56 / 84
扇町中学編
尾道物語
しおりを挟む
ちょうどその頃、新聞配達に都合をつけて尾道へ出かけた僕とクマは、村上、越智、花村の3人とともに尾道の階段から遥かな海を眺めていた。
「きついな。この階段!」
「あれ、津山やクマくんでも?」
「ああ、こんなところで新聞配達する人は大変だろうな。」
尾道の階段をてっぺんまで登り終えた後、僕たちはひと言ずつ海に向かって叫んだ。
「彼女ほしー!」クマだった。大受けだった。
「鬼ちゃんってよぶなー!」越智さんだった。その後彼女は「冗談よ。本気にしないで。」と微笑んだ。
「もう転校嫌だー!」これは僕だった。これを聞いた村上は少し複雑な表情をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「天下を取るぞー!」これは村上だった。「天下ってなんだよ。」みんなあれやこれやと詮索したが、彼女はニコニコしているだけだった。
「何かネタくれー!叫ぶことがねぇっちゃー!」花村さん。
「あんまりみんな面白くないなぁ」「しょうがないっちゃ。男子がいるけぇ。アンタ達といえど。」村上は容赦がなかったが、いつもの調子に戻ってくれてホッとしたのも事実だった。「女同士なら、本音で叫ぶけぇ。」花村もたたみかける。「次は女の子だけで来ようか」鬼姫も笑う。
冬の陽の落ちるのは早い。北風が強くなる頃、僕と村上がなんとなく階段の下の方で足を止めた。他3人は階段の上の方にいる。
「遠泳大会の後、俺が恥をかくべきだったな。村上に助けてもらっただけじゃなく、恥をかかせてすまなかった。ごめんなぁ。」
僕は村上の長身のシルエットを前に、彼女だけに聞こえるように言った。
「そんな事、…今更言わないでいいけぇ。」
村上は僕に向けてその一言を放った。
「そして、もうあの時のことを気にしないで。」
彼女は重ねて言った。
『私が、津山に対して人工呼吸したとか、抱きついたとかって噂、…決して嫌だったわけじゃないちゃ。その意味、わかるよね』
彼女は決して口に出せない想いで胸がいっぱいだった。
村上は、じっと僕の目を見ている。全く逸らすそぶりがない。
彼女の瞳は、夕日を背にして、潤んでいるように見えた。
僕は、ふと幼い日の記憶が蘇ってくるのを感じた。
ゆっこの瞳…彼女の目も、潮の香りがした。村上の瞳も、寄せてはかえす潮のような潤みを見せている。僕は慌てて、彼女から目をそらした。
夕日が沈むまで、僕達は階段で無言でたたずんでいた。
「きついな。この階段!」
「あれ、津山やクマくんでも?」
「ああ、こんなところで新聞配達する人は大変だろうな。」
尾道の階段をてっぺんまで登り終えた後、僕たちはひと言ずつ海に向かって叫んだ。
「彼女ほしー!」クマだった。大受けだった。
「鬼ちゃんってよぶなー!」越智さんだった。その後彼女は「冗談よ。本気にしないで。」と微笑んだ。
「もう転校嫌だー!」これは僕だった。これを聞いた村上は少し複雑な表情をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「天下を取るぞー!」これは村上だった。「天下ってなんだよ。」みんなあれやこれやと詮索したが、彼女はニコニコしているだけだった。
「何かネタくれー!叫ぶことがねぇっちゃー!」花村さん。
「あんまりみんな面白くないなぁ」「しょうがないっちゃ。男子がいるけぇ。アンタ達といえど。」村上は容赦がなかったが、いつもの調子に戻ってくれてホッとしたのも事実だった。「女同士なら、本音で叫ぶけぇ。」花村もたたみかける。「次は女の子だけで来ようか」鬼姫も笑う。
冬の陽の落ちるのは早い。北風が強くなる頃、僕と村上がなんとなく階段の下の方で足を止めた。他3人は階段の上の方にいる。
「遠泳大会の後、俺が恥をかくべきだったな。村上に助けてもらっただけじゃなく、恥をかかせてすまなかった。ごめんなぁ。」
僕は村上の長身のシルエットを前に、彼女だけに聞こえるように言った。
「そんな事、…今更言わないでいいけぇ。」
村上は僕に向けてその一言を放った。
「そして、もうあの時のことを気にしないで。」
彼女は重ねて言った。
『私が、津山に対して人工呼吸したとか、抱きついたとかって噂、…決して嫌だったわけじゃないちゃ。その意味、わかるよね』
彼女は決して口に出せない想いで胸がいっぱいだった。
村上は、じっと僕の目を見ている。全く逸らすそぶりがない。
彼女の瞳は、夕日を背にして、潤んでいるように見えた。
僕は、ふと幼い日の記憶が蘇ってくるのを感じた。
ゆっこの瞳…彼女の目も、潮の香りがした。村上の瞳も、寄せてはかえす潮のような潤みを見せている。僕は慌てて、彼女から目をそらした。
夕日が沈むまで、僕達は階段で無言でたたずんでいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話
そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん!
好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。
ほのぼのラブコメというか日常系小説
オチなどはなく、ただひたすらにまったりします
挿絵や文章にもAIを使用しております。
苦手な方はご注意ください。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ハチミツ色の絵の具に溺れたい
桃本もも
青春
大学生になったばかりの梅若佐保には、ひとつだけ悔やんでも悔やみきれないことがあった。
高校で唯一仲良くしていた美術部の後輩、茜谷まほろが事故に遭うきっかけを作ってしまったことだ。
まほろは一命を取りとめたものの、意識不明がつづいている。
まほろがいない、無味乾燥な日々。
そんな佐保のもとに、入院しているはずのまほろが現れる。
「あたし、やりたいことがあって、先輩のところに来たんです」
意識だけの存在になったまほろとの、不思議なふたり暮らしがはじまる――
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる