溺愛契約 ~替え玉でも愛されますか?~

翠月るるな

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番外編①

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「バルトネル」

 執務室でソラティスに呼ばれて、本棚を整理していた彼は振り返った。ピンと跳ねた茶髪に、明るい印象の青年。そばに行くと折り目正しく頭を下げた。

「お呼びでしょうか。ソラティス様」
「ああ。一つ聞きたいんだが」
「なんなりと」
「その……君には溺愛している女性はいるか?」

 問われたことに驚いて、目をパチクリさせる。彼は一瞬、訝しげに眉を寄せたものの、すぐにパッと何かに気づいた様子でニコッと笑った。

「ラシーヌ様のことですね。それでしたら素直に好意があることをお伝えしたらいいと思いますよ」
「いや、そうじゃない……これはあくまで契約で」
「存じておりますよ。だからこそです。あの方を好ましいと思っているのは間違いないでしょう?」

 バルトネルは一連の流れを把握している。二人の結婚が偽りだということも、ラシーヌの姉のレイアをこの地に呼ばなければならないことも。

 そして、その為に必要な噂も彼が手配した。

 すべてを知っておいて、なおバルトネルはラシーヌへ好意を示せと言う。

「思うままに接して構わないのでは? 彼女も了承してくれたと聞きましたし」
「だがそれは、あくまで契約の上で、だ。協力してくれているに過ぎない。そこにつけ込んで何かをするのは、悪用しているようで気が引ける」

 椅子の背もたれに大きく寄りかかり、腕を組む。考えるように目を閉じて続けた。

「そもそも重要なのはレイア嬢を呼べるかどうかで、俺個人の感情は必要ないからな」
「ならば何故、あのとき婚儀を続けたのですか? 花嫁が別人だということに気付いていたはずですよね。あの場で突き放すことも出来たはず」

 バルトネルの疑問に、そっと目を開けたソラティス。彼は視線をそのままに答えた。

「あの時は……あまりに彼女が怯えるものだから、つい。どうにかしなければと、ほとんど衝動的に動いていた」
「そうであれば余計に、今回の責任を取らないといけませんねえ」
「責任……そうか。確かにそうだな」

 どこか決意めいた様子で、深くうなずく。ソラティスはさりげなく話の路線が変わっているのも気付かず、机の上の書類へ手を伸ばした。

 一拍置いてバルトネルは、郵便物を回収してくると伝え、頭を下げてその場を後にする。

 外に出て、ため息混じりに呟いた。

「僕としてはラシーヌ様のような落ち着いた方が、主人のそばにいてくれると安心できるんですよねえ……」

 彼は扉の隙間を閉じながら、以前レイアを見たこと思い出していた。確かにラシーヌとは違い華やかで愛くるしい令嬢。けどそれは、自分の主人を預けるには心もとない姿だった。

 手違いとはいえ、直前のソラティスの回答に、なんとなく希望が浮かぶ。機嫌を取り戻した彼は階下を目指して、廊下を進んでいった。
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