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63.お妃のお戻り①
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その後、すぐに寝てしまったらしい。
起きると夕方になっていた。
夕食は私がまだヘロヘロだったので、食堂ではなく、私室で取ることになった。
王子は一応王家の人なので、格式というものがあり、食堂を使う時は正装のドレスを着るなどの身なりを整えないといけない。
だが、私室ではそれは免除させるので、コルセットを締めない少し簡易なドレスでいられる。
夕食が用意されたのは、王太子妃の私室だった。
王子も私もあまり立ち入らない花柄の壁紙や薄紅色の瀟洒な家具が配された、いかにも女主人用のお部屋だった。
ここは王太子妃が親しいお客様を招いたり、家族で過ごすためのお部屋で、部屋には応接セットの他に、食卓テーブルもあり食事が取れるようになっている。
何処もかしこもバステルカラーの淡く柔らかい色合いで統一された可愛らしい部屋で、王子は辺りを見回し、「落ち着かないな」と気に入らない様子で呟く。
「そうですか?グレン様は苦手ですか?」
「エルシーはこういうのが好みか?」
「私もすごく好みという訳ではないですが、新婚さんぽくないですか?この部屋」
王子は大きく瞳を見開く。
「……新婚」
食卓も四人掛けのあまり大きくないテーブルだ。
普段使う晩餐室は家族用というが、十人くらいは余裕で座れる。
対面に座る王子との距離もいつもより近かった。
「たまには良いと思うんですよ」
「そうか……新婚。素晴らしい。何と良い響きだ」
と王子は感動していた。
前菜は、焼いた薄いパンにニンニクをこすりつけ、トマトとバジルにオリーブオイルをたらしして乗せたブルスケッタ。
「あっ、これ好き」
次はマスのマリネ。マスは家でも食べるけど、離宮のものはレモンが効いてひと味凝っている。そもそも材料からして新鮮で味が濃い。
さすが王宮だ。
「これ美味しいですよね」
チーズと生ハムと野菜のサラダ。
絞りたての牛乳から作るフレッシュなチースがいっぱい入ったサラダだ。
「王宮、チーズも野菜もハムも美味しいです」
お魚料理はムール貝の白ワイン蒸し。
「この貝、クリーミーでぷりぷりで美味しいですね」
パンは焼きたてだ。
「美味しいですね、離宮のパン。このハーブ入ったパンいい香りです」
メインはビーフシチュー。
大きなお肉が入ってよく煮込まれた美味しいシチューだ。
「私、離宮のビーフシチュー大好きなんです……あれ?」
よく見ると好物ばっかりだ。
これはもしかして、歓迎されているのでは?
食事の途中だったけど、給仕の侍従の方に話しかけた。
正餐の場だとマナー違反になるが、私室だとそこまでこだわらなくていいらしい。
「あの、ご飯、美味しいです。ありがとうございます」
声をかけると初老の侍従の方が涙ぐんだ。
九十度くらい頭を下げられる。
「妃殿下様お戻りの由承り、臣下一同心からお喜びを申し上げます。このままエルシー様が戻らねば殿下はまたお一人になられるのかと気が気でございませんでした」
「すみません、ご心配をおかけしました」
デザートのケーキも美味しかった。
お家のご飯は美味しかったが、離宮のご飯もまた美味しい。
これが胃袋捕まれたというやつか。
***
翌朝、朝ご飯を食べていると「グオオオッ」とすごい鳴き声がした。
あんな鳴き声立てるのは竜しかいない。
ちなみに今日も新婚さんルームで朝ご飯を食べている。
文句言ったくせに王子は気に入ったらしい。
「すごいですね」
と王子に言うと、「ゲルボルグだ」と答えた。
「朝、見に行ったんだが……」
と呟いた後はこっちをちらっと見て、濁された。
「なんですか?」
「いや、何でもない」
「言って下さいよ、報連相は大事なんですよ」
「……ゲルボルグが、お前に会いたがっている」
「あっ、そうなんですか……」
無理矢理聞いた私だが、聞いてちょっと困った。
「無理に会うことはない」
そう言う王子は私を気遣っているようだ。
会いたくないわけではないんだけど、どうしよう?
困っているうちにまた「グオオオッ」が始まった。
近所迷惑だ。
ここまで大きい声だと王宮にも聞こえているかも知れない。
「あの、ご飯食べ終わったらゲルボルグに会いたいです。一人じゃ怖いからグレン様も一緒に行って貰えませんか?」
ゲルボルグに会うまでは色々考えたりもして、少し怖かったが、姿を見ると自然と近づいて自然と顔を撫でてた。
「ゲルボルグ」
名前を呼ぶとゲルボルグは可愛く目を細める。
そしてガッと頭を私の頭に乗せた。
痛かった。
「あれ、愛情表現だから」
とジェローム様は言った。
首の下に逆鱗というのがあって、主と認めた人間にしか触らせないのだそうだ。
ゲルボルグは特別にそこを触れさせてくれたらしい。
起きると夕方になっていた。
夕食は私がまだヘロヘロだったので、食堂ではなく、私室で取ることになった。
王子は一応王家の人なので、格式というものがあり、食堂を使う時は正装のドレスを着るなどの身なりを整えないといけない。
だが、私室ではそれは免除させるので、コルセットを締めない少し簡易なドレスでいられる。
夕食が用意されたのは、王太子妃の私室だった。
王子も私もあまり立ち入らない花柄の壁紙や薄紅色の瀟洒な家具が配された、いかにも女主人用のお部屋だった。
ここは王太子妃が親しいお客様を招いたり、家族で過ごすためのお部屋で、部屋には応接セットの他に、食卓テーブルもあり食事が取れるようになっている。
何処もかしこもバステルカラーの淡く柔らかい色合いで統一された可愛らしい部屋で、王子は辺りを見回し、「落ち着かないな」と気に入らない様子で呟く。
「そうですか?グレン様は苦手ですか?」
「エルシーはこういうのが好みか?」
「私もすごく好みという訳ではないですが、新婚さんぽくないですか?この部屋」
王子は大きく瞳を見開く。
「……新婚」
食卓も四人掛けのあまり大きくないテーブルだ。
普段使う晩餐室は家族用というが、十人くらいは余裕で座れる。
対面に座る王子との距離もいつもより近かった。
「たまには良いと思うんですよ」
「そうか……新婚。素晴らしい。何と良い響きだ」
と王子は感動していた。
前菜は、焼いた薄いパンにニンニクをこすりつけ、トマトとバジルにオリーブオイルをたらしして乗せたブルスケッタ。
「あっ、これ好き」
次はマスのマリネ。マスは家でも食べるけど、離宮のものはレモンが効いてひと味凝っている。そもそも材料からして新鮮で味が濃い。
さすが王宮だ。
「これ美味しいですよね」
チーズと生ハムと野菜のサラダ。
絞りたての牛乳から作るフレッシュなチースがいっぱい入ったサラダだ。
「王宮、チーズも野菜もハムも美味しいです」
お魚料理はムール貝の白ワイン蒸し。
「この貝、クリーミーでぷりぷりで美味しいですね」
パンは焼きたてだ。
「美味しいですね、離宮のパン。このハーブ入ったパンいい香りです」
メインはビーフシチュー。
大きなお肉が入ってよく煮込まれた美味しいシチューだ。
「私、離宮のビーフシチュー大好きなんです……あれ?」
よく見ると好物ばっかりだ。
これはもしかして、歓迎されているのでは?
食事の途中だったけど、給仕の侍従の方に話しかけた。
正餐の場だとマナー違反になるが、私室だとそこまでこだわらなくていいらしい。
「あの、ご飯、美味しいです。ありがとうございます」
声をかけると初老の侍従の方が涙ぐんだ。
九十度くらい頭を下げられる。
「妃殿下様お戻りの由承り、臣下一同心からお喜びを申し上げます。このままエルシー様が戻らねば殿下はまたお一人になられるのかと気が気でございませんでした」
「すみません、ご心配をおかけしました」
デザートのケーキも美味しかった。
お家のご飯は美味しかったが、離宮のご飯もまた美味しい。
これが胃袋捕まれたというやつか。
***
翌朝、朝ご飯を食べていると「グオオオッ」とすごい鳴き声がした。
あんな鳴き声立てるのは竜しかいない。
ちなみに今日も新婚さんルームで朝ご飯を食べている。
文句言ったくせに王子は気に入ったらしい。
「すごいですね」
と王子に言うと、「ゲルボルグだ」と答えた。
「朝、見に行ったんだが……」
と呟いた後はこっちをちらっと見て、濁された。
「なんですか?」
「いや、何でもない」
「言って下さいよ、報連相は大事なんですよ」
「……ゲルボルグが、お前に会いたがっている」
「あっ、そうなんですか……」
無理矢理聞いた私だが、聞いてちょっと困った。
「無理に会うことはない」
そう言う王子は私を気遣っているようだ。
会いたくないわけではないんだけど、どうしよう?
困っているうちにまた「グオオオッ」が始まった。
近所迷惑だ。
ここまで大きい声だと王宮にも聞こえているかも知れない。
「あの、ご飯食べ終わったらゲルボルグに会いたいです。一人じゃ怖いからグレン様も一緒に行って貰えませんか?」
ゲルボルグに会うまでは色々考えたりもして、少し怖かったが、姿を見ると自然と近づいて自然と顔を撫でてた。
「ゲルボルグ」
名前を呼ぶとゲルボルグは可愛く目を細める。
そしてガッと頭を私の頭に乗せた。
痛かった。
「あれ、愛情表現だから」
とジェローム様は言った。
首の下に逆鱗というのがあって、主と認めた人間にしか触らせないのだそうだ。
ゲルボルグは特別にそこを触れさせてくれたらしい。
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