二つの世界、六つの瞳

buri

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第一章

13話 ゴブリン無双

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 天啓とも言える、あのアナウンスがあった後。

 俺はさっきまで受けていた毒のストレスを晴らすように、怒涛の勢いでゴブリンを狩っていった。

 毒も噛みつきも効かない。
 もはや、恐れるものはない。

 とはいえ、途中、六匹のゴブリンに囲まれた時には流石に焦った。
 が、それでも一点突破でその包囲を崩した後には俺の独壇場だった。

 剣を振れば。
 小枝を手折るように絶命するゴブリン。

 「ははっ!」
 
 また抑えきれず、声が漏れる。

 調子に乗ると、足元をすくわれる。
 痛いほど学んだはずなのに……
 
 「ふはははははは!!!」

 その苦しみが強すぎたからこそ、抑えきれない衝動が胸の奥から反射する。
 
 幸い、それをぶつけるには事欠かない。
  
 ザクッ、ザクッ。

 腕から伝わる小気味良いその振動に、唇が歪んだ。


 ◇


 「五十匹分の耳です」

 ぼたぼたぼた。
 
 汚い袋いっぱいになった、ゴブリンの耳。  
 それをこれ見よがしに、兵士の目の前に掲げた。
 ずしり、と腕に荷重が掛かるが、もはやその程度の重さも全く苦にならない。

 『さぁ!狩ってきたぞ!?』

 口には出せないが、この俺の心の声が届けとばかりに、くわっ!と目を見開き、兵士の表情をうかがったのだった。

 期待はしていない。

 でも、これだけの量だ。
 鉄仮面といえど、変化があるかも知れない……。

 ギンッ。

 そんな淡い期待が届いたのか、大きく目を見開く兵士。

 「………っ」

 射殺すように鋭く。
 それでいて、目に映るもの以外も診ているような、眼差し。

 普通であれば、恐れ、慄くところ。

 でも、俺は兵士の感情の揺らぎを見たような気がして、思わず喜びの声が漏れそうになった。

 「………………」

 相変わらず、声は発しない。
 だが、その視線は袋を見、今は俺の身体を診ている。

 「あの…………」

 大した変化ではない。
 それでも、この兵士との短い付き合いの中での初めての反応。
 つい、我慢ができなくなって言葉を発してしまった。

 「………よし」
 「え?」
 「よし」

 結局いつも通りか。
 やはりと言えばやはり。

 もとより、期待なんかしていない。
 だが、釈然としない。

 「それを置いて戻れ。今日の勤めは終了だ」

 (あ………。)

 締めの言葉を言われてしまった。
 仕方ない。

 ならば、彼が言葉すら発せないほどの成果を。
 本懐からはズレている気もするが、討伐の動機とはなる。

 そう自分に言い聞かせると、討伐成果を提出し、いつも通りに牢への通路を歩いて行った。


 ◇


 その後、加速度的に増えるノルマ。

 百、百五十、二百……。
 昨日までの数字すらかわいいものだ。

 初日からすると全く考えられない数字。
 でも、ダメージもほとんど負わないのであれば、草を刈るのと変わらない。

 それでもさすがに今日の朝、三百と言われた時には軽くめまいがした。

 が、無心でゴブリンを狩り続けた恩恵かレベルもだいぶ上がり、実現不可能ではなさそうだった。

 新たな階層を探せば?
 そんなことも考えた。

 大量にゴブリンが湧き出す別の階層。

 そんなところがあるのではないかとも思ったが、今のところ下に降りる階段とか、そんなものは見当たらない。

 ーーそもそも、ここには階層なんてあるのか?

 ただここに放り込まれた身としては分かりようもない。

 『新しい階層とかってないんですか?』

 そう兵士に聞きたいが、彼は相変わらず石像のように不動。
 会話がそもそも成立しない。

 他に誰か質問できるような人もここには見当たらないため、何かを疑問があれば彼に聞くしかないのだが。

 ……無理だ。

 今のダンジョンに潜り、出てきたゴブリンを狩るのみ。
 現状はそれしかできなかった。


 ◇


 「三百匹です」

 そんな考え事をしていたら、いつの間にか今日のノルマも終わってしまっていた。

 スキルの恩恵があるとはいえ、我ながら感心してしまうレベルだった。

 どさり。

 数日前から、兵士に渡されている袋も三つになった。

 「……………」

 最初はこの間すらも怖くて、そわそわした。
 でも今では、ぼーっと、考え事をする余裕すらある。

 「そこに入れろ」
    
 だから、兵士のその言葉に一瞬反応が遅れてしまった。

 「え…………?」
 「そこだ」

 ビシリ、と彼が指す先。
 そこには、黒い穴があった。

 いつの間にこんな。

 今まで気付いていなかっただけなのか、ダンジョンの入口からは少し離れた、この部屋の隅。
 壁面にバスケットボール大の空洞があった。

 「ここに………?」
 「入れろ」

 光すら吸い込むような黒。
 近づきたくなくて問うが、通じない。

 「……………」
 
 まず一袋。  
 恐る恐る近付けてみる。

 ぬるっ。
 袋が闇に触れた瞬間、それは消えた。

 「ひっ…………」

 その一瞬の出来事と、ような感覚に、声が漏れそうになった。
 
 これ以上、近くにいたくない。

 本能的な嫌悪感から、残りの二袋も、投げるように入れた。

 「今日の勤めは終了だ」

 その様子を黙ってみていた兵士が、すかさず言う。
 いつも通りすぎる彼に安心感はあったが、自分に今させたことについても問いたい。

 「戻れ」
 
 だが、それも叶わない。
 一瞬兵士の表情をうかがったが、すぐにぐっと言葉を飲み込み、踵を返す。

 ーーまたあの黒パンか……。

 兵士に背を向け、無理やり別のことを考えようとするが、頭に浮かぶのは変わり映えしない貧相すぎる夕食。
 彩りも何もない、灰色の食卓だった。

 はぁ……。
 なんでもいい。
 変化が欲しい。
 
 そんな事を考えていたからか。
 牢に向けて歩こうと踏み出した俺の背に、

 「明日は新しい階層だ」
 「え………?」
 
 新しい階層。
 兵士はそう言った。  

 「……………っ!」

 普通の囚人達であれば、むしろ絶望してくずおれるような場面なんだろう。
 しかし、いい加減今の状態にも飽きていたのだ。
 むしろ、嬉しささえあった。

 「それって……」
 「速やかに牢に戻れ」

 そんな感じだったので、思わず兵士に質問を飛ばしそうになるが、それを封殺するように被せるように言葉を重ねてくる。

 明日を待て。
 そう言いたいのだろう。

 「行け」

 聞きたいことはいくつも湧き上がっていたが、ぐっとそれを抑えて頷いた。

 「はい……」

 そして、今度こそ俺は牢に向けて歩いて行ったのだった。

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