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第二章 少年期編

ルカの目標

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「イヴ、16歳女性。職業はヒーラー」

 応接室に呼び出したルドルフとルゥに向かって、ぺこりとお辞儀しながら自己紹介をするイヴ。

 ルカに向かってそうした時と一言一句同じ内容に、思わず横で見ていたルカがくすりと笑った。

「何かおかしかった?」
「いや、ごめん。僕にした紹介と全く同じだったから、つい…」

 ルカのその説明に、こてん、と擬音が付くように首を傾げるイヴ。

 その様子もどこか小動物の仕草のようで、ルカの表情も思わず緩んでしまった。

「あの、ルカ様」
「ん?どうしたの?」

 そんな二人のやり取りを見ながら、ルカに声を掛けるルドルフ。

「彼女が我々の探索に加入する、という理解でよろしいでしょうか?」
「うん、そうだよ」

 しっかりと頷くルカ。

「なるほど。回復要員については近々話をしようと思っておりましたので、ちょうど良かったです」

 どうやらルドルフも納得の選択のようだ。

「はいはい!僕も聞きたいっす!回復以外に何かできる事あるっすか!?」

 まずはルドルフが質問するのを待っていたのか、会話が切れるのを確認すると、今度はルゥが質問してきた。

「光の攻撃魔法と錬金術」
「え!?」

 さらりと回答するイヴ。

 それに対して真っ先に反応したのはルカだった。

「ん?ルカっち、どうしたっすか?」
「いや、回復魔法だけとばかり思ってたから…」
「あーーー」

 ルカの回答に得心の様子のルゥ。

「見た目が回復役って感じっすからね!」

 そうなのである。

 イヴのその小さな体躯と、白で統一された衣装に、ほっそりとした手に持った大きめなワンドわはまさに回復職といった見た目だった。

「イヴはデキル子」
「そうだね、聞けてなかったのは僕が悪かったよ」

 変化の分かりづらい表情ながら、主張するように胸を張るイヴ。

 ルカもぽりぽりと頬を掻きながら、詳しく彼女に質問できていなかった事を謝罪したのだった。


 ◇


「さて、早速ですが参りますか?」
「あれ?実力とかそのあたり確認しなくて大丈夫なの?」

 イヴの紹介もそこそこに、荷物を背負い、屋敷を発とうとするルドルフにルカが声を掛ける。

「ルカ様が確認されたのでしょう?」
「うん、少しだけど」
「であれば大丈夫でしょう」

 ルドルフのルカの評価が最近特に高い。

 以前から低いという事はなかったが、彼との付き合いが一年を超えてからは顕著にそれが現れていた。

「うーん、いいのかな?じゃあ、とりあえず森で慣らしながらゆっくり行こうか。今から、で大丈夫なんだよね?」
「承知しました。私は問題ありません」

 ルドルフが頷くと、ほかの二人も問題なかったのかそれぞれ頷いた。

「分かった、じゃあ行こうか。あ、あと、せっかくみんなが集まってるし、話そうかな……。イヴはさっき仲間になったところだけどね………」

 さあ森に行こう、とそれぞれ動き出そうとした所でルカが急に切り出した。

 普段とは違う、少し真剣な表情のルカに、皆の視線が集まる。

「この探索はさ、元々は僕の興味もあって父上にお願いしたところもあるんだけど………」

 屋敷近くで見つけたスライムを再び求めて。

 最初の頃はそんな調子で屋敷を脱走したのも、既に昔のことのように思い出しながら続けるルカ。

「本当はある方からの依頼なんだ」

 ある方はまだ明かさない。

「その依頼のために、僕は何となく強くなっておく必要があるのかな、ぐらいだったんだけど、最近ちょっと事情が変わったんだよね。ルドルフとルゥは会ったたから分かると思うけど………」
「レヴィアという者ですね」

 ルドルフの回答にこくりと頷くルカ。

「うん、そのレヴィア。最終的にはアイツのやってることを止めるか、アイツ自身を倒すために戦わないとダメって分かったんだ。まぁ、でも、強いんだよねぇ。本当に」

 あの異常とも言えるステータスが頭に浮かび、思わず身震いするルカ。

「だから、時間はかかるだろうけど、僕は強くならなきゃダメで、皆んなにはそれに力を貸してほしい」

 訥々と、言葉を選びながら語られるルカの話を、皆は黙って聞いていたが、代表するようにルドルフが頷くと、ほかの二人も大きく頷いた。

「この老骨程度がルカ様の為になるのであれば、全力で助力致します」
「いやいや、頼りにしてるよ」

 ステータスに表れない経験を、ルドルフからは学んでいる。

「僕もがんばるっす!」

 トラブルを呼び込む彼女だが、ムードメーカーもパーティーには必要だ。

「ルゥの場合はもう少し落ち着いてね」
「うぐっ!!それもがんばるっす!」

 そうは言いながらも、また何か問題を呼び込んでくるだろうとルカは彼女を生暖かい目で見た。

「イヴもがんばる」

 イヴについては、まだどんな働きをしてくれるか分からない。

 しかし、唐突ではあったが、彼女が自分達のパーティーメンバーに加わったのは、必然であった。

 何となくルカはそんな感じがしていた。

「ありがとう、みんな。ちょっと時間取らせて悪かったけど、なんか今伝えとかなきゃって思って」

 ルカの言葉に、それぞれが浅く首肯する。

「じゃあ、待たせちゃったけど行こうか、探索」

 そうルカが皆に声を掛けると、めいめいに同意の声をあげて、部屋を後にした。



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