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旭陽生誕2 ゆりかご

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 鏡面を越える瞬間、僅かな目眩に襲われる。

 旭陽の腰を抱いている腕に力を込め、間違っても逸れないよう引き寄せた。
 僅かな異変の後、周囲の様子は一変している。

「……ここ、」
「魔王とその伴侶しか入れない場所なんだけどな。旭陽は…………その、俺のだから」

 周囲を見回す旭陽に、場所の簡潔な説明をする。
 後半は断言するつもり、だったが……何言ってんだ此奴、って顔されたら落ち込む。

 俺のもの、なのは否定されないって分かってるけど。
 伴侶……は、断言するのは俺にはハードルが高い。
 曖昧な物言いはそれはそれで突っ込まれそうな気がしたが、やっぱり微妙な表現になってしまった。

 俺の葛藤を理解した上で鼻で笑い飛ばしてくるかと思ったが、旭陽は反応を見せない。
 顔を覗き込んで、眉を寄せることになった。

「……やっぱまだキツいか?」

 旭陽の顔色が少し悪くなっている。
 褐色の肌は顔色の変化がかなり分かりにくいが、旭陽ばかり見てきた俺は僅かな変化でも読み取れる。

 頬に手を当てれば、俺に視線を流してきた。
 黄金の動きも、いつもより多少緩慢だ。

「……『まだ?』」
 言葉の違和感に気付くだけの思考力は、鈍っていないらしい。

「ん。……ここは、歴代の魔王とその伴侶が眠る為の空間だからさ。まだ儀式を終えてない旭陽には、少しキツかったかな」

 凭れ掛かってくる重みが僅かずつ増してくる体を支えて、周辺に視線を走らせる。

 ここは、魔王の為の『ゆりかご』だ。
 人間や他の魔族で言うなら、先祖伝来の墓場。
 でも魔王とその伴侶の場合は、ゆりかごと呼ぶらしい。

 魔王として呼び戻されて一年足らずの頃、一度場所を教えられて此処へ踏み込んだことがあった。
 全身が押し潰されそうに重く、命の危険を感じてすぐに引き返すことになった。

 旭陽がこっちにきて、贄として手元に置くようになって。
 魔王らしくなってきたと言われ始めた頃から、もうこの場所は俺を否定してこないと不意に悟った。

 それでも一度も踏み入らなかったのは――
 今思えば、だけど。
 多分、旭陽と来たかった。

 有り得ないって頭から排除して、気付かないふりをしてたけど。
 でも今は、否定する必要はない。

 俺からの強制じゃない。
 旭陽は、自分の意思で俺の隣を選んでくれた。

 ここは、魔王とその伴侶の為の場所。
 お互いを生涯の番として認め合ってなければ、弾かれて訪れられない場所だ。

 俺だけでも、旭陽だけでも意味がない。
 双方が認め合ってないと、伴侶とは認定されない。

 旭陽が部屋に残されず一緒に来れてるってことは、俺のことを玩具とか気紛れに手放すような対象とは思ってない、証拠……のはず。
 勿論、俺に至っては言うまでもない。

 通れはした。
 でも正式な伴侶として、歴史書に刻むための儀式はまだだ。

 色々な準備が……というのは言い訳で、要は俺の心の準備が整うのを皆待っている。
 いや、旭陽は面白がってるだけだが。
 臣下や民は、とっくに全ての準備を終えて俺の指示を待っている。

 俺が取る道も決まっている。
 手放すつもりも、他の代用を立てるつもりもないんだ。元々悩む必要もなかった。

 ただ単に――フラれたらどうしようと、俺が怖がっていただけ。

 旭陽は、望まないことをされそうになったら容赦なく相手の四肢を砕く男だ。
 多分頭を潰すのだって躊躇わない。
 流石に見たことないけど、俺の知らないところで殺ってても驚かない。

 触れることを許されている時点で、俺は旭陽の特別だ。
 それくらいは、湾曲せずに受け止められるようになっていた。

 でもそれ以上は……旭陽に生涯を望んで、拒否されないだけの自信はなかった。
 例え抵抗されても、無理矢理押し付けてやることはできる。
 でも拒絶された時にどれだけの仕打ちをしてしまうのか、自分でも分からなかったから。
 ずっと、答えを出すことを避けてきた。

 避け続けてきた言葉を、口にする。

「今度、改めて挨拶しに来たいからさ。……一緒に奥まで行けるよう、そろそろ儀式の段取り決めるか」

 儀式。婚礼の、結び。
 旭陽が、国外にも歴史にも魔王の伴侶と刻まれる為の、正式な儀式だ。

「ああ…………いいんじゃ、ねえの」
 少し怠そうな、それでもはっきりとした声音で旭陽が答えた。

「い……良いのか?」

 思わず舌が縺れそうになる。
 驚愕している俺を見て、旭陽が肩を上下させた。

「何時やんのかと思ってた。ずいぶん遅かったなァ?」

 動揺する俺に、少し気分を良くしたらしい。
 気怠げな声が幾らか軽くなる。

 満足を示す低音とは逆に、俺は混乱に声を失った。
 こんなあっさり受け入れられるのか!? 何か落としてくる前振りとか……?

「…………は、」
 暫く混乱して固まっていたが、段々と預けられている重みが増してくる。
 掠れた息が頭上で溢れて、はたと我に返った。

 そうだ、俺の困惑なんて今はどうでも良いんだった。

「旭陽」
「あ……? ッん、ぁっ」

 腕を引いて気を引き、怠そうに覗き込んできた顔に手を添える。
 唇を重ねれば、旭陽の呼吸が驚きに跳ねた。

 腰に腕を巻き付けたまま、頬から項まで撫で上げて顔を固定する。
 舌で唇を割れば、旭陽は素直に口を開いた。

「ッぁ、ん……ッン、ぅ、あ……っ」

 舌を絡め取り、根元から先端まで何度も擦り合わせる。
 ビクビクと震える体は自由にさせて、腰と項だけは離れることを許さずに固定した。

 舌に牙を押し付ければ、貫いていなくても怯えたように腰が揺れる。
 警戒してる。可愛いなあ。
 突き立てたくなる本能を抑え、甘く歯を食い込ませて刺激を与えていく。

「ぁっク……っふ、ぁ、ンッ……ッァ、あっ!」

 何度も歯を食い込ませては吸い付いていると、旭陽の体が傾いた。
 ずるりと落ちかけた体を抱き寄せ、開いた喉の奥へ向けて唾液を流し込む。

「っん、んぅッ……っぁッァう! ン゛ッんぁあ……っ!」

 拒むことなく嚥下していく旭陽の喉口を舐め回せば、腰の震えが大きくなっていく。
 最近長さと太さが増してきている舌を、届く場所まで伸ばした。

 喉口をずりずりと擦られた旭陽が、体を大きく跳ねさせた。
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