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第5章 中間審査
20 本番直前 *
しおりを挟む「く、ぁ……ッ」
人の手で高められるなんて、初めての経験だった。
手の大きさはほとんど変わらないのに、触り方のせいで全く違って感じる。巧みな指の動きで性急に追い立てられ、純嶺はびくびくと身体を震わせることしかできなかった。
「抵抗しねえの?」
耳元で染が囁く。
――抵抗しないんじゃなくて、できないんだ。
純嶺はぶんぶんと首を横に振った。
呼吸を荒げながら、必死で言葉を紡ぐ。
「お前の、グレアのせいだ……っ」
「グレア? 今は出してないはずだけど――そっか。アンタには感じんのか」
「ぁ、あ……ッ」
本人が出している自覚もないほどの微量なグレアに、純嶺は反応してしまっていた。
いつもなら、ここまでは酷くない。
視線からグレアの気配を感じたとしても、こんなに影響されることはないはずだったのに――今は、染のグレアに逆らえない。
いや――逆らいたいとも思わなかった。
――なんだ、この気持ちは。
純嶺の中にあるSubの本能が望んでいることなのだろうか。自分のことなのにわからないことが多すぎる。
だんだんと、考えることすら億劫になっていく。
「いいよ。俺に全部委ねろよ」
「……っあ、あ……」
「純嶺。ほら、こっち向け」
名前を呼ばれるだけで、恍惚感で頭が真っ白になった。
思考がかすんで、抵抗している理由がわからなくなっていく。純嶺は言われたとおり、ころりと寝返りを打つと、染のほうに身体を向けた。
目を細めてこちらを見た染に、耳元を指先でくすぐるように撫でられる。
気持ちよさに首を仰け反らせ身体を震わせていると、染が吐息を漏らして笑ったのが聞こえた。
「――脱がすぞ」
宣言どおり、寝巻き代わりに穿いていたハーフパンツを下着と一緒にずらされた。
張り詰めた場所に直接指を絡められ、思わず腰を引いてしまう。
「――嫌なときはそうじゃないだろ」
その口調は咎めるようなものではなかったが、Domにそんな風に言われると、本能の部分が強く反応してしまう。
純嶺はびくりと肩を揺らした後、染の顔色を窺うようにおそるおそる視線を持ち上げた。
「で、本当にいいのか? セーフワード使わなくて」
少し迷ったが、純嶺はこくりと頷いた。
戸惑いはあるが嫌なわけではない。Domに求められるということに、Subの本能が悦んでいるのは間違いなかった。
絶えず染のグレアを感じているせいか、今は本能の衝動を堪えることが難しい。
「アンタって、いい身体してんな」
昂ぶりを緩やかに愛撫しながら、同時に腹部を撫でられた。
快楽にひくひくと揺れるそこに触れられるのは、なんとももどかしい感覚だ。
純嶺の反応を楽しんでいるのか、染は笑いながら筋肉の凹凸をなぞるように何度も指先を滑らせている。
「気持ちいい?」
「……ああ」
「目は閉じずに、《俺の目を見て》」
コマンドだ。
気持ちよさで、とろりと今にも閉じてしまいそうだった瞼をゆっくりと開く。言われたとおり、染の瞳を見つめた。
目が合った瞬間、今まで微量だったグレアが少しだけ強さを増す。
染の手から与えられる快楽も強くなった。
「は……ッ、ぁ」
気持ちよさに思わず、目をつぶってしまいそうなる。
なんとか耐えたものの、無意識に目の前にあった染の腕を強く掴んでしまった。
呼吸を乱しながら、染の目を見つめ続ける。染も純嶺の顔を正面から見つめ、こちらを観察しているようだった。
「好きなときに、イッていいからな」
「あ、あ……っ」
「……アンタのよがってる顔、マジで可愛すぎ」
こつんと額同士がぶつかる。
近すぎる距離に、染の顔がぼやけた。
吐息が染の顔にかかってしまう――そう思っても乱れた息はどうすることもできない。
「……っ、出る」
そう口にしたのは、少しでも染の手を汚したくなかったからなのに――染は手を離すどころか、先端から飛び出した白濁をすべてその手で受け止めた。
たっぷりと指に絡んだそれを眺めながら、満足げに微笑む。
「たくさん出たな」
「……っ、あんまり、見るな」
「やだよ。やっぱ、結構溜まってたんじゃん」
どろりと濃い白濁を手の中で弄びながら、染が揶揄ってくる。
なんと答えていいのかわからず、純嶺は視線を泳がせた。
「あー、この手じゃ撫でてやれないな」
「……っ、別に」
「純嶺、《いい子だな》」
汗ばんだ額に、ちゅっと染の唇が触れた。
手で撫でられない代わりに、そんなキスをしてくるなんて――。
――恥ずかしいやつだ。
そう思いつつも、Domに褒められた多幸感に純嶺の本能は満たされている。
何度も落とされる柔らかな口づけを、純嶺は目を閉じて素直に受け入れた。
◇
――意外と本格的なんだな。
中間審査用に用意されたステージを眺めながら、純嶺は感嘆の息を漏らす。
何かで使ったステージセットをそのまま転用したものかもしれないが、本格的な照明や撮影器具まで準備されているステージは、オーディションの審査などでは普通ありえない豪華仕様だった。
審査日当日の午前中はリハーサルに充てられた。
それぞれのチームが実際にステージに立ち、照明や音響などスタッフの動きを含めた最終確認を行う時間だ。
配信のための撮影もあるので、ここまで念入りなのだろう。
リハーサルを終えた後は早めの昼食を取り、午後の本番に向け、着替えやメイクを済ませることになっていた。
チームごとに揃えられた衣装やメイクのための道具はすべて、オーディション主催者であるプロダクションが準備してくれている。だが、ヘアメイクなど専門スタッフは一切おらず、自分たちだけでチームらしい演出をすることが求められていた。
それもすべて、審査の対象になるらしい。
「もー、びっくりしたんだからね。明け方にベッド覗いたら、スミレちゃんいなくなってるし」
「……悪かった」
準備された衣装に袖を通していると、同じように隣で着替えていたドラに肘で脇腹をつつかれた。
同じことを責められるのは、これでもう三度目だ。
部屋に戻ったときと朝食のとき、そして今――そのたび、きちんと謝罪はしていたが、ぷうっと頬を膨らませているドラはまだ納得していない様子だった。
「お腹が痛くなったんなら、そのときに起こしてくれたらよかったのに」
「……トイレに行けば、すぐに治まると思ったんだ」
夜中に部屋を抜け出した理由を、ドラにはそう説明してあった。
医務室で夜を明かしたことをうまく誤魔化せそうになかったので、急な腹痛が起きたせいだと言っておいたのだ。
――ちゃんと、信じてくれてるよな?
不安症の発作が起きたなどといって、余計な心配はかけたくない。
そもそも自分がSubだということも、まだ誰にも打ち明けていなかった。
ドラがSubに対して偏見を持っているかはわからなかったが、Subだと知られることで一線を引かれたりはしたくない。
「もう大丈夫なんだよね? 朝ご飯も普通に食べてたし」
「ああ。薬を飲んで寝たら、なんともなくなった」
「無理だけはしないでよね……スミレちゃんって、そういうこと全部一人で抱え込みそうだから心配だよ」
「お前は心配性だな」
「そう思うんなら、ちゃんと連絡ぐらいすること」
こつん、とドラが拳が純嶺の胸にぶつけた。
その表情はまだ不貞腐れてはいるが、これで言いたいことはすべてだったらしい。
――確かに、連絡ぐらいはするべきだったな。
朝起きた段階で、ドラにぐらいは連絡を入れておくべきだった。
いや、でも――あの状況で、それが可能だったかどうかは怪しいところだったが。
「はぁ……」
連鎖的に今朝のことを思い出して、純嶺はこっそりと溜め息を吐き出した。
目を覚ましてすぐ、あんな状態になってしまうなんて。
染とプレイをした後だったから――なんて、言い訳にもならない。純嶺の状態を見た染は「アフターケアが足りなかったせいかもしれない」などと言っていたが、そんなことであんな現象が起こりうるのだろうか。
気になるが、詳しく調べるのは躊躇われる。
「おーい。ドラちゃん、純嶺サン。メイクスペース空いたで」
「あ……ああ」
先にメイクを終えた田中が二人を呼びに来た。
チームごとに用意された控え室にはメイクスペースが四人分しかなかったため、純嶺とドラ以外のメンバーに先にメイクを進めてもらっていたのだ。
呼びかけられたほうを振り返って、純嶺とドラは同時に動きを止める。
ぱちぱちと目を瞬かせたのまで同じだった。
「え……田中くん、だよね?」
かろうじて、ドラがそう声を発する。
「せやけど、どうかした?」
目の前の人物は、きょとんとした表情で首を傾げていた。
その喋り方は間違いなく田中だったが、その顔は田中のものと一致しない。
――誰だ、これは。
純嶺はまだ放心状態のままだった。
田中の顔といえば、ほとんど記憶に残らないようなぼんやりとした印象しかない。
何か一つだけ特徴を挙げろといわれれば、開いているのかどうかわからないほどの糸目――と誰もが口を揃えるほど特徴のない顔。
そのはずだったのに――。
「田中……なのか?」
「純嶺サンまでそんなびっくりした顔して確認せんとってよ。オレやん!」
「いやいやいや! 化けすぎでしょ。メイクだけで、やばすぎない? 別人ってレベルじゃないよ?」
ドラの言うとおりだった。
メイクだけでここまで化けたのだとしたら、すごすぎる。
「ちょ……純嶺サン?!」
思わず、田中の肩を掴んでいた。
間近から、じっとその顔を観察する。同じようにドラも隣から田中の顔を覗き込んでいた。
「田中くんの目が開いてる……あったんだね、目」
「あるやろ、そりゃ!」
「えー、すごい。これって舞台メイクってやつ? こんなにきっちりできるとかすごすぎ!! アイメイクもやばー。田中くんって、実はこういうののプロ?」
「プロやないけど。路上でも舞台でも、オレがやっとったパフォーマンス的に派手なほうがええやろからって、前にプロに教えてもろてん。自分でメイクしたかったし」
――そういえば、田中は大道芸のようなことをやってたんだったか。
ふと、前に教えてもらった田中の経歴を思い出した。
アクロバットが得意だと言っていたのを聞いて、その理由を教えてもらったことがあったのだ。
田中は路上パフォーマンスをメインに活動していたらしい。人を楽しませるのが好きで、このオーディションに参加したのもそういう理由だったそうだ。
「めっちゃヴィランっぽいのもいいじゃん。ねえねえ、そのメイクのやり方、オレにも教えてよ」
「なんやったら、今やったろか?」
「いいの?!」
「……どうでもいいから、お前ら早く準備しろよ」
盛り上がる二人の会話に、真栄倉が割り込んできた。
こちらもきっちりとメイクを終え、準備が完了している。
その後ろから同じように準備を終えたルーネと叶衣がひょっこりと顔を出した。
「え、三人ともメイクすっご!! ってかそれ、田中くんにやってもらったでしょ!」
「使える道具は使って当然だろ」
「おーちゃん。もっと言い方があるんちゃう……?」
「やっぱり! ずるい! ほら、スミレちゃんもやってもらおうよ。全員でお揃い! 田中くん、超かっこいいやつお願い!!」
賑やかに叫んだドラに腕を引っ張られる。
しゃあないなぁ、と田中がどこか誇らしげに呟いた声が後ろから聞こえた。
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