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第二章 少年期編

ヒーラー、イヴ。16歳。

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「求めに応じ、参りました」

 リーナに案内され屋敷の応接室に着くと、それに反応したように向かい合わせのソファの片側に座っていた人物が立ち上がった。

 そして、第一声。

 何を言うかと思えば、ルカが彼女を求めたのだとのことだ。

 リーナから聞いていたのは、仲間にしてほしい、という求めが向こうからあったという内容だったはず。

 間違ってもルカは仲間が欲しいという依頼はしていない。

「え~っと……聞いてた話とは違うようだけど?」

 そうなると、目の前の人物をここまで連れてきたリーナに真偽を問うしかない。

 ルカは彼女に視線を送るが、彼女自身も何を言っているかわからない、という表情で驚いていた。

「あ、さっきのは言ってみたかっただけ。気にしないで」
「「は?」」

 思わず素の声が出るルカとリーナ。

「イヴです。仲間にしてください」

 そんなルカ達を置き去りにして、ペコリと頭を下げる来訪者。

 ショートボブの銀掛かった青髪が、その動きに合わせてふわっと舞う。

 応接室の大きめに作られた窓から差し込む光とそれが反射し、きらきらと水面の青色のように輝いていた。


 ◇


「イヴ、16歳女性。職業はヒーラー」
「はあ………」

 初っ端からすっかり話の主導権を握られてしまったルカは、ソファの対面に座った彼女の言葉にも生返事だった。

 色白で小柄、薄い唇に眠たそうな目元。

 いかにも静かそうな見た目だ。

 しかし、そのリスのような小さな口はよく動く。

 決して声は大きくないが、ぽろぽろ、ぽろぽろと次々に言葉が出てくるのだ。

「生まれはこのエストヴィーレ。両親はパン屋。ヒーラーになろうと思ったのは、8歳の時に光魔法の素質があると分かったから」
「なるほど」

 一定のペースでイヴの言葉は紡がれるが、その間にようやくルカの調子も戻ってきた。

「光魔法は攻撃と回復に分かれるけど、私は回復を選んだ。それで、その回復魔法を学ぶためにデュルミエに6年留学した」

 この世界での成人は15歳。

 義務教育という考えはないが、彼女のように特定の教育機関で学ぶ平民は大体成人前後で卒業する。

 そしてそこでの成績により、王都の職に就くか、地元に帰るか。

 彼女はわざわざ留学までして、地元に帰ってきたようだ。

 ちなみに、彼女の話に出てきたデュルミエというのは、一つ別の国を挟んで北側にある宗教国家で、その国自体がこの世界で広く信仰される創世教の総本山がある国であり、信者やイヴのような回復魔法を学ぶ者達が集まる場所となっていた。

「わざわざデュルミエまで行って学んだのであれば、他の選択肢もあるのでは?」

 うちのような男爵家に来るのではなくて、宮廷の職やもっと高位の貴族に仕えた方が良いのでは?そんな意味を滲ませてルカが問う。

「地元に貢献したくて」

 どうやらUターン希望らしい。

「であれば治療院とかは?危険もありませんし」

 治療院とは、言うなれば医者だ。

 修の前世、日本でそうであったように、このノイでも医者は高給取りだった。

 そもそもが光魔法を習得できる者自体が少ない。

 さらには、そう言った人達はルカが挙げたような職に就きやすく、多くが稼ぎを求めて王都に向かう。

 そうなれば、医者の成り手の絶対数は少なくなり、売り手市場に。

 働き口などいくらでもあるという状況だった。

「治療院には、刺激が足りない」
「は?」

 また意味のわからない事を言うイヴに、困惑顔のルカ。

「一回は就職した。でも、面白くないから外を見ていたら出会った」
「な、何に?」

 彼女の面白いと思うもの。

 想像もつかずに聞き返すルカ。

 すると、彼女はカッと眠たげな目を大きく開いたかと思えば、ビシリとルカのほうを指差した。

「あなた」
「は?」

 ワタシ?

 思わぬ返しに完全に固まるルカ。

「街を破壊する暴風」
「あ、あ、あ~~~~~!!!」

 すぐに思い当たったルカは焦ったように大声を出した。

 おそらくこの場に同席しているリーナもあの出来事はファリドから聞いているかも知れないが、それでも自分の黒歴史を聞かれているような気がして誤魔化した。

「裏路地に響き渡る爆音」
「ちょ、ちょ~~~っと待とうか。その話はまた今度ね」
「なんで?」
「いや、なんでも」

 僕のライフが減るから。

 そう心の中で呟きながら、目で彼女に訴えかけるルカ。

 それを分かったのか分かってないのか、感情の読みづらい表情でイヴはこくりと頷いた。

「また、今度」
「うん、今度ね」
「で、仲間は?」
「いや、僕は断る理由もないけど…」

 自分の黒歴史な破壊活動を見て就活に来るなど想像もし得なかったが、回復職が得られるというのは願ってもない事だった。

「給料も大して出せないよ?」
「いい」

 男爵家に来るぐらいであるから、高給を求めてというのではないと思っていたが、即答だった。

「じゃあ、どんな事ができるかだけ見せてもらっても良い?」
「うん」

 こくりと小さく、しかししっかりと頷いたイヴの表情は、ほとんど変わっていないようにも見えたが、どこか自信ありげな雰囲気を放っていた。






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