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エジプト編
デュエル
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「"白装束の回復師"なんてほんとにいるのかね?」
「いるいる。俺、見たし!というかね、あの広場にいて回復してもらったのよ!
モンスターが出たときさ、もう怖くて急いで逃げようとしたわけ。
んでさ、情けない話、おもいっきり足挫いたんだけど、すぐに痛くなくなったのよ。 しっかも全くね」
「ほんとか? 最初からあまり痛くなかったんじゃない?」
「いやいや、ほんとに痛かったわ!
なんかね、光に包まれたらさ、スーッと痛みが引いちまったのよ。一瞬よ、一瞬。
……でもさ、何か今思えば夢だったような気もするんだよね……。
相当な人数がいたじゃん?それが全員だぜ?
しかも、体を貫かれたヤツも元気になったらしいんだけど、それなんて移植レベルだぜ?超重傷者だよ。
それすらも一瞬だもんな…」
「……まじかよ。
神の力だな……。
そんなスキルの使えるジョブないよな?
──あ、もしかして新手のジョブなのか?」
「いやいや……ないだろそれは。このゲームにそんな回復できるジョブが出たら、他の回復系なんてカスになっちゃうし。
ぶっ壊れ性能すぎでしょ!
……しかし、そんなやつが本当にいるなら───」
コウのことが街の至るところで噂されていた。
この男二人も正にその会話中だった。
すると、そこへ一人の男が通りかかった。
二人の会話が耳に入り、足を止めた。
「あの、すみません! その話を詳しく聞かせてもらってもいいです?」
──数分後、話を聞き終えた男は、逸る気持ちを抑えて来た道を戻っていったのだった。
┼┼┼
気温50度。
無風で照りつける太陽は体感温度をさらに上げていく。
街から少し離れたここには短い草が生え、すぐ傍には湖が広がっている。
地面は固く、柔らかい砂地ではない。
いくつかのヤシの木のような樹木も見えるここは、砂漠のオアシスだ。
「──では、これより先遣隊副隊長サイードとコウのデュエルを始める。取り仕切るは先遣隊隊長のマハムードだ。
まずはルールからだ。
二人とも知ってるとは思うが、一応説明しとくぞ。
デュエルはヴリュードを起動し、ホログラムによるドーム型半円状仮想空間をここに造り、その中での戦闘となる。
周囲の現実環境を認識し、それを仮想空間に作用させている。
戦闘を行うのは仮想体だ。
だから本当に傷を負うことはないから手加減は無用。
勝利条件は相手を戦闘不能にするか、自ら降参を選択した場合とする。いいな?」
サイードとコウはお互いの目を合わせたまま頷く。
「よし。では、デュエルを承諾し、ドーム起動後お互いにドームの外へ。
仮想体の準備でき次第カウント20秒後に試合開始だ。
あ、一ついい忘れたがコウが勝利してもランキングに変動はないからな」
すまん、と続けながらもマハムードの顔には謝罪の色は全くない。
コウのほうがサイードよりもランキングは上だった。
ランキング上位のコウがサイードに勝利しようとも変動はないのだ。
とはいえ、コウはランキングに執着も興味もなかった。
だから、ランキングに関してはどうでもいい。
が、先遣隊に入るとも決めた訳でもなく、あまり時間もないのに、勝手に模擬戦を決められてしまったこの状況に腑が落ちなかった。
コウのヴリュードから液晶画面が目の前にポップした。
《デュエルを受け付けますか? はい いいえ》と、表示される。
もちろんサイードからの申し込みだ。
コウは仕方なく《はい》を選択する。
正直、《いいえ》を押してやろうかとも一瞬頭を過ったのだが。
すると、二人を囲うように光のドームが形成される。
と、同時に二人は背を向け反対方向に歩き始めた。
本体が仮想空間から出ると、ドームの中心にコウとサイードの仮想体が出現した。
頭上にはカウント20が表示されている。
まだカウントダウンはしていない。
お互いの距離は数メートルといったところだ。
そして、二人の意識が仮想体へと移った瞬間、カウントが開始した。
電子音と共に数字が減少していく。
その時間は何故だか長く感じる。
そして4…3…2───コウは0という数字を視界の端に捉えた。
その瞬間、硬直していた体が動き出す。
刹那。
サイードの身体がコウの懐へと潜り込んだ。
「───!!」
「はぁッ!」
居合い切り。
頭を狙った横一線。
しかし、バク転をする事で躱したコウが、そのままサイードの右手に握られている細身の剣を蹴り上げた。
剣は宙に跳ねるが、それをサイードは身体強化魔法を足に纏い跳躍し、追いかける。
コウはその発動の速さに感心しつつも、サイードを追いかける様にして跳躍した。
コウは強化無しのままだが。
「───なっ!!」
先に跳んだはずのサイードに追い付くコウ。
サイードは、驚きに一瞬体を強ばらせるが、力任せに空中で掴んだ剣を振り下ろした。
しかし、硬直は一瞬といえど、命取りのスキだ。
目で追える刀身をコウは手の甲で弾き、そのまま体を捻り回し蹴りを放った。
側頭部へと鈍い音をたて、サイードは吹き飛ばされる。
コウは、地面に足が着くと同時に疾駆する。
そして、ヨロヨロと起き上がるサイードの懐へ入ると魔闘気を右腕に集め、とどめのスキルを放つ。
「正拳突きっ!!」
「ぐほぉっ」
サイードの腹へと叩き込んだ。
体をくの字に曲げ吹き飛ぶサイード。
そして、その体が地面に着くことはなく、空中で光の粒子となり霧散したのだった。
「そこまで!」
マハムードの声が辺りへと響き渡る。
けたたましい音量のファンファーレと共に、コウの頭上には《WIN》の文字がクルクルと横回転していた。
そして数瞬後、デュエルの終わりを告げるように、ドームは頂点から波紋が広がるように消えていった。
ドームと共に仮想体も消えると、何事もなかったかのように、元の静寂がコウとサイードを中心に包み込んでいた。
「では、これで文句はないな?サイードよ」
「くっ、わかりましたよ……。何なんだよお前…。 ファイターってあんな威力出せんのか? 」
と、額に汗を滲ませ苦虫を噛み潰した様な顔をするサイード。
「いやー……、どうなんでしょうかね。 俺も他のファイターを見たことがないので……」
「たしかに威力はあったな。 なあ、他にもスキルあるんだろ?」
口を挟んできたのはマハムードだ。
「ええ、まぁ…そうですね…」
「よし、じゃあ次は俺とやるか!まだまだ大丈夫だろ? 時間的にも体力的にも」
そう言いつつ、マハムードは既にヴリュードを操作している。
ワクワクした子供のような顔つきになっている。
「えっ……、連戦ですか?」
さすかにコウもその展開には驚きを隠せなかった。
サイードとの戦いで、既に隊員もコウの力を認め、これ以上模擬戦をする意味がなかった。
「また隊長の悪い癖だ」と、溜め息を吐き出すノーラ。
ノーラはマハムードとコウの間に入り、マハムードを止めるよう説得しようした。
しかし、コウは、目の前に立ち背中を向けているノーラの肩に手を置き、「大丈夫ですよ、やりますよ」と、マハムードからのデュエルを承諾したのだ。
結局ここで断ったとしても、遅かれ早かれマハムードとはやることになる気がした。
マハムードからは戦いたくてウズウズしているのが見てとれたから。
それはもう一目瞭然といえた。
「そうこなくちゃ」と、戦闘狂のマハムードは満面の笑顔になる。
サルマは離れた場所でニコニコとし、隣のダニヤはフードを目深に被りその表情は分からない。
お互いの準備が整い、20秒カウントが開始された。
──3
──2
──1
──0
しかし、二人とも動かない。
「来ないのか? こないなら俺からいくぞっ!火炎弾」
通常、ファイアーボールは一つを飛ばすものである。
が、マハムードは20個の火炎の弾を発現させた。
「──おいおい、なんちゅー数だよ! しかも、詠唱破棄かよ」
そう言いつつもコウの表情には焦り一つない。
とはいえ、マハムードの実力には素直に称賛した。
(…20%でいいかな)
コウは力を解放する。
──力とは大層な言い方ではあるが、特別な力なわけではない。
この星に来た時、何故か飛躍的に身体能力が上がってしまったのだ。
コウは普段、それを抑えて生活しているのである。
迫る炎の爆撃。
右に左に動き、跳躍し、全てを躱していく。
コウは、難なく、ヒヤッとする場面もなく対処していった。
マハムードは驚嘆した。
そして、目の当たりにするコウの実力が嬉しい誤算であったことに、さらにファイアーボールを追加していった。
その数は増していき、マハムードの限界数である60個へと到達した。
激しい爆撃音。
炎と砂煙に視界は悪くなる。
ドーム内が火の海で溢れ返り、逃げ場はない。
しかし。
やったか?と見物している全員が思った瞬間、影が炎と煙の中から飛び出した。
傷一つない。
そして、目で捉えるのが難しい速さでマハムードの背後へ回ると、回し蹴りを放った。
辛うじて抜いた剣の腹で受けるマハムード。
ただの蹴りとは思えない重さで、衝撃が剣から手へと伝わる。
さらに、コウはその遠心力を利用し、後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
耐えきれず、剣が吹き飛ぶ。
マハムードは、剣を握っていた利き手が痺れ、このままではまずいと十八番を発動した。
「───火焔剣」
詠唱破棄ゆえに、威力はデススコーピオンの時よりは弱い。
が、それでも一瞬で人を炭化させる温度だ。
武器を持たないコウには避けることでしか戦えない。
触れることは、即負けに繋がるといえた。
(もう少し解放するか──)
トーントーンとその場で跳ねるコウ。
数回上下したかと思うと、地面につま先が着いた瞬間、ブンと体がブレる。
そして、姿が一瞬にして消えた。
「────!」
マハムードは目で追うことができなかった。
刹那。
戦闘経験の勘ともいうべきか、本能が頭に警鐘を鳴らした。
ほとんど無意識に剣を後ろへ振るう。
が、そこにはいなかった。
いや、後ろにはいたが、既にコウは避けるようにしてしゃがんでいた。
そして、急かさずマハムードへと足払いをかける。
足の骨が折れる威力の足払いだ。
マハムードは、メキメキと足首の骨が砕ける音が脳へと響くのが聞こえた。
仮想体ではあるが、痛みも衝撃も全てがリアルに感じる。
「ぐあぁ──!!」
火焔剣は維持できずに霧散してしまう。
倒れたマハムードは、追撃を躱すためそのままゴロゴロと横へと転がった。
そして、すぐに周囲を確認する。
「……まだ続けますか?」
コウはその場から動いていなかった。
立ったままマハムードを見下ろし、戦闘の意思を確認する。
「──いやー、まいった! 完敗だ」
結局、マハムードはコウの足払い一つで負けてしまった。
追撃をすれば意思の確認をする必要もなく勝利することもできたのに。
コウは敢えてそれをしなかった。
マハムードは、"降参"を選択。
するとすぐに、光の粒子となりマハムードは消えていった。
けたたましい音量のファンファーレと共に、《WIN》の文字を頭上に掲げたコウを残して。
「いるいる。俺、見たし!というかね、あの広場にいて回復してもらったのよ!
モンスターが出たときさ、もう怖くて急いで逃げようとしたわけ。
んでさ、情けない話、おもいっきり足挫いたんだけど、すぐに痛くなくなったのよ。 しっかも全くね」
「ほんとか? 最初からあまり痛くなかったんじゃない?」
「いやいや、ほんとに痛かったわ!
なんかね、光に包まれたらさ、スーッと痛みが引いちまったのよ。一瞬よ、一瞬。
……でもさ、何か今思えば夢だったような気もするんだよね……。
相当な人数がいたじゃん?それが全員だぜ?
しかも、体を貫かれたヤツも元気になったらしいんだけど、それなんて移植レベルだぜ?超重傷者だよ。
それすらも一瞬だもんな…」
「……まじかよ。
神の力だな……。
そんなスキルの使えるジョブないよな?
──あ、もしかして新手のジョブなのか?」
「いやいや……ないだろそれは。このゲームにそんな回復できるジョブが出たら、他の回復系なんてカスになっちゃうし。
ぶっ壊れ性能すぎでしょ!
……しかし、そんなやつが本当にいるなら───」
コウのことが街の至るところで噂されていた。
この男二人も正にその会話中だった。
すると、そこへ一人の男が通りかかった。
二人の会話が耳に入り、足を止めた。
「あの、すみません! その話を詳しく聞かせてもらってもいいです?」
──数分後、話を聞き終えた男は、逸る気持ちを抑えて来た道を戻っていったのだった。
┼┼┼
気温50度。
無風で照りつける太陽は体感温度をさらに上げていく。
街から少し離れたここには短い草が生え、すぐ傍には湖が広がっている。
地面は固く、柔らかい砂地ではない。
いくつかのヤシの木のような樹木も見えるここは、砂漠のオアシスだ。
「──では、これより先遣隊副隊長サイードとコウのデュエルを始める。取り仕切るは先遣隊隊長のマハムードだ。
まずはルールからだ。
二人とも知ってるとは思うが、一応説明しとくぞ。
デュエルはヴリュードを起動し、ホログラムによるドーム型半円状仮想空間をここに造り、その中での戦闘となる。
周囲の現実環境を認識し、それを仮想空間に作用させている。
戦闘を行うのは仮想体だ。
だから本当に傷を負うことはないから手加減は無用。
勝利条件は相手を戦闘不能にするか、自ら降参を選択した場合とする。いいな?」
サイードとコウはお互いの目を合わせたまま頷く。
「よし。では、デュエルを承諾し、ドーム起動後お互いにドームの外へ。
仮想体の準備でき次第カウント20秒後に試合開始だ。
あ、一ついい忘れたがコウが勝利してもランキングに変動はないからな」
すまん、と続けながらもマハムードの顔には謝罪の色は全くない。
コウのほうがサイードよりもランキングは上だった。
ランキング上位のコウがサイードに勝利しようとも変動はないのだ。
とはいえ、コウはランキングに執着も興味もなかった。
だから、ランキングに関してはどうでもいい。
が、先遣隊に入るとも決めた訳でもなく、あまり時間もないのに、勝手に模擬戦を決められてしまったこの状況に腑が落ちなかった。
コウのヴリュードから液晶画面が目の前にポップした。
《デュエルを受け付けますか? はい いいえ》と、表示される。
もちろんサイードからの申し込みだ。
コウは仕方なく《はい》を選択する。
正直、《いいえ》を押してやろうかとも一瞬頭を過ったのだが。
すると、二人を囲うように光のドームが形成される。
と、同時に二人は背を向け反対方向に歩き始めた。
本体が仮想空間から出ると、ドームの中心にコウとサイードの仮想体が出現した。
頭上にはカウント20が表示されている。
まだカウントダウンはしていない。
お互いの距離は数メートルといったところだ。
そして、二人の意識が仮想体へと移った瞬間、カウントが開始した。
電子音と共に数字が減少していく。
その時間は何故だか長く感じる。
そして4…3…2───コウは0という数字を視界の端に捉えた。
その瞬間、硬直していた体が動き出す。
刹那。
サイードの身体がコウの懐へと潜り込んだ。
「───!!」
「はぁッ!」
居合い切り。
頭を狙った横一線。
しかし、バク転をする事で躱したコウが、そのままサイードの右手に握られている細身の剣を蹴り上げた。
剣は宙に跳ねるが、それをサイードは身体強化魔法を足に纏い跳躍し、追いかける。
コウはその発動の速さに感心しつつも、サイードを追いかける様にして跳躍した。
コウは強化無しのままだが。
「───なっ!!」
先に跳んだはずのサイードに追い付くコウ。
サイードは、驚きに一瞬体を強ばらせるが、力任せに空中で掴んだ剣を振り下ろした。
しかし、硬直は一瞬といえど、命取りのスキだ。
目で追える刀身をコウは手の甲で弾き、そのまま体を捻り回し蹴りを放った。
側頭部へと鈍い音をたて、サイードは吹き飛ばされる。
コウは、地面に足が着くと同時に疾駆する。
そして、ヨロヨロと起き上がるサイードの懐へ入ると魔闘気を右腕に集め、とどめのスキルを放つ。
「正拳突きっ!!」
「ぐほぉっ」
サイードの腹へと叩き込んだ。
体をくの字に曲げ吹き飛ぶサイード。
そして、その体が地面に着くことはなく、空中で光の粒子となり霧散したのだった。
「そこまで!」
マハムードの声が辺りへと響き渡る。
けたたましい音量のファンファーレと共に、コウの頭上には《WIN》の文字がクルクルと横回転していた。
そして数瞬後、デュエルの終わりを告げるように、ドームは頂点から波紋が広がるように消えていった。
ドームと共に仮想体も消えると、何事もなかったかのように、元の静寂がコウとサイードを中心に包み込んでいた。
「では、これで文句はないな?サイードよ」
「くっ、わかりましたよ……。何なんだよお前…。 ファイターってあんな威力出せんのか? 」
と、額に汗を滲ませ苦虫を噛み潰した様な顔をするサイード。
「いやー……、どうなんでしょうかね。 俺も他のファイターを見たことがないので……」
「たしかに威力はあったな。 なあ、他にもスキルあるんだろ?」
口を挟んできたのはマハムードだ。
「ええ、まぁ…そうですね…」
「よし、じゃあ次は俺とやるか!まだまだ大丈夫だろ? 時間的にも体力的にも」
そう言いつつ、マハムードは既にヴリュードを操作している。
ワクワクした子供のような顔つきになっている。
「えっ……、連戦ですか?」
さすかにコウもその展開には驚きを隠せなかった。
サイードとの戦いで、既に隊員もコウの力を認め、これ以上模擬戦をする意味がなかった。
「また隊長の悪い癖だ」と、溜め息を吐き出すノーラ。
ノーラはマハムードとコウの間に入り、マハムードを止めるよう説得しようした。
しかし、コウは、目の前に立ち背中を向けているノーラの肩に手を置き、「大丈夫ですよ、やりますよ」と、マハムードからのデュエルを承諾したのだ。
結局ここで断ったとしても、遅かれ早かれマハムードとはやることになる気がした。
マハムードからは戦いたくてウズウズしているのが見てとれたから。
それはもう一目瞭然といえた。
「そうこなくちゃ」と、戦闘狂のマハムードは満面の笑顔になる。
サルマは離れた場所でニコニコとし、隣のダニヤはフードを目深に被りその表情は分からない。
お互いの準備が整い、20秒カウントが開始された。
──3
──2
──1
──0
しかし、二人とも動かない。
「来ないのか? こないなら俺からいくぞっ!火炎弾」
通常、ファイアーボールは一つを飛ばすものである。
が、マハムードは20個の火炎の弾を発現させた。
「──おいおい、なんちゅー数だよ! しかも、詠唱破棄かよ」
そう言いつつもコウの表情には焦り一つない。
とはいえ、マハムードの実力には素直に称賛した。
(…20%でいいかな)
コウは力を解放する。
──力とは大層な言い方ではあるが、特別な力なわけではない。
この星に来た時、何故か飛躍的に身体能力が上がってしまったのだ。
コウは普段、それを抑えて生活しているのである。
迫る炎の爆撃。
右に左に動き、跳躍し、全てを躱していく。
コウは、難なく、ヒヤッとする場面もなく対処していった。
マハムードは驚嘆した。
そして、目の当たりにするコウの実力が嬉しい誤算であったことに、さらにファイアーボールを追加していった。
その数は増していき、マハムードの限界数である60個へと到達した。
激しい爆撃音。
炎と砂煙に視界は悪くなる。
ドーム内が火の海で溢れ返り、逃げ場はない。
しかし。
やったか?と見物している全員が思った瞬間、影が炎と煙の中から飛び出した。
傷一つない。
そして、目で捉えるのが難しい速さでマハムードの背後へ回ると、回し蹴りを放った。
辛うじて抜いた剣の腹で受けるマハムード。
ただの蹴りとは思えない重さで、衝撃が剣から手へと伝わる。
さらに、コウはその遠心力を利用し、後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
耐えきれず、剣が吹き飛ぶ。
マハムードは、剣を握っていた利き手が痺れ、このままではまずいと十八番を発動した。
「───火焔剣」
詠唱破棄ゆえに、威力はデススコーピオンの時よりは弱い。
が、それでも一瞬で人を炭化させる温度だ。
武器を持たないコウには避けることでしか戦えない。
触れることは、即負けに繋がるといえた。
(もう少し解放するか──)
トーントーンとその場で跳ねるコウ。
数回上下したかと思うと、地面につま先が着いた瞬間、ブンと体がブレる。
そして、姿が一瞬にして消えた。
「────!」
マハムードは目で追うことができなかった。
刹那。
戦闘経験の勘ともいうべきか、本能が頭に警鐘を鳴らした。
ほとんど無意識に剣を後ろへ振るう。
が、そこにはいなかった。
いや、後ろにはいたが、既にコウは避けるようにしてしゃがんでいた。
そして、急かさずマハムードへと足払いをかける。
足の骨が折れる威力の足払いだ。
マハムードは、メキメキと足首の骨が砕ける音が脳へと響くのが聞こえた。
仮想体ではあるが、痛みも衝撃も全てがリアルに感じる。
「ぐあぁ──!!」
火焔剣は維持できずに霧散してしまう。
倒れたマハムードは、追撃を躱すためそのままゴロゴロと横へと転がった。
そして、すぐに周囲を確認する。
「……まだ続けますか?」
コウはその場から動いていなかった。
立ったままマハムードを見下ろし、戦闘の意思を確認する。
「──いやー、まいった! 完敗だ」
結局、マハムードはコウの足払い一つで負けてしまった。
追撃をすれば意思の確認をする必要もなく勝利することもできたのに。
コウは敢えてそれをしなかった。
マハムードは、"降参"を選択。
するとすぐに、光の粒子となりマハムードは消えていった。
けたたましい音量のファンファーレと共に、《WIN》の文字を頭上に掲げたコウを残して。
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