替え玉の私に、その愛を注がないで…。~義姉の代わりに嫁いだ辺境伯へ、身を引くはずが……持ちかけられたのは溺愛契約。

翠月 瑠々奈

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Side story ②

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 皇都のとある貴族の本邸で開かれた夜会。そこに参加したソラティスは、広間の入り口で足を止めた。

「……」

 壁際に咲く一輪の花。初めてラシーヌ・ソレーユを見掛けたとき、そんな印象を受けた。

 緩やかに編み込んだ若草色の髪を肩口に流し、身に付けているドレスは白を基調とした黄色の刺繍が施されている。

 それがまるで野に咲く、若草色の花弁を広げた慎ましい花のようだと彼は思った。

 他の令嬢たちと同じ年頃にもかかわらず、あえてその輪に入らず一歩引いている。その姿が逆に興味を惹く。

「ソラティス様。宰相のリボノ様が別部屋でお待ちです。すぐ行かれますか?」

 後ろにいたバルトネルが声をかける。返事が遅れると、彼は抱えていた資料から顔を上げた。

「って、聞いてます?」
「ああ、聞いてたよ。リボノ氏がいる部屋はどこだ? 今から行く」
「案内しますけど、珍しいものでもありました?」

 そう言って横から顔を出す。彼は「あの方は」と続けた。

「ソレーユ家のご令嬢ですね。たしか次女のラシーヌ様とか」
「そうか」
「ご興味が?」
「いや、ただ。あの年頃でやけに落ち着いているなと思っただけだ」
「そうでしょうか。主も似たようなものですけどね」

 とにかく行きましょう、と歩き出す。ソラティスがついていこうとして、再び足を止めた。振り返ると、変わらずラシーヌがそこにいた。


…………────。


 ふと、懐かしい夢を見て目が覚める。部屋はまだ薄暗い。起床には早い時間だからか、邸は静けさに包まれていた。

 ゆっくりと覚醒していく頭。少ししてソラティスは上半身を起こす。そっと額に手を置いて、ふと横を見た。

 ラシーヌがすやすやと寝息をたてている。同室にするとき一幕あったが、結局こうしてともに過ごすようになった。

 そんなことを思い出しながら、彼は小さく名を呼ぶ。

「ラシー……」

 以前見かけたときは、こんな関係になるとは思いもしなかった。不思議な縁を感じながら、そういえば、と頭を掠める。

 ソラティスはベッドからおりると、窓際にある棚へ向かった。その中段にある引き出しを開ける。

 そこには色褪せた手紙が何通も入っていた。

 そのうち一枚を取り出した。改めて読み返す。よくある挨拶文から当時の近況が書かれている。そしてそのあとに、宰相の妻とたまたま行商人の店で会い、商品の化粧品が手に入らず困っていたといった内容が続いた。

 ソラティスが夜会で話をしたリボノ氏の妻。この手紙を読んだ彼は念のためと、化粧品を用意しておいた。

 それが切り札となり、前から申し入れていた交渉が上手くいった。そして彼から、レイアへの心証がこの一件をきっかけにして良くなっていった。

 交流しなければいけない婚姻相手から、交流したいと望むような相手に。

 だがふと、送り主のサインに違和感を覚える。彼は吸い寄せられるように振り返った。

「……」

 一瞬、これを書いた相手はラシーヌではないか、と頭を掠めた。

 彼女としばらく暮らしてきて、手紙と似た表現をするのも聞いた覚えがある。もしかしたら、なんて思いが浮かぶ。

 ソラティスは小さく呟いた。

「……まさか、な」

 さすがに長く続けてきた手紙の主まで、入れ替わりであるとは考え難い。そこまでする理由も理解しがたい。だがそれでも、一度よぎった考えを否定しきることは出来なかった。
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