替え玉の私に、その愛を注がないで…。~義姉の代わりに嫁いだ辺境伯へ、身を引くはずが……持ちかけられたのは溺愛契約。

翠月 瑠々奈

文字の大きさ
14 / 53

12

しおりを挟む
 
 昼過ぎの麗らかな日差しが入る廊下。そこを歩いていたバルトネルが、途中でカナンを見つけて足を止める。「カナンさん」と呼びかけると彼女は振り返った。

 けれど、丸メガネの奥の瞳が怪訝そうに細められる。

「何か御用ですか? 姫様を待たせているのですが」
「ああ、すみません。少し聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「ええ。あなたは確か、ラシーヌ様に長く仕えている方とか」
「そうですね」

 ソレーユ家の前当主であるバンズに雇われ、使用人として邸に連れてこられた。それからは、他の使用人たちと同じように働いていたが、今回ヴァーガリアまで付いてきたのは自ら望んだからだと調査の結果には記されていた。

 不思議に思いつつもそこには触れず、本来の疑問を投げかける。

「では、あの方がソレーユ家の前のご当主より何か受け継がれた、という話は聞いてませんか?」
「ラシーヌ様が? バンズ様から?」
「そうです。心当たりはありませんか?」

 聞くと、悩むように口元へ手を添える。少しして小さく首を横に振った。

「姫様の荷は、私が運んできた鞄一つだけです。何かを残した覚えも、あとで渡されたものも特に……そういえば、その受け継ぐという話は具体的にどういうものです? 口伝のようなものですか?」
「いえ。装飾品やその類ですが」
「なら、余計にあり得ませんね。そのような品であれば、あの家の者たちが全て取り上げていたでしょう」

 強い瞳と言葉で断言する。その姿にバルトネルは少なからず驚いていた。

 ラシーヌが虐げられていたようだ、という情報はすでに得ていた。だがそれは、報告書に軽く記されていただけで詳細は知らない。その時の調査はあくまでレイアの動向であり、ラシーヌに関してはその過程で得た情報に過ぎなかったからだ。

 だが、目の前のカナンの態度を見ると、改めて調べ直す必要があるかもしれない、とバルトネルは思った。

 コホンッと軽く咳払いして返事をする。

「そうですか。では」
「待って。そういえばあの時……」

 カナンが急にバルトネルの話を遮る。何かを思い出すように視線を外した。そして口を開く。

「一つ思い出したの」
「何を思い出しました?」
「珍しく旦那様がお呼びだったあの日のこと」

 バルトネルの持つ調査結果では、家族仲についてまで書かれてはいなかった。

 彼が興味を示すのと同時に、カナンが続けた。

「光が……」
「光?」
「ええ。その日、部屋には全員が集まっていて、使用人は追い出されたけど扉を出る間際に奥様が叫んだの。それで咄嗟に振り返ったら……緑の何か、光が」
「それはどういう……」

 だが直後、「きゃあっ!」と近くの部屋から悲鳴が響いた。二人が顔を見合わせ、慌てて駆けつける。ラシーヌの部屋の入口が崩れた箱で埋まっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

政略結婚のはずでしたが、黒の公爵に「君を愛するつもりしかない」と言われました。

ちよこ
恋愛
没落寸前のエーデル伯爵家の令嬢ルイーズは、この国最大の権勢を誇る黒の公爵エルハルトと政略婚を結ぶことになった。 釣り合わない縁談に社交界はざわめいたが、ルイーズは「家同士の利害が一致した取引に過ぎない」と割り切っていた。 ところが初夜、公爵は開口一番こう言った。 「私は君を愛するつもりしかない」 政略婚のつもりでいた令嬢と、最初から決めていた公爵の、少し不器用な初夜の話。​​​​​​​​​​​​​​​​

【完結】付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた

ぽぽよ
恋愛
「俺らさ、結婚しない?」 三十二歳、独身同士。 幼なじみの佐藤が、たこ焼きパーティの最中に突然言い出した。 付き合ってもないのに。 夢見てた甘いプロポーズじゃないけれど、佐藤となら居心地いいし、給料もあるし、嫁姑問題もないし、性格も知ってる。 断る理由が、ない。 こうして、交際0日で結婚することが決まった。 「とりあえず同棲すっか」 軽いノリで決まってゆく未来。 ゆるっとだらっと流れていく物語。 ※本編は全7話。 ※スパダリは一人もいません笑

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

五周目の王女様

恋愛
「私、今度はどうやって殺されるの?」 バザロス国へ嫁ぐことになった王女ジゼルは、数度の死に戻りの記憶を持っていた。 1度目は毒殺、2度目は即死、3度目は逃亡先での裏切り。どう足掻いても結婚初夜を越えられず死に戻る運命に私の心はクタクタだった。 今世の夫も「冷酷皇帝」と恐れられる皇帝レオポルド。 実は彼もまた孤独に戦い、ループする人生から脱出を図ろうする一人。 夫婦がようやく絡まりだす4度目の死に戻り。 どうやら今世は他に女がいる皇帝は全く私に見向きもしない……と思っていたら、誰にも見つからずに私に会いに来るんですが?

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結】悪役令嬢の身代わりで処刑されかけた侍女、悪人面強面騎士にさらわれる。

雨宮羽那
恋愛
 侍女リーリエは、処刑される予定の主・エリーゼと容姿がそっくりだったせいで、身代わりとして処刑台へ立たされていた。  (私はエリーゼ様じゃないわ!)と心の中で叫んだ瞬間、前世の記憶がよみがえり、ここが読みかけだった悪役令嬢ものの小説の世界だと気づく。  しかも小説ではエリーゼが処刑されるはずなのに、リーリエが処刑されかけているという最悪の展開。  絶体絶命の瞬間、リーリエの前に現れたのは強面で悪人面の騎士ガウェイン。  彼はなぜかリーリエを抱えあげ連れ去ってしまい――? ◇◇◇◇ ※全5話 ※AI不使用です。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

処理中です...