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嵐の夜に 1
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時が経ち、俺は40代に、理知は小学3年生になっていた。
理知は言葉も覚え、以前に比べれば引っ込み思案なところも無くなり、明るい性格の女の子に成長していた。
もう少しすれば初潮も来て、どんどん女らしくなっていくだろう。
リィリへの想いよりも理知との今が大切になり始めていた。
そんな嵐の夜だった。
『台風16号は勢力を上げ、日本列島を横断中です。現在は四国から近畿へと…』
昼頃に降り出した雨は次第に激しくなり、夕方頃になると雨風で周囲が見えないくらいになった。
事務所の窓にも雨風が打ち付けている。
今日は組の合同会議があって理知のところに行けなかったが、学校は最初から休みが決定していたし、きっと下のババアのところに居るだろうと高を括っていた。
だが、19時半頃になって龍生から電話がかかってきた。
『賽川さんすみません!いまミツヱさんから電話があって昼頃に親戚の方が亡くなられて地元に帰っていると!理知がひとりでも大丈夫と言ったらしくて!俺も虎一もまだ職場から帰れてなくてですね!それで…!』
「わかった」
俺はそれだけ言うと電話を切りコートを羽織った。
そこに続けて理知の監視チームから連絡が入る。
『親父、辺り一帯が停電しました。お嬢は懐中電灯を点けたみたいです』
「わかった、俺が行くまで引き続き監視を続けろ」
『了解』
とにかく無事であることがわかったが、あのボロアパートのことだ、もしかしたら屋根が吹っ飛んだりする可能性もある。
監視チームがいるから大丈夫なんて悠長な事は言ってられない。
元田から車の鍵を受け取り事務所を後にする。
辺りはいっそう雨風が強まり、フロントガラスの向こうは何も見えない。普通の人間なら。
俺もさっきまでは事務所の窓からそう感じていた。
でも今は見える。
真っ直ぐとした道が理知に続いている。
まるで空を飛ぶように車を走らせることが出来た。
ボロアパートに着き車を降りる。
するとすぐにレインコート姿の監視チームが近付いてきた。
「親父、さっきから懐中電灯の光が弱くなっていってるみたいです!」
「わかった。お前らも今日はもうあがれ。遠方組にもそう伝えろ」
「へい!親父もお気を付けて!」
監視チームが言うが早いか階段を上がる途中で、ガラスの割れる音と理知の小さな悲鳴が聴こえた。
「理知!」
行けば廊下側にある窓ガラスが割れていた。
慌てて部屋の扉を開けると、薄暗い部屋の隅にうずくまる理知が確認できた。
パジャマ姿で頭からタオルケットをかぶっている。
「~おじさんっ!」
「待て理知!危ないから動くな!」
「っ…」
俺に気付いて駆け寄りそうになる理知を止める。
部屋には割れた窓ガラスの破片が散乱していて危ない。
「俺がそっちに行くから、動くなよ」
「うん…っ」
安心感からか、怒鳴られた恐怖からか、きっと色んな感情が綯交ぜになって理知は今にも泣き出しそうだ。
土足のまま部屋に入り、割れたガラスを踏みながら理知の下に辿り着く。
「大丈夫か?よく頑張ったな」
「ぅ…、ふえ…おじさぁん…っ」
「おっと…」
しゃがんで頭を撫でてやると理知は俺の首に腕をまわし、わんわんと泣き始めてしまった。
落ち着くまで待ってやりたいが、暴風吹き荒ぶこの部屋ではそうもいかない。
「理知、ここは危ねぇから俺の事務所に行くぞ」
「うっうっ、おじさんの、うっ、じむしょ…?」
「そうだ。ここよりは安全だからな」
「うっ、うん…っ」
一生懸命泣き止もうとする理知を抱え上げる。
当たり前だが出会った頃に比べて随分重くなった。
体つきも柔らかく女らしくなっている。
それから体温もいつもより高い。
………ん?体温が高い?
「おい、理知お前…」
「…」
額も頬も首も熱い。目も虚ろだ。
風邪でも引いたか。それとも一種のストレッサーによる発熱か。
どちらにせよ、これでは事務所には連れて行けない。
ここから一番近くて理知が安静に出来る場所、それは病院よりも俺が借りているマンションの部屋だった。
理知は言葉も覚え、以前に比べれば引っ込み思案なところも無くなり、明るい性格の女の子に成長していた。
もう少しすれば初潮も来て、どんどん女らしくなっていくだろう。
リィリへの想いよりも理知との今が大切になり始めていた。
そんな嵐の夜だった。
『台風16号は勢力を上げ、日本列島を横断中です。現在は四国から近畿へと…』
昼頃に降り出した雨は次第に激しくなり、夕方頃になると雨風で周囲が見えないくらいになった。
事務所の窓にも雨風が打ち付けている。
今日は組の合同会議があって理知のところに行けなかったが、学校は最初から休みが決定していたし、きっと下のババアのところに居るだろうと高を括っていた。
だが、19時半頃になって龍生から電話がかかってきた。
『賽川さんすみません!いまミツヱさんから電話があって昼頃に親戚の方が亡くなられて地元に帰っていると!理知がひとりでも大丈夫と言ったらしくて!俺も虎一もまだ職場から帰れてなくてですね!それで…!』
「わかった」
俺はそれだけ言うと電話を切りコートを羽織った。
そこに続けて理知の監視チームから連絡が入る。
『親父、辺り一帯が停電しました。お嬢は懐中電灯を点けたみたいです』
「わかった、俺が行くまで引き続き監視を続けろ」
『了解』
とにかく無事であることがわかったが、あのボロアパートのことだ、もしかしたら屋根が吹っ飛んだりする可能性もある。
監視チームがいるから大丈夫なんて悠長な事は言ってられない。
元田から車の鍵を受け取り事務所を後にする。
辺りはいっそう雨風が強まり、フロントガラスの向こうは何も見えない。普通の人間なら。
俺もさっきまでは事務所の窓からそう感じていた。
でも今は見える。
真っ直ぐとした道が理知に続いている。
まるで空を飛ぶように車を走らせることが出来た。
ボロアパートに着き車を降りる。
するとすぐにレインコート姿の監視チームが近付いてきた。
「親父、さっきから懐中電灯の光が弱くなっていってるみたいです!」
「わかった。お前らも今日はもうあがれ。遠方組にもそう伝えろ」
「へい!親父もお気を付けて!」
監視チームが言うが早いか階段を上がる途中で、ガラスの割れる音と理知の小さな悲鳴が聴こえた。
「理知!」
行けば廊下側にある窓ガラスが割れていた。
慌てて部屋の扉を開けると、薄暗い部屋の隅にうずくまる理知が確認できた。
パジャマ姿で頭からタオルケットをかぶっている。
「~おじさんっ!」
「待て理知!危ないから動くな!」
「っ…」
俺に気付いて駆け寄りそうになる理知を止める。
部屋には割れた窓ガラスの破片が散乱していて危ない。
「俺がそっちに行くから、動くなよ」
「うん…っ」
安心感からか、怒鳴られた恐怖からか、きっと色んな感情が綯交ぜになって理知は今にも泣き出しそうだ。
土足のまま部屋に入り、割れたガラスを踏みながら理知の下に辿り着く。
「大丈夫か?よく頑張ったな」
「ぅ…、ふえ…おじさぁん…っ」
「おっと…」
しゃがんで頭を撫でてやると理知は俺の首に腕をまわし、わんわんと泣き始めてしまった。
落ち着くまで待ってやりたいが、暴風吹き荒ぶこの部屋ではそうもいかない。
「理知、ここは危ねぇから俺の事務所に行くぞ」
「うっうっ、おじさんの、うっ、じむしょ…?」
「そうだ。ここよりは安全だからな」
「うっ、うん…っ」
一生懸命泣き止もうとする理知を抱え上げる。
当たり前だが出会った頃に比べて随分重くなった。
体つきも柔らかく女らしくなっている。
それから体温もいつもより高い。
………ん?体温が高い?
「おい、理知お前…」
「…」
額も頬も首も熱い。目も虚ろだ。
風邪でも引いたか。それとも一種のストレッサーによる発熱か。
どちらにせよ、これでは事務所には連れて行けない。
ここから一番近くて理知が安静に出来る場所、それは病院よりも俺が借りているマンションの部屋だった。
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