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第二章 少年期編
似たもの親子
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「どうする?」
応接室の壁に立てかけてあったワンドのところまでトコトコと歩いて行くと、慣れた手つきでそれを構え、ルカに問うた。
「そうだね、じゃあ……」
実力を見せろと言ったが特に内容を考えていなかったルカは、キョロキョロと辺りを見渡した。
そうしていると、ソファの脇の事務机の上に、手のひら大のペーパーナイフが置かれているのが目に入った。
「これにしようか」
そう言ってナイフを手にするルカ。
「じゃあ、いくよ?」
「うん」
イヴに軽く確認すると、そのナイフの刃を自らの人差し指に当てるルカ。
その行動に、後ろで黙って控えていたリーナが小さな声を上げたが、それを無視してスッとナイフを持つ手を引いた。
ルカの指に一文字に切れ目が入る。
ほどなくそこからジワリと血が滲み、すぐに滴るほど出だした。
「彼のものに清浄なる癒しを『ヒール』」
それに対して、イヴの対応も早かった。
特に焦るでもなく、ワンドをルカの方に差し向けると、淡々とした調子で詠唱し、魔法を行使した。
ふわり。
そんな擬音が合うような、柔らかな光がルカの傷口の周りに広がる。
すると同時にルカの指先から流れる血が止まり、切創もゆっくりと薄らいでいくと、数秒後には何事も無かったように無傷の状態に戻っていた。
「わぉ!」
「どう?」
初めて目の当たりにした回復魔法。
逆再生の映像を見ているかのような超常的な現象に、素直にルカは驚いた。
「これは、すごいね」
「でしょ」
表情にほとんど変化はないが、ルカの賞賛を受けて、イヴは得意げな雰囲気だった。
「仲間になれる?」
「うーん、是非にと言いたいところだけど、父上が何と言うか………」
今後、今よりもシビアな場所を冒険する場合には回復魔法の存在は必須となっていくだろう。
しかし、ルドルフにしても、彼らのような冒険者を雇うにはそれなりの費用も掛かる。
ルゥの場合は、ちょうどファリドの進めていた事業が形になり、男爵家の収入も増えてきたという裏事情も重なって迎え入れることができた。
とは言え、立て続けにというのは難しいだろう、というのがルカの考えだった。
「すでに旦那様の許可は取ってあります」
「え?」
すっと近くにリーナが寄ってくると、ルカのそんな懸念を読み取ったかのように言葉を添えてきた。
「もう?」
「はい。実は彼女のことは街でも良く聞く事がありました。優秀なヒーラーが地元に戻ってきたと」
リーナの情報収集能力が優れているのか、イヴの能力が傑出しているのか、それともその両方か。
しかし、いずれの場合であってもルカにとっては良い事でしかない。
素直に感心した表情を浮かべた彼は、リーナとイヴ、二人の顔を交互に見つめた。
「それほどでもある」
リーナからの評価と、ルカの視線を受けてイヴは得意げな様子だ。
薄い胸を目一杯反って、えへん、と小さく呟いていた。
「それにしましても……」
「ん?」
まだ何か言いたい事でもあったのか、歯切れ悪そうに言葉を口にするリーナ。
「まさか旦那様と同じようにいきなり手を切るなんて……。私は心臓が止まるような思いでした…。くれぐれもご自分を大切になさってください、ルカ様」
「ご、ごめんなさい………」
普通に深刻な表情で注意されてしまったルカ。
確かに今まで無茶はすることはあれど、リーナの前で血を流すような事はなかった。
せいぜいが転倒した時に足を擦りむいた程度。
しかし今回はナイフによる明らかな切り傷だ。
ルカ自らそれを成したとは言え、側に控えるものとしては気が気ではなかったのだろう。
それにこの屋敷の主人であるファリドも同じ行動を取ったという。
それを聞かされたルカとしては、父親の分もまとめて注意されたような気がして微妙な表情になった。
「怒られたー」
棒読みで茶化してくるイヴをちらりと横目で睨んだが、非難するようなリーナの視線に耐えられず、ぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい」
ふぅ~~~~~と、長い彼女のため息 の音を耳にしながら、リーナの前では自重しようと心に誓ったルカであった。
応接室の壁に立てかけてあったワンドのところまでトコトコと歩いて行くと、慣れた手つきでそれを構え、ルカに問うた。
「そうだね、じゃあ……」
実力を見せろと言ったが特に内容を考えていなかったルカは、キョロキョロと辺りを見渡した。
そうしていると、ソファの脇の事務机の上に、手のひら大のペーパーナイフが置かれているのが目に入った。
「これにしようか」
そう言ってナイフを手にするルカ。
「じゃあ、いくよ?」
「うん」
イヴに軽く確認すると、そのナイフの刃を自らの人差し指に当てるルカ。
その行動に、後ろで黙って控えていたリーナが小さな声を上げたが、それを無視してスッとナイフを持つ手を引いた。
ルカの指に一文字に切れ目が入る。
ほどなくそこからジワリと血が滲み、すぐに滴るほど出だした。
「彼のものに清浄なる癒しを『ヒール』」
それに対して、イヴの対応も早かった。
特に焦るでもなく、ワンドをルカの方に差し向けると、淡々とした調子で詠唱し、魔法を行使した。
ふわり。
そんな擬音が合うような、柔らかな光がルカの傷口の周りに広がる。
すると同時にルカの指先から流れる血が止まり、切創もゆっくりと薄らいでいくと、数秒後には何事も無かったように無傷の状態に戻っていた。
「わぉ!」
「どう?」
初めて目の当たりにした回復魔法。
逆再生の映像を見ているかのような超常的な現象に、素直にルカは驚いた。
「これは、すごいね」
「でしょ」
表情にほとんど変化はないが、ルカの賞賛を受けて、イヴは得意げな雰囲気だった。
「仲間になれる?」
「うーん、是非にと言いたいところだけど、父上が何と言うか………」
今後、今よりもシビアな場所を冒険する場合には回復魔法の存在は必須となっていくだろう。
しかし、ルドルフにしても、彼らのような冒険者を雇うにはそれなりの費用も掛かる。
ルゥの場合は、ちょうどファリドの進めていた事業が形になり、男爵家の収入も増えてきたという裏事情も重なって迎え入れることができた。
とは言え、立て続けにというのは難しいだろう、というのがルカの考えだった。
「すでに旦那様の許可は取ってあります」
「え?」
すっと近くにリーナが寄ってくると、ルカのそんな懸念を読み取ったかのように言葉を添えてきた。
「もう?」
「はい。実は彼女のことは街でも良く聞く事がありました。優秀なヒーラーが地元に戻ってきたと」
リーナの情報収集能力が優れているのか、イヴの能力が傑出しているのか、それともその両方か。
しかし、いずれの場合であってもルカにとっては良い事でしかない。
素直に感心した表情を浮かべた彼は、リーナとイヴ、二人の顔を交互に見つめた。
「それほどでもある」
リーナからの評価と、ルカの視線を受けてイヴは得意げな様子だ。
薄い胸を目一杯反って、えへん、と小さく呟いていた。
「それにしましても……」
「ん?」
まだ何か言いたい事でもあったのか、歯切れ悪そうに言葉を口にするリーナ。
「まさか旦那様と同じようにいきなり手を切るなんて……。私は心臓が止まるような思いでした…。くれぐれもご自分を大切になさってください、ルカ様」
「ご、ごめんなさい………」
普通に深刻な表情で注意されてしまったルカ。
確かに今まで無茶はすることはあれど、リーナの前で血を流すような事はなかった。
せいぜいが転倒した時に足を擦りむいた程度。
しかし今回はナイフによる明らかな切り傷だ。
ルカ自らそれを成したとは言え、側に控えるものとしては気が気ではなかったのだろう。
それにこの屋敷の主人であるファリドも同じ行動を取ったという。
それを聞かされたルカとしては、父親の分もまとめて注意されたような気がして微妙な表情になった。
「怒られたー」
棒読みで茶化してくるイヴをちらりと横目で睨んだが、非難するようなリーナの視線に耐えられず、ぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい」
ふぅ~~~~~と、長い彼女のため息 の音を耳にしながら、リーナの前では自重しようと心に誓ったルカであった。
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