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エジプト編
勧誘
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ドアはなく、壁の素材は砂。
しかし鋼鉄の様に固いそれは、砂からできているとは到底思えない強度がある。
色は白。
シミ一つない白亜の宿であった。
中を見れば、その白いキャンバスにはカラフルな壁画が描かれ、趣向を凝らした装飾が施されていた。
広間には丸テーブルがいくつも置かれ、囲んだイスほぼ全てに先遣隊のメンバーが座っている。
入口左手にはカウンターがあり、中には受付嬢らしき人が座り、何か書き物をしていた。
宿舎は街の入口付近にある。
一般客用の宿のうち、言っては悪いがあまり繁盛していない場所を先遣隊の宿舎として利用していた。
潰れかけていた宿にとっては願ったりかなったりであったのだが、人気がないのはそれだけの理由があった。
「どうだ? 不味いだろっ? ガッハッハッハッ」
飯がとにかく美味しくないのだ。
専属のコックなどはもちろんおらず、店主がコックを兼任しているのだが、腕はすこぶる悪かったのだ。
「いや、うまいです」
コウの感想は、お世辞でもなんでもなかった。
空腹は最高のスパイスであると誰が言ったか、極限まで腹の空かしたコウにとって、これ以上ないご馳走であった。
「えっ……そ、そうか。 それならよかったよ。 あ、もちろんお金は貰わないから好きなだけ食べてくれ」
宿は1日2食。
昼食は出ないにしても、基本的な代金は国が持つ為、先遣隊のメンバーは実質無料であった。
富裕層から構成されている先遣隊にとってはささいなことであるのだが。
お金がなく死活問題であるコウにとっては羨ましい限りである。
コウは掻き込むようにして飯をたいらげた。
正直言えばもう少し食べたいのだが、コウ以外には部外者はここには居らず、また外国人とあって悪目立ちし、注目を集めていた。
周りの視線が痛く、その視線を切るために上の方へと視線をずらした。
壁に描かれたものが何かはよく分からないが、意匠を凝らしたソレは、素人のコウから見ても圧倒される迫力があった。
「なかなかのもんだろう?」
と、何故か満足気なマハムード。
「おわっ!」
いつの間にか食い入るように集中していて、マハムードがいることすら忘れてしまっていたコウは、腹の底から大声を出してしまった。
「お、おう。驚かせてすまんな」
マハムード後ろには、今来たのか、集中していて気づかなかっただけなのか、とにもかくにも3人の女性が立っていた。
「い、いえ。大きな声出してすみません……」
さっと立ち上がり、コウは頭を下げた。
「いやいや。 では改めて形式的ではあるが、紹介といこうか。俺は先遣隊隊長をしているマハムードだ。で、こっちの髪が長いのがサルマ、短いのがノーラで、背が一番低いのがダニヤだ」
「サルマよ、よろしく」
サルマはニッコリと微笑むと、一歩前へと出て握手をし、また元の位置へと下がった。
「ノ、ノーラです。よろしくお願いします」
ノーラは若干緊張して面持ちで腰を45度に折った。
胸元が開いた服装で、下着がちらついている。
けして大きくはないのだが、それはそれで悪くはないなと、コウは内心に若干の興奮を覚え、しかし、視線に気づかれるのを気まずく思い、すぐに視線をずらした。
そのずらしたの先にはもう一人の女性が立っている。
ダニヤだ。
ダニヤはじっと無言のままコウの顔を見つめ、それがコウにはエロい目でみてんじゃねーよ、と無言の圧力のように感じ、いたたまれない気持ちになってしまう。
むしろ、見ていたのを見られていたことに恥ずかしくなってしまった。
しかし、ダニヤが発した言葉はか細い声量ながら、「よろしく」と、ただそれだけであり、コウはダニヤにバレていなかったとちょっとホッとしたのであった。
(……ノーラの胸…見てた……)
コウも姿勢を正し、3人へと顔を向けた。
「コウです。よろしくお願いします」
「コウか。中国の人かい?」
コウの挨拶に口を開いたのはマハムードだ。
「……えっ?いえ、日本人です」
「日本人か。こんな所へ日本人とは珍しいな。 アジア系の人は何人かいるけど、日本人は初めてじゃないかな」
マハムードは席に座りつつ話しを続けた。
「とりあえずみんなも座れ。コウも座ってくれ」
マハムードに言われるがままに全員が席に着くと、タイミングを見計らったように、ほぼ同時に受付嬢がチャイを運んできた。
湯気のたつ温かいチャイ。
コウは、内心冷たいのが良かったと思いつつも、おもてなしに感謝し、ありがたく頂くことにした。
しかし……あまい。
とにかく甘くそれでいて香辛料がパンチを効かせている。
甘すぎるくらいに甘いのだが、何故かそれがとても美味しく感じる。
温かいのも、飲み始めは暑くてダラダラと汗が止まらないのだが、その発汗作用から体がスーッと涼しさを不思議と感じるのだった。
「──まず最初に、捕まえてくれたことに感謝する」
「いえ。それはいいんですけど……あの、最後に飛び掛かってきた女性は……」
「ああ。 あの娘は国の医療機関へと送らせてもらったよ」
「えっと…、犯罪者扱いにはならなかったんですね?」
「ああ、そうだな。 あの娘は被害者だからな。 君が捕まえてくれた奴ら、あいつらに自身も家族もメチャクチャにされてしまったんだ…」
そう言うマハムードの声には怒りが多分に含まれている。
「そうですか……」
「あの娘は被害者のほんの一部だ。そして君が捕まえてくれた奴らは氷山の一角だ。
はやく…早く平和にみんな暮らせるようにしたいんだが……いかんせん、人が足りないし、こんな世の中でなかなかな……」
「そうですね……俺も協力できることがあれば……あ、あー、いや……」
コウは実際に目に触れて、話をきいて、心から協力したいと思った。
けれど、自分にはやるべきことがあり、優先すべきことを蔑ろにはできなかった。
思わず口に半分出してしまったが、すぐに思い直し誤魔化すように最後は言葉を濁した。
だが、しっかりとマハムードには聞こえていた。
「うむ。 まぁそれも含めて話をしたいんだが、まずは、謝礼金だ。 後日国から正式にいくらか貰えるからもう少し待っていてくれ」
突然のお金の話に驚き、目を開くコウ。
「そうなんですか? お金いただけるんですね……知らなかった……」
エジプトという国についてよく知らないコウは、もちろんそういった制度があることを知らない。
それに、この制度も世界が変わったことで発令されたものであり、比較的新しく、尚更コウが知るはずないわけである。
「なんだ、知らずに引き渡したのか。そうかそうか。いやー、しかしそれはいいとして、コウはノーブルなのによく倒せたな─。……その順位が実力からであるのならあり得るのか……? ……俺の知る限りでは、ノーブルで上位ランカーは難しいはずだがな。……ちなみにジョブを聞いてもいいか?」
「はい……あの、ファイターです」
『えっ?』
女性3人が驚きの声をあげ、ほぉっとマハムードは声を漏らす。
「サルマさん、ファイターって確か不遇職ですよね?」
「そうね…。そのジョブに就いている人は…たしか一人もいなかったような…」
ひそひそ話をするサルマとノーラだが、同じ席に着くコウには、もちろんだだ聞こえである。
「ノーブルのファイターでその順位とはね──。 俺の知らない何か秘密があるのか……?もしくは元々の力か?」
マハムードはぼそぼそと自問する。
「──ちなみにファイターってのは回復スキルないよな?」
「…はい、たぶん無いと思います。少なくとも今とっているスキルではないですね」
ふ~ん、とマハムードはアゴヒゲを擦りながらコウを見ている。
2度目の質問であった。
「そういえばコウは今はどうしてるんだ? 仕事は?」
聞かれたコウはハキムに説明したのと同じように話し、そのハキムとマドカが行方不明であることも伝えた。
それを聞いたサルマは、
「じゃあ、今は何もしてなくて収入がないと。その上に、お世話になっているそのハキムって人と、連れの女の子が行方不明なのね。ねぇキミ、先遣隊には興味ない?宿舎は無料で利用できるし、朝晩のごはんも出る上に毎月給金がでるわよ」
と、口角をあげる。
「──ちょ、ちょっとサルマさん!」
ノーラは目を開いて驚きの声を上げた。
「か、勧誘?……ですか?」
「ああ、今回のデススコーピオンの件でな、力不足を痛感したよ。ほんとはな、みんなの力を底あげしてからピラミッドへ挑みたいのだが…、そうもいってられなくてな。 我等の役目は軍隊が到着する前に、ある程度の内部調査をすることにある。時間がないから、力のある者をスカウトすることに決めたんだ」
すると、後ろのテーブルからガタンとイスが引かれる音がする。
それは一つではなく、いくつもの。
「マハムードさん! そんなやつ入れなくたって調査くらい俺たちだけで十分すよ! 話は聞こえてたけど、ファイターでノーブルなんて! 大方ただの運が良かっただけとかじゃないんすか。ランクだけの男ですよ!」
短く髪を刈り込まれた男が声を荒げた。
20代くらいの男である。
周りは静まり返り、マハムードの出方に注目している。
コウは、顔には出さないが、心の内で嘆息した。
広場で絡まれたと時と全く同じ事を言われたことに対して。
ノーブルとかファイターとか、運が良かっただけだとか、いちいち面倒くさい。
どいつもこいつも突っ掛かりすぎだと。
そして、納得しない者を納得させるために、必ずともいっていいほどの確率で起こりうる、この後の展開が予想できることを。
「大きな声をだすな、サイード。 彼が運だけの男じゃなかったらどうするんだ? 見た目で人を判断するなといつも言っているよな?
それに、ほんとに今のままでピラミッド調査ができるのか? もし、デススコーピオンみたいなやつがピラミッド内で現れても対処できるのか? 部下を犠牲にするのか? 」
「そ、それは…」
言葉に詰まるサイード。
「──じゃ、じゃあそいつと戦わせてくださいよ!力があるのか試させてください!」
納得できないサイードはコウを指して言う。
「……副隊長であるお前が、サイードがやればみんな納得するのか?」
「もちろんですよ!」
「ああ! もし副隊長に勝てたなら裸で町の中を走り回ってやるぜ!」
「ふん! 俺なんて、そいつの乳首にチューしてやるわっ!」
「まぁ、副隊長が負けるわけがないがなっ!」
「ちげーねーちげーねー!!」
「ガッハッハッハッ!」
マハムードの問いに周囲が沸き立った。
コウが何も言わないことを言良いことに勝手なことばかり。
「──よし、じゃあ、砂漠で模擬戦といこうか」
コウは予想通りの展開に肩を落とした。
入るとも何も言っていないのに、勝手に力試しという展開。
今度は隠そうともしなかったため、明らかに顔には面倒だと書かれおり、みんなに聞こえるように盛大に溜息をついたのだった。
しかし鋼鉄の様に固いそれは、砂からできているとは到底思えない強度がある。
色は白。
シミ一つない白亜の宿であった。
中を見れば、その白いキャンバスにはカラフルな壁画が描かれ、趣向を凝らした装飾が施されていた。
広間には丸テーブルがいくつも置かれ、囲んだイスほぼ全てに先遣隊のメンバーが座っている。
入口左手にはカウンターがあり、中には受付嬢らしき人が座り、何か書き物をしていた。
宿舎は街の入口付近にある。
一般客用の宿のうち、言っては悪いがあまり繁盛していない場所を先遣隊の宿舎として利用していた。
潰れかけていた宿にとっては願ったりかなったりであったのだが、人気がないのはそれだけの理由があった。
「どうだ? 不味いだろっ? ガッハッハッハッ」
飯がとにかく美味しくないのだ。
専属のコックなどはもちろんおらず、店主がコックを兼任しているのだが、腕はすこぶる悪かったのだ。
「いや、うまいです」
コウの感想は、お世辞でもなんでもなかった。
空腹は最高のスパイスであると誰が言ったか、極限まで腹の空かしたコウにとって、これ以上ないご馳走であった。
「えっ……そ、そうか。 それならよかったよ。 あ、もちろんお金は貰わないから好きなだけ食べてくれ」
宿は1日2食。
昼食は出ないにしても、基本的な代金は国が持つ為、先遣隊のメンバーは実質無料であった。
富裕層から構成されている先遣隊にとってはささいなことであるのだが。
お金がなく死活問題であるコウにとっては羨ましい限りである。
コウは掻き込むようにして飯をたいらげた。
正直言えばもう少し食べたいのだが、コウ以外には部外者はここには居らず、また外国人とあって悪目立ちし、注目を集めていた。
周りの視線が痛く、その視線を切るために上の方へと視線をずらした。
壁に描かれたものが何かはよく分からないが、意匠を凝らしたソレは、素人のコウから見ても圧倒される迫力があった。
「なかなかのもんだろう?」
と、何故か満足気なマハムード。
「おわっ!」
いつの間にか食い入るように集中していて、マハムードがいることすら忘れてしまっていたコウは、腹の底から大声を出してしまった。
「お、おう。驚かせてすまんな」
マハムード後ろには、今来たのか、集中していて気づかなかっただけなのか、とにもかくにも3人の女性が立っていた。
「い、いえ。大きな声出してすみません……」
さっと立ち上がり、コウは頭を下げた。
「いやいや。 では改めて形式的ではあるが、紹介といこうか。俺は先遣隊隊長をしているマハムードだ。で、こっちの髪が長いのがサルマ、短いのがノーラで、背が一番低いのがダニヤだ」
「サルマよ、よろしく」
サルマはニッコリと微笑むと、一歩前へと出て握手をし、また元の位置へと下がった。
「ノ、ノーラです。よろしくお願いします」
ノーラは若干緊張して面持ちで腰を45度に折った。
胸元が開いた服装で、下着がちらついている。
けして大きくはないのだが、それはそれで悪くはないなと、コウは内心に若干の興奮を覚え、しかし、視線に気づかれるのを気まずく思い、すぐに視線をずらした。
そのずらしたの先にはもう一人の女性が立っている。
ダニヤだ。
ダニヤはじっと無言のままコウの顔を見つめ、それがコウにはエロい目でみてんじゃねーよ、と無言の圧力のように感じ、いたたまれない気持ちになってしまう。
むしろ、見ていたのを見られていたことに恥ずかしくなってしまった。
しかし、ダニヤが発した言葉はか細い声量ながら、「よろしく」と、ただそれだけであり、コウはダニヤにバレていなかったとちょっとホッとしたのであった。
(……ノーラの胸…見てた……)
コウも姿勢を正し、3人へと顔を向けた。
「コウです。よろしくお願いします」
「コウか。中国の人かい?」
コウの挨拶に口を開いたのはマハムードだ。
「……えっ?いえ、日本人です」
「日本人か。こんな所へ日本人とは珍しいな。 アジア系の人は何人かいるけど、日本人は初めてじゃないかな」
マハムードは席に座りつつ話しを続けた。
「とりあえずみんなも座れ。コウも座ってくれ」
マハムードに言われるがままに全員が席に着くと、タイミングを見計らったように、ほぼ同時に受付嬢がチャイを運んできた。
湯気のたつ温かいチャイ。
コウは、内心冷たいのが良かったと思いつつも、おもてなしに感謝し、ありがたく頂くことにした。
しかし……あまい。
とにかく甘くそれでいて香辛料がパンチを効かせている。
甘すぎるくらいに甘いのだが、何故かそれがとても美味しく感じる。
温かいのも、飲み始めは暑くてダラダラと汗が止まらないのだが、その発汗作用から体がスーッと涼しさを不思議と感じるのだった。
「──まず最初に、捕まえてくれたことに感謝する」
「いえ。それはいいんですけど……あの、最後に飛び掛かってきた女性は……」
「ああ。 あの娘は国の医療機関へと送らせてもらったよ」
「えっと…、犯罪者扱いにはならなかったんですね?」
「ああ、そうだな。 あの娘は被害者だからな。 君が捕まえてくれた奴ら、あいつらに自身も家族もメチャクチャにされてしまったんだ…」
そう言うマハムードの声には怒りが多分に含まれている。
「そうですか……」
「あの娘は被害者のほんの一部だ。そして君が捕まえてくれた奴らは氷山の一角だ。
はやく…早く平和にみんな暮らせるようにしたいんだが……いかんせん、人が足りないし、こんな世の中でなかなかな……」
「そうですね……俺も協力できることがあれば……あ、あー、いや……」
コウは実際に目に触れて、話をきいて、心から協力したいと思った。
けれど、自分にはやるべきことがあり、優先すべきことを蔑ろにはできなかった。
思わず口に半分出してしまったが、すぐに思い直し誤魔化すように最後は言葉を濁した。
だが、しっかりとマハムードには聞こえていた。
「うむ。 まぁそれも含めて話をしたいんだが、まずは、謝礼金だ。 後日国から正式にいくらか貰えるからもう少し待っていてくれ」
突然のお金の話に驚き、目を開くコウ。
「そうなんですか? お金いただけるんですね……知らなかった……」
エジプトという国についてよく知らないコウは、もちろんそういった制度があることを知らない。
それに、この制度も世界が変わったことで発令されたものであり、比較的新しく、尚更コウが知るはずないわけである。
「なんだ、知らずに引き渡したのか。そうかそうか。いやー、しかしそれはいいとして、コウはノーブルなのによく倒せたな─。……その順位が実力からであるのならあり得るのか……? ……俺の知る限りでは、ノーブルで上位ランカーは難しいはずだがな。……ちなみにジョブを聞いてもいいか?」
「はい……あの、ファイターです」
『えっ?』
女性3人が驚きの声をあげ、ほぉっとマハムードは声を漏らす。
「サルマさん、ファイターって確か不遇職ですよね?」
「そうね…。そのジョブに就いている人は…たしか一人もいなかったような…」
ひそひそ話をするサルマとノーラだが、同じ席に着くコウには、もちろんだだ聞こえである。
「ノーブルのファイターでその順位とはね──。 俺の知らない何か秘密があるのか……?もしくは元々の力か?」
マハムードはぼそぼそと自問する。
「──ちなみにファイターってのは回復スキルないよな?」
「…はい、たぶん無いと思います。少なくとも今とっているスキルではないですね」
ふ~ん、とマハムードはアゴヒゲを擦りながらコウを見ている。
2度目の質問であった。
「そういえばコウは今はどうしてるんだ? 仕事は?」
聞かれたコウはハキムに説明したのと同じように話し、そのハキムとマドカが行方不明であることも伝えた。
それを聞いたサルマは、
「じゃあ、今は何もしてなくて収入がないと。その上に、お世話になっているそのハキムって人と、連れの女の子が行方不明なのね。ねぇキミ、先遣隊には興味ない?宿舎は無料で利用できるし、朝晩のごはんも出る上に毎月給金がでるわよ」
と、口角をあげる。
「──ちょ、ちょっとサルマさん!」
ノーラは目を開いて驚きの声を上げた。
「か、勧誘?……ですか?」
「ああ、今回のデススコーピオンの件でな、力不足を痛感したよ。ほんとはな、みんなの力を底あげしてからピラミッドへ挑みたいのだが…、そうもいってられなくてな。 我等の役目は軍隊が到着する前に、ある程度の内部調査をすることにある。時間がないから、力のある者をスカウトすることに決めたんだ」
すると、後ろのテーブルからガタンとイスが引かれる音がする。
それは一つではなく、いくつもの。
「マハムードさん! そんなやつ入れなくたって調査くらい俺たちだけで十分すよ! 話は聞こえてたけど、ファイターでノーブルなんて! 大方ただの運が良かっただけとかじゃないんすか。ランクだけの男ですよ!」
短く髪を刈り込まれた男が声を荒げた。
20代くらいの男である。
周りは静まり返り、マハムードの出方に注目している。
コウは、顔には出さないが、心の内で嘆息した。
広場で絡まれたと時と全く同じ事を言われたことに対して。
ノーブルとかファイターとか、運が良かっただけだとか、いちいち面倒くさい。
どいつもこいつも突っ掛かりすぎだと。
そして、納得しない者を納得させるために、必ずともいっていいほどの確率で起こりうる、この後の展開が予想できることを。
「大きな声をだすな、サイード。 彼が運だけの男じゃなかったらどうするんだ? 見た目で人を判断するなといつも言っているよな?
それに、ほんとに今のままでピラミッド調査ができるのか? もし、デススコーピオンみたいなやつがピラミッド内で現れても対処できるのか? 部下を犠牲にするのか? 」
「そ、それは…」
言葉に詰まるサイード。
「──じゃ、じゃあそいつと戦わせてくださいよ!力があるのか試させてください!」
納得できないサイードはコウを指して言う。
「……副隊長であるお前が、サイードがやればみんな納得するのか?」
「もちろんですよ!」
「ああ! もし副隊長に勝てたなら裸で町の中を走り回ってやるぜ!」
「ふん! 俺なんて、そいつの乳首にチューしてやるわっ!」
「まぁ、副隊長が負けるわけがないがなっ!」
「ちげーねーちげーねー!!」
「ガッハッハッハッ!」
マハムードの問いに周囲が沸き立った。
コウが何も言わないことを言良いことに勝手なことばかり。
「──よし、じゃあ、砂漠で模擬戦といこうか」
コウは予想通りの展開に肩を落とした。
入るとも何も言っていないのに、勝手に力試しという展開。
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