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しおりを挟む積み上がった箱の隙間を縫って、バルトネルが中の様子をうかがう。
「どうしたんです? いったい何が…って、うわっ」
コロコロと足元に転がってくる箱に驚いて、彼は思わず身を引いた。中にいた二人の侍女のうち、片方が頭を下げた。
「申し訳ありません! 積んでいた装飾品の箱が倒れてしまって」
「あ! バルトネル様! 動かないでくださいっ!」
片足をおろそうとしたところに、小さな箱。もう一人の侍女に止められて、不自然な体勢のままになる。そこを後から来たカナンが箱を拾いながら、横をすり抜けていった。
彼女の姿を見るなり、奥のソファのそばでおろおろしていたラシーヌがパッと顔を上げる。
「カナン! 待っていたの。ちょっと来てくれるかしら」
小さく手を動かして呼ぶラシーヌに、カナンはふっと口元を緩めて傍に行く。近づくとラシーヌが彼女の耳元でコソッと言った。
「あの荷物、全て街から届いたの。この間のヤハラでティスが買ったみたいで……でも、いくらなんでもやりすぎよね。へ、返品とか…できるかしら」
どこか怯えるように言う。カナンは「それは出来ませんね」と返した。
「ありがたく受け取ればいいのです。領主様もそれをお望みでしょう」
「でも……」
いまだ困惑気味に躊躇するラシーヌ。カナンはその姿に目を細める。一拍置いて「とにかく」と箱に視線を移した。
「お二人で選んだものが届いただけですから、片付けはお任せください」
部屋の出入口を埋めるほどの箱の山は、どれもが先日ヤハラで購入してきたものだった。全て後日の配達とされた品が、今日やっと運ばれてきたところだった。それは受け取り手続きをした使用人づてに、カナンにも伝わっている。
だがラシーヌは、次々と届く品に頬へ手を当てて困ったように眉根を寄せた。
「確かに二人で選んだはずだけど…あのときはティスの声しか聞こえなくて。どうしてこんなことに……」
思い出してみても、記憶が曖昧だった。
ティーハウスを出てから二人は大通りを歩く。新しい愛称を呼び合うことがくすぐったく、指を絡めて歩くことすら胸が弾んで、その道すがら、話した内容はあまり覚えていない。
ただソラティスの「妻に贈り物をするのも愛情の一つだ」との言葉だけで、有名な衣装のメゾンに向かうことになったはずだった。
だが到着してすぐ、また目まぐるしく動くことになる。すでに夜会のドレスを依頼したばかりなのに、新たに様々なドレスの仕立てをしたいと彼は言った。その試着から何からで、あまりの勢いにラシーヌの目が回るほどだった。
採寸から始まり、色味の指定、デザインの希望……。バタバタと着替えつつ、聞かれることに答えるのが精一杯で、気付けば日暮れに。
そうしてヤハラでの時間を終えて、屋敷に戻り、数日を経て今に至る。ふとドレスを片づけていたカナンが、満足そうに頷いた。
「それにしても姫様の旦那様は理解が深いですね。どれも姫様にお似合いです。こちらなんて裾の刺繍が見事ですもの」
まだ片づけ終えていないドレスの一つに目を向け、目元を緩めるカナン。刺繍のモチーフはラシーヌの名と同じ力強い根。美しく伸びる繊細な線と花が描かれている。
ラシーヌはわずかに頬を染めて「そうかしら……」と呟き、近くの椅子に腰かけた。
「たしかにあなたの言う通りかもしれない。どれも素敵よね。けど数が多いの……しばらく社交に出る予定はないのに」
「いいじゃないですか。姫様は以前お持ちになっていたドレスも、全て奥様に取り上げられてしまったのですから。いざ必要になった時に使えるものと考えましょう」
「そう、ね。わかったわ。手間をかけるけど、片づけを頼むわね」
二人が話しているうちに、部屋の出入り口だけは通れるようになっていた。指示を出していたのはバルトネルだった。
会話もひと段落ついたようだ、と察した彼は、ラシーヌが視線を向けるのを待ってニコリと笑いかける。
「お話中、失礼しますね。先ほど、ベルモラ夫人が到着しました。出られますか?」
「ええ、もちろん。すぐに行くわ。カナン、ここはよろしくね」
「承知いたしました」
折り目正しく頭を下げるカナンを置いて、ラシーヌが外に出る。バルトネルに先導されながら、夫人のいる部屋を目指した。
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