聖母のように笑う

結崎悠菜@w@

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母ではあるが

誰がために生きる

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 私の家族は私に対して無関心だった。
私のことが嫌いなわけでなく、ただ忙しくて手一杯だったのかもしれない。
そう思えたのは、中学に入ってすぐの話だ。
私が生理痛で倒れてしまった時である。
小五の頃から生理はきていたが、違和感と不快感があるだけだったので、自分に生理痛は無いのだと思っていた。
しかし、はじめての生理痛はその予測を裏切り重かった。
突然の痛みに気を失うほどに。
 家族全員が心配し、母と姉は交互についてくれ、三日目には産婦人科まで付き添ってもくれた。
友達も生理の重い子が多く、飲んでいる薬を勧めたり気を使ったりしてくれた。
痛みや苦しみが続けど、少し慣れると喜びが強くなった。
「人に見てもらえるというのは、こんなに嬉しいものなのか」
初めてじわじわと痺れるような、強い幸福感を感じた。

 それから私は貪欲になった。
もっとみんなに見て欲しくて、心配してもらいたくて、頑張る様を褒めてもらいたくなった。
薬によって症状が緩和してからも生理痛で気を引き、病気や怪我も大袈裟に痛がった。
何人かは呆れて去っていったが、元から内気な私が嘘をつくと思えなかったのか、ほとんど信じてくれた。
 こんなに、こんなに幸せになれるんだ。
今までテストの点数も成績も、頑張っているのに姉や兄の優秀さに埋もれてまともに見てもらえなかった。
先生も手のかかる子につきっきりだった。
そんな世界でようやく、幸せになる方法を見つけたのだった。

 一応大学は出ておきなさい、そう言われて大学にいき、卒業後結婚した。
高校時代に出逢った年上の彼は、いつでも私を第一に考えてくれた。
内気かつ努力の結果が大きくはでない、そんな素の私を愛してくれた。
結婚して一年は、本当に幸せだった。
してあげたいことをするだけでお互い幸せになれた。
しかし、二年目に入って変わってしまった。

 子どもが産まれた。
とても可愛い女の子なのだが旦那より私に似ていることに、少し胸騒ぎがした。
 子どもの誕生により、もっと頑張らなくてはと旦那の仕事量は増えていった。
そして数少ない休みの日は娘につきっきりで可愛がる。
私自身も疲れてそれどころではないが、日に日に旦那が私を見る頻度は減っていった。
の夜泣きには寛容だけれど、仕事の疲れからか、私への当たりは強くなったように感じられた。
こんなはずじゃなかった、娘が静かになったわずかな時間に思うのは、そんなことばかりだった。

 娘が一歳になり不安定な気温が続いた時、娘は風邪をひいた。
病院に連れて行くと、みるみるうちに熱が上がり、はやめに連れてきてくれてよかった、と医者にいわれた。
寝る間も惜しんで看病したおかげか、二日後には全快した。
病院に行く時にバタバタしたこともあり、近所の人も気にかけてくれていて、看病の頑張りを褒めてくれた。
ちょっと遅ければ後遺症が残ったかもしれない、医者の言葉をそのまま伝えると、旦那はよくやったと抱きしめてくれた。
久しぶりの抱擁に、私はまた幸せを求め始めた
この時、気づいてしまったのだ。
「子どもの看病で私は幸せを得られる」と。

 それからの私はひどいものだった。
ただ、その当時は目の前の幸せに必死で何も思わなかった。
子どもが病気になるのを今か今かと待ち、周りに大袈裟に話しながら看病をした。
それだけならまだ悪くはなかったが、終いにはお風呂の温度やエアコンの設定などを故意にいじるようになっていった。
どんどん昔の私に似ていく子に、罪悪感は抱かなかった。
自分の身をすり減らしていた時代と同じことをしているだけだと感じるようになっていた。
まんまと子どもは風邪をひいたり他の病にもかかりやすくなった。
「この子は病弱で...」
そういうだけで怪しまれず、気にかけてもらえた。
歪んでいても、とても幸せに感じられた。
しかし、5歳になる時、早く帰ってきた旦那に気づかれてしまった。
旦那は憤慨し、一度頭を冷やせと私を実家に送り返した。
冷静になってから考えると、即離婚を突きつけられなかったのは不思議なぐらいだった。

 実家に残っていたのは両親だけで、毎日毎日「どこで育て方を間違ったのか」と言われ続けた。
正しい育て方などわからないが、私が家族からもらえた幸せが「心配」だけだったのは間違いない無かった。
それでも、今回の件に両親は関係ない。
責められる度に、考える度に、自分が人としておかしいのだと自覚していった。
 一週間が経とうとした時、旦那から手紙が届いた。
この時はもう離婚されるのだろうと思ってきていた。
とうとうかと封をあけると、少し汚く折りたたまれている画用紙と、白い便箋が入っていた。
惹かれるように画用紙を開くとクレヨンで大きな字が書かれていた。
「まま、だいすき!はやくかえってきてね!」
娘の字だった。
こんな害しかない人間でも、このにとっては母親なのだ。
涙がとめどなく流れる。
申し訳ないのに、謝らなきゃいけないのに、嬉しくて仕方が無い。
私は、母なのだ。
この子がいるから私は母なのだ。
ただのダメ人間ではなく、母なのだ。
噛み締めながら便箋を開くと、旦那の几帳面な文字が流れるように書かれていた。
「君を許すことができるかはわからない。でも娘には君が必要だ。医者に通うなら離婚は考えない。」
他にも近状などが綴られていたが、この三行に私は感謝した。
私はまだ娘の母でいられる。
チャンスをくれたこののために、旦那のために、第二の人生を歩むと決めた。
母としての人生を。


 
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