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第一章
6話 レベルアップ
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「こ、これで……」
絶命したゴブリンの右耳を掴み、剣で切り取る。
ザシュッ。
温かい肉を断つ感触は、まだ慣れない。
「ふぅ……」
切れた。
脂汗の浮かんだ額を拭う。
これで倒したゴブリンの数は三匹。
最初こそかなりの苦戦を強いられたが、この個体を倒すまで、無傷でいられた。
自分が成したことながら驚きだ。
初戦前の自分に言っても、まず嘘だと信じてもらえないだろう。
とはいえ、たまたまが重なったというのもある。
向こうがこちらに気づく前に奇襲。
そんな状況を意図せず引き当て、継戦できていることが次の成果に繋がっているのだ。
「でも、なぁ……」
この調子で終わるのか?
今までは偶然。
でも、普段スポーツなんかすることもなかった俺だ。
怪我もないとはいえ、未だ3匹。
ノルマ達成の前に、先に体力が尽きてしまいそうだった。
「………………」
再度脳裏にチラつく兵士の剣。
「斬られる、よな」
兵士のあの目。
ノルマを達成せずに帰れば、なんの躊躇もなく、それこそゴブリンを狩るのと同じように……。
「いや、いやいや」
せっかくさっきの危ないところも、気合いで乗り切ったのだ。
兵士にあっけなく殺されてなるものか。
「よしっ!」
パチン。
弱気な自分を振り払うように俺は両頬を張ると、ぎゅっと、剣の柄を握り直して前に進んで行った。
◇
「うらぁ!!!」
洞窟に響く大きな声。
「グギャァァァァ!!!」
後に続くモンスターの断末魔の叫び。
「ふぅ」
力んでいた身体を弛緩させ、軽く息を吐き出した。
「ちょっとは形になってきたんじゃないか?」
そう言って自画自賛する。
確かに、一匹目を仕留めた時と比べればましという程度。
熟練者からみれば、まだまだだろう。
その証拠に、袈裟斬りにされ裂傷を負ったゴブリンの死体には、蛇行した切り傷が刻まれていた。
とはいえ、立っているのは俺だ。
一歩目標に近づいた。
それが全てである。
「それにしても………」
ーー気にならなくなってきたな。
そう呟き、今しがた倒したゴブリンの顔を見る。
何度見ても醜悪。
その事実には変わりないが、最初に感じたような恐怖や気持ち悪さはすでに薄れてきていた。
その両目は俺のほうを恨めしげに睨んだまま時を止めていたが、それを正面から見られる。
そもそも、自分以外の生き物の血をこんなにも多量に見ることすらなかった自分が、こんなギリギリの命のやり取りの上に立っている。
想像し得なかったことだ。
「俺は、俺でいられるのか……」
取れる選択肢はない。
しかし、このままこのノルマを達成し続けて良いのか。
視界を暗く、靄が覆う。
「………やめよう」
今は目の前のゴブリンを倒すしかない。
躊躇すれば、すなわち死。
それはダンジョンにおいても。
ここを出たとしても。
ならば立ちはだかるものを退け、生きるしかない。
そのためにはーー
「剥ぎ取りますか」
こちらもすでに慣れてきた耳の剥ぎ取り作業にかかろうと、俺は仰向けのまま絶命したゴブリンの右耳に手を伸ばした。
《レベルアップが確認されました。適合率上昇。生存性能、優先強化》
ーーと、誰かの声。
「は???」
さすがに予想もしていなかった事態に、伸ばしていた手を止め、辺りを見回す。
「えっと……誰か、います?」
そして周りを警戒しながら、声の聞こえてきそうな通路の先の闇に声をかけた。
「………………………」
カラカラカラ。
ダンジョンの壁面の石が、剥がれて転がる音が響く。
何も変わりはない。
「誰か説明………」
してくれ、と言おうとしたが、そんな存在の気配も全くしない。
視界に映るのは、しん、としたダンジョンの通路だけ。
「まぁ、回答なんてある訳ない、よな?」
勝手に納得した俺は、ふぅ、とため息を吐いた。
そもそも……。
「ここに連れてこられたことすら説明がないんだもんな」
超常的な力が働き、この世界に連れて来られたのは確かだ。
そうではないと諸々の事象の説明がつかない。
そして、今の声はそれに関係するのでは?
完全な勘だが、そうだろう。
勝手にそう結論付けた俺は、答えを求めるのを諦めて、とりあえず与えられた情報からのみ考えることにした。
「レベルアップ、か」
自分の知っていること通りだとすれば。
「ステータスとかが上がってるってことになるよな?」
そう呟いて、試しにとばかりに手に持つ剣を振ってみた。
シュンッ!
「お?」
もう一度。
シュン!シュン!シュン!
「お?お?お!?」
確認の意味も込めて、多めに振るった剣の風を切る音が今までと違う。
例えるならば、今までは『ブウンッ』
鈍さが感じられる音だった。
「ヤバいな」
明らかな違いに、目を剥いて自らの手を見つめる。
「これなら、いける」
正直なところ、さっきのゴブリンを倒したところで、疲労が溜まり体力的にはかなり限界に近かった。
その疲労も、今はなぜか完全に削除され、絶好調だ。
筋力や身体のキレも、明らかに上がっている。
「しゃあぁぁぁ!!!」
明日へとつながる希望を得た。
緊張に抑えつけられていた感情が弾け、俺はここがダンジョンであるというのを一瞬忘れ、大きく手を振り上げて叫んだのだった。
絶命したゴブリンの右耳を掴み、剣で切り取る。
ザシュッ。
温かい肉を断つ感触は、まだ慣れない。
「ふぅ……」
切れた。
脂汗の浮かんだ額を拭う。
これで倒したゴブリンの数は三匹。
最初こそかなりの苦戦を強いられたが、この個体を倒すまで、無傷でいられた。
自分が成したことながら驚きだ。
初戦前の自分に言っても、まず嘘だと信じてもらえないだろう。
とはいえ、たまたまが重なったというのもある。
向こうがこちらに気づく前に奇襲。
そんな状況を意図せず引き当て、継戦できていることが次の成果に繋がっているのだ。
「でも、なぁ……」
この調子で終わるのか?
今までは偶然。
でも、普段スポーツなんかすることもなかった俺だ。
怪我もないとはいえ、未だ3匹。
ノルマ達成の前に、先に体力が尽きてしまいそうだった。
「………………」
再度脳裏にチラつく兵士の剣。
「斬られる、よな」
兵士のあの目。
ノルマを達成せずに帰れば、なんの躊躇もなく、それこそゴブリンを狩るのと同じように……。
「いや、いやいや」
せっかくさっきの危ないところも、気合いで乗り切ったのだ。
兵士にあっけなく殺されてなるものか。
「よしっ!」
パチン。
弱気な自分を振り払うように俺は両頬を張ると、ぎゅっと、剣の柄を握り直して前に進んで行った。
◇
「うらぁ!!!」
洞窟に響く大きな声。
「グギャァァァァ!!!」
後に続くモンスターの断末魔の叫び。
「ふぅ」
力んでいた身体を弛緩させ、軽く息を吐き出した。
「ちょっとは形になってきたんじゃないか?」
そう言って自画自賛する。
確かに、一匹目を仕留めた時と比べればましという程度。
熟練者からみれば、まだまだだろう。
その証拠に、袈裟斬りにされ裂傷を負ったゴブリンの死体には、蛇行した切り傷が刻まれていた。
とはいえ、立っているのは俺だ。
一歩目標に近づいた。
それが全てである。
「それにしても………」
ーー気にならなくなってきたな。
そう呟き、今しがた倒したゴブリンの顔を見る。
何度見ても醜悪。
その事実には変わりないが、最初に感じたような恐怖や気持ち悪さはすでに薄れてきていた。
その両目は俺のほうを恨めしげに睨んだまま時を止めていたが、それを正面から見られる。
そもそも、自分以外の生き物の血をこんなにも多量に見ることすらなかった自分が、こんなギリギリの命のやり取りの上に立っている。
想像し得なかったことだ。
「俺は、俺でいられるのか……」
取れる選択肢はない。
しかし、このままこのノルマを達成し続けて良いのか。
視界を暗く、靄が覆う。
「………やめよう」
今は目の前のゴブリンを倒すしかない。
躊躇すれば、すなわち死。
それはダンジョンにおいても。
ここを出たとしても。
ならば立ちはだかるものを退け、生きるしかない。
そのためにはーー
「剥ぎ取りますか」
こちらもすでに慣れてきた耳の剥ぎ取り作業にかかろうと、俺は仰向けのまま絶命したゴブリンの右耳に手を伸ばした。
《レベルアップが確認されました。適合率上昇。生存性能、優先強化》
ーーと、誰かの声。
「は???」
さすがに予想もしていなかった事態に、伸ばしていた手を止め、辺りを見回す。
「えっと……誰か、います?」
そして周りを警戒しながら、声の聞こえてきそうな通路の先の闇に声をかけた。
「………………………」
カラカラカラ。
ダンジョンの壁面の石が、剥がれて転がる音が響く。
何も変わりはない。
「誰か説明………」
してくれ、と言おうとしたが、そんな存在の気配も全くしない。
視界に映るのは、しん、としたダンジョンの通路だけ。
「まぁ、回答なんてある訳ない、よな?」
勝手に納得した俺は、ふぅ、とため息を吐いた。
そもそも……。
「ここに連れてこられたことすら説明がないんだもんな」
超常的な力が働き、この世界に連れて来られたのは確かだ。
そうではないと諸々の事象の説明がつかない。
そして、今の声はそれに関係するのでは?
完全な勘だが、そうだろう。
勝手にそう結論付けた俺は、答えを求めるのを諦めて、とりあえず与えられた情報からのみ考えることにした。
「レベルアップ、か」
自分の知っていること通りだとすれば。
「ステータスとかが上がってるってことになるよな?」
そう呟いて、試しにとばかりに手に持つ剣を振ってみた。
シュンッ!
「お?」
もう一度。
シュン!シュン!シュン!
「お?お?お!?」
確認の意味も込めて、多めに振るった剣の風を切る音が今までと違う。
例えるならば、今までは『ブウンッ』
鈍さが感じられる音だった。
「ヤバいな」
明らかな違いに、目を剥いて自らの手を見つめる。
「これなら、いける」
正直なところ、さっきのゴブリンを倒したところで、疲労が溜まり体力的にはかなり限界に近かった。
その疲労も、今はなぜか完全に削除され、絶好調だ。
筋力や身体のキレも、明らかに上がっている。
「しゃあぁぁぁ!!!」
明日へとつながる希望を得た。
緊張に抑えつけられていた感情が弾け、俺はここがダンジョンであるというのを一瞬忘れ、大きく手を振り上げて叫んだのだった。
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