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第16話 第二至上主義論者のデートー映画編ー①

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「やぁやぁ、お待たせしたかな、二階堂くん」

 予定時刻より5分早くに一条さんが待ち合わせ場所へと現れた。

 結局、我々は映画館と水族館の両方にデートに行くこととなり、その内映画館のデートプランは僭越ながら私が務めることとなった。

 時刻は映画上映の30分前に集合することにし、場所は我々の住む場所から比較的近い大型商業施設内にある映画館入り口前にした。一条さんのことだから早めに来ているのではないかと思い、10分前には到着して彼女を待っていたがその予想とは裏腹に彼女は5分前到着という普通と言えば普通なのだが、一条さんからすると意外なご到着だった。

「全然待っていないですよ。私こそ気が急いてしまって、予定よりも早く着いてしまった」

「もう少し早く来る予定だったのだが、中々服装が決まらなくてね。妹にも色々と相談に乗ってもらったわけだが……」

 一条さんはそこまで言うと、何やら気恥ずかしいのか普段と比べると落ち着かない様子だった。今日の彼女の服装は初夏に合う少しラフな服装だ。上はベージュのゆるいシャツに、下はデニムパンツ。普段学校で見る彼女の姿は制服であることからスカート姿ばかり見慣れていたが、こういったラフな格好も悪くない。否、とても良い。

 普段の学校での一条さんの醸し出す雰囲気は真面目そのもので、時々破天荒な部分もあるがやはり優等生という雰囲気からは脱しない。それを知っているからこそ今の彼女の姿は新鮮に見え、かつ普段以上に魅力を感じさせられる。これを作り出すのにまだ見ぬ一条さんの妹さんが関わっているのであれば、彼女に称賛を送らねばならないだろう。ありがとうございます、と。

「それで、今日は何の映画を観るのかな?」

 すると、私の視線にも慣れてきたのか、いつもの凛とした姿を取り戻すと一条さんはそう私に問うた。

 一条さんと話し合ったのは日時と場所のみで、肝心の映画については当日に発表することにしていた。というのも、これは私と一条さんの“仮”お付き合いのデートでもあるが、それと同時に彼女に『第二至上主義』について理解を深めてほしいという裏の目的もあるからだ。

 何だかんだと時間があるようで“一年”と言う時間はあっという間である。一条さんと一緒に居られるこの時間をただ楽しむだけでは、一年後に控えている決断の日を堂々と迎えることはできない。私は私なりに『第二至上主義論者』として意見をぶつけなければ、お付き合いの答えを一年間保留してもらっている意味がない。一条さんを楽しませるのも大事だが、それと同時に『第二至上主義論者』としての主義主張を忘れてはならないのだ。

「今日は二つの映画を観ます」
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