碧天のノアズアーク

世良シンア

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グランドベゼル編

4 談笑

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side ノア=オーガスト

激闘が繰り広げられた鍛錬場を出てから、オレたちは宿に戻った。せっかくいるのだから、ということで師団員たちと軽く手合わせをしてからだけど。しかも秀だけじゃなく、ノアズアークメンバー総出でだ。師団員のみなさんは、みんな体力がありまくりのようだった。やはりそんじょそこらの人とは鍛え方が違うみたいだ。

ジンさんは今回は見てるだけで十分ということで、外からずっと眺めていた。時折ぶつぶつと何かぼやいていたから、外から見ることで何かを得ていたのかもしれない。

今日の出来事を通して、師団員ってのはめちゃくちゃ勉強熱心だなーって思った。

オレは布団に潜り目を瞑る。そして秀とオスカーさんの激戦を振り返ってみた。

みんなは秀の陰陽術『霧海』のせいで全く見えなかっただろうけど、オレはしっかりと見えていた。オレには『黎明之眼ウラノス』があるからなー。おかげで何があったのかバッチリ見えた。

あとあの状況が見えたのは……そうだなー……紫苑と秀ぐらいだろうなー。

紫苑の目は氣そのものを捉える。その氣はものによって全然違うらしい。オレも聞いただけだから詳しくはわからないけど、紫苑が言うには人間や動物といった生命体は紐状の氣が複雑に絡み合ってその形を成しているように見えてるらしい。

紫苑の世界だと、霧海は氣術だから氣を含んではいるけど、それは紐状につながっているというより点が無数に並んでいるだけで、視界不良にはならないそうだ。あとは、放つ光の強さも全く違うとか言ってたかなー。

いずれにせよ、紫苑にもあの状況は正確に見えてたってことだなー。

秀はもちろん、術を発動した側だからな。視界に霧は全くない。ただ、式神たちはそうはいかないんだけど。まあ紫苑と湊みたいに感覚共有ができれば話は変わるんだろうけどなー。

……話が逸れてるな、これ。えーと……。

霧海が発動してオスカーさんは視界不良に驚いた。そしてまずは秀が火柱を使って何度も攻撃。これで倒せれば楽だったけど、そうはいかなかった。だから秀はあらかじめ考えてた作戦にすぐさま移行した。

秀は火柱を使ってオスカーさんをある場所に誘導したんだ。一発撃って避けられることが分かり、すぐに別の方法を考え実行に移す。ほーんと、秀の頭の回転の速さにびっくりだよなー。

で、その誘導場所だけど、それはズバリ毅や煌が倒された付近だ。実は雲海後すぐに撃った火柱のゴオオッって音に紛れて、二人はそっと立ち上がってたんだよなー。そして連続する火柱の音を隠れ蓑にしつつ、素速い動きが得意で身軽な煌は毅と真反対の場所まで移動した。

これで準備が整った。秀のチェックメイトだという言葉を合図に火柱と煌の雷哮を、同時に放つ。もちろん、声は出さずにな。

そして実質的に失ったといえる目の能力を補うための能力。それはたぶん『音』を捉えることを可能にする耳だ。これをかなり重宝していたオスカーさんは、ゴオオッという音とは別に横からバチバチという音が聞こえてきたはずだ。この状況下で初めて聞こえてきた別の攻撃音にオスカーさんはなんとか対処した。だけどそれが仇となった。

そう。新たな攻撃はひとつではなく二つあったのだ。

煌の反対側かつオスカーさんの近くに待機していた毅は、秀の合図に合わせて拳を構え、渾身の一撃をオスカーさんに喰らわせた。そして不意打ちを食らったオスカーさんは予期せぬ大きな衝撃に倒れてしまったってわけだ。

まあもしかしたらバチバチって音が煌の雷哮の音で、煌が復帰したということは毅も同様の可能性が高いって気づくって可能性もなくはない。でもそんなこと考えている間にあの攻撃は終わるからなー。時すでに遅しってやつよ。

とにもかくにも、これがあの激闘の真相だ。

……え?なんで毅と煌にはオスカーさんの居場所がわかったかって?

たしかに二人はみんなと同じでなんにも。けど、式神たちと秀の間には、実はある特別な能力があるんだ。それが……思念伝達だ。

言い換えたらテレパシーってやつ?言葉を出さずに会話を可能とする能力。もしかしたら特殊氣術とかにあるかもしれないけど、秀たちの場合はそうじゃない。

秀と式神たちは、なんていうか、互いに契約を交わしてるみたいな状態なんだよな。だからその契約の影響で言葉を出さなくてもスムーズに連携が取れるんだ。

そういうわけで、最初に秀が声に出して指示を出してたけど、正直しなくても問題ない。それをしたのはやっぱ敢えてだろうなー。相手を出し抜くって意味ではめっちゃ有効な手段だし。後々響くのよ、こういうのはさー。

こういうところが、秀はやっぱ頭がいいんだよなーって思わせてくれるんだよなー、ほんと。

それに毅がいい例だけど、ジャブ、ストレートとかなんで言っちゃうのかなー?っていう、一見意味のないように思える行為も、相手にはこいつは声を出して攻撃をしてくるって暗示をかけやすい。

まあ毅の場合はなんか声が勝手に出ちゃうらしいんだけど……。あの時はたぶん、秀の指示で我慢するよう言われてたんだろうなー。超絶好の不意打ち攻撃だったし。

これがあの霧の中で起こった真実だ。ここからわかることは……ズバリ、秀と式神たち、強すぎだろーってことよ。

その中でも特に思うのは、やっぱ思念伝達だよなー。あれ強すぎだって。オレ、秀の戦いぶり見てて毎回思うし。もう連携がすごいのよ、ほんと。だって湊もシンも、秀と式神たちにはめっちゃ手こずるからなー。

……オレ?オレはまあ……ね……。そ、それなりよ……そ・れ・な・り。

てか実際のところ、本気の本気?まあ要は自分の力ぜーんぶを使って戦ったことなんて、たぶん一回もないしな。奥の手なんてそうそう使わんでしょ。命の危機に晒されない限りはさー。

でもオレも冒険者やってるわけだし、そのうち奥の手使う時が来るかもなー。

けどなー、「これを使うことになるというのはのう、それはもう世界存続の危機レベルじゃぞ」ってヴォル爺が言ってたし……たぶんないな、うん。

さてと、振り返りも済んだしそろそろ寝ようかなー。

……あ、そういえば、オスカーさんが床につけてた無数の剣傷に僅かではあるけど、氣が付着してたんだよなー。普通あんなとこに氣なんて付かないよな。霧散して消えるだろうし……うーん……。
なんか意味があったのかも知れないな。

ま、いっか。明日はなるべく早めにEDENに行ってトロイメライの予約したいし、さっさと寝よっと。






「トロイメライの予約ですね。少々お待ちください」

アリアさんは後方の棚へ向かいゴソゴソと何かを探す動きをする。少しして「あった!」という声がした。そしてアリアさんは水色っぽいファイルを持って受付に戻ってきた。そこから一枚の紙を取り出す。

「えーと……あ、キャンセルが出ていますから、明日は一日空いていますよ」

「お、ラッキー。じゃあ明日にするよ」

「かしこまりました。では明日の朝また受付にいらしてください」

「はいはーい」

オレは受付を後にしてフリースペースに待たせているみんなのもとへと歩き出した。

いやまさか明日に取れるとは思わなかったなー。前は一週間ぐらい待ったしな。超運良くないか。

「どうだったんだぁ、ノア」

「いやそれがさー、まさかまさかの明日になったんだよなー!」

「ええー?!めちゃくちゃラッキーじゃん、それー」

「やっぱカズハもそう思う?」

「そりゃね。ほら見てよ、エルもびっくりしすぎて固まっちゃってるよー」

「……はっ。す、すみません。理解するのに時間がかかってしまいました…」

「そこまで驚くことか……?」

湊はカズハやエルの驚き様を疑問に思ったみたいだ。ま、確かにオレもそんなに?って思ったけど、トロイメライの予約まだ二回目だからなー。カズハやエルの方が冒険者としては先輩だから、その辺の違いがこのリアクションの差になるのかもしれない。

「ほら、前にも言ったけどトロイメライ攻略ってパーティランク昇格のために必須の条件なんだよー。それに基本的に何度やっても死ぬことはないから、魔物との戦闘経験を死というリスクなしに積めるってのも人気の理由のひとつだからさー。だいたい一週間は必ず埋まってるんだー。ひどい時は一ヶ月埋まってるとかもあるぐらいだしー」

い、一ヶ月……?!それはいくらなんでも長すぎるなー。オレだったら予約してたことも忘れそうだ……。

「なるほどな。それは確かに運がいい」

「でしょー?あとこれは極々少数だけだけど、ソロで挑む人もいるんだよー。自分がどこまでクリアできるのか腕試ししたいっていう物好きがねー」

「へぇー。トロイメライってソロでクリアできるもんなのか?」

「えー?もしかしてノア、ソロでやろうとしてるー?」

「いやそうじゃなくてさ。パーティランク昇格のためにトロイメライを攻略しなきゃいけないってことは、トロイメライはパーティで挑まなきゃきついってことだと思ったからさ。ソロじゃどうにもならないんじゃないかってな」

神仙族であるオレたち四人はわりかし楽にクリアできそうだけど、一般的な冒険者がそう簡単にはいかないよな、きっと。クリアできるとしたらSランク冒険者とかかなー?……知らんけど。

「なるほどねー。まあ確かにソロで全ての階層をクリアした人って誰もいないから、そういう意味では無理って言えるねー。けどね、ソロで第四階層までクリアした冒険者がいるんだよねー、これが」

確かトロイメライは第八階層まであるって言ってたからその半分か。それはすごいな。

「しかもたったのひとりなんだー。他にソロでクリアした人たちはいけても第三階層まで。だからすごいことなんだけど……」

なぜかカズハは少し顔を曇らせてしまった。

「そのひとりっていうのがEDENで最も異端な存在なんだよね……」

異端か……神仙族のオレたちみたいな種族的な意味か?

「エルも知ってるでしょ?」

「はい。冒険者をやっている方で知らない方はいませんから」

カズハとエルは誰かわかってるようだけど、他のメンバーはさっぱりわからんって様子だ。もちろんオレも含めて。

「名前はブラフマー=アルボロート。Sランクのソロ冒険者です。私が以前所属していたデーモンズのリーダー、ザナックを覚えていますか?」

「あー、あのクソッタレか」

「あ、そうです。ノアさんたちが倒した人です。ザナックもEDENでは悪名の方でかなり有名でしたが、ブラフマー=アルボロートはそれとは別の方面でその名が知れ渡っています」

別の方面ねー。

んー、あのクソッタレは弱いものいじめが趣味みたいなゲス野郎だったから……ブラフマーは魔物の血を浴びることを趣味にしてるとかかなー。これならトロイメライをソロでクリアしようとしてる理由も一応説明できてるし、変な風に有名になりそうだよな。

……会ったこともない人にこんなこと思うのって、もしかしなくてもめちゃくちゃ失礼だったかも……。

ごめん、ブラフマーさん。

オレは会ったことも話したこともない人物に対して、胸の内で勝手に罪悪感を抱き、そして勝手に謝罪した。

「彼は強さに対して異常なまでの愛情を持っているそうです。それも殺したいほどに……」

……ん?殺したいほどに『強さ』を愛してる?どゆこと?

「……?」

「あ、えと、私もよくは知らないんですけど、強い者を殺す瞬間がたまらないという話を人伝に聞いたことがあって……」

あーね。そりゃあ有名にもなるわ、変な意味で。

「エルの言う通り。あの男は自分以外の強いやつぜーんぶ殺すことを生きがいにしてるから。私も一回殺されかけたんだよねー、あはは」

カズハは乾いた笑いをこぼした。

「強者への狂愛者。『クレイジーラヴァー』なんて呼ぶやつもいるみたい。あの男に認められた者は本当に強いことが保証されるけど、その代わりあの男の殺害対象リストに加えられるっていう……はた迷惑な話だよねー」

「それにブラフマーの強者のくくりは、人間だけでなく魔物も入るみたいです。だからトロイメライも攻略しているんだと思います」

「へぇー。そんなやつがいるのか……」

Sランク冒険者恐るべしだな。他のSランク冒険者もこのブラフマーとかいう男みたいな人ばかりでないことを祈るばかりだ。

「そう。……で、私もまだそのリストに入ってるんだよねー、これが」

「……マジ?」

「うん、大マジ。一回戦い挑まれて、断ったんだけど問答無用って感じで渋々ね……。結果はまあ見ての通りだねー」

生きてるってとこは、勝ったってことか。

「て言っても、別に勝ったわけじゃないんだー。あの時グレンが私の近くにいて、助かったってだけだからさ。引き分けですらないよー」

「『絶対防御アブソリュート・ディフェンス』を使っても勝てなかったのか?」

湊の言う通りだ。オレが知る中で最も防御に優れた特殊氣術をもつカズハが負けるなんて、あまり考えにくいんじゃないか?少なくとも引き分け以上になるんじゃ……。

「あの男も私やエルみたいに特殊氣術を持ってるんだけどさ、私と相性が悪かったんだよねー」

相性が悪い、か。カズハの特殊氣術はオレが見た中でとはいえ、最強の防御力を誇ってる。誰から見てもそうだろうし、あのアグレッシブガーディアンっていう異名がつくのも頷ける。それを掻い潜り、カズハにダメージを与える特殊氣術って一体……。

「その特殊氣術っていうのはーーー」

「ねえ」

オレの言葉を遮りセツナがカズハへと話しかける。

「アルボロートってアルボロート?」

「え……?あー、そうそう。そのアルボロートで合ってるよー」

「へぇ、やっぱり強いんだ。アルボロートは」

な、なんだ?二人が何言ってるのかまっったくわからん。

オレ以外にもピンと来ていないものが二人。シンとあとは……。

「セツナお姉ちゃん、知ってるの……?」

リュウは曇りのない灰色の目でセツナを見つめた。

「まあ……。アルボロートの家にはブリガンドの奴らが何度か盗みに入ったことがあるから。私は行ったことなかったけど」

アルボロート家に盗みに入る……?それだけ高価なものがあるってことだから、貴族とかか?

「盗みに入ったやつらは皆殺されたって聞いてる。ただの芸術一家じゃないみたいだな」

「芸術一家?」

「もしかしてノアは聞いたことないー?」

「え、逆にみんなは知ってんの?」

みんなの顔を見渡してみる。リュウは首をふるふると振っている。シンは興味なさげで知ってるかどうかはわからないけど、これはたぶん知らなそうだなー。

「俺はこの国に来てからこまめに情報収集してたからなぁ。ある程度なら分かってるぞ」

マジか。秀はオレと同じでこの世界に来たばかりなのに……てことは、まさか……。

「み、湊は?」

「俺は秀よりは知らないが少しなら、な。EDENにいると色々な情報が手に入る」

ええぇぇぇ!なんで知ってんのぉぉ?!そんなに有名なら、オレの耳にも届いてもいいじゃんか。

「………そんなに有名?」

「まあねー。アルボロート家っていろんな芸術作品を残してるんだよ。絵画に石像に服でしょー。あとは歌と庭園だったかな……。でねー、そのほとんどが金貨三十枚以上の値になるんだってさー」

「ぅえ!金貨三十枚?!」

金貨って一般人じゃなかなか手に入らないやつだろ?基本銅貨や銀貨が賃金だって聞いたことあるし。冒険者だったら金貨を手にするのも珍しくないけどさ、それは常に命を危険に晒す職業だからこその報酬だし……。

いくらなんでも高すぎだろー……。

「だからブリガンドは何度も狙っていた。何回皆殺しにされようとも。けど無駄に命を散らしただけ。分かったことといえばあの家に傭兵や警備員といった人間はいないことのみ。それで流石に私も気づいた。アルボロートの血筋は武勇にも優れている、と」

セツナは淡々と語る。

「まさかSランク冒険者がいたとは知らなかったけど」

「そのブラフマーって奴はアルボロート家の者のはずだが、おかしな点があるらしいなぁ」

「おかしな点?」

「ああ。アルボロートってやつらは、皆必ず何かひとつの『美』に夢中になるそうだ。それも異常なほどにな。だからこそ人々を魅了する作品が生まれてるのかもしれねぇが……まあともかく、さっきカズハが挙げてた五つはブラフマー以外の家族が熱中しているものらしい。絵画はブラフマーの弟、石像は叔父、服は祖母、歌は妹、庭園は父親って感じになぁ」

「そうそう。私も一度だけグレンに連れられてオークション会場に行った時に、ミケイラ=アルボロートさんが作った服を見たんだけど、なんかすごかったよー。キラキラして派手なものがきたかと思えば今度は打って変わって質素ながらもその美しさは目を見張るって感じのものまで。それまではあんな服見たことなかったからさー」

カズハって甘いものと刀と可愛いものに目がないって思ってたけど、そんなカズハをも魅了する服を作れるのか……すごいな、アルボロート。

「でだ。ブラフマーの何がおかしいかっていうとだなぁ、ブラフマーの芸術作品は世に全く知れてねぇってとこだ。他のアルボロートの作品は誰もが知っているが、ブラフマーだけは謎に包まれてやがる。これはあくまでも俺の推測でしかねぇが……その作品は世に出すわけにはいかねぇ代物だと思ってる」

たしかに。ブラフマーの作品だけ不明なのはかなり妙だよなー。

「詳細はわからねぇが、ブラフマーがカズハやエルが言っていた強者への異常な愛を持っているということは、それがやつの美に関係していることは間違いねぇ。さらにやつは、Sランク冒険者の肩書を持っている。ブラフマーは要注意人物だ。気をつけろよ、ノア」

秀は俺の考えていることを見抜いたかのように釘を刺してきた。

そりゃあオレもなるべく出会わないようにするけど、あっちからコンタクト取られたらどうしようもないよな、うん。

「……わかってるって」

いやでもなー。やっぱり一回でいいから会ってみたい気持ちは正直あるよなー。人伝に聞くよりオレ自身の目でブラフマーがどんなやつなのか見てみたい。冒険者たるもの危険を恐れてたらーーー。

「ノォアァ?ほんんっとに分かったんだよなぁ?」

うぅっ。秀の圧が……。

「万が一の場合、兄さんは俺が守ればいい話だ。秀は過保護すぎる」

オレの隣で静観を貫いていたシンが口を挟んだ。そして……。

「はあぁ?過保護はお前だろ、シン。いっつもべったりノアにくっつきやがって。そろそろ兄離れしたらどうなんだぁ?」

「……殺すぞ」

まさかの喧嘩に突入。しかもこんなに殺気立つのは久々だなー……。

ってこんな冷静に分析してる場合か、オレ!

「ちょいちょい、こんなどうでもいいことで喧嘩すんなって」

と、宥めようと試みたものの……。

「どうでもよくねぇ!」
「どうでもよくはない!」

「えぇ……」

オレは二人の勢いにあっけなく押されてしまった。

「だいたいシンは無愛想すぎる。ノア以外にももう少し情ってものをだなぁ……」

「黙れ。俺に命令するな。俺に命令できるのは兄さんだけだ」

「命令じゃねぇ、説教だ!」

「どっちも同じだ。俺に指図するなと言っている」

ギスギスとした雰囲気がこのテーブル一帯を取り囲む。というかよく見たら周りの冒険者たちも何事かとこちらを注視し始めていた。

「おい、いい加減にーーー」

「いい加減にしろ!」

オレの声を遮った一喝。それは湊から発せられたものだった。当事者でないカズハたちもその声に驚き、湊を見つめていた。

「喧嘩するなら外でやれ。迷惑だ」

湊の鋭い眼差しが二人を捉えた。

「す、すまねぇ」
「……悪かった」

あの二人がすぐに謝り、このほんの小さな騒動は湊のおかげで早々に鎮静された。湊は滅多に怒らない分、秀よりも怖いんだよなー。シンもボソッとだけど謝罪するほどだ。

さっすが湊!頼りになるわー。

ただひとつ懸念があるとするなら、このパーティのリーダーであるはずのオレ自身が仲裁できなかったこと……だよな……。はぁ……。

オレはほんのちょっとばかし……ほんとはかなり……落ち込んだが、すぐに心を切り替えた。

「……コホン。さ、話し合いはこれくらいにして今日は自由解散にしよう。みんなで依頼をこなすもよし、特訓するもよしだ!」

「ねえ、ノア」

「ん?」

珍しいな。セツナが話しかけてくるなんて。

「この後ちょっと付き合って」







side ジン=グレース

帝城の東側にある庭園。ついさっきまで私は定期的に行われる師団長会議に出席していたのだが、その後私はこの庭園に足を運んだ。ここは優秀な庭師が毎日丁寧に手入れをしてくれているおかげで、いつ来ても心が休まる。それほどにここに咲く花々はどれも美しい。

庭園の中心部に設置されたこぢんまりとした真っ白なテラス。この美しい庭園を眺めながら、ゆっくりと休めるなんて最高すぎる。私は帝城に来た時はよくここにきてお茶を楽しんでいる。ちなみに今日みたいに会議があった日は必ず来ている。

いつもはひとりでのんびりと過ごすことが多いけど、今日はお客さんがいる。その金髪の男は、私の向かいの席に座っている。顔は一言で言えばイケメンというやつだろう。なんせ昔からモテてたからねー。

つまらなさそうな顔で庭を眺める男は、前方に垂れた少し長めの前髪を左耳にかける。

ふふ。相変わらずの無愛想っぷりね。

「ウィリアムくーん?そんな顔しないでよ」

ウィリアムは一度私に目を向けるも、すぐに視線を外した。そして私が用意した紅茶を一口飲む。

「一ヶ月ぶりに会ったんだから、もっと嬉しそうにしてよね」

「……はぁ。ジン先輩。俺は別にあなたに会いたいと思ったことは一度もないんですが?」

この態度の悪い男の名前はウィリアム=ブラッツ。大帝国第一師団『マダラ』の師団長。私同様、三年前のアンフェールの時までは同師団の師団長補佐を務め、その後師団長に推薦された。

本人は出世欲とかはなかったみたいだけど、その実力は誰もが認めるところだったからね。今では師団のリーダーとして、昔よりは無愛想なとこもなくなり、人と関わるようにはなってきている。

そしてウィリアムは私の後輩であり、私が氣術学院の生徒会長を務めていた時の副会長でもあった。なんやかんやで私を補佐してくれてたから、ほんといい後輩くんだったねー。

ウィリアムはカップをそっと白いテーブルの上に置く。

「え?なんでよ」

「……ジン先輩に会うとろくなことがないからですよ。そろそろ自覚したらどうなんです?」

「えー。私めちゃくちゃいい先輩でしょー?昔も今も」

「……どの口が言ってんだか」

ウィリアムは呆れ気味に言う。

「あ、今、素出したでしょ」

「……俺をわざわざ呼び出したのはなんなんです?俺、暇じゃないんですよ。修行に出てた間に溜まった書類の確認をしないといけないんですから」

これはつまり、「早く要件言えや」ってことだね、うん。まったく、可愛くない後輩なんだからー。

「わかったわかった。優秀な後輩の邪魔するのは良くないしね。えーっとね……ノアズアークって知ってる?」

「ノアズアーク……?いや、知りませんけど。それが何か?」

修行で森の中に篭ってたなら、ウィリアムが知らないのも無理ないかー。

「新進気鋭の冒険者パーティなんだけどね、ここだけの話、あのオスカーさんがそのうちのひとりに負けたんだよね」

「……!…………本当ですか?それ」

ウィリアムは一瞬目を見開いた後、すぐに疑いの眼差しで私を見据える。

「私が嘘ついたことなんてあるー?」

「数えきれないほどにありますけど」

謎の沈黙が私とウィリアムを覆う。声を出すことなく、ただただ互いが互いを見つめ合っている。

「…………まあ、それは置いといて。あのオスカーさんが負けるなんて想像、つく?」

「……いや。ある程度試合経験を重ねれば勝つことも可能でしょうけど、初見でオスカー師団長に勝つなんて……そんな人間まずいない」

「やっぱりそう思うよね。戦闘経験なら誰よりも豊富だからね、オスカーさんは。それとまだウィリアムにしかこの話してないんだけど、他の師団長たちもウィリアムと同じこと言いそう」

「ちなみになぜ負けたんです?を使えば、初見で負けることはまずないと思いますけど」

その疑問はごもっとも。やっぱりいいとこつくねー、ウィリアムは。

「それねー、たぶんオスカー師団長は使うつもりがなかったんじゃないかなって、私は勝手に推測してる」

「はい?」

「もちろん負けるつもりもなかっただろうけどね。でもあれってオスカーさんの言わば奥の手でしょ?そんなホイホイ使うメリットがない。試合であればなおさらね。だから使わなかった。それで結局負けちゃったって感じかなー」

「……そんな頭、あの人にありましたか……?細かいことは気にしない戦い大好き人間に、そんな考えがあるわけないです」

あらー。ひどい言われようだね。もしオスカーさんがここにいたら怒り心頭に発してたね……。

「おーい、俺を馬鹿にしてるのはどこのどいつだー?」

あらまー……。

ウィリアムの背後に現れた大柄な男……それはちょうど話題の的になっていたオスカーさんだった。オスカーさんは笑いながらウィリアムの頭を鷲掴みにしている。

「……手、離してくれます?オスカー師団長」

ウィリアムは微動だにしていないが、嫌そうなのはその表情から丸わかりだった。

「おい、ウィル坊。大帝国師団の大先輩を貶すには、まだちいっとばかし年齢が足りてないんじゃないかー?」

にっこにこのオスカーさん。オスカーさんは手を離す気など全くなく、むしろより力を込めた。

……やっちゃったねー、ウィリアム。

「ちっ……」

ウィリアムは我慢しかねたのか、腰につけていた刀に触れた。そしてその刀身を露わにしかけた。

「おー怖い怖い。そんな殺気立たなくてもいいだろう?大帝国を守る師団員同士、仲良くしないとなぁ」

オスカーさんはパッと手を離し、私は無害ですよと言わんばかりに両手を上げて降参ポーズをとる。

ウィリアムは殺気を消し、紅茶に手を伸ばす。そしてそれを一口飲み、再びテーブルに置く。

「……何か用でも?」

ウィリアムはオスカーさんの方を振り向くことなく問いかける。

「ウィル坊が修行から戻ってきたって聞いたからなー。ちょいと顔でも見とくかって思ってな」

「……どうせ、久々に帰ってきた俺とひと勝負したいとかそういう理由でしょう?」

「ガッハッハ。よくわかってるじゃないか、ウィル坊。……それで?この老いぼれの頼みを聞いてくれるのか?」

老いぼれって……こんなバカ強い老いぼれがいてたまるかって話だよね。

「……断っても諦めないでしょう、オスカー師団長は。……一本だけなら付き合いますよ」

「ガッハッハ。いい心がけだ。では早速鍛錬場へ行くぞ」

オスカーさんは上機嫌に笑い、この場をさっていく……かと思いきや、踵を返してウィリアムのところに戻ってくる。

「ジンと二人きりで茶会か。やはりジンのことが好きなのか?ウィル坊」

ウィリアムの耳元に顔を寄せ、小声で何かを話すオスカーさん。

「………………そんなわけないでしょう。あんな人使いの荒い女、誰が好きになんてーーー」

「ガッハッハ。まあそういうことにしておこう」

オスカーさんは体を起こし、急にいつもの豪快な笑いをし始めた。

一体なんなの?

「……」

ウィリアムはなぜかオスカーさんを睨んでるし。

「あそうだ。鍛錬場にはもう少し後に来てもいいんだぞ?さすがの俺もウィル坊の至福のひと時を邪魔するような無粋なマネはーーー」

「とっとと行ったらどうなんです?オスカー師団長。それとも……ここで死ぬか?」

ウィリアムは再び殺気を放ち、愛刀に手をかける。

ていうか話の内容が不明だから、なんでウィリアムが怒ってるのかすらよくわからないんだけど?

「ガッハッハ。血気盛んだなー、ウィル坊。老いぼれの戯言になどにいちいち反応するような男ではなかったと記憶していたが……なるほどなるほど」

「…………」

ウィリアムはすでに愛刀を三分の一ほど抜いていた。

「おいおい。この穏やかな空間を血で染める気か?それにここは……」

え?何でオスカーさんこっちを見てくるわけ?しかもウィリアムもチラッて見てきたし……なんなの?

「……!」

「ガッハッハ。まだまだ若いなー」

そう言ったオスカーさんは鍛錬場がある方へと歩いていった。

一体全体なんだったのか。ほんとわけがわからない。

「何やってんのー?ウィリアム。まーた殺気を出すような話だったわけ?」

「……別に。なんでもないですよ。それより、先輩。俺はこの後すぐに自己中心的慇懃無礼ジジイをぶっ潰しに行かないといけないので、これで」

ウィリアムは席を立ち、この場を離れようとする。

あー、教えてくれないのねー。まあ、いいんだけどさ。

「あーあ。もうちょっと話したかったけど、しょうがないか。また誘うから空けといてよねー」

「……まあ、気が向いたら行きますよ」

「何それー。会長命令だから絶対に来ないとダメなんだからねー」

「はぁ。いつまで学生気分でいるんです?」

呆れたように話すウィリアム。お、いつものウィリアムだ。

「それと何度も言ってますが、俺に変なお願いをするのは金輪際しないでください。めんどいんで」

「今回は何もしてないでしょ」

「そうです。何もしてないです。正直拍子抜けでした。また面倒ごとを押し付けてくるとばかり思ってたんで」

「えー。私そんなひどい人間じゃないのに」

「そう思ってるのは先輩だけです。……それと、ノアズアークでしたっけ?オスカー師団長を倒したというなら、その実力は本物ということ。……俺も少し興味が湧いてきました」

「やっぱりー?そうだよね!絶対ウィリアムも興味持ってくれると思ったんだよね!やっぱ話してよかったわー!!」

「……っ……その顔、他の人の前では絶対しないでください」

ウィリアムはなぜか口元を手で隠している。それに目線が私から外れてる。

「は?その顔ってどの顔?」

「いいから、しないでください」

「えと、善処はするけど……?」

はい、と答えたものの、何を善処するか全くわかってないんだけどねー、あはは……。

「そうしてください。では俺はこれで。……紅茶うまかった……です」

そう言い残すと、ウィリアムはオスカーさんと同様に、鍛錬場の方へと向かっていった。

「せっかくの話し相手がいなくなっちゃったなー。ま、もう少し休憩したら私も鍛錬場に行こうかなー。体を鈍らせたくはないし。あーでも、誰か相手してくれた方が鍛錬の質が違うんだよねー。誰かいい相手は……そういえばキースは今日非番だったよね……ふふ。ちょっと付き合ってもらおっかなー」

























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ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

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「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

人と希望を伝えて転生したのに竜人という最強種族だったんですが?〜世界はもう救われてるので美少女たちとのんびり旅をします〜

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魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

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『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

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> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

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