竜騎士王子のお嫁さん!

林優子

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第三章

13.再会

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 急に扉の向こうから言い争う大きな声が聞こえてきた。
 皆、ハッと息を凝らして扉の向こうを見つめた。
「無礼である。この先はマルティア国第一王子殿下がおわす。控えろ」
「そうだ、何か証拠でもあるのか」
「いいからここを通しなさい!」
 という声は、ジェローム様だ。助けに来てくれたのか?
 思わず、「ジェ……」と声を上げようとしたが、騎士らしい人がさっと近づき、口を塞がれる。
「声を出すな」

「何をしている、さっさと道を空けさせろ」
 という、不機嫌そうなその声は。
「グレン王太子殿下のお言葉です。ここは竜の国、この国の民は、殿下のご命令には背くことは許されません」
「ええい、そのような理屈。この先にいらっしゃるのはマルティア国……」
 誰か、何かを言いかけたが、ドゴッと重たい音の後、うめき声がした。
 何だ?今の音。

「王子、前に出ちゃ駄目ですよ」
 とアラン様の声がする。
「エルシー、何処だ?エルシー」
 やっぱり、王子の声だ。間違いない。そしてアラン様の言うこと聞いてない。

 石造りの廊下を踏みつけるブーツの荒々しい足音が鳴り響く。
 部屋にいた数名の人は扉に鍵を掛け、私と第一王子を掴んで、後ずさりする。
 彼らは私を人質にすることにしたのだろう。
 大声を出さないよう口を塞がれ、両腕は後ろに回され、きつく捕まれる。


 鍵が鍵の役目を果たしていたのは、一瞬だった。
 ドアは勢いよく蹴破られて、入って来たのは一ヶ月ぶりに会う王子だった。
 ドアを蹴破れるくらいだから元気そうだが、強いて言うと、ちょっと目の下に隈がある。
 ……寝てないのかな?
 彼はその金色の瞳を鋭く動かすと、私に目をとめた。
「エルシーか?」
「…………」
 私を拘束している騎士の人が一段と力を込めた。
「エルシー妃は男?」
 と第一王子が意外そうに呟く。
「違います」と激しく否定したかったが、私は口を塞がれている。


「それを返せ。俺のものだ」
 王子はそう言うと、前に進み出ようとする。
「動くな。竜の国のグレン王太子だな。マルティア国次期国王陛下の御前である。控えよ」
 別の人が、ナイフを構えて私の顔の前に近づける。
「…………!」
 王子は足を止めて、じっと五人のマルティア人をにらむ。
「…………」

「控えるのはあなた方です。その少年を離しなさい」
 ジェローム様が毅然と声を上げる。
「投降をせねばこちらにも考えがあります」
 アラン様は腰に差した剣を抜いた。テレンス様始め、王子の随行の騎士様の姿もある。
 マルティア国の第一王子一行は長剣などの殺傷力の高い武器は取り上げられている。手には護身用の小さなナイフしかない。
 不利なのは第一王子側だ。
 だけど、人質になってしまった私がいる。

 騎士の人は王子に見せつけるように私の体を揺さぶった。
「黙れ、これがエルシー妃なのだろう。この娘が大事なのなら、兵を引き第一王子殿下に次期国王としての敬意を示すのだ」
 吠えるようにそう要求すると、他のマルティア人達も次々叫ぶ。
「そうだ、王なき後、この方こそがマルティアの王」
「竜の国ごときに我らマルティアが見くびられるいわれもない」

 王子はそれを聞くと、見たこともないくらい冷酷に微笑んだ。
 その笑みに、マルティア人のみならず、目にした者は誰もがビクリと体を震わした。
 金色の目が細まる。
 王子は言った。
「では認めよう。この地を治めるヴィーヴルの名において、神竜水竜を傷付けしマルティアの王の子よ。お前とお前に従う者は我が民ではない」
 その言葉を王子が口にした瞬間に、マルティアの人々は急に息が出来なくなったように皆、苦しげに床に倒れ込む。
「なっ……」
「きっ急に体が……」

「エルシー、来い」
 と王子が私を呼ぶ。
「は、はい」
 足がもつれそうになりながら、拘束を逃れた私は王子の元に駆け寄ろうとし、
「助けてくれ……」
 という声に振り返った。

「あの、グレン様、この人達……」
「精霊の災いというものだ。水竜はお前の民を助けると言った。マルティア国の名を捨てぬ者は熱病に冒される」
 と王子は言った。王子は両腕を回して後ろから私を抱え込んだ。
「ああ、一ヶ月ぶりに会ったのに、可愛くない」
 と彼は大変失礼なことを呟いた。
「えっ、これが熱病ですか。えっと、皆さん、しっかりして下さい」
「それより、何があった。エルシーが可愛くない」
 と王子はアラン様に聞いた。
「リーン様が作った性別転換の変身薬です」
「そもそも何故、お前達はここにいる?」
「命令違反で勝手に来ました」
 アラン様は堂々と答えた。

 その間にもマルティアの人々は苦しんでいる。熱病というくらいだから、体温が高くなるのか、汗を掻いて顔が真っ赤だ。
「くっ……苦しい」
「助けて…」
 ともがいている。
「悔い改めるといいですよ!女の子も男の子も誘拐しちゃ駄目です。それから無理矢理既成事実も駄目です。反省して下さい」
「何、既成事実?」
 と王子が頭の上で鋭い声を上げる。
「あ、未遂です。無事です。そうです、まだ間に合いますよ。邪念はいけません。水竜様にちゃんと謝って、一からこの国の一市民としてやり直して下さい」
 私は必死に彼らに呼びかけた。
「別に彼らが死んだって良いでしょう、エルシー様」
「そうよ、あなた、誘拐されたのよ、エルシー様」
 とアラン様もジェローム様も冷たく言う。
「目の前で死なれるのは嫌ですよ!だから、頑張ってー」

 応援の甲斐あり、第一王子達は悪事を悔い改め、一命を取り留めた。
 第一王子はマルティアの王位継承権を放棄することにしたらしい。周りの側近の人達も彼を王にするのを諦めたようだ。
 王様には向いてなさそうだから、それが良いと思う。
 これからは一市民として生きるそうだ。
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