキスする。
兄、王子より四つ年上なんだが……。
何という長期計画。
「あの、陛下せっかくなんですけど……」
言い掛けると、陛下はその前に首を横に振る。
「天使、答えはいらないよ。君が何と言おうと、私は君を想い続けるのだから。それより私のことはお兄様と呼んで欲しい。さあ、天使」
なんか勢いに負けて言ってしまった。
「お、お兄様……」
と、夜会の夜は更けた。
***
「ところで王妃様、陛下にクラリッサに近寄るなと言われていたそうよ。なのにこともあろうにクラリッサにご自分のこと『お姉様』と呼ばせて、妹のように可愛がっていたとかで、陛下がお怒りのようよ」
とママ様が言い、それを聞いて私は納得した。
「ああ、だからですか、ママ様、王妃様から手紙が来たんです。私に、陛下を取りなせとお妾さん迎えるの止めさせろって」
陛下の愛妾計画は進行中なのだ。
陛下、「王家の役目を果たさねばならない」とかで、頑張って子孫残す気らしい。
「あら、そうなの?で、どうするの?取りなすの?」
「いいえ。取りなそうにも何をしていいか分かりません。ですから王妃様にアドバイスをしようと思いまして、バムカレの温泉は子宝の湯で有名だそうです。って教えたんですが」
「あら、意外と的確なアドバイスね、エルシー様」
「はい。ですが、自分から誘うなんてはしたないこと出来ないわ、私。とお返事が来まして」
「聞いておいて、それなの?王妃様」
ママ様は呆れたご様子だ。
「はい、ですから『そうですか』とお返事しました」
「そうねぇ、そのお手紙はちょっとそれ以外お返事しようがないけど、他の方にはもうちょっと丁寧にお返事書くのよ、エルシー様。初夏の風が爽やかな季節となりましたとか、天の川がひときわ美しい季節となりましたとか、ね」
「はい」
「それで今日はエルシー様の再お披露目会を話しに来たの」
とママ様はおっしゃる。
「私のお披露目、またやるんですか?」
お帰りなさい会してもらったので十分な気がするが、ママ様は大きく首を横に振る。
「当然やるわよ。あんなことがあった後だもの。今度はもっと派手にやらないとね。ということで準備があるの」
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