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「勝手が過ぎます。パートナーは一人に絞っていただきませんと……」
そんな声が聞こえたのは、邸の一階の控室前だった。再度呼び寄せたバルトネルに言われて、二人は大広間から離れたその部屋まで訪れる。
そこで目にしたのは、困惑する会場の主催者であるハーバレッジ夫人と小柄な女性が対面している場面だった。
淡い黄色のドレスに、薔薇色の髪をまとめ、青い髪留めをつけている。そして首元に濃い若草色の宝石がついたペンダントが煌めいた。
一見すると美しい女性だが、表情は幼い。不満げに頬を膨らませ文句を口にする彼女に、取り囲む令息たちも、どうしていいか悩んでいるようだ。
そのうちの一人が彼女の肩を抱く。
「レイア嬢、これでは中に入れません。ここは私に任せていただいて……」
「なによ、あなた一人減ったって入れないんだから」
「いえ! そうではなく。私だけにしてもらえればと」
「ねえ! 招待状にはそんなこと書いてなかったわよね!? 皇都のパーティーじゃそんなこと言われないのに。これだから田舎は嫌なのよ」
ふと、視線を動かしたレイアが二人に気づく。そしてラシーヌの方を見て彼女はパッと表情を明るくさせた。
「あらっ! 役立たずのラシーヌじゃない! 本当にこんなところにいたのね! ちょうどよかった。レイアを助けてちょうだい」
「お義姉さま…」
ラシーヌは眉根を寄せつつも、まるでそれが当然かのようにソラティスから離れた。レイアは、そのタイミングで不服そうに唇を尖らせて耳打ちする。
「このオバさんうるさいんだけど、どうにかしてほしいの」
「レイア嬢、聞こえてますよ」
ハーバレッジ夫人は訝しげに見て、額に手を当てると呆れた様子で軽く頭を振った。そこをワンテンポ遅れて動いたソラティスが間に入る。
「夫人。何があったのですか?」
「あら、辺境伯様。お騒がせしてごめんなさいね。この方が…」
ちらっとレイアに目を向ける。視線を受けて彼女は、ラシーヌに訴えた。
「聞いてよ、ラシーヌ。このオバ…ご夫人が、パートナーを一人に絞れって言ってきたのよ。ひどいでしょ? 一人になんて絞れないものっ」
ラシーヌから、さらに頭半個分小さいレイア。彼女は突然ラシーヌの肩口に顔を埋めて泣き出してしまった。
「……それは……」
ハーバレッジ夫人が正しい、と言いたかったが、そのまま言葉を飲み込み、困惑の表情を浮かべた。
いつもレイアが皇都で参加している舞踏会は、ほとんどソレーユ家が資金援助している家ばかりだった。それゆえにレイアのわがままは受け入れられていた。
だが今回のハーバレッジ家は、皇都より距離があり社交のつながりとしても辺境伯寄りだ。身勝手な振る舞いは見逃せない。
困り顔のラシーヌは、それでも宥めるように声をかける。
「お義姉様。お義姉様が皆さんと仲が良いのは存じていますが、今はお一人にお願いしましょう? それがこの地のルールなのです。お義父様も遠い地でのいざこざは、望まないでしょう?」
「……ラシーヌ」
涙で潤んだ瞳を上げて、けれどすぐ不満そうに頬を膨らませる。
「やっぱり役立たず! そのくせ生意気っ! あんたはただ私の味方になればいいのに! 説得ならそっちのオバさんにしてよ!! あーあ、もう疲れた。早く会場に入りたーい!」
レイアが捲し立てるように言う。
「そもそもあんたが出ていったせいで大変だったのよ!? なんか商談がまとまらないとかお父様は嘆くし、お母様はイライラしてるし!! それに」
さらに何かを言おうとしたが、遮るようにソラティスが、レイアの口元に触れない距離で手を出し、割って入る。
「ラシー、君がこれ以上聞く必要はない。こちらに来なさい」
「ラシーヌのこと? いったい誰が……って、あら」
声に反応して反射的に顔を上げたレイアは、瞳を瞬かせる。彼女は、自身が連れてきた男性らと見比べて「こっちの方がいいわね」と言った。
「私に合うのは、より上質な男だもの。貴方にエスコートさせてあげるわ」
直後、邪魔だと言わんばかりにトンっとラシーヌを押し除ける。そしてソラティスの腕に飛び込んだ。
咄嗟のことで避けることも出来ず、思わず抱きとめる。
その瞬間、レイアの首元に揺れるペンダントへ光がポッと灯り、そして眩いほどに輝いた。
「────!!」
だがそれは、ほんの一瞬のことだった。すぐに光は落ち着いて、静まり返る。レイアがそっと目を開けて、左右を見回した。
「なに……?」
周囲の人たちも「なんだ?」「今のは?」と口々に言う。驚いたままペンダントを見るレイア。その首元を見るソラティスの呟きが、隣にいたラシーヌの耳に掠めた。
「やはり、そうか……」
反射的に顔を動かすラシーヌだったが、それを邪魔するように気を取り直したレイアが、再びソラティスに声をかけた。
そんな声が聞こえたのは、邸の一階の控室前だった。再度呼び寄せたバルトネルに言われて、二人は大広間から離れたその部屋まで訪れる。
そこで目にしたのは、困惑する会場の主催者であるハーバレッジ夫人と小柄な女性が対面している場面だった。
淡い黄色のドレスに、薔薇色の髪をまとめ、青い髪留めをつけている。そして首元に濃い若草色の宝石がついたペンダントが煌めいた。
一見すると美しい女性だが、表情は幼い。不満げに頬を膨らませ文句を口にする彼女に、取り囲む令息たちも、どうしていいか悩んでいるようだ。
そのうちの一人が彼女の肩を抱く。
「レイア嬢、これでは中に入れません。ここは私に任せていただいて……」
「なによ、あなた一人減ったって入れないんだから」
「いえ! そうではなく。私だけにしてもらえればと」
「ねえ! 招待状にはそんなこと書いてなかったわよね!? 皇都のパーティーじゃそんなこと言われないのに。これだから田舎は嫌なのよ」
ふと、視線を動かしたレイアが二人に気づく。そしてラシーヌの方を見て彼女はパッと表情を明るくさせた。
「あらっ! 役立たずのラシーヌじゃない! 本当にこんなところにいたのね! ちょうどよかった。レイアを助けてちょうだい」
「お義姉さま…」
ラシーヌは眉根を寄せつつも、まるでそれが当然かのようにソラティスから離れた。レイアは、そのタイミングで不服そうに唇を尖らせて耳打ちする。
「このオバさんうるさいんだけど、どうにかしてほしいの」
「レイア嬢、聞こえてますよ」
ハーバレッジ夫人は訝しげに見て、額に手を当てると呆れた様子で軽く頭を振った。そこをワンテンポ遅れて動いたソラティスが間に入る。
「夫人。何があったのですか?」
「あら、辺境伯様。お騒がせしてごめんなさいね。この方が…」
ちらっとレイアに目を向ける。視線を受けて彼女は、ラシーヌに訴えた。
「聞いてよ、ラシーヌ。このオバ…ご夫人が、パートナーを一人に絞れって言ってきたのよ。ひどいでしょ? 一人になんて絞れないものっ」
ラシーヌから、さらに頭半個分小さいレイア。彼女は突然ラシーヌの肩口に顔を埋めて泣き出してしまった。
「……それは……」
ハーバレッジ夫人が正しい、と言いたかったが、そのまま言葉を飲み込み、困惑の表情を浮かべた。
いつもレイアが皇都で参加している舞踏会は、ほとんどソレーユ家が資金援助している家ばかりだった。それゆえにレイアのわがままは受け入れられていた。
だが今回のハーバレッジ家は、皇都より距離があり社交のつながりとしても辺境伯寄りだ。身勝手な振る舞いは見逃せない。
困り顔のラシーヌは、それでも宥めるように声をかける。
「お義姉様。お義姉様が皆さんと仲が良いのは存じていますが、今はお一人にお願いしましょう? それがこの地のルールなのです。お義父様も遠い地でのいざこざは、望まないでしょう?」
「……ラシーヌ」
涙で潤んだ瞳を上げて、けれどすぐ不満そうに頬を膨らませる。
「やっぱり役立たず! そのくせ生意気っ! あんたはただ私の味方になればいいのに! 説得ならそっちのオバさんにしてよ!! あーあ、もう疲れた。早く会場に入りたーい!」
レイアが捲し立てるように言う。
「そもそもあんたが出ていったせいで大変だったのよ!? なんか商談がまとまらないとかお父様は嘆くし、お母様はイライラしてるし!! それに」
さらに何かを言おうとしたが、遮るようにソラティスが、レイアの口元に触れない距離で手を出し、割って入る。
「ラシー、君がこれ以上聞く必要はない。こちらに来なさい」
「ラシーヌのこと? いったい誰が……って、あら」
声に反応して反射的に顔を上げたレイアは、瞳を瞬かせる。彼女は、自身が連れてきた男性らと見比べて「こっちの方がいいわね」と言った。
「私に合うのは、より上質な男だもの。貴方にエスコートさせてあげるわ」
直後、邪魔だと言わんばかりにトンっとラシーヌを押し除ける。そしてソラティスの腕に飛び込んだ。
咄嗟のことで避けることも出来ず、思わず抱きとめる。
その瞬間、レイアの首元に揺れるペンダントへ光がポッと灯り、そして眩いほどに輝いた。
「────!!」
だがそれは、ほんの一瞬のことだった。すぐに光は落ち着いて、静まり返る。レイアがそっと目を開けて、左右を見回した。
「なに……?」
周囲の人たちも「なんだ?」「今のは?」と口々に言う。驚いたままペンダントを見るレイア。その首元を見るソラティスの呟きが、隣にいたラシーヌの耳に掠めた。
「やはり、そうか……」
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