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しおりを挟む事の弾みで邸の中を、グレイドと歩くことになったラシーヌ。二人は、庭園から会場までの短い距離、途中に飾られた美術品について簡単に話をする。
「先ほどの花瓶は以前オークションで見ましたよ。さすがヴァーガリア邸だなぁ。父が唸るくらいの値はありますからね」
「そうなのね。私もここに嫁いで日が浅いから、気づかなかったわ」
もともと時間をつぶすためだけの散歩のようなものだが、思いがけず会話が盛り上がる。
グレイドは根っからの勤勉な青年だったために、様々なものへ興味を持ち、会話を引き出していくのが上手かった。ラシーヌも邸の知らない一面に興味をそそられた。
少しして、ふと彼が疑問を口にした。
「そういえば、夫人は僕と年が近いようですけど領主様とはいくつ離れているんですか?」
「6歳差ですね。姉が22なので、姉の方が近いですね」
「お姉さん? ああ、さっき会場にいた」
思い出すように視線を上げる。二人が会場付近へたどり着くと、廊下にソラティスが立っていた。壁に背を預け、何かを待っているのかのように腕を組んでいる。
ふと顔を上げて、ラシーヌに気づくと一瞬明るくなる。が、すぐにその表情が曇った。
ツカツカと近づき、スッと瞳を細める。そして淡々とした声で言う。
「私の妻が世話になったようだね。君は?」
「グレイド・ワーナーと申します。父や兄たちと同様に、お見知りおきいただければ嬉しいです」
「ああ、伯爵のところか。ではまた、改めて話そうか。ラシーこちらへ」
手を差し出し促す。ラシーヌが素直に従おうとしたが、その間際にグレイドが一瞬、その手を掴んで耳元で囁いた。
「今日は楽しかった。またいずれ」
「……!」
パッと振り返ると、ニコッと笑う。そのやり取りにソラティスが反応して、ラシーヌの空いている手を取って抱き寄せた。
「あまり私の妻に近づかないでくれるか」
「これは失礼しました」
軽く頭を下げて、会場内へ視線を向ける。
「ちょうど父も空いたようですので行きますね。お相手いただきありがとうございました」
にこやかに笑みを残して去っていく。少しして、ソラティスがラシーヌの頬に手を添える。
「冷えてるじゃないか。外にいたのか?」
「少しだけです」
「彼ともそこで?」
「……ええ」
どこか責められているように思えたラシーヌは、そっと顔を背け話をそらす。
「それより義姉がいませんね。どちらへ?」
「別部屋にいる。実は……」
「…きゃっ!!」
ソラティスが何かを言いかけたそのとき、ドンッ!!と轟音が響く。それから低い唸り声のような地響きへと続いた。
思わずラシーヌはソラティスにしがみついた。周りの招待客も、皆不安そうな顔をしている。
ソラティスが玄関ホールに目をやり「始まったか」と呟いた。
「すまない、ラシー。行かなくては。今カナンが迎えにくるから君は安全な場所にいてくれ」
「どういうことです? いったい何が」
視線を上げたタイミングで、ちょうどカナンが駆け寄ってくるのが見えた。
広間にも使用人が集まり、賓客に何かを説明している。カナンも傍に来ると同じ話をした。
「姫様、地獄の陥没地が噴火したようです。それもかなりの規模だとか。ひとまず避難しましょう」
「噴火……?」
パッとソラティスを見る。彼は一つ頷き、カナンにラシーヌを預けると出口に向かう。咄嗟に名を呼んだ。
「ティス! 待って!」
しかし人混みを縫うように抜けていく背は、あっという間に見えなくなった。
呆然とするラシーヌの手をカナンが取る。
「姫様、とにかくここにいるのは危険です。行きましょう」
訳も分からず、カナンの言葉にただ頷くことしかできない。ラシーヌはそうして手を引かれて駆け出す。途中で他の貴族たちと合流し、ヴァーガリアの使用人たちが案内する避難場所を目指した。
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