研磨職人!異世界に渡り、色んなものを磨き魔法スキルと合わせて、幸せに暮らす。

本条蒼依

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第3章 新しい研磨

7話 ヒロトシ、ミトンの町に帰還する

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 いつも通りミトンの町では、王都とは違いゆったりとした時間がながれていた。見張り台でいた兵士が、遠くから近づいてくる何かを見つけた。

「な、なんだ?」

 見張り台から見た後景は、遠くの方から砂煙を立ててこちらに向かってくるものだった。

「まさか、またこの町にスタンピードが……」

 兵士はその方向に遠眼鏡を向けて確認した。するとそれは、見覚えのある鉄の乗り物だった。

「あ、あれは!」

「おーい!誰か、誰でもいいからすぐにシルフォード様に連絡を!」

「どうかしたのか?」

「ヒロトシ様がお帰りになられた!」

 兵士達は、ヒロトシの事を様付けで呼んでいた。名誉貴族の事は、すでに連絡が入っていたのだ。つまり、この町では名実ともに領主のつぎに偉い人間になっていた。

「本当か?嘘じゃないだろうな?」

「ああ!あの鉄の乗り物は世の中広しと言えど、ヒロトシ様しか持っていない物だ」

 それを聞き、兵士の一人は領主の元に知らせに走った。

「しかし、ヒロトシ様は出来ない事が無いのか……王都まで往復1年はかかると言うのに、たった2週間で往復なさるとはとんでもない乗り物だ……」

 ヒロトシ達は、懐かしいミトンの町に笑顔となり、ホッと安堵して町に入ることにした。

「うーん!やっと着いたな。早く家でくつろぎたいな……」

 すると、列に並んでいた冒険者が声をかけてきたのだった。

「あ、あの……ヒロトシ様?」

「ヒロトシ様ぁ~~~~~⁉」

「ひっ……ご、ごめんなさい!」

「い、いや、謝らなくてもいいけど様は止めてくれよ。それでなにか?」

「何でここに並んでいるのですか?」

 声をかけてきた女性の冒険者は、びくびくしながら訊ねてきた。

「なんでって、並ばないと町に入れないじゃないか」

「でも、ヒロトシ様は……」

「だから、なんだよ?その様付けは。今まで坊やって呼んでただろ?」

「で、ですが、ヒロトシ様は貴族になられたじゃないですか?そんな方を坊やだなんて呼べませんよ」

「あっ……そういや名誉貴族になったんだっけ?」

「相変らずその辺は無頓着なんですね」

「まあ、俺の中身が変わった訳じゃないからね。それよりまた明日から商売を始めるからよろしく」

「あ、はい!よろしくお願いします。それよりヒロトシ様は、ここに並ばなくていいですよ」

「何でだよ……」

「ヒロトシ様はもう貴族様です。あちらの門からフリーパスで入る事が出来ます」

「な、なるほど……」

 すると、町の兵士達がヒロトシの側に走ってきた。

「「「ヒ、ヒロトシ様!貴方はこちらからお入りください!」」」

「いやぁ……そっちの門からは入り辛いよ」

「何を言っておられるのですか?貴方はもう貴族様なんですよ。こちらの門からお入りください!」

 兵士はそう言って、ヒロトシを貴族専用の門に促したのだった。

 すると、顔見知りだった冒険者や生産者達は、ヒロトシの帰還を歓迎し、貴族位の受賞を拍手をしたのだった。

 そして、貴族専用門に入るとそこには、シルフォードと役員達が出迎えてくれていた。

「ヒロトシ君、いやヒロトシ殿、無事に帰ってきて嬉しく思うよ」

「シルフォード様までやめてくださいよ。今まで通り君付けでよろしく頼みます」

「しかし、君も今や立派な貴族なんだよ?」

「いやいや……俺にそんな自覚はないですから!これからも一商人で接してくれたらいいですので……」

「まあ、いきなり変われるものでもないな。徐々に自分の立場を自覚すればいいよ」

 ヒロトシは、シルフォードの言葉に頭を掻いて苦笑いを浮かべた。

「それにしても、本当にこんな早く王都まで往復するとは大したものだ。あのトラックという乗り物はとんでもないな」

「まあ、馬車よりは便利の良いものですね」

「馬車よりはって……ヒロトシ君は、この世界の行商にどれほどの功績を残す事になるのかわかっているのかい?」

「えっ⁉この世界の行商?」

「えって、その乗り物をこれから㋪美研で売っていくのではないのかい?」

「ああ……そういうことでしたか。あのトラックは売れません」

「何で⁉あのトラックは行商人の夢の乗り物だぞ?」

「まあ、そのあたりは後日、王都での報告と一緒にさせていただきます。今は家でゆっくりさせてください」

「そ、そうだったな……すまなかった」

「いえ。出迎えありがとうございました」

 ヒロトシは、シルフォード達にお礼を言い、急いで帰宅したのだった。

 次の日、㋪美研には冒険者達が押し寄せる訳でもなく、通常運営が行なわれていた。冒険者達もまさかこんなに早く㋪美研が開店するとは思ってもいなかったのだ。
 1年間店が閉まっていたら、マジカル効果は無くなりBランク以上の冒険者が詰めかけただろう。しかし、まだマジカルは切れてはいなくて、切れていた冒険者達だけが研磨依頼に来たのだった。

「マインちゃん、おかえり!」

 冒険者達は、自分のお気に入りの受付嬢の前に並び、久しぶりの会話をしていた。

「又、よろしくお願いしますね」

「ああ!分かっているよ。マジカル効果が切れてなくともここにくるさ」

「それは他のお客様に迷惑なので止めてください!」

「そんなつれない事言うなよ……」

 周りにいた冒険者達は、マインのフラれた冒険者を見て大笑いしていて、マインもこのやり取りに笑顔を見せていた。



 その頃、ヒロトシは一日ゆっくりしてシルフォード宅に来ていた。

「よく来てくれたね。今回は王都までご苦労様でした」

「ホント、たいへんでした。まさか、ローベルク様があのような感じの人だとは思いもしませんでしたよ」

「ヒロトシ殿……陛下を名前呼びしてはいけません……ちゃんと陛下とか国王とお呼びしないと失礼に当たります」

「えっ?ローベルク様が名前呼びにしろって……」

「それは本当か?嘘ではあるまいな?」

 シルフォードは、ヒロトシの言葉にびっくりして大きな声を出した。

「うわっ!なんですか?いきなり大きな声を出して……」

「ヒロトシ君……君と言う人間はたいしたものだな……陛下の心をそこまで開いたのかい?」

「どういう事ですか?」

「陛下の名前を呼んでいいのは、王妃様と親類と、冒険者時代のパティーメンバーだけなのですぞ」

「う、嘘ですよね……」

「本当だよ。上級貴族の人間でさえ、名前を呼んでいいのは宰相様と公爵様だけなんだよ?ヒロトシ君は陛下に何をしたんだい?」

 ヒロトシは、王都での事を詳細に説明をした。

「はぁあ⁉陛下に模擬戦で勝った?冗談だよね?」

「勝利したら、ローベルグ様は大笑いして俺の事は友達だから、名前で呼べと言われて……」

「君は本当にたいした度胸の持ち主だな……大抵の人間は、陛下の前に立つと気絶することになるぞ。王都の騎士団長でさえ陛下の相手にはならんのだ」

「そうなんですか?そいつは驚きだ……」

「何を他人事の様に……」

 シルフォードは、ヒロトシの態度に呆れ返ってしまった。

「君が陛下の友達とは、私もヒロトシ君の事はヒロトシ様とお呼びしないといけないのかな。凄い出世だな」

 シルフォードは、皮肉交じりにニヤリと笑った。それを聞いたヒロトシはあわてて否定したのだった。

「止めてください!シルフォード様に様付けをされるなんて!」

「わははははははは!君の焦る姿は面白いな」

「ったく……冗談が過ぎますよ」

 ヒロトシは、シルフォードの言葉にドッと疲れてしまった。

「それで話は変わるが、どうか考え直さないかね?」

「トラックの事ですか?」

「そうだ、あの乗り物があれば流通がとんでもない事になる。海からその日のうちに生魚も仕入れる事が出来るんだよ?」

「それが無理なんですよ」

「どういう事だい?」

「ローベルグ様もそのことに触れましたが、俺は断ったのです」

「陛下の申し出を断った?なぜ?」

「あの乗り物は魔道具として作った訳ではありません」

「作った訳ではない?」

「そうです。あの乗り物は召還したんですよ。俺が製作したのならば売り出す事は出来ますが、MPを使って召還した物です」

「そうなのか?」

「はい……そうなれば行商人は㋪美研に押し寄せる事になりますが、とてもじゃないですが対応できないんです」

 シルフォードは、町の連絡ツールとして一台だけでもと、ヒロトシに懇願してきたのだが、それも運転が出来ないと言う理由で断ったのだった。
 実際、科学文明の乗り物であるので運転をしてもらったのだが、一度に色んな操作をしないといけない事でエンストばかりで、少しも進む事が出来なかった。

「こんなに難しいのかい……」

「はい……慣れれば大したことはないんですけどね……それに今は進まない感じですが、動くときも注意しないといきなりあのスピードで突っ込んだら運転手はとんでもない事になり、人を巻き込むことだってあるのです」

「た、確かに……」

「だから、これは諦めてください」

「分かった……しかし、残念だ……」

 この状況を見て、シルフォードは残念そうにした。

「あ、それともう一つ。陛下から頂いた土地はどうするつもりだ?」

「別にどうもしませんよ。位置的にも、ここから北東の場所で魔の森が目と鼻の先ですからね。誰もあんな所には誰も好んで住まないでしょ?」

「それはそうだが……なんか勿体ない感じもするのだが……」

「まあ、気が向いたら町でも作るかもしれませんが……」

「えっ⁉それは本当かね?」

「まあ、そんなことはまずありえないですけどね。俺はこの町が好きですし、町の領主なんて俺には無理です」

 シルフォードは、それを聞いてホッとため息をつくのだった。


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