ヤンキー聖者

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異世界冒険者編

ヤンキー と二人のオヤジ

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 カッッ!ドッッッゴーーーーーーン!!!

 閃光と轟音。

 およそ風魔法が生み出したとは思えない、ド派手な演出。

 風の爆弾と化したケンの魔法はそこにあった物を全て消し飛ばずかのように、一瞬収縮したかと思うと全エネルギーを解放して弾けた。

 その衝撃波は100メートルも離れているはずの門の上にも伝わり、それに煽られた何人かの隊士達が尻餅をついた。

 もくもくと熱を持っているように煙を上げる爆心地には、ゴブリンジェネラルがいたはずだが、もはやその姿は見えない。

 あまりにも強力な魔法の威力に、それを引き起こした本人すら唖然としていると、例の音声がケンの脳内に響いた。

 《魔法『風魔法(中級)』を獲得しました》
 《魔法『風魔法(上級)』を獲得しました》

「あ?」

 なんだ?と続けようとした時に、何やら上から飛来してくるものに気付き目を凝らした。

 ドチャッ。

 先ほど魔法が着弾したところから門までのちょうど間ぐらい。

 重い音を立てて落ちてきたのは大きなゴブリンジェネラルの頭だった。

「な、な、な、な………」

 普段の偉そうな態度は鳴りを顰め、ただ唖然と言葉を漏らすしかないアダン。

 自分がしゃがんで下に降りようとしていたことも忘れたのか、外壁の縁を掴んで固まってしまっていた。

「なぁ?あれゴブリンジェネラルだよな?やったのか?」

 そんな中、こんな状況を引き起こした本人はすぐに落ち着きを取り戻し、今も地面に鎮座している大きな頭部を指差していた。

「あ、あぁ。間違いなかろう」

 ケンと同じ方向を見ていたアダンが、ゆるゆると頷く。

 しかし、すぐに今の状況を思い出したのか、はっとしたように頭を跳ね上げると、頭を振って意識を切り替えた。

「私としたことが。呆けたままでは居れぬな。カミロ!森の様子はどうなっている?」

 アダンは、双眼鏡で索敵していた彼、カミロに声をかけた。

「あ、は、はい。どうやらあちらの戦闘も終わったようです。冒険者達がはぎ取り作業をしているのが見えます」
「そうか、分かった。では奴らが戻ってくるのを待つ間、こちらもゴブリン達の処理を急ごう。貴様らいつまで呆けている!動くのだ!」


 ◇


「おいおいおいおいぃ、こりゃどうなってんだ?アダンがやったのか?」

 先ほど冒険者達を取りまとめていた禿頭の巨漢が、地面に並べられた死骸のうち、頭部と腕だけになったゴブリンジェネラルのそれを見て驚いた声を上げた。

 原型を留めて門の脇に山のように積み上げられた通常のゴブリンに比べ、一部のパーツのみになってしまっているジェネラルは、その大きさも相まって目立っていた。

「いや、私ではない。それは後で詳しく話そう。それよりもそちらはどうだった?ルーカス?」

 アダンがチラリとケンの方を見ながら巨漢、ルーカスの言葉を否定する。

 そんな仕草をすればケンに何かあると言っているようなものだったが、アダンのその動きは大きなルーカスの身体が壁のようになって、他の冒険者には気付かれていないようだった。

 当然彼もアダンの視線の先を追って一瞬眉をピクリと動かしたが、すぐに切り替えたのか、何事もなかったように自分達の戦果を話し始めた。

「あぁ!四人は重症者が出ちまったが、死者ゼロで討伐できたから上等だろう。ゴブリンジェネラル二体を仕留めたところであとは逃げちまったから、まぁ、9割がたやったってぇ感じだな」

 そう言うと懐をゴソゴソと漁り、小さな紙切れを取り出すルーカス。

「あ~、それと大体になるが、ゴブリンが450、ゴブリンリーダーが30、ジェネラルはそっちで討伐したのを入れて3。素材を持って帰ったのはジェネラルだけで、あとは耳だけとって燃やしてきた」

 ゴブリンは不味くて素材も使い物にならない。

 それは誰もが知る常識だったため、普通のゴブリンは討伐部位だけ取って処分、というのが一般的な対処法だった。

 対してゴブリンジェネラルにまでなると何故か肉が美味しくなり、強靭な皮も防具などに利用できることから、討伐すれば持ち帰る、がセオリーだった。

「いやぁ、久しぶりにいい戦闘ができたぜ!」

 ガハハハハハハハ!と大きな声で笑うルーカス。

 冒険者側の最大戦力で功労者は彼だったのだろう。

 戦利品として持ち帰ったゴブリンジェネラルの巨体を嬉しそうに見ていた。

「お前ばかりが出張っていては後が育たんぞ?」
「いいだろうがぁ!?偶には俺にも運動させろ」

 ルーカスのその言葉を聞いてやれやれと呆れるアダン。

 周囲の冒険者も苦笑いだった。

「あー、マスター。そろそろいいか?俺らもさすがに疲れたぜ。ゴブリンつってもあんだけいたんだぜ?早く帰って今日の報酬で一杯やりてぇよ」

 ぬっと、どこからともなく一人の冒険者が割り込んできた。

 左ほおに大きな裂傷があり、鋭い目つきの男。

 顔以外は黒いボディスーツのようなものを身につけており、その装備と細身の短刀を腰から下げている格好はまるで忍者のようだった。

「あぁ、ダヤン。すまんすまん。この辺で解散にするか。おう!野郎どもぉ!今日は良くやってくれた。報酬の件は既に受付嬢達に話してある。今日は存分に羽目を外せやぁ!」

 ルーカスがそう宣言すると冒険者達は湧き立った。

 そして疲れていると主張していたダヤンが真っ先に見事なフォームでギルドに走っていったが、それ以外の冒険者達もそれぞれの戦利品を抱えると、足早にギルドを目指して行った。

「よぉし!じゃあ、ワシらも戻るか」

 完全に冒険者達が見えなくなったところで、自らの得物である大斧を肩に担ぐとアダンに声を掛けるルーカス。

「うむ、よかろう。騎士隊の皆もゴブリンを処理した後、解散してよし!私はルーカスと話がある。ケン。お前は私達と共に来るが良い」

 すっかり調子の戻ったアダンが、偉そうに指示を出す。

 その言い草にケンが文句を言おうとしたが、それを予測していたかのようにアダンはさっさとギルドの方に歩き始めていた。

「早くいくぞ?」

 同じようにズシズシとアダンの後を追うルーカスも、勝手にケンがついて来るものと結論付けているようだった。

「チッ!勝手なオッサンどもだ」

 二人に聞こえるようにケンは大きく舌打ちすると、ドカドカと荒い足音を立てて二人を追いかけた。

















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