引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月るるな

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横暴

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「今、確かにフレアと聞こえたな」

 眉間に皺を寄せて、厳しい視線を向けてきているのは、この場で一番偉そうなスフラギドの男性だった。

 誰もが黙り込む中、一番近い席にいたダブレットお婆さんが震えているのに気付く。そういえば、フレアさんの名を言ったのは、ダブレットさんの声に似ていた。お婆さんはひどく真っ青な顔で言葉を失っている。

 これは何か誤魔化すべきなのだろうか、と考えた瞬間、フレアさんの凛とした声が響いた。

「いえ、私がミリアーナです。娘のフレアが本日婚儀を受ける者。記録ならばそちらに」

 男性が一瞥して、カツカツと靴音をさせながら真っすぐ私達の傍に向かってきた。

 近くにいた神父が慌てて薄い書物のようなものを手渡す。あれだけハッキリ言い切るってことは、きっとその記録も変えられているのだろう。

 男性は受け取った書物を開いてざっと中を捲っていく。しばらくしてその手を止めた彼は、内容をなぞるためか、そっと指を置いた。

「今日この日、婚儀を受けるもの……レオナード・モルサス。相手が」

 そこでいったん区切る。視線を上げた男性はフレアさんを見た後、私へと視線を流した。

「ミリアーナ・ドルトム」

 名を告げられた瞬間、バッとフレアさん神父を見る。信じられない、といった表情で目を大きく見開いた。

 男性は無情にも冷たい声で言う。

「そちらの花嫁がミリアーナ嬢だ。連れていけ」
「違います違います!! ミリアーナは私で…ああ!」

 フレアさんの両脇にいた二人が動き出して、必死に彼女が止める。けど、体格差もあってか引き留めることが出来ずに押し退けられてしまっていた。

「…ミリアーナ、俺が道を作る。だからどうか、逃げて欲しい」

 レオナードが私の手をギュッと握ってから離す。周りの人の合間を縫って、彼は男性の元に行くと跪いた。

「この度のことは全て俺の責任です。罰なら全て俺に」
「院を謀ることは重罪だ。お前一人の命で償えるものではない」
「……」

 相手の言い分に沸々と怒りが沸いてくる。そもそも謀る以前に、期日を守ってないのはそっちじゃないか。妙に威圧的なのも納得いかない。

 過去の記憶だと分かっていて、むしろ、だからこそ強気になって眉を吊り上げ腕まくりをする。一言言ってやろうと思った私より先に、小さな声が上がった。

「…おかしいじゃないか」

 列席していたお爺さんの一人。小さくともハッキリしたその声は、いつの間にか呼び水となって、周囲の人たちも声を上げ始めた。

「謀ってなどいない。記録に間違いがあっただけだろう」
「そうだ。それに何故、今行かねばならないのだ? 婚儀の途中だ」
「そうよ、厳粛な式なのよ? いくら御国の為とはいえ、これはいけないわ」
「もとよりミリアーナもフレアもまだ年若い。出仕などおかしいことだ」
「それにレオまで罰せられる? 理解出来ないわ」

 口々に訴える言葉に、さすがのスフラギド兵達も戸惑いを隠せない。騒ぎに乗じて、ダブレットさんが私の手を取る。逃がしてくれるつもりのようだ。

 でも、数歩進んだところで男性が、くっくっくと堪えきれないといった風に笑い始めた。その笑いに気味悪さを感じたのか、声を上げていた人々も徐々に収まり静かになっていく。再び静寂が戻るか否かというところで、彼は大きく笑い声を出した。

「まさか聞いていた通りの状況になるとは、な」
「聞いていた通り……?」
「貴様が知る必要はない」

 レオナードの問いにピシャリと言い放つ男性が、近くの兵に目配せをする。不穏な気配に、誰もが警戒を露わにした。

 そして、皆が感じていた不安を形にするかのように、男性が剣を抜く。

「これより出仕拒否に伴う暴動の鎮圧を行う。全員、
「──!!」

 誰も暴動なんて起こしてない。少し不満を口にしただけ。でも、相手には関係ないみたい。

  手のひら返したように……と思ったけど、ふと違和感を覚えた。ズラリと並んでいた兵達が、皆一様に下げていた武器を構えている。

 これだけの武装。始めから、そのつもりだったのかもしれない。

 囲まれたら逃げ道はない。

 男性が、そばに膝をついていたレオナードの首元へ切っ先を添えた。

「まずは貴様からだ、レオナード・モルサス。院を謀った罪として、今ここで刑戮する」

 レオナードの瞳が見開かれ。彼が立ち上がるより早く、二人の兵が無理やり体を抑え込んだ。

「離してくれ!! 罰なら受ける! 逃げも隠れもしないと誓う! だから他の者はここから出してくれ!」
「レオ!!」

 フレアさんも他の人たちも、長い槍や剣を向けられて動けない。

 男性は、その願いを聞き入れるつもりはないようだ。

 一度は離した切っ先を、レオの首元目掛けて大きく切り払った。

 直後、私の口から私のものではない声が──レオナードを呼んだ。
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