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ラシーヌを部屋に呼んだのは婚姻後、数日経った夜のことだった。
執務室で話をしたいとバルトネルを通じて、ソラティスは彼女を呼び出す。一人で来て欲しいと付け加えて。
就寝前のラフな格好で現れた彼女は、執務室の扉を叩き出迎えられた。
出迎えた彼も同様に軽装だが、直前まで仕事をしていたのか寝衣ではなかった。軽く頭を傾けると、その黒髪が肩口にさらりと落ちる。ソラティスは緋色の瞳をわずかに細めた。
「待っていた」
「遅くなってすみません」
「突然呼んだのはこちらだ。気にするな。早く中に」
促されるまま、ラシーヌは部屋に入る。目の前のソファを勧められて腰を下ろした。
「早速で悪いが、この婚姻について改めて話したい」
「はい……」
座って早々、声をかけられる。ソラティスは執務机から書類の束を取って、ラシーヌの前に座るとそれを見せた。
「二人の言い分を信じてなかったわけじゃないが、一応調べさせてもらった」
そう言いながら見せたのが報告書と書かれた文書だった。ラシーヌの義姉レイアの皇都での様子が簡単にまとめられている。
そこには夜な夜な呼ばれた舞踏会で踊る姿や、昼間にも複数の異性と街を巡っていると記されていた。
「……」
徐々にラシーヌの顔から血の気がなくなっていく。義母の言う通りにしたとはいえ、実際に嘘を伝えたのはラシーヌだ。
心苦しい思いのまま、彼女は「ごめんなさい」と頭を下げた。
「ここに書かれていることは事実です」
「ではレイア嬢の体調に問題はないのだな」
「はい」
「ならば改めて聞く。何故あなたはここに?」
「義姉の代わりに私がヴァーガリアへ来たのは……」
問われて言葉を濁す。ラシーヌにはもう一つ義母より指示されたことがあった。こうしてバレてしまった時のために、また重ねる嘘を。それがあるからソレーユ家でレイアの素行を隠そうともしなかった。
しかしラシーヌは、なかなか口を開けない。数日過ごすうちにソラティスの善良さに触れてしまい、言い出すことを躊躇っていた。
これを言えば、確実に悪印象となるのはわかっていたから。
知らずに嫌われたくないと思い、けれど義母の恐怖も消えてはいない。ラシーヌは逡巡して、やがて口を開いた。
「私がヴァーガリアに来たのは、縁談の来ない私を哀れんで義姉が譲ってくださったのです」
意を決して告げた言葉。だが、反応は思ったものと違っていた。
「あなたに縁談が来ない?」
「え? ええ。もちろん」
てっきり、姉の縁談を奪うなど浅ましい。とでも責められると思っていたラシーヌは、拍子抜けしてしまう。
そしてそうやって目を瞬かせるラシーヌを、ソラティスは漠然とした疑いの目で見た。
艶やかな若草色の髪に、すみれ色の儚げな瞳。肌も整っており、話していても話題は尽きない。聡明でいて、けれど時折あどけない笑顔ものぞかせる。
どこか人を惹き付ける彼女に、縁談が来ないなど俄かに信じがたい。ソラティスは不思議に思いながらも「ひとまず理解した」と、話を続けた。
執務室で話をしたいとバルトネルを通じて、ソラティスは彼女を呼び出す。一人で来て欲しいと付け加えて。
就寝前のラフな格好で現れた彼女は、執務室の扉を叩き出迎えられた。
出迎えた彼も同様に軽装だが、直前まで仕事をしていたのか寝衣ではなかった。軽く頭を傾けると、その黒髪が肩口にさらりと落ちる。ソラティスは緋色の瞳をわずかに細めた。
「待っていた」
「遅くなってすみません」
「突然呼んだのはこちらだ。気にするな。早く中に」
促されるまま、ラシーヌは部屋に入る。目の前のソファを勧められて腰を下ろした。
「早速で悪いが、この婚姻について改めて話したい」
「はい……」
座って早々、声をかけられる。ソラティスは執務机から書類の束を取って、ラシーヌの前に座るとそれを見せた。
「二人の言い分を信じてなかったわけじゃないが、一応調べさせてもらった」
そう言いながら見せたのが報告書と書かれた文書だった。ラシーヌの義姉レイアの皇都での様子が簡単にまとめられている。
そこには夜な夜な呼ばれた舞踏会で踊る姿や、昼間にも複数の異性と街を巡っていると記されていた。
「……」
徐々にラシーヌの顔から血の気がなくなっていく。義母の言う通りにしたとはいえ、実際に嘘を伝えたのはラシーヌだ。
心苦しい思いのまま、彼女は「ごめんなさい」と頭を下げた。
「ここに書かれていることは事実です」
「ではレイア嬢の体調に問題はないのだな」
「はい」
「ならば改めて聞く。何故あなたはここに?」
「義姉の代わりに私がヴァーガリアへ来たのは……」
問われて言葉を濁す。ラシーヌにはもう一つ義母より指示されたことがあった。こうしてバレてしまった時のために、また重ねる嘘を。それがあるからソレーユ家でレイアの素行を隠そうともしなかった。
しかしラシーヌは、なかなか口を開けない。数日過ごすうちにソラティスの善良さに触れてしまい、言い出すことを躊躇っていた。
これを言えば、確実に悪印象となるのはわかっていたから。
知らずに嫌われたくないと思い、けれど義母の恐怖も消えてはいない。ラシーヌは逡巡して、やがて口を開いた。
「私がヴァーガリアに来たのは、縁談の来ない私を哀れんで義姉が譲ってくださったのです」
意を決して告げた言葉。だが、反応は思ったものと違っていた。
「あなたに縁談が来ない?」
「え? ええ。もちろん」
てっきり、姉の縁談を奪うなど浅ましい。とでも責められると思っていたラシーヌは、拍子抜けしてしまう。
そしてそうやって目を瞬かせるラシーヌを、ソラティスは漠然とした疑いの目で見た。
艶やかな若草色の髪に、すみれ色の儚げな瞳。肌も整っており、話していても話題は尽きない。聡明でいて、けれど時折あどけない笑顔ものぞかせる。
どこか人を惹き付ける彼女に、縁談が来ないなど俄かに信じがたい。ソラティスは不思議に思いながらも「ひとまず理解した」と、話を続けた。
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