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第三章
12.男の子ですが、貞操の危機です
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「ここは何処なんですか?」
素直に答えて貰えるとは思えないが、私は彼らに聞いた。
「要塞の中だ。貴賓室らしいが、粗末だろう」
と誰かが失礼なことを言った。
「殿下、いけません」
と彼は叱咤された。
この人が、マルティアの第一王子だろう。すごい。さすがボンクラだ。
別の男の人が私に問う。
「おい、エルシー妃はどこにいる。お前は何者だ」
「エルシー……様に何のご用ですか?」
「質問しているのは、俺達だ。大人しく答えろ」
騎士の人、だろうか。
有無を言わさぬ怖い口調だ。
「僕は、エルシー様の影武者です。エルシー様がどこにおられるかは僕は聞いていないので分かりません」
この人達に私の容姿は知られている。要塞の中にいたし、赤の他人と言い張るよりは、真実味がある。
「影武者?男のお前がか?」
不審そうにそう聞かれた。
「ここには丁度いい容姿の女性がいなかったので、急遽僕が代理の影武者になったんです。僕は目の色も髪の色もエルシー様と同じですから」
「そんなことより、あの美しい女騎士は何処だ。彼女は何処に行ったんだ?」
と第一王子は私に聞いたが、すぐに「殿下、今はその話は。あの女は間者ですぞ」と怒られている。
美しい女騎士……アラン様か?
「だが、美しかったぞ。胸も大きかった」
と第一王子はアラン様に未練たっぷりだ。
騎士の人は第一王子には構わず、私に詰問する。
「おい、エルシー妃の居所を言え、何処に行った」
「えーと、本当に僕、分かりません。エルシー様はどこかに移動すると聞いています。だからそっちにもう行かれたのでは?」
騎士らしい人が否定する。
「妃はあの竜で移動するらしいじゃないか。まだ竜はいるし、皆、エルシー妃を血眼になって探している。まだ遠くに行ってない。おい、本当に知らないのか、隠すとためにならないぞ」
皆、私を探しているらしい。
アラン様もジェローム様もネイト様も皆、第一王子一行のことは疑っていた。
ということは、何とか時間さえ稼げれば、誰かここに探しに来てくれるかも!
ちょっと希望が見えてきた私は、時間稼ぎのため、そもそも知りたかった疑問を聞いてみた。
「あの、どうして皆さん、エルシー様のことを誘拐したいんですか?」
「エルシー妃は聖女だ。少なくともマルティアの者達はそう信じている。その聖女を第一王子殿下がめとれば、誰もが殿下をマルティアの王と認めるだろう。あの水竜もエルシー妃さえ我らの側に居れば黙るだろう」
と偽ネイト様が言った。
見れば見るほどネイト様に似ている。声もそっくりだ。
彼も変身薬を飲んでいるのだろうか。
私は首をひねる。
「竜さん、そんなんで黙りますかね?それにエルシー様、一応人妻ですよ。新婚だし、王子格好いいし、浮気なんかしないと思いますけど」
「君はエルシー妃と親しいのか」
マズいこと言っちゃったか。上擦りながら慎重に答える。
「しっ、親しくはないですが、何度かお話しはしました。影武者ですから。第一王子サマのお妃にするのは諦めた方が良いと思います」
「王子とは言うが、この田舎国の王子であろう。田舎国に相応しく、無骨で竜などという野蛮な生き物に乗る戦士のような男と聞いた。社交もろくに出来ない男より、私の方がエルシー妃も夫にしたいと願うはず」
第一王子は自信たっぷりにそう言った。
とっても失礼だが、あまり格好良くはない。
それに王子のこと馬鹿にしたみたいな口調に思わず、言い返してしまった。
「王子、ものすごく美形ですよ。それにあの、わた……エルシー様は、彼のことがすすすすすっ、好きなんです。愛しちゃっているんです」
「だが、私には娼婦達も唸る素晴らしいテクニックがある。エルシー妃も私に会えば一目で惹かれることだろう」
と第一王子はやっぱり自信たっぷりだ。
「あのー、僕、よく知りませんが、娼婦の女の人ってプロですよね。プロの人なら大体お客様のこと褒めると思います。それに王子も最近はちゃんと上手いですよ、多分」
偽ネイト様が眉をひそめる。
「……何故、君がそんなことを知っている?」
「えっ、あののの、それはエルシー様がそうおっしゃってましたから。とにかく、エルシー様はいないから諦めて下さい」
「どうもおかしい。君はただの影武者なのか?」
「影武者です!あと、何も知りませんから返して下さい」
「そんなわけにはいかない。我々はどうしてもエルシー妃が必要なのだ。グレン王子がいないこの隙に彼女と第一王子殿下の既成事実を作り……」
「きっ、既成事実!?」
びっくりして悲鳴を上げてしまった。
「そうだ。既成事実さえ作れば、エルシー妃も第一王子殿下にほだされるはず。もうマルティア王国に他に王子はいない。エルシー妃さえ手に入れば……」
ぞーっとした。
既成事実、作られちゃうところだったのか。
男の子になっていて本当に良かった。
私はほっとしたが、同時に不安になる。
誘拐されてからどのくらい経っているんだろうか。
薬の効果が切れて、私がエルシーだってバレたら……どうなっちゃうんだろう。
一刻も早く、ここを出ないと。
「おい」
私は突然第一王子に腕を捕まれた。
「えっ?」
「お前達は、早くエルシー妃を探してこい。私はその間、この少年を可愛がってやる」
そう言うと、彼は顔を私に近づけてくる。生理的嫌悪で鳥肌が立った。
「かっ、可愛がる?ぼっ、僕は男ですよ」
「よく見ると可愛い顔をしている。寝室でよく調べてやろう」
「えっ、僕、本当に男の子です。嘘じゃないです。おおおっ、お戯れはお止め下さい」
第一王子の腕を振り払おうとしたが、恐怖で体が言うことを聞かない。
「こんなに震えて……男なのは惜しいが、しょうがない。伽をさせてしんぜよう。あの女騎士をエルシー妃だと思い込まされ、結局何も出来なかったからな。この館では無聊を慰める女の一人も寄越さぬ。まったく無礼なことだ」
「いえ、無礼とかじゃなくて当たり前ですよ、そんなの。ははははっ、離して下さい。わた……いえ、僕には心に決めた人が……」
素直に答えて貰えるとは思えないが、私は彼らに聞いた。
「要塞の中だ。貴賓室らしいが、粗末だろう」
と誰かが失礼なことを言った。
「殿下、いけません」
と彼は叱咤された。
この人が、マルティアの第一王子だろう。すごい。さすがボンクラだ。
別の男の人が私に問う。
「おい、エルシー妃はどこにいる。お前は何者だ」
「エルシー……様に何のご用ですか?」
「質問しているのは、俺達だ。大人しく答えろ」
騎士の人、だろうか。
有無を言わさぬ怖い口調だ。
「僕は、エルシー様の影武者です。エルシー様がどこにおられるかは僕は聞いていないので分かりません」
この人達に私の容姿は知られている。要塞の中にいたし、赤の他人と言い張るよりは、真実味がある。
「影武者?男のお前がか?」
不審そうにそう聞かれた。
「ここには丁度いい容姿の女性がいなかったので、急遽僕が代理の影武者になったんです。僕は目の色も髪の色もエルシー様と同じですから」
「そんなことより、あの美しい女騎士は何処だ。彼女は何処に行ったんだ?」
と第一王子は私に聞いたが、すぐに「殿下、今はその話は。あの女は間者ですぞ」と怒られている。
美しい女騎士……アラン様か?
「だが、美しかったぞ。胸も大きかった」
と第一王子はアラン様に未練たっぷりだ。
騎士の人は第一王子には構わず、私に詰問する。
「おい、エルシー妃の居所を言え、何処に行った」
「えーと、本当に僕、分かりません。エルシー様はどこかに移動すると聞いています。だからそっちにもう行かれたのでは?」
騎士らしい人が否定する。
「妃はあの竜で移動するらしいじゃないか。まだ竜はいるし、皆、エルシー妃を血眼になって探している。まだ遠くに行ってない。おい、本当に知らないのか、隠すとためにならないぞ」
皆、私を探しているらしい。
アラン様もジェローム様もネイト様も皆、第一王子一行のことは疑っていた。
ということは、何とか時間さえ稼げれば、誰かここに探しに来てくれるかも!
ちょっと希望が見えてきた私は、時間稼ぎのため、そもそも知りたかった疑問を聞いてみた。
「あの、どうして皆さん、エルシー様のことを誘拐したいんですか?」
「エルシー妃は聖女だ。少なくともマルティアの者達はそう信じている。その聖女を第一王子殿下がめとれば、誰もが殿下をマルティアの王と認めるだろう。あの水竜もエルシー妃さえ我らの側に居れば黙るだろう」
と偽ネイト様が言った。
見れば見るほどネイト様に似ている。声もそっくりだ。
彼も変身薬を飲んでいるのだろうか。
私は首をひねる。
「竜さん、そんなんで黙りますかね?それにエルシー様、一応人妻ですよ。新婚だし、王子格好いいし、浮気なんかしないと思いますけど」
「君はエルシー妃と親しいのか」
マズいこと言っちゃったか。上擦りながら慎重に答える。
「しっ、親しくはないですが、何度かお話しはしました。影武者ですから。第一王子サマのお妃にするのは諦めた方が良いと思います」
「王子とは言うが、この田舎国の王子であろう。田舎国に相応しく、無骨で竜などという野蛮な生き物に乗る戦士のような男と聞いた。社交もろくに出来ない男より、私の方がエルシー妃も夫にしたいと願うはず」
第一王子は自信たっぷりにそう言った。
とっても失礼だが、あまり格好良くはない。
それに王子のこと馬鹿にしたみたいな口調に思わず、言い返してしまった。
「王子、ものすごく美形ですよ。それにあの、わた……エルシー様は、彼のことがすすすすすっ、好きなんです。愛しちゃっているんです」
「だが、私には娼婦達も唸る素晴らしいテクニックがある。エルシー妃も私に会えば一目で惹かれることだろう」
と第一王子はやっぱり自信たっぷりだ。
「あのー、僕、よく知りませんが、娼婦の女の人ってプロですよね。プロの人なら大体お客様のこと褒めると思います。それに王子も最近はちゃんと上手いですよ、多分」
偽ネイト様が眉をひそめる。
「……何故、君がそんなことを知っている?」
「えっ、あののの、それはエルシー様がそうおっしゃってましたから。とにかく、エルシー様はいないから諦めて下さい」
「どうもおかしい。君はただの影武者なのか?」
「影武者です!あと、何も知りませんから返して下さい」
「そんなわけにはいかない。我々はどうしてもエルシー妃が必要なのだ。グレン王子がいないこの隙に彼女と第一王子殿下の既成事実を作り……」
「きっ、既成事実!?」
びっくりして悲鳴を上げてしまった。
「そうだ。既成事実さえ作れば、エルシー妃も第一王子殿下にほだされるはず。もうマルティア王国に他に王子はいない。エルシー妃さえ手に入れば……」
ぞーっとした。
既成事実、作られちゃうところだったのか。
男の子になっていて本当に良かった。
私はほっとしたが、同時に不安になる。
誘拐されてからどのくらい経っているんだろうか。
薬の効果が切れて、私がエルシーだってバレたら……どうなっちゃうんだろう。
一刻も早く、ここを出ないと。
「おい」
私は突然第一王子に腕を捕まれた。
「えっ?」
「お前達は、早くエルシー妃を探してこい。私はその間、この少年を可愛がってやる」
そう言うと、彼は顔を私に近づけてくる。生理的嫌悪で鳥肌が立った。
「かっ、可愛がる?ぼっ、僕は男ですよ」
「よく見ると可愛い顔をしている。寝室でよく調べてやろう」
「えっ、僕、本当に男の子です。嘘じゃないです。おおおっ、お戯れはお止め下さい」
第一王子の腕を振り払おうとしたが、恐怖で体が言うことを聞かない。
「こんなに震えて……男なのは惜しいが、しょうがない。伽をさせてしんぜよう。あの女騎士をエルシー妃だと思い込まされ、結局何も出来なかったからな。この館では無聊を慰める女の一人も寄越さぬ。まったく無礼なことだ」
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